ふわふわ12 四天王メフィスとの激戦
「一人で来た振りをして、仲間を伏せていたか。存外悪知恵の働く勇者だ」
メフィスは不愉快そうに、見当外れの予想を口にする。
そして、突き出している方とは逆の腕を、引き絞るように引いて、
「だが、そんな小細工は――」
「ダメ、ジェシカさん逃げて!!」
咄嗟にジェシカさんの前に回り込もうとする私。でも、メフィスの動きの方が、絶望的なくらい速い。
「無駄無駄無駄無駄無駄――っ!?」
キィン! キィン! キィン!
連続して金属音が響く。ジェシカさんは、メフィスのラッシュを剣で軽々とはじき返していた。
「ぐわぁぁぁぁぁ!?」
両腕から鮮血を噴き出し、たたらを踏んで後退するメフィス。
「再会の挨拶は、こいつを倒した後で、ゆっくりしようか」
マントをはためかせて、ジェシカさんが前に踏み出す。両手で握りしめたロングソードがひらめき、瞬く間にメフィスの胸に十字の傷を刻み込む。
慌てて踏ん張り、殴り返してくるメフィスの拳を軽くいなすと、腕の内側に剣を滑らせ、肩口を深く斬りつける。
メフィスは斬られていない方の手を開いて、魔法の構成を放った。
「アビスハンズ!!」
「おっと危ない!」
敏感に魔法の発動を察知したジェシカさんは後方に大きく飛んで、足元から伸びてくる漆黒の腕をかわす。
ライオネットくんが私をくすぐり倒したときに使った魔法によく似ていた。ライオネットくんの魔法よりも腕の本数が少ない代わりに、一本一本が太くて大きい。
しかし、ジェシカさんはもう射程外に逃れている。メフィスは別の魔法で追撃することはせず、肩をかばいながら体勢を整える。
ジェシカさん……すごい。確かに、メフィスは近接戦のステータスなら、あの吸血鬼より低いけど。それでも、元々のジェシカさんに比べれば倍以上強いはずだ。
私は、ジェシカさんに鑑定のスキルを発動させた。
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名前:ジェシカ・ハイルブロント
種族:人間
年齢:18歳
職業:王女/冒険者/流星剣士
Lv:60
HP:2681/2681
MP:0/0
攻撃力:802
防御力:580
素早さ:870
かしこさ:68
【スキル】
流星剣(Lv6)
剣術(Lv9 Max)
打撃術(Lv7)
騎乗(Lv9 Max)
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すごい……ジェシカさん、信じられないくらい強くなってる。三ヶ月で、レベルを36も上げて、ステータスだってあの吸血鬼を圧倒するくらいに。
どれだけの努力をしてきたんだろう。想像すらできないよ。でも、一個だけわかることがある。
どんなに修行しても、あの吸血鬼に負けないくらい強くなるなんて、無理だって……私は前に、確かにそう思った。
でも、ジェシカさんはやり遂げて来たんだ。今度こそ、私を守るって、その約束を守るために。
――かしこさが全く上がってないのは、ツッコんじゃ、ダメだ!!
「ヘル・フレイム!」
メフィスの手から、漆黒の炎が吐き出される。
それに対して、ジェシカさんは天高く飛び上がった。
「流星剣!」
ジェシカさんが、空中を蹴る。魔法も使わず、物理的に決してありえない現象を起こしたジェシカさんは、凄まじい速度で降下。
メフィスとすれ違うと、そのまま着地して、地面を滑るように進む。直後、どす黒い血がメフィスの肩から吹き出して、その右腕が千切れとんだ。
「ぐはぁぁぁぁぁぁっ!!」
「よし、決まった!」
切断面を抑えて苦しむメフィスに、体を起こして剣を構えるジェシカさん。
か、鑑定――っ!
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名前:メフィスト・フェレス
種族:アークデビル
年齢:1021歳
職業:魔王軍四天王
Lv:73
HP:1050/2156
MP:2540/2800
攻撃力:620
防御力:512
素早さ:653
かしこさ:1024
【スキル】
火属性魔法(Lv9 Max)
水属性魔法(Lv9 Max)
風属性魔法(Lv9 Max)
土属性魔法(Lv9 Max)
氷属性魔法(Lv9 Max)
闇属性魔法(Lv9 Max)
詠唱破棄(Lv-)
化身(Lv-)
状態異常無効(Lv9 Max)
______________________
メフィスのHPはもうほとんど残ってない。ジェシカさんの方は?
