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家族ってね

両親と裏側

作者: 宮原叶映

語られなかった物語です。

 立花夫妻の事故の何年も前の話。まだ、双子も産まれてない時に遡る。

 


 めぐみは、ある人物と電話をしていた。その目線は、時雨があの絵本を子供に読み聞かせをしている。

 

「めぐみちゃん、いつもごめんね」

 

「いいのよ。たかくんと紘季は、とても仲が良いから。紘季も一人っ子だから、楽しく遊んでいるよ。今は、しぐちゃんが、あの絵本を読み聞かせているよ」

 

「あぁ。あの絵本ね。時雨さん、本当にそれ好きよね」

 

「そうだね。まりちゃんは、お仕事大変なんでしょ?今、大丈夫? 」

 


「うん。今、休憩中だよ。本当は、宝といたいんだけどね」

 

 まりちゃんこと、桃瀬まりえ。彼女は、宝の母親だ。めぐみとは、ご近所さんで仲が良かった。

 まりえの仕事は、医者で外科医の名医だ。なかなか休みが取れない。その病院は、西原きょうだいの行きつけでもある。

 

「急患が、入ってね。手術は、成功したから良かったよ。まだ、様子をみないといけないから帰れなくてね。あの人も今海外を飛び回ってるから。宝が寂しい想いにしてるんじゃないか心配なんだよね」

 


 まりえの言うあの人とは、もちろん宝の父親だ。彼は、アーティストで世界中飛び回っている。半分旅人だ。なかなか日本に帰国をしない。

 

「うん。そうだね。あっ、この間ね。ロン君から、いつもお世話になってますってどこかの国のお菓子を贈ってくれたよ」

 

 改めて紹介しよう。ロンこと桃瀬ロンは、たかの父親だ。れっきとした日本人だ。

 彼の姉、つまりたかの伯母が名を付けたのだ。由来は、魔法使いのファンタジー小説の登場人物で好きなキャラクターの名前を付けたいと泣きながら両親に訴えた。

 両親は、名前が全然思い付かなかったので即採用したという。ある意味、かわいそうな由来を持つれっきとした日本人のロン。

 

 

「あの野郎。愛する奥さんに、贈らんとはいい加減さしろよ……」

 

「まりちゃん、落ち着いて。素が出てるよ。まりちゃんのところに届くようにしてるから。ちゃんとまりちゃんたちのもあるから安心して」

 

「めぐみちゃん。本当にありがとう。いつもお世話になってて、迷惑じゃない? 」

 

「何言ってるの?私としぐちゃんは、子供好きだよ。自分の子供が増えたみたいで楽しいよ」

 

「そう言ってくれるなら、嬉しいな。あっ、ごめん。そろそろ行かないといけなくて」

 

「うん。大丈夫だよ。ちょっと、待って」

 

 めぐみは、いつの間にか隣でいるたかに変わる。

 

「おかあさん、おしごとがんばってね!おれ、おりこうにしてるからね! 」

 

「うん!宝、ありがとう!おかあさん、お仕事頑張るね! 」

 

 めぐみも少し話して通話を終える。


 

 まりえの休みが取れたら、みんなで遊びや食事に行くということをしていた。ロンにいたっては、帰国するのが突然ということもある。そのため、まりえと休みが合わない。すれ違い夫婦だ。

 

 

ピンポーン ピンポーンピポンピポン

 

 

「この鳴らし方は……」

 

「おとうさんだ!! 」

 


バタバタバタバタ

 


「コラ!!走んなよ!危ねぇーから」

 

 時雨の口の悪さも光っていた。時雨は、玄関の鍵をあける。

 


ガチャ 

 

バタン!

