第4話-2「何か知らんが助かったぎょ。そして、チャンスぎょ」
「ミスティル、かわせ!」
俺はかわせとミスティルに命じる。
しかし、かわせと言って、かわせたら、苦労はしない。
「ツッ!」
リザードマンに懐を取られ、短剣による鋭い突きが繰り出される。
ミスティルは何もすることができずに、短剣が胸に突き立てられる。
「ミスティル!!」
俺は叫ぶ。
死んだと思った。なんて呆気ない終わり方だろうかと思った。
茫然とする俺だったが、
「ぎょぎょぎょ!?剣が通らない。魔法障壁ぎょか」
リザードマンが驚きの声を上げたので、ミスティルの胸を見ると、傷一つない。
どうやら、無事のようだ。
リザードマンはバックステップし、一旦、距離を取る。
魔法障壁とリザードマンは言っていたが、
「ミスティル、魔法なんて使えたのか」
と、聞く俺に対し、ミスティルは、
「わっ、わたし、魔法なんて使えません」
ミスティル自身、驚いたように言う。
ならば、これは聖剣の力か、もしくは聖剣を手に取ったことで、ミスティルの力が覚醒したか、どちらかだろうと、今は適当に片づける。
「とりあえず、あいつの攻撃は効かないようだし、攻めるぞ」
「はっ、はい」
ミスティルは返事をすると、一気にリザードマンとの距離を詰める。
そのスピードはリザードマンが飛び掛かってきたときより、ずっと速い。
走る姿や、木を登ったときの姿を見て、見た目よりは運動神経があるなと思っていたが、ここまで凄いとは想定していなかった。
そして、そのまま、ミスティルはリザードマンに体当たりをぶちかました。
「ぎょぎょぎょ!?」
思いっきり、ぶち当てられたリザードマンもぶっ飛ぶが、ミスティルも激突した衝撃で、その場に倒れる。
見た目に反して、かなりワイルドな戦い方だ。
だが、もしかすると、
「ミスティル、どうした。もしかして、俺を使うのがまだ怖いか」
今のチャンスに俺を使わなかった理由が、殺める恐怖にあるのではないかと問う。
しかし、ミスティルは体を起こしつつ、
「いえ、今まで出したことのない、スピードでしたので、距離感が掴めなくて」
否定する。
身体能力の向上といったところか。これも聖剣の力なのだろう。
「ミスティル、追撃するぞ」
「はい」
未だぶっ飛ばされた衝撃で立つことができていない、リザードマンとの距離を詰める。
今度はリザードマンの前で、ミスティルはピタリと止まり、リザードマンを見下ろす格好になる。
そして、ミスティルは俺を振り上げる。
「まっ、待つぎょ。やめるぎょ」
命乞いするリザードマンにミスティルは顔を歪め、一瞬躊躇するが、
「ごめんなさい」
謝罪の声と共に、俺をリザードマンへと振り下ろす。
俺はその瞬間が見えないように目を瞑る。
遂に殺ってしまった、と俺は思った。
ミスティルはどういう顔をしているのだろう。この後、どう俺は接したらいいのだろうとぼんやりと思う。
しかし、そんな考えは杞憂なことでしかなかった。
「えっ?」
「ぎょぎょぎょ?」
ミスティルとリザードマンから発せられる、驚きの声。
その声に何があったのかと、目を開けてみると、何と俺の刀身はリザードマンを切り裂くことなく、リザードマンの頭の上で止まっていた。
ミスティルも困惑しているので、おそらく、当たる直前で止めたわけではなく、当たったが、切れなかったのだろう。
「ぎょぎょぎょ、何か知らんが助かったぎょ。そして、チャンスぎょ」
リザードマンは口を開けると、何か飛ばして来た。
「きゃっ」
ミスティルが悲鳴を上げる。
飛ばして来たものが長い舌であることに、気づいた時にはミスティルは片足首を舌で縛られ、逆さで宙づりにされていた。
何とかミスティルは俺を手放していないものの、これだと、力を入れて俺を振るうことはできないだろう。
「ぎょぎょぎょ、剣は効かなかったぎょが、俺の水弾は遠くからでも、鉄の鎧をも折り曲げる威力ぎょ。命中率は悪いぎょが、威力は抜群ぎょ。これを至近距離からくらわせたら、魔法障壁と言えど、貫通するはずぎょ」
そう言って、リザードマンはうがいをする様に、口からガラガラと音を鳴らし始める。
ミスティルは足を必死にばたつかせ、もがくが戒めを解くことはできそうにない。
リザードマンはミスティルの頭を自分の口の前に持ってくる。
ガラガラという音が止まり、今まさに発射されようとする。
俺はミスティルの頭が、吹き飛ぶ姿を想像して、目を閉じる。
そんな姿、俺は見たくなかった。
長かったので、分割して投稿。
明日も投稿予定。
あと、サブタイトルが話数だけだと、寂しかったので、少し趣向を凝らしました。
それと、次話投稿時、タイトル変更したいと思います。
・・・この話、書いているときに、気になってしょうがなかったんですが、宙づりにされたとき、下の方は恥ずかしいことになっているんだろうなと思った(ゲス顔)。