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ふわふわ39 サーシャの奮闘

 さて、まずはマルセロくんの捜索である。

 マルセロくんは私たちの食事の準備が始まってから寝るまでの間、いつもどこかに行っている。

 何をしているのかはわからないが、この辺りにも魔物はうろついているから、そんなに遠くには行ってないはずだ。移動中、魔物に襲われたときは、いつも大人しく守られていてくれてたし。魔物の怖さはちゃんとわかってる。

 といっても、あてもなく探すのは大変だから、ここはあの魔法の出番だ。


「サーチアイ」


 練り上げた構成に魔力を流し込むと、私の脳裏にマルセロを俯瞰している映像が浮かび上がる。

 ふふん、魔法大全を盗まれたときの反省を生かして、構成を暗記したのだ。中級の魔法だから、構成を覚えるのは難しかったけど、努力する価値のある魔法だと思う。

 この魔法の詠唱破棄をできるようになろうとしたきっかけがマルセロくんで、初めて詠唱破棄で発動させたサーチアイのターゲットもマルセロくんっていうのは、変な因果だね。

 とりあえず、マルセロくんの現在位置を把握した私は、そっちへ向かって歩き出す。目標までの距離と方角がわかる魔法ではないんだけど、視界に街道が映ってるし、マルセロくんが歩いて行った方角はちゃんと見ていた。

 恐らく、ちょっと街道を戻ったところ辺りにいるのだろう。そんなところで何してるのかとは思ったけど。休憩してるわけでもなくて、這いつくばるようにして……なんか、熱心に探してるようだけど。

 だんだん、目視でもマルセロくんの位置がわかる距離まで近づいてきた。マルセロくんはさっきと同じ体勢のまま……なんか、地面を掘り始めた。本当に何やってるんだろう、あの人。

 まあ、目に見える位置まで来たから、サーチアイはもういいかな。MPもったいないし。私は魔法をオフにする。


「マルセロくん」


 後ろから声をかけると、マルセロくんはびくっと肩を跳ねさせ、慌てて何かを隠すようにしながらこちらを振り返った。


「な、なんだよ」

「何してるの?」

「関係ないだろ。放っておいてくれ」


 背中で手元の何かを隠すようにしたまま、マルセロくんは相変わらずのぶっきらぼうな態度で答える。

 こういう言い方されると、つい怖気づきそうになる。そっとしておいた方がいいかなって。ミオちゃんはムカっとするみたいだけど。だから喧嘩になるんだよね。

 けど、私はマルセロくんを説得しに来たんであって、そうなると怖気づくわけにも腹を立てるわけにもいかない。

 心を落ち着けて、少し勇気を出して。大丈夫、前世でも難しいなぁって思う患者さんには何度も対応したことがある。……上手くいったことがあるのかどうかは聞かないで。


「ずっとご飯食べてないから、心配なの」

「…………」

「ミオちゃんと一緒に食べるのが嫌なら、私、ご飯持ってくるから。だから、食べてくれないかな?」

「いらない」


 マルセロくんの態度に、ふと、前世の記憶が蘇った。

 病院にもいた。いらない、食べたくないと言って、食事に手をつけない患者さん。

 やんわりと説得してみるけど、そんなものには何の効果もなくて、私はいつも食事の乗ったお盆を下げていた。

 私の報告を聞いた先輩は「食べたくないって言う患者さんに食べさせようとしても無理よ」と、いつも言った。

 最初に聞いたとき、私は先輩のことを「冷たい人だな」と思った。

 食べないと良くならないんだから、何とか説得して患者さんに食べてもらうのが、看護師の仕事じゃないか。この先輩は信用しないでおこう。

 先輩への反発心みたいなものが生まれて、私はだんだん、食べない患者さんへの説得を頑張るようになった。でも、結果はほとんど空回り。患者さんを怒らせて、先輩にフォローしてもらうこともあった。

