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ふわふわ43 成果報告会

 結局、私とジェシカさんはあれから物置に戻った。

 もっと、しっかり偵察した方がいいと、頭では思っていた。けど、街の人が苦しめられているところを、何もできずに見ているのが辛すぎた。

 あの人が殺されなかったのはよかったけど、似たような現場を見た時、私にはちゃんと我慢できる自信がない。

 だって、もしかしたら、本当に死んでしまうかもしれないから。あの時だって、ジェシカさんが強く止めてくれなかったら、私はトロールを魔法で倒していたと思う。

 そんなことをしてしまったら、作戦は台無しだって、頭ではわかってる。そうなったら、メフィスが攻めて来た時みたいに、街の人が私を釣り出すために大勢殺されちゃう。

 だから、逃げでしかないのはわかっているけど、私は見ないことにした。ジェシカさんと二人で何か成果が出せれば、ジェシカさんが自信を取り戻してくれるかなとか思ってたけど、現実はこの体たらく。

 自分の情けなさに自己嫌悪していると、ちょうど日が沈みかけた頃に、ミオちゃんたちが物置に帰ってきた。


「あれ? サーシャちゃん、ジェシカ、いたんだ?」


 最初に入ってきたミオちゃんが、意外そうに目を丸くしている。

 じっとしてないと思われてたんだなぁ、ということがよくわかる。


「おかえり、ミオちゃん。ご飯の用意しておいたよ」

「わぁ、ありがとう、サーシャちゃん! 実はお昼抜いちゃったから、お腹ぺこぺこ」


 私が廃屋から拝借してきたテーブルの上を指すと、ミオちゃんは嬉しそうに笑った。

 こういうときの顔を見てると年相応なんだけど、あの街の様子をずっと見て回ってたんだよね、この子。お昼も食べずに。

 マルセロくんも、フィアナもそうだ。ここで待機するのは私が決めたことだけど、やっぱり、自分が情けなく感じる。


「だから、北西のエリアまで行くのは無茶だって言ったんだ。南側が終わった時に戻ってくれば、そんな無理してよかったのに」

「どうしても北側も見ておきたかったの。それに、ちゃんと戻って来られたじゃん。お昼抜きになったのはごめんだけど」


 マルセロくんとミオちゃんがテーブルに着きながら、いつものように言い合いを始める。

 ミオちゃんたち、そんなところまで行ってきたんだ。私とジェシカさんは、南東のエリアをちょっと見てすぐ帰って来たのに。


「俺は昼抜くくらい平気だけど、そっちの姉さんが気の毒だっただろ」


 マルセロくんが視線を向けたのは、最後に席についたフィアナ。確かに、食いしん坊のフィアナが一食抜かれるのは結構辛そうだ。

 っていうか、なんか元気ない。しょぼんとしているというか、がっかりしているというか。視線の先にあるのは、廃屋でみつけてきた皿の上に盛られたドライフルーツ。

 私は立ち上がって荷物を開けると、中からドライフルーツを出して、フィアナの皿に山盛りになるまで追加してあげた。途端に、フィアナの顔がパァっと明るくなる。

 昨日はあんなに怒ってたのに、かわいいやつめ。


「サーシャ、そんなに食べさせたら、帰るときまた穴につっかえるんじゃない?」

「帰るときは、街を解放して堂々と帰るから大丈夫。だから、フィアナ。慌ててドライフルーツを口に押し込まないで?」


 ハムスターみたいになってるから。ご飯くらいゆっくり味わって食べていいんだよ。


「頼もしいこと言うじゃん、サーシャ。何か、いい案でも思いついた?」

「それは……ミオちゃんが考えてくれてるし」


 ジェシカさんの意地悪。思いついてたら、一日ここでミオちゃんたち待ってるわけないじゃん。


