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桃色ファンタジー。

どうもすいません。

作者: 桃色 ぴんく。

ゆきがいないだけで、静かだわ」

 いつも騒がしいリビングが今日は静まり返っていた。娘の雪は、今は2泊3日の修学旅行で家にいないのだ。

 もう小学6年生にもなるのに、雪はとても幼い。好きな男の子がいるわけでもなく、バレンタインデーも仲のいい女の子に渡す程度だった。私が6年生ぐらいの時には、すでにグループ交際をしたり、流行っていた交換日記をしたり、と、もう少しおませな感じだったのだが、最近の子はそうでもないのかも知れない。

 雪は、2つ年上の兄の影響か、ゲームが大好きで、特にポケモンシリーズは欠かさずにプレイしている。ポケモンはアニメも観ているし、何かのオマケで付いてくるようなポケモンのモンスターのフィギュアなどは、熱心に集めていて、家の中にゴロゴロしていた。

 一方で、雪が小さい頃にサンタさんからもらった、シルバニアファミリーや、リカちゃん人形なども、一応は部屋に飾られていて、思い出した時には遊んだりしているようだった。



 静まり返ったリビングで、私は洗濯物を畳んでいた。

「雪がいないだけでこんなに静かだなんて」

 昨日もそう呟いたが、今日もそんなことを考えてしまう。それほど、普段の雪の存在感があるということだろう。あの子がいるだけで、ほんとに賑やかだから。

「今頃はお昼ご飯かしら」

 時計を見て、立ち上がって壁に貼っていた修学旅行の予定表を見る。そして、予定表に書かれた行事に参加している娘の姿を想像してみる。きっと、賑やかに楽しく過ごしてるに違いない。私は安心した表情で洗濯物を再び畳みだした。




 外で鳥の鳴き声が聞こえたり、道行く誰かの喋り声が聞こえたり、家の中が静かだと、こんなに外の音が聞こえてくるんだということに私はびっくりしていた。普段感じることの出来ない、こういう静かな時間もたまにはいいもんだな、と私が思った時だった。





    ―ねえ、出してよ。



「ん?」

 何だろう、何か聞こえたような。外から聞こえる音とは違う感じの音の大きさだった。

「空耳かな」

 気にせずに、洗濯物を触りかけた時、また聞こえた。



    ―空耳じゃないよ!こっちだってば!



 小さい子供のような声が聞こえる。まさか、私・・・雪がいない寂しさで幻聴が聞こえるようになってしまったのかしら。



    ―こっちこっち!ちょっときて!



「こっちって・・・」

 リビングの隅の方から声が聞こえる。これってまさか・・・私は、雪のオモチャ箱に目をやった。性格が大雑把で片付けるのが面倒な雪は、いつも遊んだ人形やフィギュアを、この箱に乱雑に入れていたのだ。




    ―そう、箱の中だよ!



 30センチ四方の箱に、溢れんばかりに人形やフィギュア、カードや縄跳びまで、ありとあらゆる物が詰め込まれている。謎の声は、箱の下の方から聞こえてくるようだ。



    ―とりあえず、重いから、一回全部出して!



「わ、グチャグチャだわね」

 普段、気にも留めてなかったが、こうしてみるとかなりの乱雑ぶりだ。雪の性格が表れている。私は、この際整理をしようと、箱の人形たちを一つずつ外に出していった。箱の中のオモチャの、ほとんどはポケモンのフィギュアやマスコットだったが、他にもぬいぐるみや、名前すら知らないキャラクターの人形なども入っているようだ。



   ―それそれ!それをどこかにやって!



 私が電車のオモチャを取った瞬間、また声が聞こえた。



  ―ふう。助かった。ずっと重たくて、ほら、ここ見てよ。



 電車の下に押し込まれていた小さなぬいぐるみの、顔の部分に、電車が当たっていた形がついていた。私に喋りかけていたのは、この子だったんだ。えっと・・・何だっけ、このキャラクター。



  ―お宅のお嬢ちゃん、すごい乱暴なんだけど。



 よくわからないキャラクターの人形が私に話しかける。

「どうもすいません。いつも乱雑に片付けてるようで」

 とりあえず、謝ってみる。



  ―ずっと重たかったんだから。もう助かったからいいけど。


  ―お前はまだいいよ。重たかっただけだろ?



 今度は別の声が聞こえてきた。え、え、誰が喋ってるの・・・



  ―俺なんて、これ、見てみろよ。こんなの着せられてんだぜ。



 私は箱の物をまた取り出して行った。

「あっ」

 そこには、リカちゃんの服を無理やり着せられた、ポケモンのゼクロムのフィギュアがあった。

「あはははは」

 羽があるのに、無理やり前開きの上着を着せられているゼクロムを見て、私は思わず笑った。



  ―おい、笑うなよ!こんなフリフリの服、俺の趣味じゃねえぞ!お宅のお嬢ちゃん何とかしろよ!



「どうもすいません・・・恥ずかしい恰好させてしまって」

 私はまた謝る羽目になってしまった。



  ―着せられただけなら、まだマシじゃないの!



「わっ」

 今度は、可愛らしい女の子の声が聞こえてきた。ん?待てよ。この声は昔私も聞いたことがある。

「リカちゃんだ」

 昔は、よくリカちゃんに電話とかかけたものだ。



  ”私リカよ、お電話ありがとう~”


っていう電話の声と同じだ。私は箱の中からリカちゃんを取り出した。

「リカちゃんまで箱の中に入れられてたのね」

 シルバニアファミリーや、リカちゃんは、雪の寝室の方に飾られているはずだったのに、いつのまにかリビングに連れられてきていたようだ。



  ―箱の中にいたとかはどうでもいいのよ。私の左目を見てよ!



 言われるまま、リカちゃんの顔を見る。

「あ~」

 一見わかりづらいのだが、よく見ると、リカちゃんの左目の白目の部分が黒く塗られている。



  ―これ、ボールペンなのよ。グリグリッてされて痛かったわ!



「どうもすいません・・・乱暴な娘で・・・」

 私は、黒く塗られたリカちゃんの目を拭きとろうとしたが、取れなかった。除光液で取れないかしら?と思った私はコットンに除光液を含ませて、リカちゃんの目を拭こうとした。



  ―きゃあ!何するの!目に沁みるじゃないの!母親のアナタも乱暴ね!



「どうもすいません・・・」



 気付けば、私はずっと人形たちに謝っていた。いつも乱暴に扱って、いつも乱雑に片付けて、本当にごめんなさい。雪が帰ってきたら、ちゃんと片付けるように言わなくちゃ。あの子ももう大きいんだもの。このままだと将来【片付けられない女】になってしまうかもだわ。




「みなさん、どうもすいませんでした。これから気をつけます」

 私は人形たちを綺麗に片付けながら、話しかけたが、もう声が聞こえることはなくなった。



 再び、静かになったリビングで、私は人形たちの入った箱を見ていた。綺麗に整頓された人形たちは、なんとなく表情も穏やかになったような気がした。




                 ~どうもすいません。(完)~  



  

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