 その度に、また同じことを言われた。食べたくない患者さんに、食べさせようとしても無理。私が頑張れば頑張るほど、それが正しいというのを証明する結果になった。

 これだけなら、数多い私の失敗談の一つに過ぎないんだけど……この話には続きがある。

 その先輩が担当する患者さんは、みんな食事を残さないのだ。あんなに頑張ってる私は全然上手くいかないのに、あんなことをいう人はなぜか上手くやっている。

 どうしても納得できなくて、私は先輩が仕事をしている様子を観察することにした。何か秘密があるんではと、先輩と患者さんのやり取りに、耳をそばだてた。


『今日は焼き鮭ですよ。お魚、お好きでしたよね? 骨は取ってありますから、安心して召し上がってくださいね』

『今日でおかゆは終わりです。明日から、常食になりますから、楽しみにしていてくださいね。デザートに大好きな梨、用意してありますから』

『娘さんに、昨日全部ご飯を召し上がったってお伝えしたら、とても喜んでらっしゃいましたよ。明後日、お孫さんを連れていらっしゃるそうです』


 まあ、どういうことかというと……先輩が本当に言いたかったのは「食べたくないと言ってる患者を説得しても無駄」ということじゃなくて、「ご飯を食べたいと患者さんが思えるような配慮や声かけをしないとダメ」ということだったという話。

 じゃあ最初からそう言ってよ。わかりにくいんだよ。おかげで無意味に患者さんと揉めまくったよ。ついでに、先輩との力量差を思い知って心がへし折れたよ。

 結局、私は仕事の中では、先輩の教えを生かすことはできなかった。そんな細かい気遣いをしてる余裕なかったし。


「どうして、食べたくないの?」


 けど、今ならあの時学んだこと、生かせるんじゃないだろうか。


「だから、関係ないだろ」

「今日ね、ガービーの干し肉と野菜でシチューを作るんだよ? ガービーの肉食べたことある? 干し肉にしても、じっくり煮込んだらトロトロになって、すごく美味しいんだよ」

「いらねぇって」

「シチュー嫌い? マルセロくんは、何が好きなの?」

「なんでそんなこと教えないといけないんだよ」


 背を向けたまま、私の方を見ようともせず、マルセロくんは突き放すように答え続ける。

 けど、無視はされてない。何だかんだここまでついて来てくれてるし、少なくとも、私たちの力が必要だとは思ってくれてるはず。ミストウォールの人たちを助けたいって気持ちも、きっと同じ。


「マルセロくんに、ご飯食べて欲しいから。私ね、四天王と戦ったことあるんだ。本当に強くて……勝つには、マルセロくんにも力を借りないと無理だと思うの。だから、マルセロくんには元気でいて欲しい」

「力を貸さないなんて、言ってないだろ」

「でも、ご飯食べないと動けなくなっちゃうよ。私に追いかけられてたときから、ずっと何も食べてないでしょ? 心配だよ」

「…………」


 うぅ……ついに無視された。今の、まずかったのかな。

 そういえば、出発した日の朝、ミオちゃんに「あなたがそんなんじゃ、助けられる人も助けられないよ」って言われて、怒ってたもんね。嫌な事、思い出させちゃったかな。


「食べてる」


 私がそわそわしていると、ぶっきらぼうに、マルセロくんがつぶやいた。


「え? 食べてるって、何を?」

「何でもいいだろ。食べてるんだからよ」

「だ、だって、私、マルセロくんが水以外のもの口にしてるの見たことないんだもん。食べてるってだけ言われても、信じられないよ」

「別に信じなくてもいい。いいから、もうあっち戻れよ。食事の準備あるんだろ」


 マルセロくんはうずくまるように体を丸めたまま、私を追い払おうとする。

 ……何かを食べてるのは、嘘じゃない気がしてきた。けど、なら、なんで食べてるものを隠そうとするの?

 知られたら、取られるから? すごく美味しい貴重なもの? そんなに意地汚く見えてるのかな、私たち。……いや、フィアナとかよく人の食べ物ねだってくるけどさ。

 ただ、今、ものすごーく怪しいものが目の前にある。

 私が声をかけたとき、マルセロくんが必死に隠そうとした何かだ。


「もしかして、今、手に持ってる?」

「……ああ」


 マルセロくんは、随分あっさりと認めた。

 うーん……じゃあ、なんでこんなに隠すんだろ。


「あの、絶対取ったりしないから、見せてくれない?」

「お前、本当にしつこいな。取られるなんて思ってないけど、見ない方がいいよ」


 よかった。意地汚いやつとは思われてなかったみたいだ。

 けど、ここまで隠されると気になる。どうしても知りたい。


「私、サーチアイって魔法が使えるんだけど、その気になればマルセロくんがそれ食べるまで監視できるよ?」

「そこまでするのかよ! あー、わかったよ! そんなに見たいなら見せるよ!」


 よし、勝った! 我ながら人としてどうなんだろうとは思うが、ついにマルセロくんが折れた!

