ふわふわ13 苦い凱旋と束の間の休息
「これは……ひどいね」
薬草を駆使してできる限りの治療を終わらせた後、私とジェシカさんはローズクレスタに戻ってきていた。
目の前に飛びこんできたのは、外からの魔法攻撃で散々に破壊された街。被害にあった人たちの遺体はまだ放置されており、外壁の門と堀を繋ぐ跳ね橋は上がったままだ。
「私のせいなんだ……」
思わず、私はそうこぼした。じわっと、目元が熱くなってくる。そうだ、メフィスを倒しても、起きてしまったことは変えられない。
ミオちゃんのパパは帰ってこないんだ。
「そんなわけないじゃん」
なのに、ジェシカさんは何の迷いもなく、はっきりとした口調でそう言った。
「なんで、そんなふうに言いきれるの?」
「サーシャがこんなことするわけないから」
「私がしたわけじゃないよ。でも、私のせいだから」
「サーシャがしてないなら、サーシャのせいじゃないでしょ?」
「ジェシカさんは、何も知らないからそう言うんだよ」
「全部聞いても、あたしは絶対サーシャのせいじゃないって言うよ。賭けてもいいから」
なんか……なんか、もやもやする。別に、お前のせいじゃないって言われたいわけじゃないけど。
でも、事情も聞く前からそんなふうに言われたら……なんか、なんか上手く言えないけど……すごく軽く扱われてる気がして。
「メフィスが、私を誘い出すために街を攻撃したの。私が一人で出てこないと、これを続けるって脅すために」
「ほら、やっぱりサーシャのせいじゃない」
「最後まで聞いてよ!」
気づいたら、私は叫んでいた。
ダメだ。こんなの、八つ当たりだ。わかってるけど、胸の中でモヤモヤは膨れ上がっていく。
「ミオのパパが死んじゃったの……ミオ、街の案内してくれた女の子で……本当に、よくしてくれて……なのに、私のせいで」
勝手に涙があふれてきて、私はしゃくりあげてしまう。泣きたくなんかないのに。泣いていいわけないのに。私のせいなのに。
ぐいっと、ジェシカさんが私の体を抱き寄せた。
「そっか……辛い思いしたんだ」
ジェシカさんが私の頭をなでる。違う、慰めて欲しくて話したんじゃない。そんなの許されない。
「でもね、絶対にサーシャのせいじゃないよ。それは絶対」
「私の……グス……せいだよ……私が、この街にいたから……グス」
「うーん、わかった。じゃあ、あたしが悪いことにしよっか?」
「え?」
意味のわからなさすぎるジェシカさんの発言に、私は思わず涙をぬぐう手を止めて顔を上げる。
「だってさ、街にサーシャを入れたのあたしでしょ? じゃあ、あたしが悪いでしょ? そもそも、あたしってサーシャの身元保証人だし。それほったらかして、修行に出てたわけだし」
「そ、それは違うよ!」
「違わないよ。もし、そのことでサーシャを責める人がいたら、あたしが謝る。監督なんちゃらで」
監督なんちゃらって何? 監督責任? 監督不行き届き? 覚えてない言葉を無理して使おうとしないでよ。だから、かしこさがあがらないんだよ。
でも、このかしこさ68にかしこさ2754の私は言い返す言葉が思いつかない。
私がなんて言うか迷っていると、ジェシカさんはふっと微笑んだ。
「ほら、こんなふうに言われたら困るでしょ? 悪くない人が、自分が悪い―って責めてたら、周りは困るんだよ?」
困る、という言葉に、私は口をつぐむしかなかった。私、ジェシカさんを困らせちゃったのか。
「あたしだって、サーシャを街に入れたことが悪いことなんて全然思ってない。むしろ誇らしいね。だってさ、あんなに強い魔物を倒したんだから」
「でも……」
「でもね、サーシャが苦しんでて、悩んでるのは、ちゃーんとわかった」
私の言葉を遮るようにして、ジェシカさんが私の肩を掴んでかがむ。翡翠色のきれいな目が、まっすぐに私を見た。
「友達のお父さんが死んじゃって、それを悲しんでる友達を見て、すごくショックだったんだよね? 自分がいなかったらこんなこと起きなかったかもって考えちゃったんだね?」
頷く。その通りだったから。
「サーシャ、一人で戦いに出たの?」
頷く。
「どうして?」
「これ以上……街の人、私のせいで傷つけたくなかった……」
「うんうん」
「あ、あと……悔しくて……許せなくて……」
「わかる。あたしだって許せないよ、こんなこと」
あのときの情けなさと悔しさと怒りを思い出して、また目頭がカッと熱くなる。
ふらつきそうになる体を、ジェシカさんが肩に置いた手が支えてくれた。
「サーシャ、一人で戦いに行くの、怖くなかった?」
「……よく覚えてない。絶対に行かなきゃって思ったから」
「サーシャ。あたしね、君はすごく立派だと思う。そんなにショックなことがあったばっかりなのにさ。気持ち切り替えて、街の人守るために一人で戦うなんて、普通出来ない」
「気持ちは、切り替えられてないから……」
「それでも偉い。サーシャはすごい」
言い聞かせるように、ジェシカさんは繰り返す。私は顔を上げることができなかった。
やめて欲しい。ジェシカさんの言葉は力強くて、その気になってしまいそうになる。
私は偉くなんてない。私はすごくなんてない。私がいなければ、ミオちゃんのパパは死ななかったはずなのに。
「だから、あたしはサーシャの味方だよ?」
しかし、脈絡のない言葉に、私はつい顔を上げてしまう。
何が、だから、なの?