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名前:ジェシカ・ハイルブロント
種族:人間
年齢:18歳
職業:王女/冒険者/流星剣士
Lv:60
HP:2671/2681
MP:0/0
攻撃力:802
防御力:580
素早さ:870
かしこさ:68
【スキル】
流星剣(Lv6)
剣術(Lv9 Max)
打撃術(Lv7)
騎乗(Lv9 Max)
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ジェシカさんのHPは全然減ってない。そうだよね、攻撃当たってないし。むしろ、どうして減っているのかが不思議なくらい。
圧倒的にジェシカさんが有利だ。でも、メフィスには魔法がある。現に、メフィスは残った手で複雑な魔法の構成を練り始めている。
一方、ジェシカさんは剣を構えたまま動かない。私は開いた魔法大全のページをぎゅっと握りしめた。
なんで動かないの? メフィスの構成が完成する前に速く倒さないと。
私がやきもきしている間、ジェシカさんは動きを見せなかった。ただじっと、メフィスの出方をうかがっている。
メフィスの構成が完成する。
「このメフィスにこれだけの傷をつけたこと、褒めてやる。そして、後悔して死ね。デモンズ・ゲート!」
放たれた構成はいくつにも分かれて、ジェシカさんを囲むように、空中に散っていく。それぞれの構成は魔力を注ぎ込まれると、空間を引き裂き、その裂け目を押し広げ始めた。
宙に浮く、無数の裂け目。その奥から、巨大な腕が現れ、ジェシカさんをとらえようと四方八方から伸びて行く。
逃げ場なんてない。さっきと違って上空も塞がれている。そして、伸びる腕一本一本には、さっきメフィスが出した魔法の腕とはくらべものにならない密度の魔力が感じられた。
そこまで追い詰められて、ジェシカさんはようやく動いた。
「これで決めよっか」
ジェシカさんの体が、ブレる。とんでもない速度で突っ込むジェシカさんの体を、ほとんどの腕がとらえ損ねる。
ただ、ジェシカさんの目の前には大きく掌を広げた一本の腕。自分から突っ込んでいくジェシカさんに、それをかわすスペースなんてない。
ジェシカさんは剣を突き出しながら叫ぶ。
「天体衝突!!」
剣の切っ先が触れた瞬間、漆黒の腕が内包した構成ごと弾けとんだ。
魔法を剣で貫いた。あんな現象、私は知らない。ライオネットくんは、教えてくれなかった。
ジェシカさんの刺突は止まらない。一瞬で、狼狽するメフィスの元へと到達し――
「が――はぁ――っ!!」
その胴体に大穴をあけて貫いた。
マントをはためかせながら、ジェシカさんが地面を滑る。
停止して、立ち上がり、剣を横に払って返り血を飛ばす。
同時に、メフィスの体が崩れ落ちるように倒れた。
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名前:メフィスト・フェレス
種族:アークデビル
年齢:1021歳
職業:魔王軍四天王
Lv:73
HP:0/2156
MP:2540/2800
攻撃力:620
防御力:512
素早さ:653
かしこさ:1024
【スキル】
火属性魔法(Lv9 Max)
水属性魔法(Lv9 Max)
風属性魔法(Lv9 Max)
土属性魔法(Lv9 Max)
氷属性魔法(Lv9 Max)
闇属性魔法(Lv9 Max)
詠唱破棄(Lv-)
化身(Lv-)
状態異常無効(Lv9 Max)
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鑑定で確認する。HPは0だ。
剣を鞘に納めたジェシカさんが、こっちに歩み寄ってくる。
「どう? あたし、結構強くなったでしょ?」
「ジェシカさん……」
「ごめんね。怖かったよね? もっと速く帰ってこれたらよかったんだけど」
「ジェシカさん、違うの……」
「ん? どうしたの、サーシャ?」
「まだ、あいつ死んでない!」
叫ぶように、ジェシカさんへ伝える。
備考がない。本当に死んでるなら、備考に書かれるはずなのに。