「そのことだけど、私たちが調べたこと、二人にも説明するよ」


 すると、ミオちゃんがマルセロの書いた地図をテーブルに広げた。


「おい、今広げなくても、食べてからでいいんじゃないか? お前、ずっと食べてないんだから」

「マルセロだって食べてないでしょ。説明は私がするから、先に食べててよ」

「俺は慣れてるから平気だって」

「もう、たまには素直に言うこと聞いてよ!」

「ミオちゃん! 食べながら! 食べながらにしよ! ね!?」


 ミオちゃんが目を吊り上げたので、私は慌てて二人の間に割って入った。

 間違いなく仲良くなってるんだけど、すぐケンカ始めるのは相変わらずなんだよね。

 ミオちゃん、優しくていい子なんだけど、小さいのに何でもはっきり言うからなぁ。

 あと、マルセロくんに対しては、妙にムキになってるっていうか。

 とりあえず、ミオちゃんは私の仲裁で少し落ち着いてくれたのか、一口干し肉をかじった後、


「私たちが見て来たのは、南東のエリア、南西のエリア、それと北西のエリア。北東のエリアは時間がなくて無理だったけど、たぶん魔物の配置はそれぞれほぼ均等だと思う」

「でも、ミオちゃん。この辺りはほとんど魔物、いないみたいだけど?」

「その分、南東エリアはここ以外の場所に偏ってるって感じだね。魔物はトロールが五体で一組のグループになってて、グループの中には一体だけリーダーのハイトロールがいる。そのグループ1つが、20人くらいの人間を監視して働かせてる」

「あ、それ、私たちも見たよ、ミオちゃん。投石器の部品作らされてた。ね、ジェシカさん?」

「そうだね。あたしたちが見たグループは一つだけだったけど。地図だとこの辺りかな」


 ジェシカさんがスッと、地図を指さした。なんで、地図アプリなしで正確な場所がわかるんだろう。


「ああ、そこなら俺たちも確認した。そこの姉さんが魔法で見たときは、木を削ってるってことしかわからなかったけど……そうか、そんなもん作らされてるのか」

「木を削って何かを作らされてた人たちは、他の場所でも見つけたね。あとは砂を集めてる人とか」

「砂? 砂なんて集めてどうするの? 泥団子でもつくるの」

「サーシャは発想が平和だねぇ」


 あはは、と楽しそうにジェシカさんが笑う。だ、だって、砂の使い道なんか他に思いつかないもん! 猫のトイレくらいだよ、あとは!


「泥団子を作ってるグループはなかったけど……でも、どのグループも外にいたよ。それで、日が暮れ始めたら、建物の中にまとめて戻されてた」

「俺が見る限り、普通に自分の家に帰されてる感じだったな。まとめてどこかに押し込められてるとかじゃなかった。トロールたちは外でずっと見張りを続けてる」

「トロールって休んだり眠ったりしないの? ご飯食べたり」


 ジェシカさんの話だと、トロールは少なくともご飯を食べるって話だったけどな。

 

「トロールはむしろよく寝る種族だけどねぇ。寝て、お腹が減ったら食べ物探して歩き回ってって感じの」

「私たち、お昼ご飯食べてるところは見たよ。中央の塔から、それぞれのグループに食べ物が輸送されてるみたい」

「へぇ~、いちいちご飯配ってるんだ? 大変そう」

「そうだね。私たち偵察しながら数を数えてたんだけど、魔物のグループ、それぞれのエリアにだいたい200ずつ配置されてた。街全体で、800は配置されてると思うし、それだけの食べ物をいちいち運ぶのは、かなり手間だとは思うよ」

「は、800……」


 そっか、5000体いるんだもんね、魔物。魔物5体のグループが800ってことは、それで4000体か。後の1000でごはん運んだり、城壁の見張りしたりしてる……のかな?

 で、人間は20人で1つのグループだから、800だと16000人。あれ?


