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百十二話

僕達が神聖魔共和国設立を宣言して一週間。ハムニキリ国での麒麟(きりん)騒動からはおよそ一ヶ月。



名実共に僕達臥龍鳳雛は『人類の敵』と世界に認識される事となった。通信用映像投影魔導具による魔王誕生の瞬間の生中継は、世界に凄まじいショックを与えた。



現実を受け止められず嘘か冗談かと笑い飛ばす者。世界の滅亡を予期し人里離れ地に逃げ隠遁を決め込む者。激昂(げっこう)し宣戦布告する者。


様々な反応あれど、彼等に共通していた感情は『恐怖』だった。



復活が近い、と(うわさ)されてはいたものの実際の降臨にはまだもう少し時間ががかるだろうと楽観視してきた所に、いきなりの登場。しかも人間からの転生だ。


おまけに、そういう危機に手を取り合って魔王に立ち向かうべき役割を持つ筈の勇者が魔王側へ付いたというのだから民衆からしてみたらたまったものじゃない。

四人の勇者のうち魔王側に付いたのは三人。余りにも戦力に開きがありすぎた。


更に言うなら、神聖魔共和国側の戦力は過剰に過ぎると言って良かった。

土の勇者を除いた残り三勇者に、三聖女のうちの二人、白銀の巫女と月影の巫女。臥龍鳳雛のリーダー、現魔王元魔獣使いテイル・スフレンクス(僕の事だ)が契約した七体の魔獣。その中には最強種である竜種の頂点に立つ竜王まで居る。その七体の、各種族の王たる魔獣の配下達。


それに加えて神聖魔共和国が打ち出した『人間と魔族の融和』政策に賛成の意を示したハムニキリ国とその地に住まう魔族獣人族を初めとした亜人種達。



これに対するは聖光国スピルネルと北の大国ザカンドラ帝国の連合国軍。冒険者ギルドに所属する全冒険者。土の勇者アズガルドに三聖女の一人極光の巫女フレイア。そして女神教が抱える僧兵と、ザカンドラで信仰されているメシア教の戦士である『使徒』達。


連合国軍側の戦力はたったこれだけだった。


誰がどう見ても、連合国軍側に勝利の目は無かった。だが連合国軍の指導者達は引き下がる訳には行かない。

彼らの政治の舞台裏には常に魔族排斥という思想、舞台を支える支柱が存在してきた。


その上に彼らの地位と権力は成り立っていたと言っていい。だから彼らにしてみれば人間と魔族の融和政策を主張する神聖魔共和国(ぼくたち)の存在を決して許す訳には行かなかったのだ。



聖光国スピルネルとザカンドラ帝国は神聖魔共和国設立宣言から僅か三日で連合を表明し、同時に神聖魔共和国に対して宣戦布告する。



ここに、神聖魔共和国軍と連合国軍の戦争の火蓋(ひぶた)が切って落とされたのだ。




ウラヌスside


『ふざけるなっ! アズガルド、今まで一体貴様は何をしていた!』


通信用映像魔導具による世界会議。冒険者ギルドトップ、グレートマスター、ギルグ・ゴルドーの叱責が会場に響き渡っている。対するアズガルド・バーンギルスは額に深い(しわ)を刻んだまま、渋面で沈黙したままだ。


『臥龍鳳雛があれほどの戦力を整えテイル・スフレンクスが魔獣の王達と契約を交わし魔王へ近付いているという事をどうして報告もせず放っておいた! 知らなかった、では済まされんのだぞ!』

『他人事のように言わないで頂きたいものですな、ゴルドー氏』


そう言ってゴルドーに冷ややかな視線を浴びせたのは、ザカンドラ帝国大臣ノメール・ドントキッシュだった。その隣ではメシア教教皇ブランジスタ・ダニエルがうむうむと首肯(しゅこう)していた。


『冒険者ギルドの最高責任者は貴方だ。よしんば貴方の主張通り臥龍鳳雛の台頭を土の勇者殿が見過ごしていたのだとしても、それは部下の怠慢を見抜けなかった貴方の失態でしょう』