私の言葉に応えるように、ドクン、と倒れ伏していたメフィスの体が脈動した。
「あれでまだ生きてるって……しぶといってレベルじゃないでしょ」
ジェシカさんが再び剣を抜いて、メフィスへと向き直る。
メフィスの体は宙に浮かび上がり、大穴の空いた背中をこちらに向けたまま、声を発した。
「よもや人間にこれほどの使い手がいるとは思わなかった。仕方ない、本当に残念だが仕方ない」
ボコボコ、ボコボコ……と、まるでマグマみたいにメフィスの体が沸騰する。
自爆……? でも、これだけ距離があれば、たぶん、ふわふわでジェシカさんも守れる。
しかし、私の予想したような結果にはならなかった。
「見せてやる。我の真の姿」
ヤギの頭が裂けて、ボトリと落ちる。中から、ズルリとスキンヘッドの――人型の頭部が現れる。
でも、その頭には口がなかった。鼻も、耳もなかった。ただ、目が。おぞましいほど無数の目だけが、その頭部を覆いつくしていた。
胴体に空いた穴が肉で埋められていく。全身が隆起して膨れ上がる。弾けるように、その胴体から鋭いツメを持った腕が飛び出す。
完成したのは、無数の目を持つ頭部と、六本の腕、丸太のように太い二本の足、そして巨大なコウモリの翼を持った怪物だ。
即座に、私は鑑定のスキルを発動する。
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名前:メフィスト・フェレス
種族:魔神
年齢:1021歳
職業:魔王軍四天王
Lv:73
HP:2156/2156
MP:2210/2800
攻撃力:1240
防御力:1024
素早さ:1306
かしこさ:1024
【スキル】
打撃術(Lv9 Max)
飛行(LV9 Max)
状態異常無効(Lv9 Max)
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魔法関係のスキルが全部消えてるけど、代わりに攻撃力、防御力、素早さのステータスが二倍になってる。
ジェシカさんのステータスを大幅に上回ってしまった。これは、いくらなんでも……。
「あんな気味の悪いの、サーシャに近づけるわけにはいかないよね!」
私が止めようとする前に、ジェシカさんは走り出してしまう。
が――その直後、その体が大きく左にぶれた。
「けほ――っ」
短く、息を吐き出す音だけを後に残して、ジェシカさんが吹き飛ばされる。
地面をゴロゴロと転がるジェシカさんを、メフィスが空中で静止しながら、無数の目で見降ろしている。
一瞬でジェシカさんの目の前に飛来したメフィスが、ジェシカさんを殴り飛ばしたのだ。
ジェシカさんは脇腹を抑えながら、剣を掴んで、よろよろと立ち上がる。
「ちょ、ちょっとはやるようになったじゃ――っ!?」
メフィスの姿がまた消えた。ジェシカさんの腹に、メフィスの蹴りが突き刺さる。
放物線を描きつつ宙を舞うジェシカさんに翼を使って追いつき、その胸に渾身のエルボーを叩き込む。
急加速をつけられたジェシカさんは地面にたたきつけられる。メフィスは急降下して、その頭をわしづかみにすると。
「はっはぁーっ!!」
力任せに、ジェシカさんを私に向かって放り投げた。
私はその体を受け止める。
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名前:ジェシカ・ハイルブロント
種族:人間
年齢:18歳
職業:王女/冒険者/流星剣士
Lv:60
HP:271/2681
MP:0/0
攻撃力:802
防御力:580
素早さ:870
かしこさ:68
【スキル】
流星剣(Lv6)
剣術(Lv9 Max)
打撃術(Lv7)
騎乗(Lv9 Max)
______________________
瞬きほどの間に、ジェシカさんはボロボロにされてしまった。
体中から血が噴き出していて、呼吸音も明らかに異常。たぶん、骨が折れて肺に刺さってる。
回復魔法で治してあげたいけど、メフィスがゆっくりと翼をはばたかせながら近づいてくる。
すると、ジェシカさんは私の体を押しのけるようにして立ち、剣を握った。
