百話
テイルside
ゲオルクの放った皇族ゾンビ達は、それぞれ配下と思われる付き人ゾンビを引き連れ一軍の将としてそれぞれが狙いを定め僕達に向かってきた。
「チィ……チィチ~?」
何となくチィが『兵隊蟻達出そうか~?』と聞いてきた気がしたので、
「いや……止めとこう。あのゾンビは並の奴等じゃない。蟻達だとこちらにも犠牲が出る」
勘でしかないが、あのゾンビの一団、いや、将である王侯ゾンビ一体取っただけでもAランクに匹敵する強さなんじゃないだろうか。それだけではなく彼等が放っている禍々しい魔力、あれはゲオルクが纏っていた黒い雲と同種の力を感じる。
鑑定すれば多分予想通りの結果が出るだろう。
「ピィ……ピッピ~?」
じゃあどうするの~? とピピが聞いてきたので(断定)
「僕とピピ、シェイラン、ノエルを中心に迎え撃つよ。残りのメンバーはサポートよろしく」
皆がこくり、と頷く。このメンバーを選出した理由は、あの闇の衣の発展系と思われる暗雲を突破出来るであろうからだ。
消滅魔法を放てる僕、規格外の力で何でもありのシェイラン、闇に効果のある光の魔力を放てるピピとノエル、このメンバーなら闇の雲を打倒出来る。
逆に言うとそれ以外のメンバーの攻撃は全て弾き返してしまうだろう。それくらいあの闇の衣=雲は厄介なのだ。
「それじゃあ、行こうか相棒」
「ピピィ~!」
ピピが一足先にシェイランの背から飛び降り同時に成体へと姿を変える。僕はその背中に飛び乗り久しぶりのピピの羽毛の柔らかさを堪能する。
「妬けるのう……」
なんか後ろシェイランの声がするけど、風の音でよく聞こえなかった。
上空で二人の不死王が激闘を繰り広げる中、僕らは皇族ゾンビ達と対峙した。
ピピが炎の衝撃波を放ち、ノエルが光を纏わせた格闘術で敵を粉砕する。シェイランは闇の雲ごと強引に風でバラバラに引き裂く。僕はと言えば、そんな彼らの活躍をよそに、敵の反応を伺っていた。
どうも生前の戦闘技術は発揮出来ていないらしく、司令塔であるゲオルクがヘルメスとの戦闘に集中しているせいで単調な動きしかしてこない。にも関わらず、僕らは攻めあぐねていた。
問題なのは、闇の雲が再生能力まで持っている事だった。何度粉砕しても雲が身体を再生させてしまう。雲を散らしても消滅はせず、時間と共に元に戻ってしまう。光魔法ですら散らすのが限界なのだ。
消滅魔法なら恐らく消せるのだが、あれは消耗が激しすぎるし誤射が許されない。今のような乱戦では使いづらく、全員分を当てて消すのは至難の業だ。
「ふ~む、ちょっと失礼」
シェイランが不意打ち気味に額からフラッシュを放ち皇族ゾンビの軍勢を照らした。続いてヘルメスと激闘を続けるゲオルクにも。
「なるほどのう。千里眼で観てみたが、どうもあの雲の大元は不死王らしいの。奴を倒さねばゾンビ達の纏う雲は消せぬようじゃぞ」
「つまり、ゲオルクを倒さないとあのゾンビ達も倒せないって訳ね?」
これは相当厄介だ。例えばゲオルクが世界中の墓地から大量のゾンビ達を従え配下にしたなら、文字通りの不滅の軍団が出来上がる。
前に戦った時とはひと味もふた味も違っている。成長したのは僕らだけではないという事か。
などと感心していたのも束の間、ズズズズズズズ……と何やら不気味な鳴動が辺りを包んでいた。
「この音は……?」
「しまったのう……」
珍しくシェイランが焦ったような表情をしている。ん? と目線を向けると彼女は頬をポリポリとかきながら言った。
「やりすぎん様気を付けていたつもりじゃったが……あんまり再生するもんじゃから連発してもうたわ」
「えっと……つまりどういう事?」