 私が心の中で歓声を上げていると、マルセロくんはこちらを振り向いて、ずいっと手に握っていたものを突き出した。


 それは、とても懐かしいもの。以前、聖域の森からローズクレスタに向かう途中で、ココアが捕まえて来た、でーっかいモグラ。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「おい、大声出すなよ! 他のやつらとか魔物とかが来るだろ!」

「あ、ご、ごめん」


 悲鳴を上げながら尻もちをついた私は、マルセロくんに注意されて、両手で口をふさぐ。

 ま、まさか、このモグラともう一度ご対面するとは思わなかった。ココアの頭と同じくらいのサイズがある、でっかいモグラ。

 ん、待って? マルセロくん、まさか……。


「こ、このモグラ、食べるの?」

「……ああ」

「や、やめときなよ! お腹壊すよ!?」

「今まで何度も食べてる。平気だ」


 マルセロくんの言葉に、ぞーっとする。

 え? この人、本当に今日までずっと、このモグラ食べてたの? 今まで私たちがご飯の用意してる間、モグラ探して、捕まえて、食べてたの?


「な、生で食べるの?」

「さすがに焼くわ」

「ええと……モグラが好き、なの?」

「そういうわけじゃねぇよ。捕まえやすいし、食うものがこれくらいしかないだけだ」


 へぇ……そのモグラって、捕まえやすいんだ。地面の中にいるし、むしろ捕まえるの難しそうなイメージあったよ。

 じゃ、なくて!


「待ってよ! 食べるものあるよ! マルセロくんの分も作ってるってば!」

「だから、いらないって」

「なんで? モグラが好きってわけじゃないんでしょ? 一緒にご飯食べようよ! モグラもかわいそうだし!」

「そういう問題なのか……?」


 なんか困惑された。私、今、なんか変な事言ったかな?


「あー……とにかく、俺は俺でちゃんと食ってるから、いいんだよ」

「なんで、そんなに私たちのご飯食べたくないの? モグラより美味しいと思うんだけど……」

「……わかってるよ。だからだよ」


 ん? マルセロくん、なんか……最初と随分、雰囲気違う? ツンケンしなくなってきたっていうか、ちょっとだけ柔らかくなったっていうか。

 けど、だからって、なにがだからなんだろう? えっと……私たちの料理が、モグラより美味しいから? だから、食べない?


「マルセロくんは、モグラより美味しいものを食べられないの?」

「そういう聞き方されると、そうだとは言えないんだけどな……」


 なんか、バカを見るような目で見られてる気がする。私のかしこさ、5000近くあるんですけど。


「……街のみんなが苦しい思いしてるのに、俺だけ贅沢したくないんだよ」


 ぼそっと、マルセロくんがそんな言葉を口にした。


「街の人たち、ご飯食べられてないの?」

「食べてないってことはない。ただ、パン一つずつとか、そんなもんだ。俺がディオゲネイルに行かされるときも、食い物はろくにもらえなかった。だから、今みたいにモグラ捕まえて食ってたよ。魔物にほぼ襲われなかったのは、運がよかったな」


 マルセロくんの言葉に、私は何も言えなかった。そこまでして、ディオゲネイルまで来たんだ。

 自分の両親を助けるために。だから、私からカバンを奪った後、あそこまで必死に逃げたんだ。本当に、やっとの思いだったんだ。


「もうわかっただろ。俺のことはもう気にしなくていいから、戻れよ」

「で、でも、ちゃんとしたもの食べた方がいいよ。マルセロくんが街の人のこと、すっごく大事にしてるのはわかったけど……」

「……俺だって、お前が言いたいことはわかってるんだよ。けど、俺は嫌なんだよ」


 マルセロくんは、でっかいモグラから手を離さずに、顔を背ける。

 どうしよう。マルセロくんの意志は固そうだ。けど、やっぱりモグラだけじゃ体がもたないと思う。っていうか、よくお腹壊さなかったなぁって感じだ。

 マルセロくんの気持ちを尊重して、ちゃんとしたご飯を食べてもらう方法……そ、そうだ!