「サーシャがさっき言ったように、サーシャのせいだって責める人がいても、私は全然そう思わない。どれだけの人がサーシャの敵になったって、サーシャ自身がサーシャの敵になったって、あたしはサーシャの味方するから」
ジェシカさんはおかしい。ここまで人のこと全肯定とか、もうなんか、お人好し通り越してバカだ。かしこさ68だ。
だって、ジェシカさんだって、私に文句を言ってもおかしくない。メフィスとの戦いのとき、なんでもっと早く助けてくれなかったんだとか。だって、私がメフィスを先に倒してれば、ジェシカさんは怪我しなくて済んだのに。
実際は、メギドは一回しか使えないし、ジェシカさんに一度はメフィスを倒してもらわないと勝てなかったんだけど。それにしたって、メフィスが変身してすぐ私がメギドを使えばよかった。
けど、ここまで言ってくれる人が目の前にいるということに、どうしようもなく安心してしまう。
自分のせいだという思いが消えたりはしない。この胸にある重く苦しい気持ちは無くならない。それでも、ジェシカさんがそばにいてくれるだけで、それが少し楽になる気がする。
前世でこんな思いをしたことなかった。そして多分、私が担当した患者さんたちで、私にこんな気持ちを感じてくれた人もいないと思う。
本当に立派なのはジェシカさんの方だよ。
「ジェシカさん、行かないといけないところがあるんだ」
ジェシカさんのおかげで、私はようやく、城壁の門に入ってから踏み出せないでいた一歩を踏み出すことにした。
「どこ?」
「ミオちゃんのところ。ココアと、あとグリフィーネを預けてるの」
「わかった。よし、行こっか」
ずっと腰を屈めていたジェシカさんが立ち上がり、私の手を取る。
じんわりと、ジェシカさんの体温が掌に伝わってくる。熱が今の私にはとても、心地が良かった。
***
「サーシャちゃん!!」
ミオちゃんの店があった場所に着いた途端、駆け寄ってきたミオちゃんに勢いよく抱き着かれた。
「あはは、あたしがいない間に随分仲良しな友達ができたんだね。ちょっと妬いちゃうなぁ」
「あ、会ったのは昨日だから」
ミオちゃんを抱き留めながら、私は言い訳になっているのかよくわからない言い訳をする。
いや、そもそも言い訳する必要があるのかこれは。
というか、私、結構緊張してたんだけどな……ミオちゃん、私が戦いに行く前はああ言ってくれたけど、今会ったらどう言うだろうとか。
痛いくらいに私を抱きしめてくるミオちゃんを見てると、全部杞憂だったことがすぐわかってしまった。この世界の人たち優しすぎだよ。
「ん? あれ? 今のサーシャちゃん、いつもみたいにふわふわしてない」
すると、私を抱きしめていたミオちゃんが怪訝な顔をする。あぁ、だって今、MP0だもんね。
「いつもなら、サーシャちゃんを抱きしめると全身がふわふわに包まれて、頭もふわふわして、天国に行ったような気持ちになるのに」
私の体はアッパー系のドラッグかな?
「あー、そうだね。あたしもそんな感じになるかな」
あ、うん。ジェシカさんは、その、ミオちゃんよりヤバイ感じになってると思います。特にお風呂のときはやばかったです。
うん、今はMP0のままでいいや。色々安全だと思うし、お互いのためだと思うんだよね。
「ナァーオ」
「ココア! えへへ、いい子で待ってたんだね」
足元にすり寄ってくるココアを見て、私は思わず笑顔になる。
今回、メフィスに勝てたのはココアのおかげだよ。だから、またいっぱい吸わせてね。
「そういえば、どうしてミオちゃんたちは外壁の中に避難しなかったの?」
私がココアを撫でていると、不意にジェシカさんがそんな質問をした。
その質問に、ようやく、私を抱きしめるのをやめたミオちゃんが、事も無げに答える。
「え? だって、サーシャちゃんにここで待っててって言われたから」
一気に血の気が引いた。
言った。確かに言った。ココア預けるから、ここで待っててって私言った。
外にはひしめき合う魔物の大群。他の住民は避難完了したため、兵士も含めて外壁の中で籠城している状態。
そんな、完全無防備な上に一番最初に魔物達が通るだろう危険地帯で、私は待っててと、確かに言った。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「サーシャちゃん!? どうしたの!?」
「サーシャ、大丈夫!?」
だいじょばない! だいじょばないよ!! 何言ってんの私!? バカなの!? 死ぬの!?
