表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ADAM  作者: 流風 生海
9/74

たたかい。(2)

 そうこうしている間に、ペガサスとアンネの間隔は、アンネのブレードの間合いから遠く離れている。

「ミーシャ!アダムの足を止めてっ」

 アンネが叫ぶ。

「ちょっと待て。何かがおかしい」

 ライフルを構え、サイトに意識を集中させながらも落ち着いた声でミーシャが答える。

 (・・・何だ、この違和感は・・・)

 良く観察すると明らかに歩数が違う。アダムはアンネの半分くらいしか地面を蹴っていない。それだけ脚力に差があるということか。

 それにこのスモーク。予想されるサーモのあかりと微妙に赤外線透過量が違う。

 (・・・もしかして普通のスモークじゃない・・・?)

 不意に気づくミーシャ。

「走ってても埒が明かない!そうくるならブーストではじき飛ばす!」

 叫ぶアンネ。

「待てっ!スラスターはっ!」

 ミーシャの声は一歩遅かった。

 ドッゴーンッツッツ!

 巨大な爆発音。

 一瞬にして轟音と共に紅蓮の炎に包まれるドーム。

     

    

 赤外線カメラがホワイトアウトし、ミーシャがヘルメットの中で思わず顔をしかめる。

 ガシャン!という音と共におそらくアンネと思われる重量物が落着するのが聞こえる。

 あまりの蒔司のやり口に頭に血がのぼるミーシャ。

「アダム!汚ねえぞ!」

 ミーシャが叫ぶ。

 

 そして。ミーシャの視界が戻ってきた時に目にしたのは回転しながら飛んでくる「棒」であった。

「舐めんな!」

 ライフルの連射を当てる。しかし所詮はペイント弾。「棒」の勢いも向きも変わるはずもない。

「クッッソッ!シマッ・・・!」

 慌てて避けようとするが固定された関節が邪魔をする。間に合わない。

「チーキショウッ!」

 ガンッツ!

 ミーシャの悔しさのこもった叫びと同時に、右肩から胸にかけて直撃を喰らう。弾き飛ばされ転がるミーシャ。

        

    

 ミーシャの視野に、カランと音をたてて転がったのは・・・なんと鉄パイプ。

 {命中判定1、ダメージ予測、死亡1}そう音声が流れると機体の電源がカットされた。

「この野郎っ!ふざけたまねしやがって!」

 叫ぶミーシャであったが、その音声が伝達されることはない。

    

      

 ガシャリと音を立ててアンネのボストックが立ち上がる。

「なるほどね。スラスターの制御が苦手だから走っていたわけじゃないのね・・・最初から狙いはミーシャだった訳・・・それにしても粉塵爆発とかよく知っているわね。今のは何のスモーク?」

「小麦粉だ」

 そう答えながら歩を進めるペガサス。今度は逆に間合いを詰めに行く。

「なるほど、小麦粉と・・・鉄パイプで「死亡」か。ジョークにしてもタチが悪いわ」

 地面に転がるミーシャのボストックと鉄パイプを見て語る。

 アンネがふと気づく。

「それよりも何故一刀?」アンネが問う。

 そう。ペガサスは一刀を両手で構え残りの一刀は左腰のアタッチメントに挿している。

「これが俺の流儀なんでね」

 両手で刀を構えて答える。

「ふーん。素人じゃないってことか剣は・・・なるほどなるほど。どうりで昨日の動きに迷いがなかったわけだ・・・こっちは今の爆発でスラスターがほとんどイっちゃったし。こりゃ純粋に力と技の勝負ね」

 そう話すと右手の一刀を正中、左手の一刀を水平にして構えるアンネ。

       

   

「いざ!」二人の声が重なる。

     


 先に動いたのは蒔司。そう。ここは先手を取る。

 蜻蛉の構えから一気に振り下ろす。

 ギィンン!

