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ADAM  作者: 流風 生海
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償い(7)

 しばらくして、頭も興奮状態から抜けだしたのだろうか。何か閃いたようだ。

 「あっ!・・・彼って?どうして?・・・アダム?・・・彼?・・・フィルマじゃない・・・えぇっ?!」

 何かに開眼したかのごとく、目を見開く尚子。まじまじと葉月を見つめる。

 「まさか・・・嘘・・・でもそう考えれば・・・そんな・・・本当なんですか?それが秘密なんですか?!」

 「言うな。頼むから」

 その葉月の言葉は言外に認めるという言葉だ。

 「もちろん、これは言えないです・・・ですが、何故、彼がここ、いえこの時代に?」

 「それは不明と言った方が良いのだろうな。私にも良く分からないのだよ」

 「このことは他に誰が・・・フェルティさんと特務の皆さん?」

 「フェルティはもちろん知っている。だが、アンネたちは知らない・・・この中隊の中で知ったのはお前が最初だ」

 「特務も知らないんですか?・・・それはあんまりでは?」

 「彼女たちに余計なリスクを背負わせたくない。もちろんお前もだ」

 その言葉ににじみ出る葉月の思い。

 尚子にはそれが十分に理解できる。上に立つ者だけが背負う責任と部下への深い思い。


 それが伝わったからこそ、尚子を動かすものが出てくる。

 「先ほどは申し訳ありませんでした。今まで本当にありがとうございました。ですが私は知ってしまった側です。それを踏まえてお願いがあります」

 「何だ?言ってみろ」

 「私にも手伝わせてください。お願いします!」

 深々と頭を下げる尚子。

 「だから、それはリスクが大きいと・・・」

 「何も知らず死んでいった仲間へのこれが最高の償いです。そうです。エイリィを監視されているのでしょう?当然。その役目を私にください!」

 言葉の迫力に押される。迫る思いを感じ取る葉月。

 「償いか・・・。・・・良いだろう」

 そう言うとデスクに向かう。

 引き出しから小型の端末と棒状の何かを取り出す。

 応接テーブルに広げる。

 次いで上着のポケットから取り出された銀色の小さな箱。それも並べる。

 「この端末で24時間いつでもエイリィの思考記録が閲覧できる。全て記録に残っているので時間を見つけて閲覧すれば良い。音声は無い。思考データであるから暗号化される心配も嘘をつかれる心配もない」

 「なるほど、効率的な監視方法ですね」

 「ああ、更にコイツを渡そう。エイリィの脳波発信器に付けた爆薬の爆破スイッチだ。これひとつ押せばエイリィの首から上が吹き飛ぶ。取り扱いに注意せよ。エイリィには裏切りの兆候が見られたら即座に押すと言ってある」

 棒の先端を開くとそこにはボタンがある。つまり、これ一つにエイリィの命がかかっている。そういうことか。

 「これを、エイリィを自由に殺す道具を私に預けるのですか?」

 「今すぐ押してしまいたい気持ちは分かる。だが、そういう任務だ」

 唇を噛み締める尚子。それはそうだ。殺したいほどの相手をいつでも殺そうと思えば殺せる。だが、それを自制しろと言われているのだ。


 だが、それをずっと耐えて、更には自分のような者からの責めも受けて、それでもここに居る葉月のことを思うとそれはできない事に気づく。

 目をぎゅっとつぶり口を噛み締める尚子。

 一瞬固く閉じられたまぶたから涙が一粒搾り出される。

 「中隊長。苦しいですね」

 覚悟を決めた。そう表情に書いてある。

 「ああ。自分との戦いの任務でもある」

 ふいにこぼれた葉月の、その言葉を聞いて吹っ切れたように思う尚子。自分は間違っていなかった。そう感じる。

 葉月に親近感を感じる。本当は葉月もこのボタンを押したくてたまらないのだと気づいてしまったから。

 「中隊長。これで良かったです。これはかなりきつい任務だと思います。だからこそ、そこを肩代わりできるのかと思うと、これで少しはお役に立てるのかと思えます」

 ようやく顔がほころんだ尚子を見て葉月も胸を撫でる。

 そっと尚子の頬に手をやり、残っている涙の残滓を拭ってやる葉月。

 その仕草から伝わって来る葉月の優しさ。この人の部下で良かったと、そう自然に思える。

 「苦しい任務だが、頑張ってくれ」

 「はい。私にふさわしい任務です。これは」

 「その言葉には救われるよ本当に。私は部下に恵まれている。尚子、お前ももちろんだが、本当に皆には感謝している」

 右手を差し出す葉月。

 両手でギュッと握り返す尚子。

 「頑張って中隊長を支えます。これからも。ですので、決して無理はしないでください。時期が来たら他の隊員に話すのも方法ですよ?隊員全員をを代弁する立場ではありませんが、でも、きっと皆んな同じ思いのハズですから」

 「つくづくというか、重ね重ね感謝する。それと、これを持って行きなさい。緊急時に連絡をつけるイヤホンマイク兼発信器だ」

 銀色の小箱を開けるとそこにあるのは小さなイヤホン。それは肌色で耳にすっぽりと収まる構造だ。

 横に並んでいるのは、何の変哲もないシルバーの指輪に見える。

 「これから発信される電波はこのコロニー内部ならダイレクトに届き、私に通じる。特殊な周波数で暗号化もされているから、誰かに効かれる可能性もない。勿論完全防水だから、極論、水中でもお前が口の中で言葉にすれば私に通じる。通話スイッチは指輪を2回叩く。これだけだ」

 「ありがとうございます。万が一でも、私が襲われこの端末を奪われたら大変ですね。もちろん十分気をつけますが、これはお借りして常に身につけさせてもらいます」

 「ああ。だが、難しい事、怪しい事があったらすぐに言いなさい。自分を必要以上に危険に追い込まないように。な」


 ふうと一息いれてすっきりした顔になる尚子。

 「今日は重ね重ねの無礼申し訳ありませんでした。でも、おかげさまですっきりしました。これからもよろしくお願いいたします」

 そう言って頭を下げる。

 「こちらこそよろしく頼む」


 こうして明るくなった雰囲気に包まれて「面会」は終了した。



 だが、室外に消えていく尚子の背中を見つめる葉月の目線が悲しげだ。

 上を向き、目を閉じる。脳裏に浮かぶ散っていった者たち。

 (私はどのような償いをせねばならぬのだろう・・・)

 もちろんそれに答えるものはいない。

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