『くっ……』


悔しそうに歯噛みするゴルドー。百%正論なので言い返せないようだ。


「やあねえ、これだから権力者っていうのは……普段が自分の箱庭の中で好き放題やってるもんだから自分と同格以上の人間に詰め寄られるとろくに対処出来やしない」

「その方が都合が良いだろう。貴様にとっては」

「まあね~、操り人形は馬鹿のほうが使い勝手がいいし」


培養液の中から話し掛けてきたのは氷の勇者マグナス・レインだった。

透明のガラスポットの中に鎮座し、各種ケーブルに繋がり泡を吐くそのシルエットは、最早人間の形を留めていない。


私の『改造』の賜物(たまもの)だ。今のマグナスなら、あのスライム大量発生事件の時のテイルなら片手でひねり潰せる。


最も、今の奴ならそれこそ小指の先で過去の自分を叩き潰せるだろうが。

それでは足りない。それでは駄目なのだ。私は悔しさのあまり小指の爪をガジリと噛みながら思考する。


「マグナスを今の魔王と化したテイル以上に持っていくには時間が足りない……! 操り人形共に、時間稼ぎをして貰わないとねぇ……」


そう呟きながら画面を見る。どうやら、言い争いは止めて各自どれだけの戦力を捻出(ねんしゅつ)出来るかの議題に移ったようだ。


『我がザカンドラ帝国の誇る機械兵団が三千、メシア教の使徒を中心とする部隊が二万五千、騎兵隊が二万』


三千、とは少ない数に感じるがザカンドラ帝国が独自に発展させてきた『機械』の力は一機で数十人分の力を発揮する。決して少ない戦力ではない。


『近衛兵団は? 五千はいた筈だろう』

『近衛兵団は守りの要だ。領地まで攻められたならともかく、現段階で即投入は考えておらん』


聖光国国王ハインド・ネス=スピルネルの催促にザカンドラ帝国帝王ブラマンドラ・アドル=ザカンドラは首を横に振った。


『距離が遠い我が国はともかく、直線距離が短く地続きの貴国こそ近衛兵を出陣させるべきではないのかね?』

『……無論、そのつもりだ。全ての戦力を結集させる。……おおよそ四万』


隣に控える女神教教皇ポポルポ・ルポ=メンドーザと目を合わせて頷きあい国王ハインドはそう報告した。

聖光国兵と近衛兵団、更に女神教お抱えの僧兵団合わせての数字だろう。宣言通り出し惜しみはしないつもりのようだ。


『……冒険者ギルドの所属者およそ五千』


今度はゴルドーが申告する。この五千という数字も、冒険者の力量を考えれば決して少ない数では無い。


『全ての戦力を合わせるとだいたい十万……五十年前のフランベルグとの戦の時と同じ数……ですか』


大臣ノメールがそう呟くと、今度は極光の巫女フレイア・リンドブルが発言する。


『五十年前の戦と同じ数では到底足りませんよ。敵側の戦力が昔と比較にならないのですから』


全員が(しば)しの間沈黙する。ややあって、帝王ブラマンドラが(つぶや)いた。


『止むを得ん……世論の批判を受けると今までは控えていたが、虎の子の秘密兵器を表に出す時が来たかもしれん』

『ほう、秘密兵器とは……?』


国王ハインドが尋ねると皇帝ブラマンドラはこう告げた。


『魔獣兵団……テイマーの契約(テイム)能力を科学的に再現し魔獣を意のままに操り動く軍団だ。更に人工的に産み出したバイオ魔獣もいる。数は現時点で一万、だが量産が効く』

『なんと!……して、期待値はどれほどなのだ?』

『運用するのに専用の装備と設備が必要でな。我が領内でしか展開出来ん。仮に神聖魔帝国が我が領内にまで進軍するのに二週間ほどかかるとして……』


ごくり、と唾を飲み込む音が聞こえた。勿体ぶった後に悠々とブラマンドラは告げた。


『五万』

『なんとっ!』

『そんな短期間にそれだけの数を!?』

『元々量産体制に入ればそれくらい産み出せるだけの土壌はあった。一から造らないといかん機械兵団と違って魔獣は外から補充が効くからな。それを控えてきたのは時期を見る為だ』


大っぴらに戦力を増やしすぎると国民にバレる可能性があるから控えていたって事か……!


「ハハハッ! いいぞ! 面白くなってきた! これだから人間ってヤツは予測不可能で面白いんだ!」


私は彼等をそうとは気付かせずに裏で操り誘導してはいるが、全てを掌握している訳でもない。たまにこういう爆弾を抱えた奴が出てくるのだ。


さすが世界制覇を密かに狙っている帝国の王なだけはある。



「いいぞ! そうやって、どんどん踊り狂ってくれ! 私の、私だけの勇者様の為になぁっ アハハハハハッ!!」



狭い洞窟の中で哄笑(こうしょう)する私を、一人マグナスだけが冷たい目で見ていた。

登場人物がいっぱいすぎる(´°‐°`)

ちなみにヤマトノクニは島国で遠く離れてて簡単に攻め込めるような土地じゃないし鎖国してるしで我関せず状態です。

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