「マルセロくん! じゃあ、晩御飯をモグラシチューにしたら食べてくれる?」

「それは絶対嫌だからね、サーシャちゃん」


 私の質問に対する答えは、私の背後から返って来た。


「ミオちゃん!? いつの間に!?」

「悲鳴が聞こえたから」


 ああ、あの時のか。

 マルセロくんが、あからさまにチッ! と舌打ちする。本当に仲悪くなっちゃったからなぁ、この二人。


「えっと、ミオちゃん。マルセロくんが、ご飯食べないのにはわけがあって……」

「途中からだけど、聞いてたからわかってる。声大きかったし。街の人に気が引けるって話だったよね?」


 説明しようとした私の言葉を、ミオちゃんが遮った。

 本当は、もっと丁寧に説明させて欲しかったんだけど……ミオちゃんはもう、私の方は見ていない。

 冷たい目で、自分より大きなマルセロくんを見下ろすようにしながら、言い放った。


「はっきり言って、バカだと思う。そんなことにこだわってる場合じゃないんだよ。本気で街の人助ける気あるの?」


 ずっと顔を背けていたマルセロくんが、恐ろしい目でミオちゃんをにらみつける。

 この空気はヤバイ。


「ミオちゃん、それは言い過ぎだよ! マルセロくんは、モグラ食べるくらい必死に、街の人を助けたいと思ってるんだよ!」

「バカにしてんのかお前は!」


 マルセロくんの味方をしたら、なぜかマルセロくんに怒られた。


「サーシャちゃん……真面目にそういうこと言われると、笑っちゃうから本当にやめて欲しい……」


 一方、ミオちゃんもなんかうつむいてプルプルしてる。わ、私、別に面白いこと言ったつもりはないんだけど……。

 すーはーと、ミオちゃんは深呼吸してから、表情を引き締めなおして、マルセロくんを見た。


「マルセロは、大切な人がまだ生きてて、助けられるってことの意味が全然わかってないよ。私には、マルセロが必死になんて全然見えない」

「ミオちゃん……」

「そんなにモグラ料理が好きなら、好きにしてよ。もう、私もマルセロの分のご飯、作るのやめるから」

「モグラは別に好きじゃねーよ!」


 マルセロくんの抗議を無視して、ミオちゃんは踵を返し、フィアナとジェシカさんたちの方へ戻っていった。


「何なんだよ、あのチビ……いつも偉そうに」


 怒りが収まらない、といった様子で、マルセロくんがぶつぶつと悪態をつく。

 そっか……年下の女の子に、あんなふうに言われたら、そりゃ気分は良くないよね。二人が犬猿の仲になってるのは、そういう理由もあるのか。

 けど、さっきミオちゃんが言った言葉で、なんでマルセロくんへの当たりがこんなにきついのか、私にもようやく理解できた。

 そして、これはマルセロくんに伝えて上げないといけないことだと思う。


「ミオちゃんは、魔王軍にローズクレスタが襲われたとき、お父さんを殺されたんだよ」


 私の言葉で、マルセロくんの顔色が変わったのがわかった。

 マルセロくんにとっては、他人事だとは思えない話だもんね。


「ロックバリスタっていう、大きな岩を降らせる魔法が城の外から飛んできてね。ミオちゃんをかばって、お父さんが岩の下敷きになったんだ。私が駆けつけたときには、もう間に合わなくて、どうしようもできなかった」

