病室にて(2)
はあ。とため息を軽くついた後、ふいにフェルティに向かって言葉を投げつけるミーシャ。
「フェルよ、元はと言えばお前が蒔司を「その方向」に目覚めさせたんだ、ある意味、フェルにも責任はあるぜ?蒔司のケダモノ具合はともかくな」
え?私のせいなの?と自分を指差すフェルティ。ほらみろ言わんこっちゃ無い。
「まあ、怒る気持ちも分かるぜ。だが、ここはアネさんとして、もちょっと懐を深くしたほうが良いんじゃないかい?」
そう言うとボックスから華音を引き上げるミーシャ。ぶらーんと下げた華音をじっくり観察する。
「悪かったな、お嬢ちゃん。・・・しかし、こういうのも蒔司の好みか・・・」
ふと、アンネと華音の間を視線が行き来する。そして驚いた顔をするミーシャ。
華音のソバカスの残るあどけない顔、これから成熟するのかも知れない起伏の乏しい体つき。
次にアンネに目を向ける。
おもいっきり童顔の顔、成熟することのないフィルマの体つき。
「お、おい・・・アンネ!お前早く病室移れ!」
「え?」
きょとんとするアンネ。
「分からんのか?蒔司の「許容範囲」にはお前も含まれるぞ?!」
「許容範囲?」
「次はお前の番だ!」
その突然のミーシャの断言にだぁっと突っ伏す蒔司。
「ええ?!アタシ?!」
慌てて布団を首まで手繰り上げるアンネ。
「ミーシャ。頼むからこれ以上話をややこしくしないでくれ」
脱力感いっぱいの蒔司の声。
「いや、そうもいかん。ある日病室に来た時に3人でねんごろにやってた日にゃあ、俺の居場所がなくなる」
言い切るミーシャ。
「そ、それは、いくら何でも話の飛躍しすぎじゃない?」
ちょっと怯えた声のアンネ。
「お前は今身動きがとれん。そこに「攻めのフェル」と「攻めも出来るようになった蒔司」がいるんだ。寝込みを襲われたりしたら・・・免疫のないアンネなんか一発で篭絡されるぞ?」
「ひょぇ?!」
思わず体を小さくするアンネ。もはや布団から目をのぞかせるだけになった。
「ちょっと待った!」
声が揃う蒔司とフェルティ。
「いくら何でもそれは言いすぎです!」
顔を真っ赤にしてフェルティが抗議する。
「だが、可能性は否定できん」
「そんなこと無いってば!アンネ、間違っても君を巻き込んだりしないから安心してくれ」
とりあえず事態の収拾を図りたい蒔司。
「・・・華音さんには間違ったの?」
ドキドキしているアンネ。
「その場限りの間違いじゃないもん!」
相変わらずややこしい表現で自己主張する華音。
「いい加減に放して!」
頬を膨らまして抗議する華音。
「ん、ああ。」
転ばないよう、すっと華音の足が床に付くまで下ろしてから手を放す。
自由になった華音。蒔司のベッドに上り、ぴったりと体を添わせる。
はあ・・・この状況・・・どうやったら収まるんだ・・・。
華音がアンネを見つめている。
「この人・・・フィルマ?」
「ああ、そうだよ。ここを守りぬいて大怪我をしたんだ。華音。今BBを装着しているこのお姉さんもそう。二人共華音の家族の仇を取ってくれた偉い人なんだよ。お礼を言わなくちゃね」
蒔司が誘導する。
「そうなんだ・・・。二人共ありがとうございました。」
急に素直になる華音。ペコリとふたりに頭を下げる。
「オンボロって言ってごめんなさい」
「おう。思ったよりも素直じゃねえか。」
「ベッドのお姉さんも、ありがとうございました。それに・・・蒔司の心配はいらないですよ。確かに、蒔司の好みそうな顔かも知れないけれど、アタシのおっぱいには未来がありますから」
その華音の言葉にかっくりと肩を落とす蒔司。一言余計だ。
「え、え~っと、ありがとう。でいいのかしら?」
引きつった声で返事するアンネ。
「蒔司よお・・・いくら行きずりって言っても、もうちょっと考えろよ・・・」
肩をすくめるミーシャ。
「この子は難物だぜぇ?」
何と言って返せばいいのだろう?・・・。
口を開くほどに悪化している気がする蒔司。
華音とは反対側のベッドのヘリに腰掛けるフェルティ。
「この子は私達で何とかします」
穏やかな顔を見せる。だが。目が・・・怖い・・・。
蒔司を挟んで顔を合わせる二人。お互いに妙に余裕のある顔をしている。
しかし。
「火花を散らす」とはこういう事なんだろうか?
