第1話「えっと、私、戦ったこと、ないです」
目を覚ますと俺は森の中にいた。
視線を下に移すと俺は鞘事、岩に刺さっており、何故かリンゴがいくつか落ちていた。
「どうしてこうなった」
そう呟かざるいられない。
俺はただ俺tueeeして、ハーレムを築き上げたかっただけなのに。
これは楽して転生後の世界を満喫しようとした天罰なのか。
いや、それはないような気がする。
あのくそ女神の最後の笑顔、めっちゃ愉快といった感じで邪悪そうに笑ってたし。
「ああーーーー、くそ。騙されたーーーー。あのくそ女神に騙されたーーーー」
恨み言を吐くが、ここは森の中。
虚しく俺の声だけが、辺りに響く。
その後も、馬鹿だの、アホだの、貧乳だのくそ女神の愚痴を言い続けるが、いい加減悲しくなってきたので、黙って目を閉じることにする。
視覚を遮断して、話すこともやめると、嫌なことばかりが頭に浮かぶ。
このまま、俺はこんな誰もいない辺鄙な森で一生を過ごすのかとか。
そもそも、俺の一生って、いつまで続くのだろう、まさか百年も、千年も、もしかして永久にこんな状態なのだろうかとか。
考えていると精神がおかしくなりそうなので、思考すら遮断するよう努める。
しばらくして、意識がまどろんでくる。どうやら、眠気らしい。
剣でも睡眠欲なんてあるんだなんて、考えながら俺の意識は切れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
物音がしたので、目を覚ました。
まどろんだ目で前を見ると、そこには緑色のフードを深く被った女の子がリンゴを持って立ってた。
「そこの女の子、俺の声が聞こえるか!」
ハッと意識を一気に覚醒させ、力の限り呼びかける。
だが、聞こえた様子はなく、女の子はリンゴを置いてひざまずき、
「聖剣様、今日のお供え物です。お目覚めになって、どうかこの暗黒の時代を終わらせてください」
俺に対して祈る。
「どうか、俺の声に気付いてくれ。頼む!」
俺はそんな彼女の祈りの内容など、まったく聞いておらず、それよりも何とかこの孤独から抜け出したいと叫ぶが、
「また明日来ますね」
俺の魂の叫びも虚しく、女の子は片腕に元々置いてあった古いリンゴを抱えて去っていく。
「おい。待ってくれ。俺を一人にしないでくれ!」
必死で呼びかけた成果なのか、少しして女の子は突然立ち止まった。
俺の呼びかけに気づいてくれたのか。
「おーい、聞こえているのならこっちだ。こっち」
女の子は声に気付いたのか、何故か後ずさりだが、戻ってきた。
不思議に思ったが、そんな些細なこと今はどうでもよく、叫び続ける。
だが、次の瞬間、それは俺の声が届いたから、戻ってきたわけではなく、別の理由があったことに気付かされる。
「グオオオオオオ!!」
静寂を引き裂くような咆哮。
女の子の視線の先の茂みから、全身緑色の肌をした大男が出てきた。
大男なんてレベルで済ましていいものでなく、体長は二メートルを優に超え、丸太のような太い腕に、醜悪な面構え。
ファンタジー漫画でよく見るトロルに酷似していた。
トロルが咆哮した瞬間、女の子は手に持っていたリンゴを落としながら、走ってこちらに向かってくる。
トロルもリンゴを踏みつぶし、女の子の後ろを走って追いかける。
女の子は俺のところまでくると、なんとひざまずき、祈り始めた。
「聖剣様、どうか助けてください。お願いします」
俺もどうにかしてあげたいが、何せ今の俺は剣だ。
文字通り手も足も出ない。
「俺なんかに祈ってないで、早く逃げろ!」
と、女の子を呼び戻す時に負けないほど叫ぶが、やはり女の子には聞こえない。
「グオ、グオ!!」
目の前にはトロルが立っていた。
トロルは俺と女の子を見下ろしている。
女の子はそれでも、ひざまずき祈るのをやめない。
「おい馬鹿。早く逃げろ。逃げろって!」
俺もただひたすら、心の限り、逃げろと叫び続ける。
トロルはゴツゴツとしたその大きく固そうな手を女の子に伸ばす。
もう逃げることはできない距離だ。なら、
「俺を取れ。そして、戦えーーーー!!」
それは一瞬だった。
俺の声が女の子に届いたかどうかはわからない。
ただ、気付いたときには俺の柄は女の子の手にあり、そして、刀身はトロルを切り裂いていた。
「グオオオオ!!」
トロルは悲鳴を上げ、切り裂かれた胸を抑えながら、一目散に逃げていった。
「大丈夫か」
聞こえるかどうかもわからないが、女の子に聞いてみる。
すると、
「えっと、そのだいじょうぶ……です」
なんと、女の子が俺の問いかけに対して返事してくれた。
「俺の声が聞こえるのか」
