殺人鬼の噂
何年も前の話。
この街には殺人鬼が居たらしい。らしいと言うのは私の母から聞いた話で私自身が確かめた事じゃないから。でも、本当に居たらしい。
その殺人鬼は8年間に渡って色々な人を殺してその死体の隅々を観察して記録を付けると最後には死体を食べて処理をする、といった物だった。
正直気が狂ってるとしか言いようが無い。死肉を食べると言う概念が生まれる事自体がおかしい。もっと他に食べるものがなかったのか? と私はその人に問いたい。
どうして急にこんな話をしているのかと言うと、学校の級友達がその殺人鬼が住んでいた場所を見つけたといい、今日そこに肝試しとして一緒に連れて行くと言い出したのだ。
私は行きたくなかったのだが、断れば級友からからかわれる事が目に見えていたので意地を張って行くと答えてしまったのだ。今はすごく後悔している。
今は午前1時頃、辺りはすっかり暗くなり切れ掛けている街頭が道をちかちかと点滅しながら照らしていた。そんな道の端っこに私、川城唯と級友の霧崎香苗と山城里奈が立っていた。
「本当にいくの?」
私は面倒くさそうに、そしてなにより眠そうに級友二人に聞く。
正直余り乗り気では無い。見つけた香苗によれば入り口には警察がよく使う黄色いKEEP OUTのテープが何十にも張り巡らされていて、中からはなんとなくそれらしい雰囲気が漂っていたらしいのだ。
勘弁して欲しい。私は怖いものは嫌いなのだ、行く前から怖がらしてどうする。
「行くに決まってんじゃん。夏休みの終盤! ここは楽しまないと」
香苗がからからと笑いながら言う。それに里奈も便乗し縦に二度首を振りながら「そうだよ、思い出残そうよ!」と力強く言い放つ。それなら勝手に二人で行ってよ。と私は言いたいが飲み込む。後で学校でからかわれては精神的に持たないからだ。
それに、私も少なからず興味を持っている。
母からの話を聞いていると真偽疑わしい、まるで都市伝説のような事ばかり出てくるのだ。今でも保管されている殺人鬼の体の一部は動いているだの、時々街の誰かが行方不明になって体の一部を欠損させながら帰ってくるだの。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。確かに級友の一人が夏休み前に一人行方不明になって見つかった数日後には右目がなくなっていたらしいが本人曰く事故らしいし。目が無くなる事故とはどんな事故か聞いてみたがびくついて「そ、そんな事故だよ」としか言わないし。
まぁ間違っては無いのだが。っと、話が逸れたが私も殺人鬼には興味がある。興味が無ければ夜遅くにこんな事で外には出ない。
「なら早く行こ。早く帰って寝たいし」
私は欠伸を混ぜながら香苗に言う。興味があろうが無かろうが眠い物は眠いのだ。
「そうだね、それじゃ出発!」
「おー!」と里奈は手を上げ歩く香苗の後ろをついて行く。私もそれに続いて「はいはい」と後ろを付いて行った。
「……うんうん、悪い子達だねぇ」
「っ!?」
突然に若い男性の声が背後のすぐ近くから聞こえた。半ば無意識に後ろを振り向くがそこには誰もいなかった。……、気の性だよね。雰囲気にも当てられたのだろうと結論付けながら少し離れた二人に小走りに追いかけた。