異質
昔の話だ
俺にも父親がいた時の話だ
親父はお袋に裏切られて男手一つで俺を育ててくれた
そんな親父は俺にも何度もお前は優しくなれと口癖のように言い聞かされた
誰よりも優しかった親父はその優しさのせいで自身の身を滅ぼした
親父の最後は裏切られたにも関わらず自分の妻を身を挺して守った
お袋の自業自得だった
親父が死ぬべきじゃなかった
お袋は今も生きている
違う男をつくって親父なんて完全に忘れたように
俺は憎んだ
同時に親父が求めた優しさの理由が知りたかった
優しさなんていらないと思った
「ここは……どこだ?」
目がさめると目の前にはだだっ広い草原が広がる
背中には一本の木が直立していた
周りを見渡していると背後の方には川が流れている
その先は途切れておりそこだけ崖ができているようだ
川のよりも背後には森が見えた
「げ、ゲームはどこだ!?」
真っ先に今まで毎日と言って良いほど続けていたゲームを探し始める
しかしすぐに探すのをやめる
「そんな場合じゃない!どういうことだ!さっきまで俺はゲームをしていたはずなのに!!」
俺は焦った
当然だ見知らぬ地にいきなり放り込まれたようなものだから
だがそんな焦りはすぐに無くなり別の焦りへと変わっていった
大きなうなり声が川の向こうから聞こえてくる
そんなうなり声のなる方へおそるおそる振り向いて見た
「ひっ!!」
そこにはイノシシがいた
およそ3メートルほどの
驚くことに頭が三つある
「ば、化け物!!」
そう口に出した瞬間その化け物は俺の方に向かって走り始める
その瞬間俺も走ろうと立ち上がろうとするが
腰が抜けて立ち上がれない
「動け!動けよ!!」
俺は足を何度も殴りつけ逃げようと試みたが
それがもう遅いことと気づく
もう10センチぐらいだろうかそのぐらい近くに寄っていた
その化け物はどうとって食ってやろうか考えるようによだれを垂らしながらこちらを見ていた
「なんでだよ……死にたくねぇ……」
あんなに嫌気がさしていた人生なのにいざとなっては死にたくなくなる
そんな自分はやっぱり嫌いだ
ここも今までいた場所のように弱い奴だけ死んでいく世界だとそう思った
気づけば下半身だけが地面に落ちているのが確認できた
結局訳のわからない世界で生きた時間は五分にも満たなかった