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ADAM  作者: 流風 生海
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条件(1)

 しばし後、司令部の扉がいきなり開く。驚いて振り向く秘書官達。


 「良く来てくれた」

 葉月が迎え入れる。

 「嘘・・・監視モニターには誰も映っていないのに・・・」

 「ここのカメラはデジタル信号だからね・・・特定の人間を映さないようにする方法なんざいくらでもあるさ」

 「ラグノ・・・早速やらかしたのか・・・」

 「ああ。自分をこの基地の映像記録には一切残さない。それが自分が求める最低条件だ」

 「徹底しているな」

 「仕方ないね。NUNへの不正侵入は時効がないんだ。こんな所で捕まるわけにはいかんのだ」

 「まあ、私もここで君が捕まってしまうのは困る」

 「OK。そこの姉ちゃん達もよろしく頼むぜ」


 まあ、なんというか、異様な出で立ちのラグノ。

 伸ばしっぱなしのくせっ毛を強引にポニーテールにまとめ、上はくすんだ赤色、下には同じく何度も洗濯したかのような色の落ちた黄色という、色の違うジャージ。何よりどう見ても胸囲よりも腹囲の方がデカイというたるみきった全身。

 「また一段と太ったな」

 半ば呆れたように葉月が言う。

 「仕方ないね~この稼業、運動は全くしないからね」

 「だが、その『本業』は今日までにしてもらう」

 「何っ!そんな話は聞いてないね」

 「これからは『任務』としてやってもらう。そういう事だ」

 「なるほど。だが、それでは好きなところに好きなだけという訳にはいかないんじゃないかい?」

 「多分、その暇はないと思う」

 不満そうなラグノを諸茗の端末に案内する。

 「コイツの解析と不正侵入者の特定、及び逆侵入もしくは不正アクセスラインの解除を頼む」

 「ほほー中々手強そうじゃないか」

 画面を一瞥して答えるラグノ。

 「分かるのか?」

 「この一見して見える「別回線」は恐らくデコイだ。多分どこにも繋がっちゃい無いだろうねえ」

 言い切るラグノ。

 「何?」

 「こういうパターンってのはデコイの回線を切らせては復活させるそれを繰り返させる。本物の侵入ルートはさ、正規に見えるその中にある。これが常套だね」

 「良く分かるな」

 「ハッカーの世界じゃ常識よ」

 「で、対処はできそうか?」

 「そのために呼ばれたんだろう?」

 問い返すラグノ。

 「まあ、な。君ができないとなれば、正直全てのシステムを再構築するしか無い。そういうところだ」

 「それで直るんなら誰も苦労はせんやろね」

 「な、無駄だというのか?」

 「正直、サリィの言うとおり、遊ぶ暇はなさそうだね。サリィ、コイツのサポート端末を持ってきてくれ。全部な」

 それを聞いた秘書官が、金庫を開き、予備端末を2つ運んでくる。

 「全部で3つか。ちょうどいい。姉ちゃん、一つは起動して足元に置いてくれないかい」

 一つを受け取り正規の端末に並べて置くラグノ。

 「さあって、侵入ルートが3つ以下なら良いんだがな」

 片手で一つの端末。更に足でもう一つの端末を操作する気らしい。

 「ところで・・・報酬だが・・・」

 不意に話を変えるラグノ。

 「心配するな。新しいIDで口座を作り、そこに正規の賃金として振り込まれる」

 「おい、今「賃金」と言ったな?「報酬」ではないのかい?」

 「ああ。今から君はこの司令部付きの「職員」だ。決まった賃金と身分を保証する」

 その言葉を聞いてげんなりした顔のラグノ。

 「なんてこったい・・・今更・・・犬かよ」

 「だが、もう後戻りはできん。私も個人的な事のために君を埋もれさせておくのは限界だと思っている。正直に言って君の才能が必要なのだよ」

 「才能ねぇ。ハッキングの才能なんざ軍に必要なかろう?」

 「そうでもないのだ。実際、今現在こうやってサイバー攻撃を受けているし、今後の事を考えると今回一回きりという補償もない」

 「ふ~ん・・・今回の一回という自信がないわけ・・・理由がありそうだわね」

 じろりと葉月を睨む。

 「当然、逆探するし、データサーバーにもアクセスする訳だから、自分もその理由とやらは知ることになるかも知れないけれど?」

 「わかっている。万が一知ったとしても口外したくなくなるだけの金額は用意する」

 あくまで素面で返す葉月。

 「ありがとね。まあ、ここのシステムで遊ぶのも悪くないね」

 何やら不穏な発言ではある。

 「まあ、君が退屈に思わない程度の任務もあるさ」

 こちらも含みをもたせた発言の葉月。

 「楽しいのかい?」

 ニヤリと笑うラグノ。

 「君なら満足してくれると思うぞ。痕跡を残さないように出来るならな」

 口元だけニヤリと引きつる葉月。

 「それなら心配ないね。今の自分なら誰にも知られずにNUN代表ハーマン様の財布の中身も調べてやるよ」

 「期待してる」


 さてと、と端末に向かうラグノ。

 「出来るなら自分の仕事中の動きは見られたくないんだが?」

