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〜まことに華麗な百合の花〜  作者: 閃軌
第一章
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4 =ワンワン物語= 《過去編3》

  ミソは朝の散歩の時間にいつも目覚める。

 早速、ご主人を呼ぼうと大きな声で吠えてみた。


「ワン、ワン!!」


 ご主人、時間だよ!行こうよ!!


 精一杯呼ぶが、中々出て来てくれない。つないでいるひもわずらわしくなって何度も引っ張ってみる。


 ガン、ガン、ガン!!


 激しく首を振るが取れる訳も無かった。

 少し悩んだミソは引っ張る角度を変えてみた。

 するとゆるみの起きていたフックが外れる。


 取れた事が嬉しくなって庭を走り回る。


 すると玄関の開く気配がしたので、一目散に自分の小屋の前に行ってお座りしてご主人を待った。


 ぱたぱたと尻尾を振りながら待ち構えているとご主人が顔を出した。

 とてもよい香りのするご主人はすぐに判る。


「ミソおはよう!」

「ワン!!」


 すぐにご主人に駆け寄る。

 驚いたご主人が撫でてくれた。

 この時、ご主人はひもが外れている事を不思議がっていたが外した事等とっくに忘れているミソは気にしなかった。


 いつもの河原に来るとひもを外して自由にしてくれる。

 嬉しくてご主人と一緒に走った。


 河原で蝶が舞っている。全力で駆け抜けると、自分にも羽が生えたような気になって楽しかった。


 しばらく自由に過ごしていると自分を呼ぶ声がする。

「帰るよミソ!」

「ワン!」


 うん帰ろう!


 駆け足でご主人のもとに戻る。

 邸宅に着いて、いつも通りにつながれると、ご主人は汗をかいたのが気になるのかシャワーを浴びている様だった。



 夕方、ご主人が出掛ける音が聞こえた。

 何所に行くのだろう。

 気になって追いかけてみようと思った。


 朝外したコツを思い出して紐を外してみる。


 ガン、ガン、ガン!


 引っ張るとひものほうが切れてしまった。

 小首をかしげひもを見る。まあいいか、そんな事よりご主人を追いかけなきゃ。

 早速、ご主人の匂いを辿たどって街中へ走って行った。


 街に出ると、思っていたより色々な匂いが混じりご主人を見失ってしまった。

 馬車で移動していた為に匂いが流れてしまったのだ。


 そんな事など解るはずも無く、ご主人を探しながら街を散策さんさくする。


 普段、見慣れない世界はやはり楽しかった。


 一通り遊んで回ると疲れてしまい帰る事にした。

 帰り際、ふとご主人の匂いを見つける。

 あの馬車からだ!


「ワン!!」

 (ご主人!!)


 呼んでみるが速度が落ちない。

 それならと正面に回りこんで呼び止めようとした。ミソは馬車が急に止まれないとは知らなかったのだ。

 驚いた御者は咄嗟とっさに向きを変えるが、間に合わずかれてしまった。


「ぎゃん…!」


 痛い…!

(ご主人どこ……?)

 強く頭を打ったミソにはもう何も解らなかった。

 薄っすらと目を開けると夜空が輝いて見えた。あぁ、ご主人の瞳のようにきれいな輝きだ。

 ミソはそのまま息を引き取る。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△



 魂となって漂っていると自分の動かなくなった身体が見える。


 いてしまった御者ぎょしゃは理沙の家の犬だと気がついた様子だった。

 奥様に知らせようと馬車に乗せてあった白い布でミソを包み家まで運ぶ。


 ミソの身体を託された奥様は娘にどう伝えれば良いのかと泣いてらした。


(ここに居るのに…)


 伝える事は出来ない。


 朝、ぼくの身体を見たご主人が泣いているのが見えた。

(ごめんなさい…)

 ご主人の泣き顔がとてもつらかった。


 暫く庭の近くを漂っていると、ご主人が何か必死の覚悟を決めた様子で出掛けていくのが解った。


 以前のように、走って追いかける事が出来ずにゆらゆらと漂いながらついて行く。

 だんだん自分の意識が崩れていくような気がしていた。


「必ず連れ帰るよ」


 ご主人の強い意識を感じた。

(ここにいるよ、ご主人…)



「はい、つい先日亡くなりました」

 ご主人のつらそうな意識が届く。

 消えそうな意識の中、何かが始まる気配だけが伝わってきた。


「まだ繋がりが切れておらぬゆえ急いだ方が良さそうだ」

「お願いします」



 何かに呼ばれている。

 それは解るが、自分の魂がご先祖の強い野生と結びついて変化を繰り返していた。


 強く引っ張られ野生だけが目覚める。

 新たな生を与えられあふれる精気に翻弄ほんろうされた。


 大好きな匂いを感じる。

「ミソなの?ミソなら止めて!!」


 だが野生が邪魔をして食い殺せと叫ぶ。


 違う、これは大事な何かだ。

 自分の中でせめぎ合う何かと闘う。


「帰るよミソおいで」


 噛み付くと血の味が口に広がるのが解った。

「ミソなんでしょう?帰ろう…また川原で一緒に走ろうよ・・」

 これは大切なもの、壊したらダメだ。


「ほら僕だって解るでしょ?」

 あぁ、ご主人だ。大好きなご主人が呼んでいる。

 守ってあげなきゃ。

 その意識が魂の根源に触れるとヒーリングを発動した。


「ミソ!帰れるって良かった」


 少しずつ意識が繋がる。


 自分の身体が泉に沈められるのが見えた。

 自分の魂と繋がりが切れて新たな命の糧となる準備が整ったようだ。


 ご主人に抱きしめられながら家に戻るとご主人がお風呂で洗ってくれた。

 ふとご主人が気になってじっと見つめる。


 自分には相手の状態が細かく解る様だ。

 ご主人の状態は精神疲労大、でも健康、嬉しくなった。


 ワン!


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