依頼人
桜が散って、学生たちも自分の居場所が見つかって安定しつつある春の終わり頃。
そいつはやってきた。
食堂でいつものようにノートPCのキーボードを叩いていた俺は人の気配に視線を上げた。
「お前が解決屋か」
金髪のボサボサブリーチ野郎の声が頭上から降ってくる。
俺を見下ろす形。
一言言っておくと、俺は挨拶の出来ないやつは嫌いだ。
礼儀ってのは大事だよな。
人とのコミュニケーションを円滑にする。
こいつはママに教わらなかったのだろうか。
とにかく俺と仲良くなりたくて話しかけてきたのではなさそうだ。
となると依頼者か。
「そうだが、あんたは?」
優しさの塊の俺。
無礼な相手でもビジネスの相手の可能性がある内は大事にしなきゃな。
例えそいつが気に入らなくてもだ。
金髪野郎が答える。
「俺は山崎悠斗。ちょっと厄介なことになってて、先輩に相談したらお前を紹介された。」
ビンゴ。
依頼者だ。
俺はすぐさま頭を仕事モードに切り替える。
「人に紹介されるなんて、俺の株も上がってきたのかもな。いい男だと紹介されたか?」
「そんな話は聞いていない。いくらだ。」
冗談の通じない男。俺の教養溢れるビジネストークもこいつには理解できないんだろう。
とりあえず仕事の流れの説明をしなきゃならない。
「前金で一万、あとは仕事の内容次第。途中別のトラブルが発生した場合、追加料金をもらうこともある。」
俺は丁寧に説明してやる。山崎は切れ目を丸くして驚く。
「高くねえか。たかが学生のトラブルだろ。」
「たかが、というなら自分で解決すればいい。俺は自分の仕事を安く売らない。気に入らないなら自分でどうにかしろ。そうできないから俺のところへ来たんじゃないのか。」
「うっ・・・。」
無礼なやつには少し仕置が必要だよな。仕事を値切ってくるやつにろくなやつはいない。
「話してみろ。俺がやる仕事として相応のものか、俺にも選ぶ権利がある。」
山崎は眉間にしわを寄せしばらく考え込んでいた。俺は正直断るつもりでいた。
こういうタイプのクライアントは仕事をする上で色々と面倒になってくることが多いからだ。
ようやく山崎が口を開いた。
「俺の連れが『裏新聞』に追われてる。」
「『裏新聞』・・・。」
俺の頭の中のウィキペディアが高速で項目を調べる。ヒット。面白くなりそうだ。
「よし、受けよう。」