 「なに、心配するな。他にも仕事があるからな。誰も君を監視などする暇はないぞ」

 既に自分の仕事に戻っている秘書官達。ラグノには目も向けていない。

 「なるほど。司令室が全滅というのは本当だったのか」

 どこからその情報を手に入れてきたのだか。

 「ああ。私以外はな」

 ボロボロのスリッパを脱ぎ、足の指を開いたり閉じたりしているラグノ。準備運動なのだろうか。

 「ふん。姉ちゃん達の動きがぎこちない訳だ」

 そう呟くと一斉に端末を操作し始めるラグノ。

 両手更に足と見事なまでに統一されて動く指。

 「ちょいっとごめんよ~30秒ほど司令室のシステム乗っ取るからね~」

 その瞬間全てのモニターがブラックアウトし、黒の画面に白い文字列が走る。

 入力されるというよりもまさに「走る」と言ったほうが良い入力速度だ。

 「アンタら何か恨みでも買っているのかね?物凄い量の不正アクセスラインができているんだが?」

 画面を見ながら語りかけるラグノ。

 「機密がある。としか言えない。対処できるのか?」

 「まあ、ちっとばかししんどいが・・・如何せんパラレルラインでのアクセスは同時に切断しないと無意味だからな」

 「なるほど。それで端末が複数いるのか」

 「まあね・・・よし。これで一つ削除成功っと」

 既に一つの不正アクセスラインを消したらしい。


 「お次は・・・参ったね。フォースラインか・・・」

 「何だそれは?」

 「4本のアクセスラインが相互に補完するように走っているって事」

 「つまりは3機の端末では足りないということか?」

 「ああ。理論上はね」

 「音声入力なら複数端末に同時に入力出来るのでは?」

 「あのね。この手のアクセスラインってのはさ、自動プロテクト機能ってのがあってね、

それを上回る事が必須なんよ。音声入力の速度では無理なんだ。キーボードの方がはるかに速いんでね」

 一流ハッカーのラグノが言うのだからそうなのだろう。

 「そもそも、アクセスラインそれぞれが全く異なるプログラム、経路を介して侵入してる、自動制御で解除はできんよ」

 「因みに、そのアクセス元はどこなんだ?」

 「言っても良いのかい?」

 「構わん」

 「NUNだ。」

 覚悟していたとはいえ、気持ちのいい言葉ではない。

 「確かなのか?」

 「暗号化技術はNUN特有のものだし、侵入のクセと言っていいのかな?そういう手口から見るに間違いない。ついでにいやあ、この端末だけじゃないよ。4つの経路でメインシステムに侵入し、それからアンタの手元の端末を始め20以上の端末に侵入してるね。これだけの大掛かりな事をわざわざこんな片田舎の基地に仕掛ける。NUNじゃなきゃ他にどこがあるんだい」

 身の覚えはしっかりある葉月。

 「そのアクセスは無力化出来るのか?」

 「サリィ。言っている意味わかっているかい?これを切ればすなわちNUNにいらぬ疑いをかけられる恐れもあるんだよ?」

 「その言い方だと切ることはできそうだな」

 「コイツを切るには相手のシステムを一度落とさにゃならん。うかつに落とせば向こうは大混乱。下手するとこちらからのサイバー攻撃とみなされる。いや、まあ、確実にこちらが悪役にされるか。NUN ってのはそういう所だからな」

 まあ、権力ってのはそういうものだ。

 「他に方法はないのか?」

 「無いこともない。こっちのシステムを物理的に落として、基地にある全ての端末や、マザー、外部とのアクセスを取り仕切るハブだね。それを入れ替える。新しくアドレスを振りなおしてネットワークの再構築を行う。回線は全て新規に引き直す。ウィルスの可能性も否定出来ないからね、今までのバックアップデータも使えないよ?最低でも1週間はかかる大工事だ。まあ、簡単に出来ることではないな」


 予想外の大仕事に驚く葉月。

 「その他には方法はないのか?」

 「無いね」

 つれない返事を受け止める。

 「まあ、今までだって情報は漏れてたんだ。しかも相手はNUN。無意味に悪用はしないんじゃないのかね?」

 画面を見つめたまま、葉月をなだめるようなラグノの言葉。

 「一応、警告は送ったが、それ以上はやめといたほうがいいだろうよ」

 「ん?警告?」

 「ああ、簡単なアプリだ。このライン経由でこちらにアクセスした瞬間に警告画面が出る。そして画面がメルトする。だがそれだけ。何らかの操作をすれば元通り」

 「メルト?」

 「画面をいかにも溶けたように表現するアプリさ。これ以上の不正アクセスを行うとシステムをメルトダウンさせるぞと、つまり本気でシステムをクラッシュさせるぞ。そういう警告の意味で使われるのさ」

 なるほど。まあ、確かにその位で丁度いいのかもしれない。この基地のマザーコンピュータはそもそも物理的に外部に繋がっていない。マザーへのアクセス方法を変更し、専用端末の取り扱い担当を厳選するしかないだろう。


 葉月が考えていると、モニターが正常に戻る。

 「状況によってはまたシステム乗っとるから、データのセーブはこまめにね」

 そう言いつつも激しい動きをしているラグノの手足。

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