「この街って、二万人住んでるんだよね? トロールに働かされてる人たちだけじゃ、四千人くらい足りないよ?」

「残りの人たちは、さっき言った食べ物の輸送部隊に割り当てられてると思う。私たち、荷車を引っ張らされてた人たちを見たから。トロールに比べたら全然力もないし、食べ物を運ぶより荷下ろしするのが主な仕事って感じだったけど」

「他の人たちは夜になったら自分の家に戻ったんだよね? 輸送部隊の人たちもそうなの?」

「ううん、たぶん違うと思う。マルセロに確認したんだけど、その人たち住んでる家の場所がバラバラだったから。食べ物を運び終わった輸送部隊が塔に戻っていくのを見たし、たぶんそこで寝泊まりしてるんじゃないかな」

「ってことは、残りの四千人は塔にいるってこと? そんなに人が住めるの?」

「外に出たときに見なかったのか、あんた? 城門を突破されたとき、あの塔にこもって戦えるようになってるんだよ。四千どころか、五千は入る」


 だ、だって霧のせいで遠くはよく見えないんだもん。見つからないことに必死で、そんなところまで見てなかったっていうのもあるけど。

 ……よく考えたら、霧が出てるのに、ジェシカさん100m先の人たちがはっきり見えたのか。この人の視力どうなってるの?


「入るってだけで、暮らせるって話じゃないけどな……」


 ボソッと、マルセロがそんな言葉をつぶやいた。

 入ることはできるけど、快適に生活できるようなスペースがあるわけじゃないってことかな。避難所みたいな感じ?

 私が見た人たちも弱り切ってたし、ミストウォールの人たちの状況は、かなり悪いみたいだ。

 マルセロから、ここに来る前に話も聞いてたし、実際にこの目でも見たからわかってはいたけど……。


「まとめると、ミストウォールの人たちは、自分の家で寝泊まりしてる人と塔で寝泊まりしてる人に分かれてる。自分の家で寝泊まりしてる人たちには、五体のトロールが見張りについてる。塔の警備がどうなっているのかはわからない。あと、トロールはたぶん外で寝泊まりしてる。こんな感じ、かな」


 そう言って、ミオちゃんが偵察の成果報告を締めくくった。


「トロールは家を作らず森に住んでるからね。体が丈夫だから雨にうたれても平気っていうか、シャワー代わりにしてるくらいだし、外で寝泊まりしてるってのは合ってるんじゃないかな」


 ミオちゃんの言葉に、ジェシカさんが意見を付け足す。さすが、三ヶ月、隣の国まで行って無茶な修行してきただけあって、モンスターのことには詳しい。ドラゴンのことは知らなかったけど!


「ミオちゃんたち、すごいね。そんなにたくさん、調べてくるなんて」


 私たちなんて、トロールたちのグループ一つ見つけて帰って来ただけなのに。子ども二人と、フィアナだけで監視の目をかいくぐって、これだけ情報を集めてくるなんて。


「マルセロのおかげでミストウォールの地形が完全にわかってたから。あと、トロールは知能が低いから、すごく見つかりにくいし」

「俺はこいつの言う通りに着いて行っただけだ」

 

 おお、ミオちゃんとマルセロくんがお互いを褒めてる……言い方が素直じゃないけど。


「でも、一番頑張ってくれたのはフィアナだと思う。霧で視界が悪いから、どうしても細かいことがわからなくて。フィアナが一人で近づいてから、サーチアイの魔法で情報を集めてくれたんだ」


 なるほど、サーチアイは闇属性の魔法だから、フィアナはスキルで覚えてるもんね。詠唱破棄できるから、声でバレることもないし。

 私、気合入れる感じで魔法名叫ぶこと多いけど、詠唱破棄できるなら無言でも発動できるし、魔法。

 ……一応、声を出すと構成を補強できるから、全く意味がないわけでもないんだよ? 声出すのは。

 ちなみに大活躍だったらしいフィアナは、一心不乱にドライフルーツを食べている。さっきから全くしゃべってないからね、この人。

 でも、夢中になってご飯食べてるのかわいい。フィアナを見てると、なんか、置いてきちゃったココアを思い出しちゃうよ。

 ココア、大丈夫かな。


「サーシャちゃんたちの方は、どうだった? 一応、外には出たんだよね? 投石器の部品作ってた人たちを見たのは聞いたけど、他に何か気づいたことあった?」

「え? 気づいたこと?」


 フィアナに見とれていた私は、いきなり話を振られて、びくっと肩を跳ねさせた。

 気づいたこと、気づいたこと……ジェシカさんの目が物凄くいいこと? いや、そんな話しても仕方ないし……。


「あ、トロールとハイトロールのステータス見たよ。HPと攻撃力すごかった。トロールでもHP800越えてて、攻撃力600あった。フィアナよりちょっと弱いくらい。ハイトロールはHP1600あって、攻撃力も800ある」