自己嫌悪で頭を抱える私を、困ったように見つめる二人。でも、ちょっとそっとしておいて欲しい。
あぁ、今ならライオネットくんのお仕置きだって喜んで受けるよ。
「それに、パパから離れたくなかったし……」
しかし、スーパー自己嫌悪モードの私は、そのミオちゃんの言葉には、顔を上げずにはいられなかった。
魔法で作られた岩はすでに消えていて、そこにはぐしゃりとつぶれた屋台と、直視に耐えない状態の遺体が横たわっている。
遺体は屋台の残骸が覆いかぶさり、全体をはっきり見ることはできない。だからこそ、ミオちゃんを守ろうとしたのだろう、突き出された腕がはっきりと目に入る。
「ミオちゃん、ご――」
「よし! グリフィーネに乗って、王宮に行こっか」
私が口に仕掛けた言葉を遮るようにして、ジェシカさんがグリフィーネの手綱を取る。
ちょっと恨めしい目でジェシカさんを見たが、ジェシカさんは涼しい顔をしていた。
でも、確かにこのタイミングで謝るのは……ちょっと違うよね。私も、口をついて出ちゃった感じだったし。
「ミオちゃんも一緒に来ない? あたしと子ども二人くらいだったら余裕で乗せられるからさ」
「え、えっと……」
ジェシカさんの言葉に、ミオちゃんは困ったような顔をして私を見た。
うーん、そっか。ミオちゃん、パパさんのところから離れたくないって言ったもんね。
けど、このまま、ここに一人で置いておくのは心配過ぎる。私も、ミオちゃんは王宮について来てもらった方がいいと思うな。
「ミオちゃん、気持ちはわかるって言うとアレなんだけど……とりあえず、今は一緒に来てくれた方がいいと思うんだ。ここ、誰もいないし、一応魔物は倒したけど危険だし……」
「あ、そうじゃなくてね。その、あのお姉さん、誰?」
あぁ、そうだ。すっかり紹介するの忘れてた。
「ジェシカ・ハイルブロントさん。王女様だよ」
「王女様!?」
ミオちゃんが目を大きく見開いて驚く。うん、それは目の前に王女様がいたら普通驚くよね。私も最初は驚いたし。
いや、待てよ? 国民が顔見て王女ってわからないのは問題なんじゃないだろうか。
「印象が全然違う……」
「あはは、あたし式典に出るときの恰好と今の恰好じゃ全然違うもんねぇ」
仰天しているミオちゃんに、ジェシカさんがカラカラと笑う。ああ、確かにあの真っ赤なドレス着てた人とは同一人物に見えないよね。私も全く気づかなかったし。
「勇者様と王女様……わ、私、こんなところいたらいけないんじゃ」
「そういうのいいから。ほい、行くよ」
「わひゃっ!?」
ジェシカさんはミオちゃんを抱え上げると、ひょいっとグリフィーネの背に乗った。すごく軽やかな動作でかっこいい。
こういうところは王女様っぽい、のかな? むしろ王子様?
「サーシャも、ほら、乗って」
ジェシカさんが私に向かって手を差し出してくる。私はその手をしばらく見つめて、
「歩いて行ったらダメ?」
「跳ね橋上がってるのにどうやって歩いて行くのよ、サーシャ」
ぐむむむむ……で、でもグリフィーネにはろくな思い出がないんだよなぁ。
「大丈夫だってば、サーシャ。私、騎乗のスキルも上がったから、前に乗った時より乗り心地いいよ? それに、グリフィーネじゃないとすごく時間かかるの、サーシャもわかってるでしょ?」
「サーシャちゃん、大丈夫だよ。私、ほぼ一日一緒にいたからわかるけど、この子すごく賢いよ」
うーん……わがまま言ってる場合じゃないし……今はMP0だから求愛ダンスもされないと思うし……騙されたと思って乗ってみようかなぁ。
結局、私は渋々ながら、ココアを抱いてグリフィーネの背に乗ったのだった。
***
「騙されたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「何も騙してないじゃん、サーシャ」
顔面を汁まみれにしながら叫ぶ私に、ジェシカさんが苦笑する。
「落ちる! 落ちるぅ! 乗るとこ少ないーっ! おーちーるー!」
「安全運転してるから大丈夫だってば。もしも落ちたら拾いに行くから」
「それ落ちてるぅぅぅぅぅぅ!!」
片手でジェシカさんの腰にしがみつきつつ、ココアを抱きしめながら私は叫んだ。
三人乗りで、ジェシカさんがミオちゃんを前に抱えていたため、必然的に私は後ろに乗ることになった。