 振り下ろしを受けたアンネは咄嗟に2刀で十字を書いて止める。

「なるほど。こりゃ片手では受けきれないわ」

 歯を噛み締めながら押し返すアンネ。

 と、押し返すと見せてアンネは左手首をひねり、ペガサスの刀を斜め下に滑らせる。

 同時にフリーになった右手の刀で肩口を狙って振り下ろす。

 そのブレードを左を引き体を開いてかわすペガサス。

        

    

 蒔司がペガサスの機体が右前に流れるのを利用して右足で深く踏み込む。

 ダンッと踏み切るのと同時に、下に勢いのついた刀を、わざと地面でバウンドさせて跳ね上げて切り上げ、ボストックの左脇の下に刃を跳ばす。

 それと同時にボストックの左前蹴りが入り、アクティブバインダーが受け止める。

 が、そのままペガサスを踏み台にする形で後ろに飛び、ペガサスの刀は宙を切る。

「怖いなーあんたのその力じゃ模擬刀でも肩がちぎれちゃうわよ」

 アンネが語りかける。

「本気なのね」

「遊ぶつもりはない」

 短く答える。

 足を前に運び左肩をアンネのボストックに突き出すような格好。左脇を締め、逆に右は弓を引き絞るように開く。刀を肩横に水平に構え切先をボストックに向ける。

 普通とはちょっと違う握り方なのだが、その意味はわかるまい。

 対して十字に構えるボストック。

「突き・かしら?」

 そのアンネの言葉に答える義理はない。

        

    

 今度はアンネのボストックが先に動く。

 軽く左右にステップを踏む。狙いを付けさせないつもりのようだ。軽く飛び上がるような上下動を伴うボストックの動きに対して引いた右足を地面に擦るように円運動して狙いを定めるペガサス。

 アンネが飛び込む隙を探しているのがわかるが、こういう状態では中々隙は生まれない。

「こっちは本当に本気なのね・・・ねえだんだん貴方が怖く見えてきたんだけれど何かした?」

 蒔司の放つ「剣気」を感じているようだ。

        

    

 ボストックのサイドステップの幅が大きくなる。右へ大きく飛び次の瞬間。

 ☓の字の構えで斜めに踏み込んでくる。左のブレードをペガサスの一直線に構えた刀に沿わせ、自分のイン側に切っ先を向けさせないようにして押さえ、その上で右手をひねるように円運動して、下斜めからペガサスの左の脇腹に斬りつける。

(この威力ならアクティブバインダーは使えない!)そう思うアンネ。

 だが、カシーンとすり合わせる音と共に右手ははじかれる。

 ペガサスが左腕を肩を軸にして回し、ボストックの左手を上に弾く。「斜め下」からの刀の軌道を「下から上」への軌道に変化させている。

 上に振り抜けるボストックの右腕。

 だが、これでペガサスの右手は刀を支えているだけだ。その持ち方では反撃はできないとみたアンネ。

 頭を下げ、体を内にねじ込むようにひねるボストック。そして先ほどまでペガサスの刀を支えていた左の刀で袈裟斬りに振りぬく。狙いはペガサスの右肘の裏側からボディ中央。ここまで深く踏み込めばかわせるはずがない。

 どちらかには当たる。

 しかし、手応えはない。

 いつの間にか体を後ろに引き、ボストックにぎりぎりの所で空を切らせるペガサス。

(これを躱すかなぁ普通)アンネはそう思いつつも更にひねり込み、一回転させた体を軸に右のかかとで下から上へと後ろ回し蹴り。同時に右手でペガサスの刀を上へ弾こうとする。

 だが、かすりもしない。続いて繰り出した左手の刀も躱される。

       

   

 見た目では常にペガサスはボストックのブレードの間合いの中にいる。だが、ペガサスは刀で受ける事もしない。完全に見切って躱している。

(そう・・・これはマジに厳しいかしら・・・)そう思いつつも言葉で気合を入れるアンネ。

「どうやろうとブレード二本の方が有利なの!」

 右手振り下ろし、左手斬り上げと上下同時に振る。躱される。

(奥の手!)