「……なんで、今更なんだよ、その話」


 苦しそうに、マルセロくんが声を絞り出した。

 何というべきかわからなくて、何とかようやくひねり出した言葉、という感じがした。

 けど、私の方も、そんなことを言われると、答えに困る。


「ミオちゃんのことだし……勝手に言うのもどうかと思うし……タイミングもなかったし……」

「今、勝手に言っただろ」

「だって、言わないと、ミオちゃんのこと誤解されそうだったし……」

「…………」


 無言でうつむくマルセロくん。何も言わないというのは、つまりそういうことなんだろう。


「ミオちゃんは色々、言いすぎてると思うし、言い方も確かにきついと思うよ。マルセロくんが怒るのもわかるし……だから、今まで私も何も言えなかったっていうか……ごめんね?」

「なんであんたが謝るんだよ」

「ジェシカさんにお仕事禁止令出したのに、今まで何もしてなかったから……」

「何言ってんのかさっぱりわからないんだが……」


 なんか、バカを見るような目で見られた。聞かれたから答えただけなのに。


「と、とにかくね! ミオちゃんは、ミストウォールの人たちを本気で助けたいんだよ! その……自分のお父さんのことは、もうどうしようもないから、マルセロくんが同じ思いをしないようにって必死なんだと思う。だから、マルセロくんのしてることが、許せなくなっちゃったんだと思うんだよね……」

「それは、俺の気持ちが、あいつに負けてるってことかよ」

「そうじゃないよ! マルセロくんだって、モグラ食べるくらい必死だし!」

「やっぱり、あんたバカにしてんだろ!?」


 え? え? なんで怒られてるの私? ひょっとして、私、またやっちゃいました!?

 私が焦っていると、不意にマルセロくんは大きくため息を吐いた。


「……あんたの方は、なんでミストウォールを救おうとしてくれてるんだよ」

「え? どうしたの、急に?」

「俺だって、色々話しただろ。あんたも教えてくれよ。なんで、あんたにとっては無関係な街を、罠が仕掛けられてるってわかりながら救おうとするんだ?」


 真剣なトーンで、マルセロくんは尋ねてきた。

 ミオちゃんの話をしてたはずなのに、どうして急に私のことを聞いてきたんだろう。

 けど、マルセロくんの表情を見ていると、きちんと答えないといけないなという気持ちになる。

 といっても、大仰な理由なんてないから、素直な気持ちを答えることしかできないんだけど。


「私は、魔王のせいで酷い目に遭わされた人を見て来たから。私の仲間もみんなそうなんだ。だから、魔王を許せない。魔王を倒すのは勇者の使命みたいだから、私が勇者を倒そうって思ったの」

「……それは質問の答えになってないだろ」

「え?」


 マルセロくんの言葉に私は焦る。じゃ、じゃあ、なんて答えればいいの? 結構っていうか、かなり真面目に答えたんですけど……。


「それなら、四天王のティタンなんか無視して、魔王だけ倒しに行けばいいじゃねぇか」

「無視できるわけないじゃん! だって、そんなことしたら、ミストウォールの人たちはどうなるの!?」

「……全然話が噛み合わねぇな。勇者って言ってもやっぱ子どもか」


 ものすごく呆れた様子で、マルセロくんは額を抑えた。

 外見は10歳だけど、中身は二十歳越えてるんですけど、私……。


「なぁ」

「な、なに?」


 ショックを受けて若干放心していたところに声をかけられて、私はビクっとしてしまう。

 すると、マルセロくんはしばらく、バツが悪そうに視線をさまよわせてから、


「……今日から、一緒に飯を食わせてもらってもいいか? 代金が必要なら、いつか必ず払うから」

「へ?」


 一瞬、マルセロくんの言葉にポカンとする私。しばらく考えて、意味をゆっくりと理解して、


「も、もちろんいいよ! お金とか気にしなくていいから! 食べよ食べよ! 一緒に食べよ! モグラは逃がして!」

「や、やめろ、引っ張るな――ふわぁ」

「あ、ごめん。ディスペル」


 うっかりかけてしまった魅惑チャームを即座にディスペルし、私はウキウキ気分でマルセロくんを連れて、みんなのところに戻る。

 へへん、ジェシカさん、私だってやればできる子なんだよ。ジェシカさんに頼らなくても、何とかできるんだよ。

 なんでマルセロくんの気が急に変わったのかは……さっぱりわかんないんだけどね……。

 ん、まあ、結果オーライ!

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