これが大失敗だった。グリフィーネの後部座席は背中というよりお尻の上あたりで、スペースがほとんどないのだ。
ちょっとバランスを崩して後ろに倒れたら、そのまま頭からぴゅーんと真っ逆さまというような感じ。
しかもジェシカさんの背中で前が見えないから、突然上昇したり、突然下降したように感じるからものすごく怖い。
ジェシカさんは安全運転って言ってるけど、私にとって安全運転の基準は電車やバスだ。こんなシートベルトすらない乗り物に安全運転なんて概念は存在しようがないのだ。
「ミオちゃんの名前も、本当はサーシャ・アフルヘイムって言うのね」
「はい、サーシャ・アルフヘイム30なので、番号の語呂合わせでミオって呼ばれてます」
「それより、なんでミオちゃん急に敬語なのさ?」
「だって王女様ですから」
「そういうのいいよ。あたし、自分のこと王女っていうより冒険者だと思ってるし。サーシャも普通にしゃべってるから、ミオちゃんも気楽に話して」
「うーん……わかりました。あっ、じゃなくて、わかった。あと、それなら、私のことミオちゃんって呼ぶのなんで? サーシャはサーシャなのに」
「んー? サーシャがミオちゃんって呼んでるから、自然に」
「ミオでいいですよ」
「わかった。じゃあ、これからはミオでいくね」
人が命の危機を感じてるときにほのぼのと打ち解けないでくれないかな!? とりあえず、一回降ろして欲しいんだけど! そして、ミオちゃんと座席代わって欲しいんだけど!
「ジェシカさん本当にグリフィーネの操縦上手いね。こんなに乗り心地いいの初めて」
こっちは乗り心地最悪だよ、ミオちゃん! 代わって!!
「ミオもジェシカさんじゃなくて、ジェシカでいいよ。けど、そんなに褒められるとお姉さん調子に乗っちゃうよ? 縦ロールとかしよっか?」
「え? やってやって!」
「やったら一生恨む!!」
「えー? サーシャちゃん、一人で乗ってたときやってたよね? 経験済みだし大丈夫でしょ?」
「なにー? サーシャ、いつの間にそんな高難易度技まで習得してたの? これはお姉さん負けてられないね」
「ちょっと本気で無理! 無理無理無理無理あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
その後、悪乗りした二人に、私は二回落とされた。
グリフィーネから降りた後、私はマジギレしたが、この世界では極々一般的な遊びらしい。
この世界の人たち頭おかしいと思った。
***
ジェシカさんとミオちゃんと一緒に、謁見の間の扉をくぐる。
私たちを出迎えたのは、一斉に拍手喝采する大勢の人たちだった。
「勇者よ、勇者サーシャよ! よくぞ、よくぞやってくれた!」
王様が玉座を立ち、興奮した様子で歩み寄ってくる。
居並ぶ人たちも口々に賞賛の言葉を口にしながら、私に笑顔を向けている。
私は目の前で立ち止まった王様を見上げ、ちょっと声を張って言う。
「うるさいんだけど」
「うむ?」
「だから、うるさいんだけど」
拍手が止んだ。みんなきょとんとしている。
「そ、それは失礼したな。しかし、我々としては一人で魔物の群れを退けた勇者に最大限の賛辞と感謝を――」
「そういうのいいから。気分じゃないし。別に一人でやってないし」
私が吐き捨てるように言うと、王様は呆気にとられた様子でジェシカさんに視線を移す。
ジェシカさんはひょいっと私を抱え上げた。
「ごめんね、お父さん。今、サーシャご機嫌斜めでさ」
「一体何があったんじゃ?」
「ここに来る途中で、グリフィーネから二回くらい落として遊んだんだけど、なんかすっごく怒っちゃって」
は? 怒るわそんなん。死にかけたんやぞ。殺人未遂やぞ。怒りすぎて関西弁になるわ。
ジェシカさんの話を聞いた王様は、私に視線を戻して、
「勇者殿はもっと遊びたかったのですかな? それは申し訳ない。グリフィーネで遊ぶ時間はこのあといくらでも――」
「ちがぁぁぁぁぁう!! 落とされたから怒ってるの! バカ! ホントバカ! 死ぬかと思ったんだから!」
「サーシャ、暴れないでってばー」
腕をぐるぐる振り回して王様に殴りかかろうとした私を、ジェシカさんが抱きしめて止める。
今はふわふわ発動してないんだぞ、コラ! 今の私のパンチは痛いんだぞ! 攻撃力84だぞ! ジェシカさんのかしこさより高いんだぞ!
