百四話
アノンside
俺とブリューナクが苦しみにもがいている間にフラガラッハはゆっくりと立ち上がり、再び呪毒の苦痛を与えようと指を構える。
「止めろっ!」
その瞬間エルダが体当たりをしてフラガラッハの体勢を崩す。エルダからの攻撃を想定していなかったフラガラッハは後ろに大きく仰け反って、そのまま警戒の姿勢を見せる。
「そういえば……貴女もこの場にいたんでしたね……今更ながら、貴女は何なんです?」
本当に今更だが、当然と言えば当然の疑問だ。エルダは倒れている俺達を庇いながら高らかに名乗りを上げた。
「私はエルダ、ミング族の長バルムーダの娘だ。」
「そのバルムーダの娘とやらが何故ここに?」
「アノンの付き添いだ。ついでに言えば、祖先の霊を辱めるあの盗掘者達を倒しに来た」
エルダはそう言って二体の不死王に視線を向けようとするが、どうやら争っているうちに舞台を別の場所へ移したらしく、もうこの場には残っていなかった。
「……どうやらあの不死王達はもうここには居ないみたいですねえ。そういう訳です。部外者はお引き取り願えませんか?」
「そうだな、お暇させて頂くとしようか」
そう言ってエルダは倒れたままの俺の身体を引っ張りあげて背中に担いだ。そして小声でブリューナクに囁いた。
『私だけではあの男には太刀打ち出来そうにない。逃げるぞ。二人も背負えんからそっちは済まんが自力で移動してくれ』
ブリューナクの方はろくに身体が動かせなくても転移魔法で逃げられるだろうという予測を立てた上での言葉だ。ここで倒れているのが普通の人間なら流石にエルダも自力で逃げろ、とは言わないだろう。
「お待ちなさい。その二人は置いていきなさい」
当然、フラガラッハはそれを制止する。
「断ると言ったら?」
次の瞬間フラガラッハは右手の指先から光弾を放つ。エルダは直ぐさま横に跳んで避ける。しかしその際にブリューナクから渡されていた紺碧のエメラルドが床に転がり落ちてしまう。
最初からそれが目的だったのか、迷わず床に落ちたそれを他に取ると奴は安堵の息を漏らした。
「ふう、これで一安心……ずっとこれを探していたんですよ」
次の瞬間、奴の身体から夥しい魔力が放たれ始める。いや、より正確に言えば魔力が放出されているのは奴が握りしめている紺碧のエメラルドだった。
膨大な魔力と共に濃い霧が発生しフラガラッハの身体を包み込んでいく。ややあってその霧が晴れていくと、奴の身体のシルエットは変貌していた。
直接的な形を描いていた身体は柔らかくカーブを描き、二回り程も小さく縮んでいた。髪は黒く変色し、腰まで届く程に伸びる。
そしてフラガラッハ、いや、もはや別人となった何者かは被っていた仮面を外した。
「────!?」
「バカな!!?」
そこに立っていたのは、月影の聖女。褐色の肌と黒髪を持つ異色の聖女。
そして同時に俺の妹でもある少女だった。
テイルside
ブハッ、と埋もれていた瓦礫の間から顔を出す。キョロキョロと周囲を伺うとここはどうやら首都エルダムダの中のようだった。クムヤカムニ山からなだれ込んだ土砂がエルラムダの民家も巻き込んで崩壊させてしまったらしい。
故意ではなかったとはいえ、ここの住民には申し訳ない事をしてしまった。シェイランを戦闘に参加させてしまった僕のミスだ。それか、手加減を強く言い聞かせておくべきだった。
ブンブン、と首を振り意識を切り替える。今はそんな事を悔やんでいる暇はない。はぐれてしまった仲間達を集めて皇族ゾンビ達を一刻も早く討伐しなければならない。
あちこちに視線を巡らせながら走り出す。常人では捉えきれないくらいのスピードだが、今の僕ならこれくらいの速度を出しても十分に周囲を観察する事が出来る。
すると、瓦礫の中から逆さに下半身だけ露出させている仲間の姿が見えた。その周りをこの国の衛兵だろうか。鉄の装備に身を包んだ男達がおっかなびっくりその周囲を取り囲んでいる。
「ちょっと失礼」
「な、なんだお前は!」
突然の乱入者に戸惑う衛兵を無視して片足を掴んで引っこ抜いた。
「ピピィ~♪ ピッピピ─!」
助かったぜ、相棒♪ とピピが喜びの鳴き声を上げる。幼体の状態でも身長三メートル近くあるピピを無造作に引っこ抜いた僕に恐れをなしたのか、若干衛兵達は引き気味だ。
「あの」
「ひっ! な、なんだ?」
「山からなだれ込んだ土砂と共に大量のゾンビ達が埋もれている筈です。一刻も早く国民の避難と対処を」
「な、なんだと!? 例の盗掘者の仕業か! ……わ、分かった。助言感謝する」
衛兵達は素直に僕の言葉を信じてくれたみたいだ。何しろ、話している間にも城の方では爆発と争う音が頻発している。
恐らくゲオルクとヘルメスが戦闘を続けているのだろう。あれ程分かりやすい目印もない。エルダムダで目覚めた仲間達は自然とあそこに集まる筈だ。問題はエルダムダまで流されずクムヤカムニに取り残されていた場合だ。
機動力のある仲間ならいいがそうでなければ時間のロスとなる。
「ピピ」
「ピピィ~!!」
僕の呼びかけに了解!! と応えるとピピの身体を眩い光が包み、成体となった。おお……と鳳凰の勇姿を見た人達から感嘆の声が漏れる。僕はピピの背に乗り込みそんな人達を横目にエルダムダを飛び立った。
さて。
クムヤカムニ山に戻ってきた訳だが……
気配がする。しかも複数。僕はしばし黙考した後、叫んだ。
「シェイラン」
「ハイッ!」
「レンカ」
「はいっ!」
あっという間に二人合流した。恐らくシェイランの方は土砂崩れを起こした罪悪感から中々顔を出せずにいて、レンカの方は僕の匂いかなんかを嗅ぎ付けて来たんだと思う。
シェイランなんかちょっと声が上擦ってるし。僕別に怒ってないよ。僕自身含めてやっちゃったなぁ~とは思ってるけど。
レンカは何か僕を発見してからの動きが倍速移動で地面を這ったゴキブリみたいでちょっと気持ち悪かった。
伝えても何故か喜びそうな気がしたので黙っておく。
「他に誰か見た?」
二人に尋ねると揃ってとある方向を向く。そこには砂漠のオアシスのように噴出した湖と噴水が見えた。
「シズク、無事だったんだね」
「はいっ! 皆さんも無事で何よりです」
「噴水を出したのは吾輩のアイデアでありますぞ。見つけやすかったでありましょう? フシュシュシュ」
確かにクラーケンにしては気が利いた事をする。よく思いついたね、と褒めると顔色を赤く染め照れ始めた。キモい。
「さて、後は皆で手分けしてチィを探そう」
「チィの宝玉の中にはクアンゼ殿がおられるでありましょうし、蟻達の助力を得るでありますな?」
その通りだ。以心伝心レベルでレンカは僕の考えを理解してくれているようだ。
工作が得意なビルドアント達なら瓦礫や土砂の撤去はお手の物だろう。ついでに資材も貯蓄して貰おうと思う。
ただしゾンビを発見したら戦わずに僕らの誰かに知らせるようにしておこう。被害はなるべく避けたい。
そんな感じで後は立てた予定通りに順調に進んで行った。
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