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第2話「俺は世界最強の剣らしい。意外と戦えるかもしれない」

 とりあえず、ここにいても仕方がないと、ミスティルと俺はミスティルの村に向かっていた。ミスティルは俺を両手で掬い上げるようにして、丁重に運んでくれている。


 先ほどの出来事のせいか、道中、ミスティルはずっと心ここにあらず、と言った感じでフラフラと歩いている。

 そんな状態の彼女に俺も話かけられず、無言で運ばれる。

 村の門らしきものが見えたところで、


「おーい、ミスティル」


 そう呼び声を上げて、黒い髭を生やした男が走って近寄ってきた。


「あっ、クシャさん」


 クシャと呼ばれた男はミスティルの肩に手を置くと、


「おまえ、聖剣様に選ばれたんだってな。やったなぁ。おい」


 嬉しそうな声で祝福を述べる。

 俺たちだけでなく、他の人たちもあの光景を目にしていたらしい。


「あっ、ありがとうございます」


 ミスティルは感謝の言葉を述べるも、俯きがちでどこか無理をしている。


「みんな、おまえの帰りを待ってんだ。今日は宴だ。さあ、帰ろう」


 そんなミスティルの心情を知ってか知らずかはわからないが、クシャは陽気に接する。

 ミスティルはクシャに手を引かれ、引きずられるように村へと入っていた。

 その際、俺はミスティルの脇に挟んで運ばれたため、女の子ってやわらかいな、なんて、邪な考えが過ったのは男だから仕方なかろう。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 村で一番大きな屋敷の中で宴は行われていた。


 宴といっても、木の実とかリンゴやらが山盛りに盛られた皿がドンッ、串刺しで焼かれた魚が皿にボンッ、そして、湯がいた立派なイモが大量に皿にドカッ、と中央の敷物の上にそれぞれ置かれただけで、何というかものすごく雑だ。


 もっとも、突然の出来事だったろうから、即席だとこんなものしか用意できなかったのかもしれない。

 屋敷内には二、三十人ほどおり、これで村人総出なら、かなり小さくて貧しい村なのだと思う。

 イモはかなり立派だが……。


「いやー、まさか、ミスティルが選ばれるなんてなぁ、思いもしなかったわ」

「だよなぁ。だって、一番争い事から遠い娘だもんな」


 和気藹々と歓談する村人をしり目にミスティルはじっと、長々として大きい立派なイモを見つめて離さない。

 当然、イモが気になるわけではなく、考え事をしているのだろう。


 時折、村人がミスティルにやったなとか、すごいなとか、称賛の声をかけてくるが、ミスティルはクシャのときと同様、感謝は述べるがその表情は硬い。

 こんな状態のミスティルから、いろいろと話を聞けそうにないので、村人の話を盗み聞きしていたのが、有益な情報を頭の中でかみ砕いてまとめる。


 俺はレーヴァと呼ばれる神により作られた聖剣で、村の近くの岩に突き立てられており、その聖剣を抜いたものが、魔王を倒す英雄となるだろう、とのお告げが神から村人にあったらしい。


 おそらく、そのお告げの際にくそ女神は俺に聖剣グラムと名付けたので、初対面時、ミスティルは俺のことを聖剣グラムではないのかと言ったのだろう。


 そして、村人全員で俺を抜くことを試してみたが、抜くことはできず、抜くことができるものが現れるまで、待つことにしたらしい。


 ミスティルも試して抜けなかったそうだが、なぜ、今回になって抜けたかというのは、あのくそ女神の言葉が関係していると推測する。


「今、一人の少女が聖剣に選定され、手にしました」


 聖剣に選定される、つまりは俺がミスティルを選んだということだ。

 確かに俺はあの時、ミスティルに俺を抜いて戦えと言った。

 それが図らずしも、俺がミスティルを選んだことになり、抜けたのだろう。


 つまりミスティルは偶然、俺に選ばれただけで、高貴な血統を持つ一族でも、特殊な能力を持つ超能力者でも、戦闘に長けたプロの傭兵でもなく、本当にただの村娘が聖剣を抜いてしまったということだ。