「魔物の群れに一人で挑む勇気があって、グリフィーネから落ちるのが怖いと?」
信じられないという顔をしている王様。アホか、怖いわ。誰だって怖いわ。あんたらの常識がバグってるだけだわ。
「サーシャちゃん、さっきも言ったけど、グリフィーネから落ちても絶対大丈夫なんだよ? グリフィーネはかしこいから、乗ってる人が落ちたら絶対拾いに来てくれるし」
「そんなん知るかぁぁぁぁ! バカぁぁぁぁぁ!!」
「はぁ、グリフィーネから落ちるのを嫌がるとは……勇者殿は変わっていますな」
「あたしもまさか怒るとは思わなかったよ。グリフィーネ苦手みたいだったから、あれで好きになってくれると思ったんだけどなぁ」
「なるかぁぁぁぁ! バカぁぁぁぁぁ!」
腕をぐるぐる振り回しながら泣き叫ぶ私。そろいもそろって、私の方がおかしい感じに言いやがってぇ!
「これは労うどころではないのう」
「うん、サーシャが落ち着くまで待って欲しいかな。あと、この子はサーシャの友達なんだけど、あたしの部屋に泊まってもらってもいい?」
「ああ、もちろん構わんとも。では、今日は休んでもらって、勇者殿との話は明日にするとしよう」
「サーシャ・アフルヘイム30です。お、お世話になります」
ぺこり、と隣でミオちゃんが頭を下げる。私はまだ腕を振り回している。それを見て、周りに並んでいる人たちがクスクス笑っていた。
笑うな! 私は本気なんだぞ! 本当に怖かったんだから!
「じゃあ、下がらせてもらうね。サーシャ、もうわかったから暴れないでよ」
「やだ!」
「サーシャちゃん、みんな見てるよ? 恥ずかしいよ?」
「く、くふぅぅぅ……」
ミオちゃんにまで諭されて、私はようやく腕を振り回すのをやめる。なんで私が悪いみたいになってるの? 絶対に許せないぞ、くそう。
そのまま、私はジェシカさんにぷらーんと抱きかかえられて、部屋に連れられていったのだった。
***
ジェシカさんの部屋に入って、とりあえず荷物を下ろした私たち三人と一匹。
その直後、厄介なイベントが発生した。ジェシカさんが、まずお風呂に入りたいと言い出したのである。
まあ、今はふわふわは発動してないし、大丈夫かな。というか、オンオフできるようにして欲しいんだけど、このスキル。最初に発動したときから、発動しっぱなしだったんだよね、ふわふわ。
「うわ……お城のお風呂すごい……」
脱衣所に入っただけで、ミオちゃんが感嘆の声をもらした。
確かに広い脱衣所だけど、日本のスーパー銭湯の方が立派じゃないかなぁ、と私は思う。中にある大浴場も、結構立派な石造りなんだけど、私は日本の温泉が好きかなぁ。
でも、ミオちゃんにとっては別世界のようだ。呆気にとられて立ち尽くしている。
「脱いだ服はそこの籠に入れておいてね。あとでメイドが回収に来るから。着替えはここに置いておくね」
棚に私とミオちゃん、そして自分の着替え、それにバスタオルを並べるジェシカさん。私はもぞもぞとワンピースとパンツを脱いで、籠に入れる。
「ミオちゃん、大丈夫?」
「あ、だ、大丈夫」
全然動かないミオちゃんの肩をたたくと、びくっとミオちゃんの体が跳ねる。
すごく緊張してるみたい。物怖じしないイメージがあったから、こういう姿はかなり意外だ。
「あはは、サーシャ、ちょっと機嫌直ってきた?」
「それとこれとは話が別」
ジェシカさんを睨んでやろうと思って振り返る。しかし、私はその体を見て、息を詰まらせてしまった。
マントとレザーメイルで素肌がほとんど隠れていたから気づかなかったけど、ジェシカさんの体は傷だらけだった。
以前、お風呂に入った時はこんなことなかった。傷一つない、絹みたいに綺麗な肌だったのに。
「ん? あぁ、これ? びっくりした?」
束ねた髪を解きながら、ジェシカさんが自分の体に目を向ける。
「ちょっとだけ無茶しちゃったんだよね。でも、もう治ってるから平気だよ」
何でもないことのように言って、ジェシカさんはタオルを手に取り、大浴場へ向けて歩き出す。
その背中にも、鋭いツメでひっかかれたような痛々しい傷跡が残っていた。
あれだけ強くなってたんだから、並の努力じゃないことはわかってた。けど、実際にあんな姿を見せられると、胸がぎゅっとしめつけられるような気持ちになる。
「二人とも、いつまでも裸でいたら風邪引くよ?」
振り返って呆れたように言うジェシカの言葉にハッとして、私はミオちゃんの手を取り、大浴場へと向かう。
ミオちゃんがフリーズしていたので、そうでもしないと動かないと思ったのだ。
ジェシカさんが開け放った扉をくぐると、目の前には黒い大理石で作られた広い浴室が広がっている。
