6 =ブロンドの鷹= 《過去編4》
初めて理沙と出会ったのは入学後間も無くトレーニングで訪れた森の先にある開けた草原だった。
背を向けて草原に佇み静かに瞑想している姿が印象的だった。黒髪を軽く縛り、刀の柄を握っている。
脇に控える青白い狼が彼女を守るようにこちらを見ていた。
声を掛けるべきか迷っていたら肩の鷹が小さく鳴いた。
彼女がこちらを振り返る。
「あ、ごめんなさい。お邪魔してしまったかしら?」
「いや来たのは解っていたから大丈夫」
「この子はヒヨウ、貴女の子はなんと仰るのかしら?」
「ミソだよ」
くぅん…と呼ばれたミソは目を瞑りながら甘えた仕草をみせる。
「え、可愛い…」
「はは、ありがとう」
「僕はミソの気を整えるのに来たんだけどキミは何しにここへ?」
「ヒヨウに導かれたんですの。そこにあなたがいらっしゃったと…どういう事なのかしらと思ったのですけれど」
「ミソが歓迎して喜んでいるよ。仲良くなりたかったのかな?」
「それなら嬉しいですわ」
それからふたりで他愛の無い会話をしながら穏やかな時間を過ごした。
話してみるととても気が合い、これを切欠に何度か街で会う約束をして
あちこちを一緒に歩くような親友とも呼べる関係になっていた。
お互いが、美しい相手の姿を見ていて飽きないと感じていて、似合いのふたりと学内では有名になっていた。
約一名、理沙に似合うのは自分と豪語する柑橘系女子が、ちょろちょろしていて気になるけども。
(みかん…)
じっと見てしまうと視線に気づかれた。
さっと視線を逸らす。
「何か、とても失礼な視線を感じました」
「そ、そんな事ないわ↑」
「声が上擦ってますが?」
コホン、
「そんな事ありません、柚子さんの明るい雰囲気がわたしは大好きよ」
「きっちり誤魔化しに来てますよね?お姉さまどう思われますか」
「柚子が場を明るくしてくれるのは事実だし、なんだか可愛らしくて見てたって事なんじゃないの」
「お、お姉さままで庇って誤魔化そうとしてませんか?」
嬉しさを隠し切れずに、口の端がぴくぴくしながら笑顔で崩れないように耐えている柚子。
それを見て穏やかに微笑みを向ける理沙だったが、柚子にはその微笑に耐えられる程の精神防壁出力は無いのだ。
すっと目を逸らしてグフグフと不気味に笑っている。
「嬉しいなら素直に喜びなさいよ、もう気持ち悪いなぁ」
「あ、お姉さまひどい」
「変な喜び方をするからだよ」
つんと柚子のほっぺたを突っついて遊ぶ理沙。
「ほにぇ〜しゃみゃやめてくりゃしゃい」
うりうりと楽しそうに遊んでいる。
このふたりを見ているのがとても好きな自分が居る。
理沙への想いで、この姉妹の関係を壊したくないと感じるレイだった。
自分自身の理沙への想いに説明が付かずに、はっきりさせるのを拒否して逃げているだけかも知れないと客観的に分析してしまう自分が嫌だった。
理沙はどう思ってくれているのだろう。
事あるごとに「奇麗な瞳だね」とか「髪が柔らかくてとても好き」等と言いながら至近距離で触れてくるので口説かれている気分になってくる。
理沙のスキンシップは結構直球なので心臓に良くない。
誤魔化しきれずに抱きしめてしまった事もあった。
ぎゅっと放さずに温もりを感じていると、穏やかな声で「大丈夫だよ」と言いながら抱きしめ返してくれた。
悲しきかな彼女との剣の実力差は明白だ。
このままでは卒業と同時に離れ離れになってしまう。
それだけは嫌と修練を重ね、いつか隣に並び立つ実力を手に入れたいと考え過ごす日々。
「わたしは望むものを手に入れられるのだろうか…」
誰に聞かすでもなく、木漏れ日の差す木を見上げながら、剣の柄を撫でつつ想いに耽るレイだった。
現在、22話まで執筆が進んでいますがパソコン回線のトラブルでスマホ投稿になっているので細かい修正に苦戦しております。