 


 ロンは、勢いよくドアをあげる。

 

「みんな、ただいま! 」

 

「おかえり!おとうさん!! 」

 

「たか!元気にしとったか? 」

 

 ロンは、たかを抱き上げる。

 

「うん!げんきだったよ! 」

 

「そうか! 」

 

「ロンくん!! 」

 

「おう!絋も元気やったか? 」

 

「うん! 」

 

 ロンは、しゃがんで紘季の頭をよしよしする。


「ロン」


「時雨、なんや?元気って聞かれんかったんが嫌やったんか? 」


 時雨は、玄関のドアのほうを指を指す。



「ここは、お前の家じゃあねぇ。自分の家に帰れ! 」


 これは、いつものことだ。子供たちは、すっかり慣れているので何も言わない。


「時雨。相変わらず、口が悪いな。子供たちに、うつるからやめろっていうたやろ? 」

 

 それに関しては、スルーをする。


「何でお前、いつもいつも突然こっちに帰ってくるだ? 」

 

 時雨の本音は、帰ってきて嬉しいと想っている。



「ひどいわ。俺の愛する息子がいるだからな」

 

「まぁ、いい。玄関じゃあなんだし、上がれ」

 

「ありがとう! 」

 

 ロンは、玄関を上がる。四人は、廊下を歩く。


「ロン、うるさい。お前に、音量ボタン取り付けたいわ」

 

 時雨は、嫌そう中をする。


「ごめんって。これは、生まれつきやからな」

 

「なんだよ。それ? 」

 

「お土産ようけ買ってきたらな」

 

 ロンは海外だけじゃなく、日本中も旅をしているため、いろいろな方言が入っている。例えば、ようけ買ってきたらなは、たくさん買ってきたらなとなる。

 

「スルーかよ」

 

 ガチャとロンが、リビングのドアを開ける。


 

「めぐみちゃん!ただいま! 」

 

「ロンくん、おかえりなさい! 」

 

「めぐみちゃんは、優しいな! 」

 

「えっ? 」

 

「時雨なんて、おかえりって言ってくれんのや。帰れって言ってくるんや」

 

「ごめんね。しぐちゃんのも、生まれつきだからね。許してあげてね」

 

「めぐみちゃんに、言われてたら許さないかんな」

 

 時雨は、手をあげる。別に挙手制ではない。


「ちょっと待って。めぐみ、俺の何が生まれつき? 」

 

「そういうところよ」

 

 めぐみは、そこまで言うと子供たちとロンのほうを向く。

 

「ねえー! 」

 

「「「ねぇー! 」」」

 

 時雨以外が、めぐみのマネをする。時雨は、何かブツブツと言う。

 


 数分後。



「これな、お土産な」

 

 ロンはスーツケースとカバンから、順番にお土産を渡す。

 

「次は、誰かな」


 ロンは、もったいつけるようにしてから渡すのが毎回の恒例だ。


「ロンくん」

 

 ロンはお土産を出す手を止めて、めぐみの方に振り返る。


「どうした?めぐみちゃん? 」

 

「さっき、まりちゃんと電話で話していたの」

 

「えっ?ホンマ? 」

 

 ロンの表情は、まりの名を聞いただけで嬉しそうだ。


「ホンマよ。まりちゃんに、ちゃんと会話をしなよ」

 

 めぐみは、ロンの言葉が少しうったようだ。


「分かってるわ。なんか照れるんや」

 


「お前、本当にまりちゃんと結婚してんのか? 」

 

 時雨は、マジかコイツという顔をする。


「しとるわ! 」

 

「ロンんは、まりちゃんに惚れてるから恥ずかしくてたまらないのよ」

 

「なるほどな。男の癖にな」

 

「二人ともうるさいわ! 」

 

 ロンは、顔を真っ赤にして耳を塞ぐ。彼の服をツンツンとたかがする。ロンは、耳を塞ぐ手を下ろした。


「たか、どうしたんや? 」


「おとうさん、おかお、あかいね。だいじょうぶ? 」

 

「たか、大丈夫やで」

 

「ホンマ? 」

 

「ホンマやで」

 

 その後は、ロンが旅の話を面白おかしくみんなに聞かせた。全員が大笑いをする。

 

「そろそろ、帰るわ」

 

「今回は、どれぐらいいるつもりなんだ? 」

 

 時雨が聞く。

 

「そうやな。まりも忙しいみたいやし、たかとおりたいからな。今回は、長くおるわ。」

 

「たかくん、良かったね」

 

「うん!! 」

 

 たかは、とても嬉しそうだ。



 さらに数分後。



「じゃあ、帰ろうか? 」

 