「げほっ……ひゅー……ひゅー……さ……しゃ……」
「ジェシカさん、もう――」
「守って……げる……げほっ……から……」
ぐいぐい、と私の体を後ろ手にジェシカさんが押す。
逃げろ、ってことだよね。ちょっとでも、時間を稼ぐから。
……もう十分。もう、十分だよ。
私の頭上に影がかかる。メフィスが、拳を振り上げてとびかかってきている。
私は――ジェシカさんを引っ張り倒し、メフィスの手を左手で受け止めた。
本来、私を一撃で粉砕するはずの拳は、ふわっとした感触だけを残して終わる。
「無駄だ、勇者。変身前の我になすすべもなかった貴様では、今の我は止められん」
「うるさいな。私みたいな子ども一人倒せないくせに」
「なに……?」
ぎょろり、と無数の目が私に向けられる。どれを睨み返せばいいかわからなかったから、私は適当に近くの目を睨むことにした。
「だったら、望み通り貴様から地獄に送ってやるわ!!」
六本に増えた腕を、メフィスは次々にたたきつけてくる。
その全てがふわっとした感触を私に与える。代わりに、凄まじい勢いでMPが減っていく。
でも私は、じっとメフィスを睨み返すだけだ。だんだん、メフィスの顔に焦りの色が浮かんでくる。
「なんだ!? なぜまだスキルが途切れない!」
「ねぇ、いつまでかかるの?」
「調子に乗るな! 貴様になすすべがないことは変わらない! ただ、こうして攻撃を受け続けることしかできんくせに!」
あぁ、そういうこと言っちゃう?
「私さ、すごく怒ってるんだ。関係ない街の人を巻き込んだこと。ジェシカさんまで、こんな目に遭わせたこと」
「ふははは! それは貴様の無力さを呪うことだな!!」
「……うん、だから、もう十分だよね?」
握りしめていた右手を開く。その中にあるのは、石ころ程度の大きさしかない、小さな構成。
メフィスとの戦いが始まってから、魔法大全を確認しながら詠唱し続け、練り上げた構成。
詠唱が終わった後も、ジェシカさんの戦いを見守りながら、ずっと維持し続けていた構成。
詠唱があまりにも長すぎて実戦的ではないとされ、誰もが知っているのに使わないという究極のロマン魔法。
そして、詠唱が長すぎて超高度に複雑化しているため、魔法大全に載るような魔法にも関わらず、ライオネットくんですら無力化不可能な魔法。
その魔法の名前はメギド。発動に全てのMPを消費する代わりに、消費MPと等しいダメージを、耐性を無視してかしこさに比例した範囲に与える究極の魔法。
「もう、弱い自分にさよならするよ」
「メギドだと!? し、しかし、人間の魔術師が使うメギドでは、一撃で私を倒すことなど不可能!!」
「答えは自分で確かめたらいいよ――メギド」
構成に魔力を注ぎ込む。どこまでも貪欲な構成は、私の全てを吸いつくす。
私の体から、ふわふわの光が消える。
直後、私の目の前で光が爆発した。
***
見通しが甘かった。己の浅はかさを再び呪う。
傷口に、必死に薬草を押し当てる。これが今できる最善なんだから笑ってしまう。前世の知識なんてまるで役に立たない。
「う……サー……シャ?」
「ジェシカさん!」
ぐったりと倒れていたジェシカさんが、やっと目を開けてくれた。
「ごめんね! 回復魔法で治してあげたかったけど、MPがなくて! 私、MPポーション持ってなくて! でね、だから、ジェシカさんが持ってた薬草で――」
「て……きは……?」
私が必死に謝りながらなおも薬草を押し当てていると、ジェシカさんが遮るようにそう尋ねてきた。
敵、そりゃあメフィスのことだろう。うーんと……。
「ジェシカさん、身体、起こせる?」
「ごめん、一人じゃ無理……だけど、手伝ってくれたら」
「じゃあ、起こすよ? よいしょ」
ゆっくりと、ジェシカさんの上半身を支えて起こし、座位を取らせる。こういうところは前世の経験が生きたね。
「あれ」
そして、私は大の字になって倒れているメフィスを指さした。
「……寝てるの? あれ?」
「ううん、死んでるよ」
もう一度鑑定でステータスを確認する。
______________________
名前:メフィスト・フェレス
種族:魔神
年齢:1021歳
