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ADAM  作者: 流風 生海
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自室にて(2)

 上着を脱ぎベッドに横になるように指示しながらフェルティは続ける。

「急な話ですよね~私もびっくりしちゃった。いくらなんでも早すぎるし、相手が悪すぎるわよ」

「やっぱり、そう思いますか・・・」

 あえて声のトーンを落として返す。

「そりゃあ、だって、彼らはこの基地どころか、南九州方面軍総数の中でのトップ3よ?隊長なんて単身でスライムの群れを潰す人だし。」

「スライムって言うんですか?「ヤツ」は」

「あれ?言ってなかったっけ?」

「なんにも聞いてませんよ。あんな化け物だってことも昨日初めて知りましたし」

「そっか。。ごめんね」

 言葉のわりには悪びれた風がない。

「大丈夫、最後は必ず誰かが助けてくれるから。今までもそうだったでしょう?」

 さらっと言葉を続けるフェルティ。

 昨日は最後は自力で何とかしたんだとは言わない。

 

「確かに・・・でも今日はその人たちとやり合わなきゃならない・・・」

「訓練だけれど、それとわかっててもやりにくい?」

 蒔司のの左手をぶらんぶらんと揺らし筋肉をほぐしながらフェルティが問う。

「まあね・・・」

「大丈夫!全力で思いっきり行ってらっしゃい!あなたが気にする必要は全くないのよ。それくらいあの人たちは桁外れだから」

「つまりはおもちゃにされてこいと?」

「そこまでは言わないけれど・・・ねえ、もしかして「勝ちたい」なんて思ってる?」

 今度は右手に持ち替えてちょっと意地悪っぽい声で聞いてくる。

「勝つ必要はないけれどさ、俺も全くの素人って訳じゃないし、それなりに相対できればなってね」

「素人じゃない?ってあなたのじだっつっと、銃は素人っぽいよね・・・」

 今のセリフ、何かを隠した!

 とっさに気づくがあえて突っ込まない。

「いや、剣の方ですよ。子供の時ちょっとやってて」

「あ、そうなんだ。隊長もアンネさんも昨日の立ち回り褒めてたものね。なるほど、そういうことかぁ」

 さらりと納得したようだ。

 

「じゃあアンネさんとやってみたいんだ」

「ええ。教えてくれるって言ってくれましたしね」

「ふーん。でも模擬戦よ?後ろにはミーシャさんもいるわ」

「ミーシャさんは、アンネさんの影に入れば・・・」

 と言うがいなや

「甘い!それ、即死のパターン」

 と、すかさず突っ込むフェルティ。

「ミーシャさんはねアンネさんの後ろからアンネさんの動きの隙間、装甲の隙間から狙って撃ってくるわよ。こちらのカメラからも死角になっているからアクティブバインダーも役にはたたないの。ほぼ確実にヒットされちゃう。」

「え?」

「あなたが二人を相手するには、必ずミーシャさんの銃口がカメラに写っている状況で戦うこと。これ大前提。」

 と言っておいて続ける。

「とはいってもいきなり銃口に身を晒して戦えなんて無茶よね~。ホント。姉さまも無理言うわ・・・」

 今度はうつぶせになった蒔司の背中にまたがり、肩からマッサージを始める。

 

 中々厳しい試練のようだと考えているとフェルティが口を開く。

「しかし、まあ、大きい背中よね。全体的な筋肉のバランスもいいし。そうそう。これが一つのポイントになるかもしれないわ」

 ひとしきり揉み終えて今度は計測を始めている。

 四角い懐中電灯のようなもので蒔司の体を照らす。反対側を覗き込むフェルティ。

「どういう意味ですか?」

 ちょっと気になる情報だ。

「あのね、BBって中の人間に合わせてチューンされているの。基本的に本人の動くスピード以上に動けないし、発揮する力も通常は装着者の筋力の30倍で抑えられてるの。だから高速移動はスラスターが必要なの」

「なるほど、つまり装着者の筋肉がそのままパワーやスピードの差になると」

「うん。だからうまいこと力で振り回せればそれなりに対抗できるかもしれないわ」

 こいつは貴重な情報だ。突破口になりうる。

 

 計測も終わったらしい。端末をいじる音が蒔司の耳に届く。

「あなたが初めてBBを身につけてからもうひと月たつのか~。結構成長しているのね。メカニックに伝えて微調整しないとそろそろ苦しいわね」

「調整?」

「ええ、BBはその構造上、一種の外骨格だから、駆動軸と関節の位置が合っていないとダメなのよ。特に肉弾戦のような激しい運動をする場合はね、可動範囲の制約も出てしまうし。ま、大丈夫、私がメカニックには伝えておくから。一応装着したあと、柔軟体操してみて。違和感なく動ければOKよ」

「色々ありがとう。頑張ってみるよ」

「うんうん。ほどよくほぐれたかな?」

 ベッドから降りて蒔司の顔を覗き込むフェルティ。

 可愛らしい笑顔だ。残念だが、この笑顔を裏切るのか俺は。

 じっと見つめていると、とたんにフェルティが顔を背ける。

「あのね」

「なんでしょう?」

「勝ち負けなんてどうでもいいから、とにかく怪我をしないように、無理はしないでね」

「大丈夫。模擬戦でしょう?」

「刃のついていない模擬刀でも骨折することはあるわ。特にアンネさんも、隊長も別格の人たちだから」

「骨折は辛いです。」

「うん。だから気をつけて。ね。」

 優しく念を押してフェルティが戸口へと向かう。

 扉を開けて振り返る。

「ありがとう」

 複雑な気持ちを敢えて一言に込める。

「どういたしまして。じゃあ模擬戦後に会おうね」

 ひまわりのような返事、笑顔の余韻を残して去っていった。

 

 

 ・・・さて、どうしたもんだろう?何か想像以上に厄介そうな感じだが・・・

 

 腕を組む。

 一応ペガサスの操作マニュアルは覚えている。やはりアクティブバインダーの使い方が肝になりそうだ。

 作戦が決まる。

 彼女たちの「本気」は知らない。残念だが。

 だが、それをも上回れる。そう思う。

 生半可な修行を積んできたわけではない。

 

 電話を取り、ペガサスのハンガールームにつなげて幾つかの指示を出す。

 後は俺の心次第。

 座禅を組み、すーっと深く呼吸をし、調息に入る。

 静かな、しかしピンと張った空気に部屋の雰囲気が変わっていく。


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