「そっか……トロールが強いのは知ってたけど、フィアナでも囲まれたらやっぱり厳しいね。魔法に弱いって弱点がわかってるからいいけど……わかってはいたけど、私、戦うときは戦力にならないや」

「ミオちゃんは絶対戦ったらダメだよ、あんなの!」

「うん。一対一ならできることもあるけど、群れ相手じゃね」

「一対一でもダメだよ!?」


 何考えてるの、この幼女。10歳児が3m超えてる巨人に挑もうとしないで。


「でも、ステータスがわかるのは助かるよ。鑑定スキル、サーシャちゃんしか持ってないもんね。ありがとう」

「た、大したことじゃないよ」


 えへへ、と私は思わず口元を緩めながら頭をかく。なんか久しぶりに褒められた気がする。ちょっとでかけて帰って来ただけなんだけどね。

 ええと、他に何かあったかな。トロールが街の人をいたぶってた話は……しなくても、たぶんミオちゃんたちは嫌ってくらい見て来たと思うし……。

 あっ、そうだ。


「ハイトロールが、夜に集会あるって言ってたよ」


 思い出したのは、あの場所を離れる直前に、ハイトロールとトロールがしていた会話。

 

「集会? サーシャさん、その話詳しく教えて?」

「え? ええと……その、元気のない街の人がいて、その人を働かせるにはどうすればいいかって、トロールがハイトロールに聞いてて……」


 マルセロくんの前でもあるし、みんな見て来たんだろうなということは承知しつつも、私は言葉を濁しながら説明する。


「ハイトロールが、それなら今夜の集会で報告して、新しい指示をもらってくるって、トロールに言ってた」

「集会……指示をもらうってことは……ハイトロールのさらに上……」


 ミオちゃんが、あごに手を当てて考え込み始める。

 そして、不意に顔を上げると、真剣な目で私を見た。


「サーシャちゃん、サーチアイの魔法使えるよね? それで、そのハイトロールが今、どこにいるかわからない? その集会、今夜にあるなら、今集会の最中かもしれないし」

「え? じゃあ、試してはみるけど……」

「ミオ様、サーシャ様、それはさすがに厳しいと思います」


 すると、そこでドライフルーツを食べ終わったフィアナが口を挟んで来た。

 見ると、皿の上がきれいに空っぽになっている。うん、かなり奮発して大盛にしておいたんだけどな。全部食べたんだね、フィアナ。


「厳しいって、どういうこと? フィアナ」

「サーチアイの射程は一般的に半径200mから300m程度なんです、ミオ様。エルフの私は、500mくらいまで索敵できますが、このミストウォールはとても広い街です。私、今日はかなりの数トロールを見たり、サーチアイしたりしましたけど、この位置から私がとらえられる位置にトロールは一匹もいません」

「え? フィアナ、そんなことわかるの?」

「はい、サーシャ様。私、ご飯を食べてただけではないんです。サーチアイを発動させながら、この物置に近づいて来るトロールがいないか、ずっと警戒してたんです」


 ふふん、と自慢げな顔をするフィアナ。ただドライフルーツ食べてるだけにしか見えなかったのに、そんな仕事をしていてくれたなんて。

 やばい、フィアナをかなり見直してしまった。見直したということは、無論、普段はダメということである。

 ただ、フィアナがそういうなら、この近くにあのハイトロールはいないってことか。ミオちゃんたち、私が見たグループは見たらしいし、フィアナもあのボルボルってハイトロール、サーチアイ済みのはずだもんね。