何かしらの「気」のぶつかり合いを感じる蒔司だった。
「ミーシャ・・・」
アンネが布団から手を出して招く。
スーッと近寄るミーシャに耳打ちする。
「ん?」
「何だか怖いよ。この空気」
「ああ。こりゃ、落ち着いて治療に専念できる環境じゃねえな」
「さて」
妙に刺のあるミーシャの口調。
「そこのお三方、仲良くしているところ申し訳ないんだが・・・そういう仲の良さは、アンネに良くないとは思わんかい?」
しごく、ごもっともな言葉である。
ふむ・・・この場合・・・。
うむ、後でフェルに怒られるとするか・・・。
「華音、ちょっとジュースでも飲みに行かないかい?」
「ダメです!蒔司、自分の体の事本当に解ってるの?」
当然のごとく反対するフェルティ。
「大丈夫だよ、ちょっと車椅子で行ってくるだけだよ。ほら、華音ちょっと降りてくれるかい?」
「デーェト、デーェト!」
ごきげんな顔ではしゃぐ華音。
「そうだ、アタシの病室に行こうよ。お布団もあるし。」
意味深な提案をする華音。
「なんでわざわざジュースのために、民間の病院まで行かないと行けないの!もちろんダメです!」
「あっちには貴女は必要ないもん。良い提案でしょ?貴女はそちらのフィルマのお姉さんの相手をすればいいじゃない」
「第2回戦」の始まりを予感する蒔司。
「まあ、まあ、華音、さすがにあそこまで遠くには行けないけれど、うん、そうだな、ロビーででもちょっと話そう」
「え~っ」
ぷくっと膨れる華音。子供らしい、可愛さの残る不満顔だ。
「でも、ここでいつまでも言い合っても仕方ないよ?」
そう言って蒔司がリモコンを操作し車椅子に体を移す。
「ほらね?こうやって機械任せで行けるんだから、そんなに体に負担はないよ」
そう、フェルティに告げて同意を求める。
「仕方ないわね。わかったわ」
フェルティもベッドを降り、車椅子に向かって歩こうとする。
すかさず車椅子の押し手を掴む華音。ニコリというかニヤリというか、意味深な笑顔をフェルティに向ける。
「だ~いじょ~ぶですよ。貴女はもう一人の方をドウゾ」
こんのぉ~。口の中で言葉にするフェルティ。
「フェル。大丈夫。ちょっと待ってて」
「私に来るなと言うの?」
「フェル。君も、ロビーで油を売っているように見られたくはないだろ?大丈夫だよ。大勢の居る所でさすがに事件は無いでしょ」
うう~と唸るフェルティ。不満一杯の顔だ。
仕方ない。ロビーで大騒ぎされるともっとややこしくなる。
・・・こういう方法はやりたくないんだが・・・。
「あれ?華音、何か落ちてるぞ?」
「え?」
何?と華音が下を向いた隙。
すっと手を伸ばしフェルティの左手を取る。
指先を軽く掴み、手元に引き寄せ、その甲に軽く口づけをする。
その瞬間、フェルティの時間が止まる。
一瞬の固定された時間の後。
ポンっと赤くなるフェルティ。うわぁ~といった顔をするアンネとミーシャ。
「無いよ?な~んにも」
「あれ?見間違えたかな?ま、いいさ。行こう。華音」
そう言ってリモコンで動き出す車椅子。
赤くなって突っ立ってるフェルティに向かって軽く舌を出し、後に続く華音。
こうやってとりあえずは状況を打開することに成功した。
二人が室外に消えても突っ立ってるフェルティ。
ゆっくり動き、しげしげとキスを受けた手の甲を見つめる。
赤い顔のまま、そっともう片方の手で包む。
その後姿を見て。
「タラシだ・・・蒔司のやつ・・・よく解ってやがる・・・」
「ま、まあ、一緒に暮らして長いものね・・・にしても蒔司さんって大胆ね・・・まるで跪いてお姫様にキスをしているみたいだったね」
ヒソヒソと交わすミーシャとアンネ。
「ああ。蒔司にああやって迫られたら確かに心が揺らぐ奴も多いんだろうな・・・」
「じゃあ華音ちゃんも・・・?」
「多分、ああいう方法で落としたんだろうな・・・子供ってのはお姫様願望ってのが強いからな・・・」
盛大な勘違いで納得する二人であった。