「うん!! 」

 

 こうして、ロンとたかは家に帰った。

 

 そんな感じのことを何年も繰り返していた。当たり前の日常だった。

 二人が、亡くなるまで、よく家をあけるたかの両親の代わりに面倒をみていたのだ。

 


 

 

 

 時を二人の事故に戻す。

 


 まりえは、時雨が運ばれた病院に勤務していた。

 時雨が搬送された時も執刀をした。とても、難しい状態だった。私情を挟まないように、なんとか少しでも長く生きてほしいと想って取り組んだ。 


 彼女のおかげで、時雨は最後に家族と最期の別れをすることができた。

 でも、まりえは辛かった。良かったと思うのにもっと時雨が長く生きれるように出来ないなかったか。めぐみは即死だった。

 医者だから、命のやり取りを何度も経験している。

 しかし何年も仲良くしてもらい、子供の面倒を見てくれた友人二人も亡くした。 

 

 

 まりえは、休憩室で泣いていた。そして、ある人物に電話をかけた。

 

 

プルプルプルプル

 

 呼び出し音がなる。

 

「もしもし、まり?どうしたんや? 」

 


「……」

 

「まり?大丈夫か? 」

 

「……ロン。あのね……」

 

 まりは、泣きながら二人のことを話す。

 

「分かった。まりは、よう頑張ったな。時雨が、最期の別れをすることが出来たんや。自分を責めたらいかんで。するとせんでは、時雨の想いも違うと想うで」

 

「ホンマに? 」

 

「ホンマや!まりは、すごい頑張ったな。ええことしたんや」

 

「うん。ありがとう」

 

「ええんやで! 」

 

 ロンは、日本の桃瀬家にいた。彼は、いつもと同じ明るく話す。でも、表情は今にも泣き出しそうだった。

 

「今日、もうあがりか? 」

 

「うん」

 

「じゃあ、迎えに行くから。それまで、ようないとき泣いときな」

 

「うん」

 

 通話を終え、まりえはデスクに戻る。

 

 本来ならこの時間にはら仕事が終わり家に帰っていた。

 しかし、時雨が搬送された。すぐに、執刀できるのはタイミング的に彼女だった。いや、彼女がやると言ったのだ。

 言い方は悪いが、それさえ終われば帰れるはずだった。彼女は事務処理や引き継ぎなどを済ませて、更衣室で着替える。

 

ヴーヴーヴー

 

 まりのスマホに着信が入った。画面に表示された名前は、西原京介だ。

 

「もしもし?まりえです」

 

「京介です。まりさんが、執刀されたと聞いたから」

 

「はい。この度は……」

 

「ありがとう」

 

「えっ? 」

 

「まりさんのおかげで、時雨は子供たちに別れを言えたんだ」

 


「でも……私が……」

 

「まりさんは、悪くない。あの事故は、何かきっとあるんだ」

 

 京介は、力強く言う。


「何か? 」


 まりは、当然不思議そういうに言う。


「それは、まだ言えない。証拠がないからな。俺は、それを突き止めようと思う」

 

 京介は、警察官の声で言う。


「うん」


 と、まりえが言う。


「紘季たちは、俺が引き取ろうと思う。時雨に頼まれたからな」

 

 京介は、また力強く言う。


「そうなの。分かった」

 

「それに、紘季は時雨の手術をしてくれたのがまりさんだって知っても責めないと想う。むしろ、感謝をすると想うんだ。今は、精神的に不安的だけどな」

 

「うん。何かあったら言ってね。これでも、医者だからね」

 

「あぁ!そのときは、頼むな。俺からかけといてだけど。そろそろ行かないといけないから切るな? 」

 

「うん。分かった」

 

 通話を終える。更衣室を出てゆっくりと病院の出口へと向かう。

 


 まりえは、京介が旦那と同じことを言っているなと思いながらでも、少し心がスッーしたのを感じた。


 病院を出るとロンがいた。彼らは、黙って抱きしめあったのだった。

 

 彼女の言葉通り、京介を助けることはまた別のお話だったりする。

読んでいただき、ありがとうございます。

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