 まあ、ダメ元でやるだけやるか。


「サーチアイ」


 構成に魔力を流し込む。

 すると、私の脳裏に、石造りの建物の中で突っ立っているハイトロール――ボルボルの姿が映った。


「あ、できた」

「え、ホント!? サーシャちゃん!?」

「うん、なんかね、建物の中に立ってる」

「どんな建物!? どんなことでもいいから、細かいところまで教えて! マルセロ、サーシャちゃんの話聞いて、思い当たる建物教えて!」

「わ、わかった! 任せろ!」


 ミオちゃんとマルセロくんが急に色めき立った。

 えっと、口で説明するの難しい。とりあえず、私は視界に入っている情報を、気になった順に口にしていく。

 ボルボルがいる場所には、タイル張りの太い柱が何本かあって、床にも同じようなタイルが張られていた。照明はたぶん、壁にかけられた松明かな? 視界の中に光源は見えないけど、明るさの感じでそんな気がする。

 あと、ボルボル以外にもハイトロールがたくさんひしめいているのが見えた。一匹とか二匹とかじゃない。サーチアイの限られた視界の中に、割とぎっしり入ってる。

 というようなことを、私は二人に報告した。


「……たぶん、南門の司令室だ。塔にも似た作りの部屋はあるけど、柱のデザインが違う。指令室の作りは東西南北で全部同じだけど、使ってるタイルのデザインが少し違うんだ。直接見られてないから少し自信はないが、少なくともどこかの門の指令室なのは間違いない」

「ハイトロールがいっぱい……つまり、各グループのリーダーが門の指令室に集まってるってことだよね」


 マルセロくんの言葉を受けて、ミオちゃんが眉間にシワを寄せて考え込む。

 とりあえず、サーチアイの魔法を発動したまま私が待っていると、ミオちゃんは意を決したように顔を上げた。


「サーシャちゃん! 本当に危険なんだけど……この集会の情報が欲しい! サーシャちゃん、南門の指令室に忍び込めないかな!?」

「え、えぇ!? わ、わかんない……」

「昼の偵察で、比較的安全なルートはわかってるの! みんなで何とかサポートしながら、サーシャちゃんを城門の階段まで連れていくから、そこから頑張って忍び込んで欲しい! サーシャちゃん、空飛べるし!」

「え、えっと、空飛んだら丸見えですぐバレるって話じゃ……」

「トロールは知能が低いから、気をつけて飛べばたぶん大丈夫! サーシャちゃんにしかできないの! お願い!」


 真剣な顔で、ぐりぐい迫って来るミオちゃん。

 ミオちゃんがここまで言うなんて……そんなに大事な情報なのかな?


「や、やってはみるけど……」

「ありがとう! お願いね、サーシャちゃん! 絶対に見つかったらダメだし、失敗は許されないけど、落ち着いて、リラックスしてね!」


 いや、あの、その言い方だと落ち着けないしリラックスできないんだけど、ミオちゃん。


「よし、そうと決まったら、早速行こう! 集会が終わる前に忍び込まないと!」

「あの、ミオちゃん、まだご飯残ってるけど……」

「そんなの後! みんな準備して! すぐ行くよ!」


 ミオちゃんのやる気がすごい。私はタジタジになりつつ、とりあえず腰を上げた。

 すると、そんな中で、すっとフィアナが手を挙げた。


「質問が、一つだけ」

「どうしたのフィアナ。すぐ出発したいんだけど」


 ミオちゃんが不満げに眉をひそめる。しかし、いつもミオちゃんに対して素直なフィアナが、それに対して躊躇せずに言った。


「ここから……その、南門指令室までの距離は?」

「もう、地図見ればわかるでしょ、フィアナ!」


 ミオちゃんは何をわかりきったことを、と言った感じで口を尖らせて、


「ここからだいたい5kmだよ!」

「5km……ですか……あはは……」


 なんか、フィアナがすごく悲しそうな顔をした。

 どうしたんだろう、急に。なんか、仲間たちの情緒がさっきから不安定だ。


「フィアナ、気にしない方がいいって」


 ジェシカさんが、訳知り顔でフィアナを励ます。気にしない方がいいって、何の話だろ。

 とりあえず、フィアナが心配だった私は、追加でドライフルーツを差し出してみたが「食欲がないので……」とフィアナはそれを断わった。

 ありえないフィアナの返答に、私は何かの病気じゃないかと疑ったが、ジェシカさんは「大丈夫大丈夫」と私を物置から押し出した。

 何はともあれ、私は単独でトロールの集会に潜入することになったのである。

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