シェイランが風魔法を連発したせいなのか、ズゴゴゴゴゴゴ……という音と共に、地滑りした地面が津波のように大量の土砂と共に僕らを麓まで押し流してきたのだった。
「「「おわーっ!!!」」」
アノンside
「くせ者だー!! 魔物が攻めてきたぞー!!」
「あれを見ろ! アイツが盗掘犯に違いない!」
城の衛兵達が慌てふためきながら指差す先には、空に浮かびながら凄まじい戦いを繰り広げる二体の骸骨だった。見た目は単なる骸骨だが、その二体から放たれるプレッシャーは尋常じゃない。
「あれは……まさか不死王リッチー……なのか?」
「リッチーだと? なら、アイツらがご先祖達の墓を荒らして……くそうっ!」
いつの間に術士の男の部屋の中に来ていたのか、エルダが俺の言葉を聞いて憤然やるせなくと言った調子で駆け出そうとするのを寸前で掴んで止める。
「なぜ止めるっ! 離せっ!」
「止めろ! 分からないのか! アレは近付いただけで消し飛ばされるレベルだっ」
「だから何だと言うんだ! 私は先祖の御魂を汚す奴を許してはおけん!」
鼻息荒く不死王達に向かっていこうとするエルダを引き寄せてこちらに向き直させる。
「行ったら死ぬと言ってるんだ!」
「だからそれがどうした!」
目の前に死の危機が迫っているというのに、まるで事の重大さを分かっていない姿。まるで昔の、誰かの姿を思い起こさせるようで……
「無駄死にだ! 何の意味もなく! ボロ雑巾のように散って死ぬんだ! お前が死んだら! お前を育ててきた父親と母親は! どんな気持ちになると思う!?」
「お前……」
気が付くと泣いていた。ボロボロと、みっともなく、泣き喚く子供のように、俺は縋り付いてエルダに訴えかけていた。
「お前が死ぬだけならまだいい!! もし仮に、
お前を庇って誰かが死んだら!
お前はそいつの死に責任を持てるのか!?
そいつの生命を背負って生きれるのか!?」
がくがくと、肩を両手で掴み揺さぶりながら俺は叫んだ。まるで自分に言い聞かせるかのように。
「お前の勝手でお前が死ぬのは勝手だ!
だけど、お前の勝手で誰かが死んだら、お前は耐えられるのかよ………?」
最後はもう、弱々しい掠れ声だった。エルダは、微動だにせず、静かに、ただ俺の瞳をじっと見ていた。
「それがお前の抱えていた本当の枷か……?」
「……!」
「分かっていた。お前が、何かに囚われて、捕らわれて、深い闇の底に佇んでいた事を。
お前を庇って誰かが死んだのか……? それは、辛いだろうな。私には、想像する事しか出来ない辛さだ」
「だったら……」
「だから、ここで私を掴んで止めて、生き延びさせればお前は救われるのか? ……違うだろう。お前は結局、どこまで行っても自分を責め続ける」
「…………」
「私が背負えるのは私の生命だけだ。私の生命を私の使いたいように使う、それの何が悪いんだ? お前を庇って死んだ誰かだってそうだったろうさ。お前を庇う為に自分の生命を使う事を選んだんだ。その想いを、行動を、お前は否定出来るのか?」
「それは……」
出来ない。そんな事、出来る訳がない。だけど……
「お前は本当はどうしたいんだ。それだけ考えろ。死者は何も語ってはくれない。全部、お前の想像でしかないんだ。お前がどう受け取るかなんだよ」
「俺が……どうしたいか」
「私はな、誇りを失いたくは無い。祖先を汚されて、馬鹿にされて、黙って下がっている玉無しにはなりたくないんだよ。かつてのミング族の栄華を取り戻す、そんな事夢物語だって分かってる、だけどな……」
やがてエルダは決意を固めたかのように、足を進めていった。
「夢見る権利くらいは、持ち続けていたいんだよ──」
粉塵と煙の中に言葉だけを残して。