俺はたまらず、強い声でもう一度確認した。
「はい。聞こえるみたいです」
女の子は心の整理がついていないのか、目の焦点はいまいちあっていないが、俺の問いかけに反応してくれる。
「やったぜ。君、名前は?ここはどこ?さっきの怪物って何?」
思いついたことをすべて口にする。
「私の名前はミスティルです。ここはポトの村の近くの森でして、あとあの魔物はトロルっていいまして……」
一方的な会話にも、ミスティルと名乗る女の子はしどろもどろだが、素直に答えてくれた。
「そうかー。如何にも異世界って感じの名前に、あの迫力あるモンスター。くー、これで俺が剣でなかったなら最高だったのに」
さっきまでの孤独で押しつぶされそうだった自分をすでに忘れ、異世界に来たという実感で俺は感極まる。
「あの~。さっきから聞こえてくる会話は、聖剣様からという認識でいいのですよね」
ようやく、我に返りつつあったミスティルは恐る恐る聞いてきた。
「ああ、俺の名前は一色刀夜。高校二年。よろしく頼む」
「イッシキトウヤ?コウコウニネン?」
疑問符で返すミスティル。
「ごめん、ごめん。今のは気にしなくていい」
それもそのはずだろうと、俺は謝る。
ここは異世界だ。日本人の名前とか、馴染みないだろうし、高校なんて単語を使っても通じるはずはない。
「とりあえず、俺のことは刀夜と呼んでくれればいい」
女の子に下の名前を呼んでもらったことないが、ここは異世界。
強気に切り替えていく。
「トウヤ?聖剣グラム様ではなく?」
今度は俺が疑問符で返す番だった。
「俺が聖剣グラムって、どういうこと?」
グラムってよく、ファンタジー漫画で出てくる伝説の剣の名前だよな。
「それはですね……」
俺の問いかけにミスティルが答えようとしたとき、
「私の親愛なる子供たちよ。聞こえますか」
空から声が鳴り響いてきた。
その声は忘れもしない。
「くそ女神」
憎きくそ女神が空を覆いつくすほどの大きさで現れた。
色は薄く、いわゆる幻影というものだろう。
「レーヴァ様」
ミスティルはくそ女神を見るなり、ひざまずく。
こんなくそ女神にそんなことする必要ないのにと思うが、口にせず、とりあえず、あのくそ女神が何をしに来たのか。見守ることにする。
「私が鍛えし最後の希望、聖剣グラム。今、一人の少女が聖剣に選定され、手にしました」
くそ女神はそう言うと掻き消え、次の瞬間、空にはミスティルの幻影が映し出される。
ミスティルの手に握られている俺も映っていた。
ミスティルも俺も呆然と空を見上げていたが、くそ女神は初めてあったときと同じようにマイペースで、空に俺たちが映ったまま、声だけで続ける。
「少女は英雄となり、魔王により築き上げられた暗黒の時代を照らす希望の光となるでしょう」
流石、異世界。魔王とかいるんだ。なんか、もうよくわからなくて、そんなことを呑気に俺は考えていた。
「さぁ、今こそ反抗のときです。悪しき魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらすのです」
と、くそ女神は言いたいことだけ言って、俺たちの姿も空から掻き消えた。
しかし、くそ女神、俺が会ったときと、全然態度違うじゃねぇか。
殊勝な顔をして、何が世界に平和をもたらすのです、だ。
ゲス顔で、世界に平和をもたらすのです(笑)、と言っている方が、しっくりくる。
俺たちの姿が空から消えてもなお、茫然と空を見上げて立ち尽くしているミスティルに話かける。
「ミスティルって呼んでいいか」
「はい」
若干、上の空での返事だがこれから聞くことは最重要なので、俺は構わず聞く。
「ミスティルって、強いの?」
深くかぶったフードから出る前髪で目はほとんど隠れ、とても前が見やすいには見えず、ローブから僅かに出ている腕は白くて細い。
体つきも、さっきのトロルが大木とすると、枝のようにか細く、そして、背は小さい。とても戦う者の感じはしない。
……だけど、担い手としてではなく、女の子として見ると物静かそうで、地味だけど、けっこう、かわいい。スタイルは華奢で、出るところはこれからの成長に期待だが、こう小動物とかを守ってあげたくなるような愛らしさがある。
これ以上、ジロジロ観察していると、セクハラ扱いされそうので、やめとく。
外見が好みなのは、置いといて、戦う者として見ると、ミスティルは見るからに普通の村娘といった感じだ。
俺のストレートな問いかけに、ミスティルは、
「えっと、私、戦ったこと、ないです」
と戸惑って答えた。
どうなるの俺たち。
続きは明日、投稿できたらいいな。