グリフィーネの頭を模した飾りの口からお湯が注がれている他には、あまり飾り気がない。浴槽も広いけど、まあ一般的な銭湯と変わりはない。むしろちょっと狭いくらい。
「あはぁー、きもちいー♪」
ざぱーん、とジェシカさんが勢いよく浴槽に体を沈める。この国には、どうやら先に体を洗ってから入るというマナーがないらしい。いや、ジェシカさんだけがこうなのかもしれないけど。
真偽はわからないが、転生したとはいえ、私の心は日本人である。だから、迷わず洗い場へ向かうことにする。ミオちゃんを連れて。日本のマナーをちょっとずつ、この世界に広めるために。
「ミオちゃん、これが石鹸ね」
「せっけん?」
「あ、そうだった……ジェシカさん、これ名前なんて言うんだっけ?」
「んー? 洗浄石だよー」
ゆったりと浴槽の縁にもたれかかりながら、ジェシカさんが返事をしてくれる。
そうそう、洗浄石。三ヶ月前、ジェシカさんに「石鹸ってこれ?」と質問したときに、似たようなやりとりをした。
メディオクリスにはシャンプーやボディーソープはない。代わりに使っているのが、石鹸、この世界では洗浄石と呼ばれているものだ。
作り方を聞いてみたが、ジェシカさんはよく知らないらしい。けど、使い方は日本の石鹸と同じだ。石鹸に比べるとかなり泡立ちにくいけど。
メディオクリスでは、この洗浄石で髪も洗う。シャンプーに比べて使い心地は酷く悪いけど、この三ヶ月で結構慣れた。
そんな洗浄石を、ミオちゃんは手に取ってじっと見つめている。
「ミオちゃん、どうかした?」
「これ、どうすればいいの?」
「え?」
「あー、ミオちゃん洗浄石見るの初めて? 普通の人使わないもんねー」
私が戸惑っていると、ジェシカさんが浴槽にもたれかかりながら口を挟んできた。
「そうなの、ミオちゃん?」
「う、うん……」
「じゃあ、いつも何で体洗ってるの?」
「普通はお湯に浸かっておしまいだよ、サーシャ。私も旅してる間はそうだったし」
えぇ!? 確かに、賎民街の宿のお風呂には洗浄石なかったけど……てっきり、みんな持ち込むものなんだと思ってた。私も、自分で持って来たの使ったし。
冒険に出る前に、いっぱい持って行かなきゃ。体を洗えないのは精神的に辛いし。野宿したときはお風呂入れなかったけど、あれも辛かった。
でも、つまりミオちゃんは洗浄石使ったことないのか。
「じゃあ、ミオちゃんの体洗ってあげる」
「え? いいの?」
「サーシャ、後であたしも洗ってよー」
私が早速、洗浄石で手を泡立てていると、ジェシカさんが浴槽の中で体を伸ばしながら声をかけてくる。
まあ、今はMP0だし大丈夫だろう。前みたいなことにはならないはず。
「わかったぁ」
そう返しながら、泡立てた掌をミオちゃんの背中に押しつける。
「ひゃっ!」
「ん?」
「あっ、ご、ごめんね。こ、こういうの、されたことないから」
顔を赤くしながら、ミオちゃんが慌てて愛想笑いする。
そういえば、これくらいの歳の子の体を洗ったことはなかったなぁ。仕事で患者さんをお風呂に入れることはあったけど、おばあさんばっかりだったし。介助なんだから当たり前なんだけど。
それを言ったら、ジェシカさんくらいの人だって洗ったことはないんだけどね。あれも初体験だった。悪い意味でね。
でも、こうやって洗ってあげてると、見た目は同い年なんだけど……何だかすごく微笑ましい気持ちになってくる。私も、前世で結婚して子ども産んだりしてたら、こういうことしてたのかな。
全然想像できないけどね……日々の仕事に追われて、恋愛とか考える余裕は一切なかった。
「はーい、万歳してー」
「そ、そんなところまで洗うの!?」
脇の下に手を入れると、ミオちゃんがびくっと震えてこちらを振り返る。そんなところまでって……むしろ汚れがたまりやすいところなんだから、洗わなきゃ。
「そ、そこも洗うの? サーシャちゃん……あっ……そ、そこは……」
なんだろう、ものすごくいかがわしいことをしてしまっているような。
いや、前世でやってた通りに洗ってるだけなんだけど!? っていうかさ、10歳の反応としておかしいと思うんだ! もっとこう、無邪気な反応を予想してたんだけど、私としてはさ!
落ちつけ。自信を持て、私。何もやましいことはない。ただ淡々と、仕事のときと同じように、この作業を遂行するんだ。
「ひぅ……サーシャちゃん、そんなところ、そんなふうに触ったらダメだよ……」
「お、おしり洗ってるだけでしょ!?」
違うからね!? 変な触り方とかしてないからね!? 思わずどもっちゃったけど、ただミオちゃんが年齢に不相応な色気を発揮してるだけだから!
あとジェシカさん! 両手で顔を覆うな! 指の隙間から見るな!
