3 =召喚の儀= 《過去編2》
服装を整え一階に降りるとお母様から一振りの太刀を渡された。
「これは召喚の儀式であなたを守るかも知れないから持って行きなさい」
鞘から抜くと刃の部分が青白く輝いていた。
「これ、本物の守護刀だけど僕はまだ皆伝に達してないよ?」
「召喚獣を得れば自然とその域に達するとお父様が仰っていたわ」
「…お父様が?」
父はとても厳しい人だ。皇国の軍人であり刀術の達人でもある。
僕は刀術を幼い頃から鍛錬しているが父に認められた事はない。
「お父様に早馬でお知らせしたら、召喚の儀式は万が一の事もあるから持たせろと仰ってね」
「わかりました」
氷を敷き詰めた棺に、布でくるんだミソを慎重に収めて精霊殿に出発する。
緊張するが、もう一度ミソと走りたいという想いで覚悟は決まった。
迎えの馬車に揺られながらすっかり暗くなった夜空を見上げる。
「必ず連れ帰るよ」
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これが精霊殿…遠くから見た事はあるが、中に入ったことは勿論近くまで来た事もない。
皇国でも数少ない重要な召喚施設だ。
今回、召喚の儀式を受けられる事になったのは学園の入学が決まっていたのも大きい。
卒業生が皇都の要職に就く事が多いため、有望な人材として儀式権を与えられたのだ。
司祭様がこちらに来られ声を掛けて下さった。
「既に連絡は受けて準備は整って居る、転生の御霊はこの子か」
棺を見て仰った。
「はい、つい先日亡くなりました」
「まだ繋がりが切れておらぬ故急いだ方が良さそうだ」
「お願いします」
「儀式の間に入るが良い」
太刀を握り締め前に進み出る。
静かな精霊殿に詠唱の声が響き始め空気が変化したのが解った。
だんだんプレッシャーが強くなる。
思わず呼吸が苦しくなるが歯を食いしばり我慢する。
ミソを包む布から蒼い粒子が舞い上がり始めた。
詠唱の声が高くなる。
司祭様が印を結ぶと仰った。
「応えた、これは強い手ごたえを感じるぞ」
実体化が始まる…蒼く輝く狼の様だ。
「司祭様、ミソは狼じゃない犬です!」
「おそらく先祖がえりしたのじゃろう強烈な野生の気配がしておる」
(うちのミソ犬だし…)
実体化した狼がこちらを見て唸っている。
(これまずいんじゃ…)
すごく狙われてる気がする。
突然、凄い速度で飛び掛ってきた。やば…!!
思わず太刀を鞘ごと前に構えて噛み付いてきた口に噛ます。
凄い力で振り回してくるが必死で太刀を支えながら耐える。
「ちょ、どうすれば!?」
「呼びかけるのじゃ!」
「えぇ!?漠然としすぎ!!」
「ミソなの?ミソなら止めて!!」
振り回されて壁に叩き付けられた。
「痛っ、すっごい力なんだけどって速い!!!」
吹き飛ばした余力でもう飛び掛ってきた。
「失敗じゃ!切りなさい」
司祭様が叫ぶ
「嫌っ!!」
爪で肩を抉られ出血する
「食い殺されてしまうぞ、絶縁の槍を持て!」
司祭様が控えていた祭事官へ指示を出す。
「黙ってみてて下さい!!!」
息を切らせながら立ち上がる。
「帰るよミソおいで」
震えながら呼びかけると狼が再び襲い掛かってきた。
今度は鞘ごと腕に食いつかれた。
「ぐっ…」
腕から血が滲んで涙が出てきた。
「ミソなんでしょう?帰ろう…また川原で一緒に走ろうよ」
静かに囁きかけると狼の動きが止まった。
遠巻きに槍を構えた司祭様が見えたのでこちらに来るなと目で牽制する。
そして狼をじっと見つめる。
「ほら僕だって解るでしょ?」
噛む力がだんだん弱くなっていく。
気配が静まり狼が大人しくなると傷を確かめながら何か力のようなものを発動した。
「傷が痛くない…」
司祭様が構えていた槍を降ろす
「主を守る召喚獣のヒーリングじゃ。どうやら縁に目覚め繋がりが戻ったようだ。」
「じゃあ、この子は家に帰れるの?」
「召喚獣となったから常に側におるよ」
「ミソ!帰れるって良かった」
狼を抱きしめ喜びを爆発させる。
ふと室内を見るとまだ布に包まれたままの死骸がそこにあった。
「なぜ転生したのに死骸が残るんですか?」
「肉体が蘇る訳ではないからの、その子は確かに死んだのだ」
「じゃあ、やっぱり埋めてあげなきゃ…」
「弔うなら精霊殿の外にある泉に沈めてあげなさい」
「解りました」
布を抱えて泉に向かう。
すぐ側を寄り添うように付き従う青白く輝く狼。
泉に着くと、すぐ近くに橋のようなものがあり中央が円になっていて、死骸を沈めやすいように作られているのが解った。
「転生したこの子らの肉体は、ここで新たな生き物の糧となり召喚獣としての魂の定着に繋がるのだ」
「そなたの召喚獣、かなりの力を感じる故きっと良き助けになるであろう」
「ありがとうございました」
ちょっとボロボロの酷い姿になっちゃったけど、意気揚々《いきようよう》と帰路に着いた。
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邸宅に入るとお母様が真っ青な顔で出迎えた。
すぐに着替えとお風呂の用意をしてくれたので、ミソと一緒にお風呂に入った。
この子ちょっと大きくなった気がする。
ミソがじっとこちらを見つめていると目の前に何かステータスのようなものが表示された。
(これ僕の状態を表示してるのかな?)
現在の健康状態とかは良いとしてキミは体重とかスリーサイズまで正確に読めるの!?サイアク…
嬉しそうに尻尾を振るミソであった。