 ただの村娘が魔王と戦う。


 そんなミスティルの心境は如何なものか俺にはわからない。

 食べ物をほとんど口にすることなく、ただただ俯いているミスティルに俺は声を掛ける。


「ミスティル。大丈夫か」


 他の人に俺が話していることを気付かれないように小声で話しかけた。

 そもそも、俺の話し声がミスティル以外に聞こえるかわからないが、余計な騒ぎを起こしたくなかったので、一応、配慮しておく。


 ミスティルは、


「うん、だいじょうぶ。……だいじょうぶ」


 そうは言うものの、まるで自分に言い聞かせているようで、強張った表情は解けない。


 これで俺が剣ではなく、人で最強な能力を持っていたら、俺が魔王なんて何とかしてやるから気にしなくていい、俺に任せておけ、と胸を張って言えて、ステキ抱いて、となっていただろうが、今の俺は誰かに俺を使って何とかしてもらわないといけない。

 つくづく、あのくそ女神が恨めしい。


 そもそも、俺を世界最強にしてやったと、くそ女神は言っていたが、あの性格だ。それも疑わしい。

 トロルは退けたとはいえ、所詮トロルだ。ザコ敵の部類だろう。

 とりあえず、俺の強さを知っておきたい。


「なぁ、ミスティル。少し外に出ないか」

「えっ、えっと。うん」


 ミスティルは俺に言われるまま、俺を手に抱えて、席を立つ。


「ミスティル、どうした」

「少し風に当たって来ます」


 ミスティルは男の問いかけに対し、適当に答えると屋敷の外に出る。

 周りに人がいないことを確認して俺は、


「ミスティル。不安なのはわかるが、俺は世界最強の剣らしい。意外と戦えるかもしれないぜ。ほらっ、トロルだって追い払ったしさ」


 明るく努めてミスティルを励ます。


「うっ、うん。ありがとう」


 ミスティルは先ほどまでより少しだけ、明るく返答するがまだ表情は暗い。


「とりあえず、俺を抜いてみて。切れ味を試してみたい」


 世界最強というからには最強の切れ味を誇っているに違いない。


 見るからに、か弱い体つきをしているミスティルでも、俺の切れ味が抜群なら、力は関係なく切れるはずだ。それこそ最強というのだから、天を裂き、海を割り、地を穿つほどの威力があるに違いない。その気になればビームとかも出せるかもしれない。


「わっ、わかった」


 ミスティルは恐る恐る鞘から俺を抜く。

 構えは見るからに不格好で素人臭い。


「あそこの岩を切ってみて」


 俺はそう言って、ミスティル二人分はある高さの岩を試し切りに選んだ。


「あそこの岩って、あの岩ですか?」


 そう言って、ミスティルが指差した岩は俺が言った岩ではなく、その隣のミスティルより小さい高さの岩だった。

 指差せないことの不便さを実感させられつつ、まぁ、岩は岩だしいいかと肯定する。


「ああ、それそれ」

「わかった」


 ミスティルは岩の前に立つ。


「じゃ、じゃあ、いきますね」

「おう」


 俺の返事と共に、ミスティルは俺を振り上げる。

 そして、勢いよく思いっきり、岩に俺を叩きつけた。


 そう、岩はまったく切れず、文字通り、俺は叩きつけた格好になったのだ。


「いったーーーー!!」


 俺は痛みで悲鳴を上げる。

 肉体を持つ身なら、あまりの痛さに倒れ、地面を転がり回っていたに違いない。


「ごっ、ごめん大丈夫」

「大丈夫じゃない。全然大丈夫じゃない。めっちゃ痛い。かなり痛い」


 女の子の前だということも忘れるぐらい、俺は喚く。


「今、なんか声がしたが。ミスティル。何かあったのか」


 俺の声はミスティル以外にも聞こえるらしく、村人たちが何かあったのかと宴会場から出てきた。


 咄嗟にミスティルは俺を鞘に思いっきり奥まで納める。一番奥まで納めると、ドラゴンの装飾部分も納められ、強制的に俺は話せなくされる。


「ううん、大丈夫。たぶん、バウンドドッグの遠吠えだと思います」


 首を振って何でもないというミスティルに男は、


「そうか、ならいいが。おまえは魔王を倒すという重大な使命を与えられた身なんだから、気を付けるんだぞ」


 大層に気遣う。


「さあ、体が冷えて、病気にでもなったら、明日の旅立ちに差し障る。中に入れ」


 男に促され、ミスティルは屋敷に入る。


「聖剣様、すみません、すみません」


 小声で何度も謝るミスティルの声が聞こえてきたが、俺は聞いてなく、鞘の中で痛がり続け、そして、いつの間にか意識が落ちた。

ストックなくなるまでは毎日投稿したいと思います。

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