お湯をかけて泡を流し、また手で洗浄石を泡立てて、今度はミオちゃんの髪を洗う。洗浄石で髪を洗うのはなかなか大変だ。石鹸以上に泡立ちにくいから、シャンプーみたいにはいかない。
私がシャカシャカと泡立てた手で髪を洗っている間、ミオちゃんはじっと目を閉じ、両手で胸元と股間を隠していた。
いや、堂々と出しなさいってわけじゃないんだけどさ。やっぱり10歳の子どもが取るポーズではないと思うんだよね。いけないことしてる感じが高まっちゃうんだけど。
「流すよ、ミオちゃん」
ざぱーっとお湯を頭から何度かかけて、しっかり泡を洗い流してから、タオルで顔を拭いてあげる。
「あ、ありがとう……」
ミオちゃんはお礼を言いながらも、うつむいたまま顔を上げない。耳まで顔が真っ赤になっているが、きっとのぼせたんだろう。そういうことにする。
「サーシャ、大胆になったね」
「うるさいよジェシカさん!」
私は自分の体を洗い始めながら、ジェシカさんを怒鳴りつける。
まったく、そういう目で見るからそういうふうに感じるんだよ。
だからさ、ちょっと、ミオちゃんに「サーシャ、すごかったでしょ」とか言うのやめてくれないかな? 聞こえてるんだけど?
ミオちゃんも両手で顔を覆いながら頷くのをやめようか? そんな全力で同意するように頭振らないでくれないかな?
ゴシゴシと手で自分の体と髪を洗い、ざぱーっとお湯をかぶる。汚れと一緒に、この変な気分も一緒に洗い流す気持ちで。
「それじゃあ、サーシャ。お手柔らかにお願いします」
見計らったように、ストン、と私の隣にジェシカさんが腰を下ろす。
「前みたいに、変な声出さないでね」
「だって、あのときはサーシャがすごかったから……ポッ」
口で言うな口で。うんざりしながら、私はまた洗浄石を泡立てる。いい加減に腕が疲れてきたよ。
邪念を振り払い――いや、そんなもの最初からないんだけど、とにかくごく普通に、泡立てた手をジェシカさんの背中に当てる。
そのまま、ゴシゴシ。背中の大きな傷は完全に塞がっているようで、三本の筋がポコッと盛り上がっていた。
そのうちの一本に、私は指を沿わせて撫でてみる。
「ひゃうんっ!」
「ジェシカさん!」
「えぇ!? 今のはサーシャが悪いでしょ!?」
た、確かに。背中をなぞられたらゾクってするよね。でも、今みたいな反応にはならないと思うんだ、普通。
とりあえず、うかつなことはしないように気をつけよう。そう決心しながら、私が二の腕とかを洗っていると。
「その傷、キマイラって魔物に引っかかれてできたんだ」
突然、ジェシカさんが口にした言葉に、私は思わず手を止める。
「こういうこと話すと、サーシャを怖がらせちゃうかと思ったから、さっきは誤魔化しちゃったんだけどね。でも、これからのこと考えたら、やっぱりちゃんと話した方がいいと思って」
少し迷ってから、私はジェシカさんの体をまた洗い始めた。
ジェシカさんはそれを特に気にすることなく、また口を開く。
「メディオクリスに、人間の国はもう二つしか残ってないって話は教えたよね? 一つはここ、ハイルブロント王国。西は聖域の森、北は海、南は山脈に囲まれた、人類にとって一番安全な場所」
ジェシカさんの体を洗いながら、私はスラスラと説明する彼女に感心する。とてもかしこさが68から成長していない人とは思えない。
「今、何か失礼なこと考えなかった?」
「ううん、考えてない」
事実を確認していただけだ。
「そう? まあ、それでもう一つの国が、ハイルブロントの東にある大国、ガルバルディア帝国。魔王の領土と国境が接していて、今も侵略を受けている国。ガルバルディアが魔物の進軍を防いでるから、ハイルブロントは平和なんだよ」
「でも、メフィスが魔物を連れて攻めてきたよ?」
「うん、ガルバルディアの砦がついこの前、一つ落ちたんだよ。そのせいで、進軍できるルートができちゃったんだね。私も危ないかもと思って、急いで帰って来たんだけど……まあ、ギリギリ間に合ってよかったかな」
「じゃあ、またここに魔物が攻めて来るってこと?」
「大丈夫。攻め込んで来た魔物の群れは小規模だったから、今回のは砦が落ちた混乱に乗じた、奇襲作戦だったんじゃないかな。大規模な軍を送れるような兵站は確保できてないと思うし、お父さんもちゃんと兵を動かして対策すると思うから」
この人、本当にジェシカさん……?
