病室にて(1)
何やら廊下が賑やかだ。
というか軽い言い争いのような声。
蒔司は気づく。
一人はフェル、もう一人は・・・華音だ。
「だから邪魔しないでって言ってるじゃない!」
「何度も言わせないでっ!蒔司さんは治療中なのよ?!私が居るのは義務なの!」
「信用出来ないわ。だって蒔司が入院したことも教えてくれなかったじゃない!」
「だから、その時間が無かったって。もう」
「うそっ。入院している間に攻め落とすつもりだったんでしょう?」
言い合う声が近づいてくる。
うん。参ったねこれは。頭を掻く蒔司。
部屋に入るなり蒔司を確認し飛びつく華音。
「蒔司っ!会いたかったーっ!」
抱きついた後いきなり唇を突き出す。キスを求める華音。
「お、おい。華音」
「こんにちわのチューちょうだい」
あまりの出来事に声がでないアンネ。
「華音。落ち着け!頼むから!」
「華音ちゃん!それはないでしょ!それは!」
フェルティもつい大声で抗議する。
「良いじゃない。会えなくて寂しかったんだもん。「おわび」ちょうだい」
そう言って目を閉じさらに唇を突き出す華音。
「ま、蒔司さん・・・この子・・・も・・・ですか?」
ようやく口にするアンネ。
「あ、いや、アンネ、これは、その、何だ行きずりというか行きがかりというか」
「い、いきずり?!こんな子供も襲っちゃったんですか?!」
「いや、違うって!こら華音!頼むからやめてくれ。人がいるぞ他にも」
「そうです!おふざけはここまでにしなさい!ここは病院よ」
そう言うと華音の襟をむんずと掴み引き剥がすフェルティ。普通を装っているが明らかに余裕が無いといった風だ。
「や~だ!責任とってくれなきゃや~だ!」
微妙な言い回しで駄々をこねる華音。
「せ、責任って・・・」
目を丸くするアンネ。
(ほぇ~・・・本当は蒔司さんってケダモノ・・・?)
フェルティの手を振りほどいた華音が、再び蒔司にアタック・・・とはいかなかった。
「何だ?騒々しいと思って慌てて来てみれば・・・このオチビちゃんは?」
ボストックの手で、華音の首根っこを掴みぶら下げるミーシャ。
「何よ!離してよ!このオンボロ!」
その言葉に引くついた顔になるミーシャ。
「おうおう、オチビちゃん。そのオンボロに首根っこをひねって欲しいかい?」
目の前に吊り上げ怖い笑顔で睨みつける。目がマジだ。
「ちょっと待った!ミーシャ落ち着いて!華音!お前も謝れ!この機体はこの枕崎を守りぬいたとっても大事な機体なんだぞ!」
慌てて声をかける蒔司。
それでもミーシャを睨みつける華音。全く度胸がいいというか、無鉄砲というか・・・。
ゴロゴロとフェルティが、取り替えたシーツを入れるランドリーボックスを運んでくる。
おいおい。
「ミーシャさん。とりあえずここに」
フェルティも容赦がない。
「ん」
フェルティが蓋を握っている。
華音を一瞥するとそのままランドリーボックスの上に。そして手を無造作に離す。
キャッという声と共にバスンとボックスに収まる。
「ちょっと、頭を冷やして。ね?」
ボックスの中に向かってそう言うときっちり蓋を閉じてしまうフェルティ。
「おーい。いくら何でもその扱いはあんまりでないかい?」
そう二人に声をかけた蒔司だが、二人に睨みつけられて気持ちが萎える。
「ちーっとばかし説明を貰えますかな?少尉様」
ミーシャの目が怖い。
ボックスの中でモゴモゴ言っている華音。だが大量のシーツにくるまれ良くは聞こえない。
えーと。と蒔司が言葉を選ぶ合間にアンネが勝手に答える。
「あのね、どうやら蒔司さんが「行きずりになった子」が「責任とって」って押しかけてきたの」
「い、いきずりって蒔司、お前こんなお子様まで手を出したのか?!」
「ちがーう!アンネ、頼むから勝手に解説しないでくれ!」
ガタンと蓋が開く。とっさに抑えようとするフェルティ。だが、その隙間から華音が一言。
「私の旦那様をいじめちゃダメ!」
瞬時にミーシャがドンと拳で蓋を叩きこむ。
いったーいという声がボックスから漏れる。
「だ、旦那様だと?一体どういう調教プレイをしたんだ?!」
ものすごい形相になるミーシャ。
「蒔司さん。貴女の趣味嗜好をさ、とやかくは言えないよ。でも、「責任とって」と言われたら取らなきゃ」
蒔司の説得をはじめるアンネ。
「だから、頼むよ。この問題は結構複雑なんだ。なあフェル」
フェルティはそっぽを向いている。
ああ、孤立無援・・・。
「お前、フェルじゃ飽きたら無くなったのか?それとも本当はこういうガキンチョが好み?」
「いや、だから、華音とはたまたまで・・・」
「たまたまで手をつけたのか?そこらにいる誰でも良かったのか?」
「違うって!なあ、フェル、お前の口からも言ってくれよ」
懇願する蒔司。
ふうと溜息ついてフェルティが口を開く。
「この華音ちゃんは例のテロ、マンション爆破事件の被害者よ。彼女の家族の中で生き残ったのは華音ちゃんだけ。それでも危険な状態で、意識が戻らなかったの。それをひょんな事から蒔司がお手伝いする羽目になって。んで、意識が戻ったらこうなったと。まあ、何だかおかしな事よ」
その言葉を受けて、ふむと、ミーシャが腕を組む。
「つまり・・・このオチビちゃんは・・・蒔司に寝ている所に手を付けられて・・・こうなったと?」
蒔司にはその言葉を否定する間も与えられない。
「そうよ。ねえ?お互いに体をじっくりと眺めた間じゃない?」
ボックスの蓋に隙間を開けそこから抗議する華音。
「俺は君に見せたつもりはない!」
「見た事は否定しないんだな?」
「それは、本当にたまたま・・・」
「たまたま、じっくり見てたわよねぇ?」
細い目でじろりと蒔司を見るフェルティ。
「じっくり?」
「あーもう!どう言ったら良いんだ?!」
「責任とってくれればいいんですぅ~」
またもや蓋の隙間から華音の声。
「何にせよ、蒔司が危険な人物というのは理解した」
「そういう理解はやめてくれ・・・頼むから」
「いや、蒔司、そういう無責任な発言は良くないぞ」
「そうよそうよ」
ボックスの隙間から華音が同調する。
「若くて綺麗な体を差し上げますって約束したんだから!」
その言葉にぎょっとする面々。
もう・・・どうしたら良いんだよ・・・。