 躱したはずのボストックの右腕。 

 だが、そのまま右拳が360度回転して再び斬りつける。人間にはできない。BBでは中身の人間の拳は下腕部に収まっている。つまりBBの手首から先は完全に機械。だからこそ出来る芸当であり、また生身の人間にはできないことであればこそ蒔司の意表もつける。

 しかし、それをさらりと躱される。

(嘘。アクティブバインダーも使わないってどういうこと!)

 ペガサスは構えも変えていない。

 無表情なペガサスのヘルメットがより一層不気味に見える。背中の毛が逆立つ感触。

「もうすぐ5分よ。そろそろケリを付けたいのアタシは」

 そう言いつつもアンネの声が若干震えている。

「そうか」

 相変わらず短く答える蒔司。

          

   

 そしてペガサスが攻撃に転じる。流れるような動作で瞬時に腰を落とし、低い構えから、ボストックの左脇腹にひと突き。

(鋭いけれどっこの程度っ)バックステップでアンネは距離を取る。その瞬間刀先がぶれたように感じる。

 本能だといっても良いだろう。咄嗟に下げた左腕の小型シールドが突きを受け止める。

 だが、ガスッと異様な音を立てて、シールドに穴があく。

 {命中判定1、左腕シールド大破}機械が冷酷に告げる。

「ほえっ」

 アンネが奇妙な声を出して飛び下がると同時にボストックの肩のガトリングを撃つ。

 が、ペガサスのアクティブバインダーに受けられる。

「嘘でしょ!徹甲弾も弾くのよこのシールド!」

 ガトリングガンから弾をばら撒きながらアンネが間合いを取ろうとする。

 ペガサスが間合いを詰め更に突きを放つ。

 大丈夫銃弾はアクティブバインダーに任せておけばいい。そのためのセッティング変更だ。

「っとっ」ボストックの顔に来た突きをかろうじて首をひねってかわすアンネ。

(何故?何故この間合いで届くの?・・・って)

「って殺す気ぃ!?」

 アンネの驚きを含んだ問いにそっけなく答える。

「かわされた刃に人を殺すことはできない」

 中段に構えを変えるペガサス。

       

    

 アンネの背筋が寒くなる。(怖がってる?アタシが?)

(私はトップアタッカーよ!刺されば即、死につながるスライムたちの槍の雨の中を突き進んできたのよ!その私がこいつをアダムを怖いと思うの?!)

 ボストックを通過して伝わってくる感覚。それに呼応して湧き上がる自分の感情「恐怖」。

 明らかに昨日までの蒔司ではない。

 しかし、それであったとしてもアダムに恐怖する。それはアンネには認めがたい事であった。

「こんの~っ」

 声を絞り気合を入れるアンネ。

        

   

 ボストックが動く。

 右手を上段から振り下ろし、右、アウトサイドにかわされる。が、その勢いのまま体をねじり右後ろ回し蹴りへと変化させペガサスの左わき腹を狙う。同時に左手で首筋を狙う。

 ガシッツという音と共にアンネの左足の感覚が無くなる。

 視界にはペガサスの刀の尻と左膝でボストックの蹴り足が挟み込まれており、刀尻が食い込んでいるのが見える。

 自分の左手は、不思議な何かに跳ね上げられたような感触と共にペガサスの頭部の上を通過した。

 ペガサスの首横には数枚の重なったアクティブバインダーが跳ね上げられている。

 {命中判定2、ダメージ判定左足ひざ下駆動系ロスト}

 音声が流れる。だがそれを気にしている暇はない。両腕をクロスさせるように刀を振るう。

(肉を切らせて・・・)アンネが念ずる。

         

    

 蒔司はこの時を待っていた。アンネが不自由な体勢でありながらも両腕を振るってくる。

 そう。中央ががら空きだ。体勢も悪い。

 すかさず刀の握りを絞る様に鋭くボストックの首元に打ち込む。

 アンネがブレードを振り切る暇を与えられることはなかった。

 ガンッと鈍い音がする。

 そしてボストックが大の字に吹き飛び、地面に叩きつけられ動かなくなった。

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