病室にて(3)
ロビーにて。
自動販売機に向かおうとする蒔司を華音が止める。
「ねえねえ、こっちにしようよ」
華音が指さすのは、併設の喫茶店。
まあ、ロビーで駄々こねられるよりもは良いか。
素直に喫茶店に向かう。
「いらっしゃいませ」と言いつつアラ?という表情のウェイトレス。
その表情に気づく蒔司。
しまった。ここまで話は広がってたか・・・。まあ、半ば公認となりつつある蒔司とフェルティ。当然かもしれない。
しかし、今更帰るとも言えない。
窓際に席を用意してもらう。
「ねぇねぇ・・・あの人って確かフェルティさんの「良い人」よね?」
「妹さんかしら?」
壁際でヒソヒソ話すウェイトレス達。
注文を受けてきたウェイトレスが一言。
「ジャンボパフェ一つとフルーツティーのアイス大。入りまーす」
そして二人分のスプーンとストローを準備する。
出てきた品を配膳すると・・・やおらテーブルの中央に並べる華音。
それぞれにスプーン二つ、ストロー二つ差し込み準備OKらしい。
「はい。どうぞ」
そのニッコリとした仕草にありがとうと答える蒔司。
「ねぇねぇ。あの二人、二人で一つのドリンク飲む気よ」
「うっそー。いくら姉妹で仲がいいって言ってもそこまでする?」
興味津々のウェイトレスたち。
目の前でニコニコしている華音。よっぽど嬉しいらしい。
だが、このレイアウトは・・・。
「どうしたの?いただきましょうよ」
そういうとパフェを頬張り始める華音。
「そうだね。いただきます」
そう言ってとりあえずはアイスティーのストローを口にする。
案の定というか何というか・・・。
蒔司が飲み始めるタイミングを狙って華音も反対側のストローを含む。
満面の笑顔で蒔司を見つめながら、アイスティーを飲む華音。
あはは・・・。
この後を考えるとアタマが痛い。
もう、どうとでもなれ・・・。
開き直って笑顔を返す蒔司だった。
「見て見て!ホラ!」
「あら~仲良く見つめちゃって」
「同じドリンクを、しかも二人同時に飲むかしら?普通」
「おかしいわよゼッタイ。あの二人何かある」
「でもあの子はどう見ても学生さんよ?」
「ちょっと調べてくるね」
素早くエプロンを脱いで出ていく人、ざわざわと話しながら二人を観察する残ったウェイトレス達。
そのざわめきに蒔司が気づかない訳が無い。
だが。
蒔司には、華音に対する負い目がある。
あの事件の後、警察署前のインタビューで、エイリィ署長が「一連のテロ」と言った。
それが本当ならば、華音の家族は蒔司のせいで、巻き添えになって亡くなったということだ。
目の前にいる華音。
明るく元気で、笑顔がよく似合う。ちょいっと暴走気味ではあるが、「身内を亡くした寂しさを埋める何か」を欲しているがゆえの行動だと思えば、蒔司にそれを責める権利はない。
フェルが怒る。それはそうだ。
別れを覚悟した時の悲しい顔を思い出す。
あの数瞬のフェルの唇の柔らかさを思い出す。
フェルの気持ちは多分・・・。
だが、華音を悲しませるというのは今の蒔司には考えられないことだ。
そんな権利、あるはずがない。
思わず見つめてしまった蒔司の目線に華音が照れる。
「いやだぁ。もう。そんなに見ないでよ~」
その割には嬉しそうだ。
「ね?アノ人とどっちが美人?」
また困ったことを聞いてくる。
「え~っと・・・華音はどちらかと言うと「可愛い」かな?そう簡単に比べられるものではないよ」
ぶーと膨れる華音。
「そりゃね、アタシまだ発育途中よ。でもゼッタイ追い抜いてやるんだから」
そう言って自分の胸を見る。スタイルで負けている事は自覚しているらしい。
アンネ達の病室。
「あれ」から30分は経った。ずーっと立ちっぱなしのフェルティ。余韻を楽しんでいるらしい。
「お楽しみの最中悪いんだが・・・」
ミーシャがフェルティの肩をポンポンと叩く。
キャッと飛び上がる。
「頼む。アンネのことも気にしてやってくれ」
優しく声をかけるミーシャ。
「あ、ごめんなさい!」
慌てて二人に頭を下げる。
「いや、まあ、珍しいモンを見せてもらったしな。別に責めている訳じゃねえ」
「だが・・・。蒔司にはちっとばかりお灸を据えんといかんな・・・」
一転して低い声で言葉を続ける。
「一緒に住んで、たったひと月で、別の、しかもあんなお子様に手を出すようじゃな」
「あ、あのね、蒔司は大丈夫だから」
「何だ?やけに信頼してるじゃねえか」
「うん。大丈夫。華音ちゃんはね、もう身寄りがないの。状況からいって、蒔司を頼ってきてもおかしくはないし、蒔司もそれがわかっているから・・・」
「何か最初の状態と随分違うな」
「え?・・・まあ、さすがに、あそこまであからさまに詰め寄られると・・・」
「まあ、いい気はしないか」
「うん」
コクリと頷くフェルティ。キスを受けた手を相変わらず包んだままだ。
実はそれだけでかなり満足してしまっているのだが、それはさすがに口にできない。
「ま、あのタイミングでキスを貰えるってのは、まあ、約束したようなもんだしな・・・」
そういうとニヤリと笑うミーシャ。
「ホント。ごちそうさまだぜ」
その言葉に再び赤くなるフェルティ。
「いつもなら「色んなキス」も出来るだろうに・・・まあ、既に欲求不満かね?」
更にからかうミーシャ。
色白というのはこういう時不便だ。赤くなってもごまかしようがない。
「ま、仕事としては、アンネも蒔司も同じ部屋ってのが良いんだろうけれど、正直、毎日今日のようなことが繰り返されるってんなら、やっぱり部屋を移すことも考えたほうがいいんでない?」
ミーシャがかける口調は柔らかいが、意味は厳しい。
「うん。ごめんなさい。なるべく早く移れるようにするね」
「その方が、いろーんな治療ができて良いだろう?」
再びにやけるミーシャ。
「ほ、ほどほどにねぇ~」
ベッドに潜り込んだままアンネが念を押す。
ま、本当に、ほどほどにしないと・・・他の患者さんにも迷惑だ。さすがに今日は騒ぎすぎだろう。
フェルティも華音が事件に巻き込まれてこうなった事に責めを感じている。
「アダム」を秘匿したがゆえに起きたこの事件。
華音に対してだけではない、もちろん、ミーシャやアンネに対しても、他の皆んなに対しても申し訳ない気持ちで一杯だ。
もうちょっと柔らかく華音に接するように心がけないと。と、自制の念が湧くフェルティだった。
だが・・・あそこまで積極的に来られると・・・複雑な心境ではある。
(もうちょっとはっきりしてくれても良いんじゃないの。一応私なりにアピールはしたんだけどな・・・)
ふっと、ハンガールームでの口づけを思い出す。
(つい・・・って・・・私って大胆?!)
赤くなったり白くなったりと目まぐるしく変化するフェルティの顔。
「フェ~ル~君。何を思っているのかね~?」
意地の悪いミーシャの声。
「あ、あの、大丈夫です何でもないです」
ちょっと焦ったようなフェルティの言葉にミーシャが肩をすくめる。
「こりゃ・・・あかんわ・・・」