職業:魔王軍四天王
Lv:73
HP:0/2156
MP:2210/2800
攻撃力:1240
防御力:1024
素早さ:1306
かしこさ:1024
【スキル】
打撃術(Lv9 Max)
飛行(LV9 Max)
状態異常無効(Lv9 Max)
【備考】
死亡
______________________
うん、やっぱりちゃんと死んでる。
「サーシャが倒したの?」
「うん」
「どうやって?」
「魔法で」
「無傷に見えるんだけど……」
「えっと、そういう魔法なんだ」
ライオネットくんが、この魔法について話すとき、珍しく興奮した様子だった。
メギドはMPに等しいダメージをHPに与える。こんなことができる魔法は他にないらしい。
普通、魔法というのは体に傷をつけて、それによって生命エネルギー、つまりHPを削り取っていく。
しかし、この魔法を考えた人間の発想は天才的で、HPが生命エネルギーであり、MPも魔力というエネルギーなのだから、魔力を生命エネルギーと同質のものにしてぶつければ直接HPにダメージを与えられるのでは? と考えた。
この魔法を考えた人間というのはライオネットくんだ。自分で自分を天才と褒めたたえてた。あの図太さはちょっと尊敬する。
つまり、メギドは体を傷つけずHPに直接ダメージを与えるから、物理的な手段での対抗策が一切ない。その上、構成を複雑にすれば魔術的な対抗手段もなくなるから究極の魔法が完成する。
しかも、範囲内にいる生物全てのHPを奪ってしまうとフレンドリーファイヤが起きるから、敵味方を識別できるように構成を調整した。
とかいうことをしたら、ちょっと呪文が長くなってしまった。羊皮紙裏表10枚分くらいに。しかも射程はかしこさに比例して伸びるとはいえ、普通の魔法使いが使うと半径5mくらい程度らしい。絶対唱え終わるまでにボコられるか、戦いが終わっている。
結果的に使えない魔法みたいな評価を受けているが、これこそが究極の魔法なんだとライオネットくんは憤慨している様子。
その間ずっと正座させられた上に足の裏をつつかれまくっていた私にとっては心の底からどうでもいい話だったが、とにかくメギドはそういう魔法だ。
ただ、私の場合、詠唱時間はふわふわで稼げるのでかなり相性のいい魔法と言える。オリジナルの構成を考える研究とかしなくても、メギドならどんな敵にも通用するらしいし。
でもMPが0になっちゃうのはやっぱり難点だった。回復魔法を使うMPも残ってなかったから、すぐに治療できなかったのだ。ジェシカさんを背負って運ぶ力は私になかったし。
仕方ないから、ジェシカさんの荷物に入ってた薬草で頑張って治療したけど。ジェシカさん、MP0だからMPポーション持ってなかったんだよね……。
「そっか……けど、魔法使えるようになったんだね、サーシャ。あたしも必死に修行したつもりだったんだけど……あたし、負けちゃったかなぁ」
「そんなことないよ! ジェシカさん、本当にすごいよ! 私なんかホント、全然、大したことしてないし!」
「サーシャは優しいね」
「そうじゃないってば! 本当に!」
本当にジェシカさんはすごい。三ヶ月であんなにもレベルあげるなんて、信じられないくらい頑張ったんだと思う。
私は、私はただ……。
ヘルメスくんのファンファーレを聞いてから、しっかりとは確認していなかったステータスを、改めて確認する。
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名前:サーシャ・アルフヘイム
種族:人間
年齢:10歳
職業:勇者/ビーストテイマー
Lv:38
HP:214/214
MP:0/4730
攻撃力:84
防御力:68
素早さ:173
かしこさ:2754
【スキル】
ふわふわ(Lv5)
魔獣使い(Lv4)
鑑定(Lv3)
子猫吸引(Lv-)
【備考】
鑑定スキルLv2以上のため、クリックでスキル詳細表示可能
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そう、私はただちょっと……ココアを吸い過ぎただけなんだ……。