「やっぱり失礼なこと考えてない?」
「考えてない」
ただジェシカさんの入れ替わりを疑っただけだ。
「で、何が言いたいかって言うとね。あたし、ガルバルディアに行って修行してたんだよ。あっちの方が魔物も、人も強いから」
「そこで、そのキマイラって魔物と戦ったの?」
「うん。でも最初は、あっちの国で有名な剣士に稽古つけてもらったんだ。お父さんの手紙を渡してお願いしたら、渋々って感じだったけど引き受けてくれたよ。その人と修行したのが、一ヶ月くらいだったかな」
「流星剣っていうのは、その人に習ったの?」
「そうだよ。その人が流星剣士で、色々技習ってる間に、流星剣のスキルを覚えたんだ。まあ、あたしは鑑定のスキルないから、教えてもらってわかったんだけどね。いつの間にか覚えてたって感じ」
ジェシカさんに剣を教えてくれた先生は、きっといい人だったんだろうな。だって、私は三ヶ月ずっとライオネットくんの部屋に通ったけど、魔法系のスキル一つも覚えられてないし。
あんなに毎日魔法を使いまくったのに覚えられないってどういうことなんだろうね、まったく。別にスキルなくても魔法使えるからいいんだけど。
「でも、修行してる間に、これじゃ後二ヶ月であの吸血鬼を追い越すのは無理だと思ってさ。だから、実戦で鍛えようと思って、それからは色んな戦場に行ったよ」
「戦場!?」
「言ったでしょ? ガルバルディアは魔物の侵略を受けてるって。いやー、あっちの魔物ってこっちとは比べ物にならないくらい強くてさぁ。正直に言うと、何回も死にかけたなぁ」
べちん、とジェシカさんの背中を手のひらでたたく。
……手が痛い。ジンジンする。
「ふふん、あたしの防御力はサーシャじゃちょっと貫けないよ?」
「絶対迎えに来るって約束したのに」
「だから、ちゃんと帰ってきたじゃん。死にかけたけど、死に物狂いで生き残ったよ。まあ、こうして怪我はしたけどさ」
ニコニコ笑いながら言うジェシカさんの体に、ざぱーっとお湯をかける。
そんなに危ないことはして欲しくなかったし、しているとは思ってなかった。でも、帰って来たジェシカさんのステータスを見て、凄まじいことをしてきたんだって想像はすぐについた。
今度こそ私を守るっていう約束を守るために。こんな感情、持っちゃいけないと思う。でも、正直な気持ちを言ってしまうと。
嬉しかった。私のために、ジェシカさんがそこまで頑張ってくれたことが、すごく。
「サーシャ。魔王を倒すなら、これからガルバルディアに行くことになる。だけど、あたし、強くなったからさ。メフィスにはやられちゃったけど、これからも強くなるから。だから、安心して。守るから」
私に傷だらけの背中を向けたまま、ジェシカさんは力強くそう言った。
私はなんて返したらいいかわからなくて、黙って、きれいにジェシカさんの体をお湯で洗い流した。
「ところでさ、サーシャ」
「ん……なに?」
「なんで、腕と背中と、髪しか洗ってくれないの?」
髪を手で絞って水気を切りながら、ジェシカさんが不思議そうな顔をして振り返る。
「だって、前は自分で洗えるでしょ、ジェシカさん!」
「えー!? 帰ってきたら、体洗ってくれる約束したじゃん!」
「一緒にお風呂入るとしか言ってない!」
「そんなぁ。楽しみにしてたのになぁ。ミオちゃんは全部洗ってあげてたのになぁ」
「ミオちゃんは、だって、洗浄石の使い方知らなかったし……」
「あたしも、洗浄石なんてずっと使ってなかったから、使い方忘れちゃったぁ」
「そんなわけないでしょー!」
叫ぶ私を、ちょっと拗ねたような顔で見つめるジェシカさん。
「そんなに、あたしの体洗うの嫌?」
「嫌ってわけじゃないけど……」
前のことがあるし……でも……そこまで言われると……。
「へ、変な声とか、出さないでね!」
「はーい」
私が意を決して洗浄石を手に取ると、ジェシカさんは上機嫌で返事をする。
まあ、今はふわふわ発動してないんだから、大丈夫だよね……。
***
「ん、んんっ!」
「ジェシカさん! 変な声出さないで!」
「だ、だって、サーシャの触り方が……ふぁっ」
「普通に洗ってるだけだよ!」
「そ、そこそんなに強く……前より大胆になったね、サーシャ……」
「なってないから! 変なこと言わないで! ……あれ? なんか、お湯が赤い?」
「ん……あれ? ミオ、なんかぐったりしてない?」
「へ? あ、あぁぁぁぁ!? ミオちゃん大丈夫!? わぁー!? 顔真っ赤!? すごい鼻血!?」
「サーシャが大胆にするから……ミオには刺激が強すぎたんだね」
「うるさいよ! 普通にのぼせたんだよ! いいから運ぶの手伝って!!」
私たちが介抱している間、ミオちゃんはうわごとのように「サーシャちゃん……すごい……」と繰り返していた。
だから、私のせいじゃないんだってば!!