十一話
ブラッドアントの女王。
ただならない存在感と共にゆっくりとそいつは動き始める。
「ギイイイイイイイィッーーーー!!!!」
洞窟中に轟く程の凄まじい大音量で女王蟻の鳴き声が響き渡った。
僕とレンカは思わず耳を閉じる。ひとしきり叫び終わると、女王蟻は粘液に包まれた身体を伸ばしている。
「チャンスだ」
「え?」
「あいつは繭から出て孵化したばかりだ。その身体はまだ柔らかい。今ならこちらの攻撃も十分に通る」
多分目の前の大部屋は産卵用の部屋なのだろう。護衛用の兵隊蟻が1匹もいないのは不可思議だが、こちらには好都合だ。
「先手必勝だ! 今の叫び声ですぐに兵隊蟻達が集まってくる。その前に女王を倒すんだ!」
「分かったであります!」
すぐに戦闘モードに切り替えて直進する。通路から大部屋に入り、レンカが自身の片刃剣に炎を纏わせる。攻撃力を上げるのと明かりを確保したのだ。
レンカの剣の炎に照らされ、女王蟻の身体の詳細が見えてくる。
「何だ……? あの腹は」
女王蟻の腹部には巨大な宝石のようなものが埋め込まれている。その宝石が不気味な輝きを放ったと思うと、何と宝石の中から兵隊蟻が続々と現れてくる。
「こ、これは一体……!?」
「そう言えば聞いた事がある。ブラッドアントの女王は体内に巣を持つって」
護衛用の兵隊蟻はちゃんといたのだ。女王の体の中に。
「巣!? あの腹の宝石の中にうじゃうじゃ兵隊蟻達が詰まってるって事でありますか!?」
「とにかく時間との勝負だ! 出し惜しみ無しで急いで女王を討つんだ!!」
こうして話している間にも兵隊蟻はどんどん増えていき部屋の中を埋めつくしていく。レンカは全身の魔力を片刃剣に全て集中。呪文の詠唱と共に炎の勢いが凄まじいものに変化していく。
「魔人イフリートの煉獄の炎よ、我にその力貸し与え給え。全ての障壁全ての敵を焼き払え!
奥義! アビスフレア!!」
レンカの持つ魔剣を媒介に、煉獄の炎が召喚され鋭い斬撃と共に兵隊蟻の群れが切り開かれていく。炎の海は剣閃の後を追うように広がっていき女王への道が開かれる。
「今だっ! 行けっピピ!!」
「ピピイッ!!」
炎の中に一緒に突っ込んでいく訳にはいかない。僕は後方からピピに指示を飛ばすと、レンカの持っていた魔力回復薬の瓶を新たに空け喉に流し込む。
周囲の通路からは既に集まってきた蟻達の姿があった。続けて僕はレンカの持ち物である魔石を大量に周囲にばら撒き、大範囲の結界を張る。
今この場にはレンカが放った炎の影響で炎の魔素が満ちている。それを利用すれば炎の結界を張る事が出来る。炎の魔石を触媒に更に威力を上げる。
完全した結界は蟻達の侵入を拒む。結界に触れた蟻は燃え上がり消し炭と化す。その様子を見ていた後続の蟻達は二の足を踏む。
これでしばらく時間は稼げる。ちらりと視線を前に向けると、レンカが露払いに奮闘している。しかし兵隊蟻の数はかなりのもので女王までは辿り着けていない。
ピピは女王との一騎打ちの真っ最中だ。孵化したての柔らかい身体は虫系特攻のピピの攻撃を防ぐ事は出来ない。あちこちに傷を負い血を流している。
「ピピィッ!」
ピピの鋭い嘴が女王の腕の一つをちぎり取る。そのままもしゃもしゃと咀嚼するピピ。腕を一本持っていかれた女王は……何故か笑っているように見えた。
「しまった……! ピピ、早く止めを刺すんだ!」
「ピピ?」
ピピが僕の声に反応して一瞬止まった隙に、女王蟻は……自分の血を口に含んだ。やはり予想通り、ブラッドアントは自らの血ですら強化される。
ブラッドアントの女王の身体が赤い光を放ち、肉体が強化されていく。欠損した部分は戻らないし傷も治ってはいないので、体力は消耗されたままなのだろう。
女王はその鋭い牙と爪でピピを切り裂くべく飛び込んだ。
「ギイイイイイィィィッ!!」
ブラッドアントの女王はこの時勝利を確信していたに違いない。だが……。
「ピイイイイイィィィィッ!!」
ピピの身体が眩い光に包まれる。眩しくて目を開けられていられない程だ。それもただの光では無い。僕の奥の手、七色の光にとても良く似た光。
それは、鳳凰の羽根の光だった。
ピピは遂に成体に進化したのだ。虹色の輝く羽根を全身に纏い、優雅に一閃。
「ギッ!?」
ピピに飛び掛かろうとしていた女王蟻が空中で止まる。凄まじい圧と風が女王の進撃を止め、押し返す。そして女王の身体のあちこちから炎が吹き出し全身を焼き焦がしていく。
「グギャアアアアッッッ!!!!」
断末魔の悲鳴を上げて女王蟻は消し炭と化した。
「や、やった……! ピピ!」
「す、凄い……」
僕は勝利の喜びの声を上げ、レンカは呆然とピピを見上げていた。
鳳凰に進化したピピの全長は羽根を広げた状態で縦4メートル横10メートル程もの大きさになり、威厳と共に佇んでいた。
鳳凰となったピピの一撃により結界は破壊されてしまったが、同時にレンカが相手をしていた兵隊蟻達は消滅し周囲を囲っていた蟻達は女王蟻が倒された事を知ると全て逃げ出していった。
危機が去った事を確認すると、僕はピピの頭を撫で勝利を称えた。
「よくやったね、ピピ。そして、鳳凰への進化おめでとう」
「クエエエッ~~」
ふふん、当然だ、と大きくなっても自信家な所は変わっていなかった。
「さて、当面の危機は去ったし、帰らないと」
しかし外に出るには再び入り組んだ迷宮を突破しなければならない。どうしようかと2人で頭を抱えていたら、ピピが任せろ! と鳴いた後全身に炎を纏い天上に向けて凄まじい勢いで飛び上がっていった。
ズガアアアアン、と凄まじい音と共に天上に大穴が空きそこから空が覗いていた。そうして降りてきたピピの背中に乗せて貰い僕達は無事洞窟から抜け出したのだった。
この後ピピの背中に乗ったまま王都ネフタルに戻る時に、Sランクモンスターの襲撃と勘違いされて大騒ぎになるとは全く予想していなかった……。
ついに成体に進化したピピ
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