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五話

 ――朝まで何をしようか。

 晩御飯を終えて、朝までの暇つぶしを考えている。

 と、手がとつぜん震えはじめた。

 はじめは手のひらの小さなケイレン程度であったが、徐々に伝播していき、いまでは全身を大きく震わせている。

 立っていることすら困難になり、ヒザを抱えてタタミに座り込む。

 座ったままタタミの一点をおぼろげに見つめていると、しばらくして震えはおさまった。

 そろそろ動けると考えて立ち上がろうとするが、ひざから先が砂のように崩れ落ちる感覚に襲われた。

 バランスをとろうとするが脚を動かすことが出来ない。

 受身を取ることもできず背中と後頭部をタタミへ打ち付けてしまう。

 そして、全身が動かなくなった。

 熱湯をかけられたような熱いしびれがカラダを覆いつくしている。

 感覚があると言うことは頚椎を痛めたわけではなさそうだ。

 ――いま、一体どんな状態なのだろう。

 眠れないから眠らずにいたが、それがどれほどカラダに悪影響を及ぼしていたかはわからない。だが、少なくともいまのボクは健康体ではないと思う。

 形はどうあれ、こうしてカラダを横たえたのは久しぶりだった。

 カラダが動かないいまならば眠れそうな気もする。

 目を閉じて、深い呼吸をする。

 十数秒かけて大きく吸い、倍の時間をかけてゆっくりと吐く。

 それをなんども、なんども繰り返す。

 呼吸にすべての意識を集中し、なにも考えないようにする。

 そんな努力もむなしく、どれほど時間がたっても意識が飛ぶことがなかった。

 ――やはりだめか。

 起き上がるべく、カラダの感覚を確認する。

 わずかだが、腕や足先を動かせる程度に回復していた。

 もうすこしかかりそうだった。

 ふと、ベランダで音がした。

 窓が開いて風が入り込んでくる。

 スルスルと這うような音。

 そして、重量感のあるものがボクの全身にのしかかってくる。

 薄く目を開くと、思ったとおり長く太い白ヘビがいた。ニョロ吉だ。

 どかす気力もなくヘビの肌がとても心地よいためそのままにした。

 どうやら今回も食べるつもりはないらしい。

 あてどなく天井を眺めていると、

「起キテルノー?」

 ヘビから彼女の声がした。

 目を見開いてニョロ吉を見た。

 もう一度声が聞きたかった。

 つぶらな瞳でニョロ吉はこちらを見返しながら、

「コンニチワ、キューチャン」

 ニョロ吉のクチから、正しくはクチの中から聞こえた。

 聞き覚えのあるハスキー声だった。

 ニョロ吉がボクに向けて大きくクチを開く。

 ノドの奥に九官鳥のキューちゃんが顔だけ出していた。

 がっかりしたような安心したような複雑な気分だった。

「マァ本当ハ私ガ話シテイルンダケドネ」

 ニョロ吉がふたたびクチを開き、

「コンニチワ、キューチャン」

 クチを閉じた。

 ボクは、声にならない程度の笑い声をあげた。

 そのあと、大きくため息をついた。

「なんか、もう、どちらでもよくなったよ」

 ダレに言うわけでもなく声に出す。

 どうにかカラダにチカラをこめて、ニョロ吉の胴体に手を回す。

 ボクはそのままニョロ吉を抱きしめ、まぶたを閉じた。

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