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ADAM  作者: 流風 生海
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償い(6)

 端末にコールが入る。

 尚子からだ。

 そうだ。私には彼女に説明する義務も残っている。

 尚子にしてみれば主犯として逮捕したはずのエイリィが、仲間の仇が大手を振って居るのだ。きっと苦しんでいるに違いない。

 「葉月だ」

 出るはずの言葉が出ない。

 「中隊長。誠に僭越だとは思います。けれど・・・」

 悔しさと共に涙を浮かばせる尚子の顔。

 「わかっている。済まないが私の部屋に独りで来てくれないか?」

 「了解しました」

 そう答えて画面が閉じる。



 正直に言って、葉月もしんどい。

 チャイナとの事件の後一睡もせずに全てを取り仕切ってきた。怒涛のように次々にやってくる案件を処理してきた。

 他にできる者がいないからというのもある。

 だが、「原因が自分にある」と言う事、そして、結果的に「基地を裏切っている」という責めが葉月を駆り立てていた。



 私は尚子から告発されても糾弾されても文句の言えない立場にある。

 よくぞ我慢してくれた。

 ドアがノックされる。

 いざとなると心の準備に時間がかかるものだ。

 再びノックされる。

 「入ってくれ」

 ようやくそれだけ口にする。

 ロックが解除され、ゆっくりと扉が開き、尚子が入ってくる。うつ向いたままだ。そのまま扉を閉じる。


 執務席から立ち上がり、尚子を迎える。応接セットへ座るよう促し自分も腰掛ける。

 うつ向いたまま座る尚子。目線を合わせようという気配もない。

 「尚子。すまなかった。今まで良く我慢してくれた」

 その言葉に堰を切ったように泣き出す尚子。よほど身に堪えたのだろう。大声で泣きじゃくる。

 「すまなかった」

 再び頭を下げる。

 「それは、私にじゃない、亡くなった皆に言ってください!」

 厳しい言葉が飛び出す。

 「すまない」

 「何でっ!何でエイリィが野放しなんですか!何で私達をこんなにした張本人がなぜあんなに元気でいられるんですか!」

 下を向いたままで飛び出す責め句。

 尚子の言葉が突き刺さる。胸が苦しい。

 膝の上に握りしめた手の上を流れ、スカートに大きなシミを作っていく尚子の涙。大きく震わせる肩。


 尚子の言葉、振る舞いが葉月の心にのしかかる。

 自分が解放されると悟った時のエイリィの嫌らしいしたり顔が脳裏に浮かぶ。

 私は・・・。


 「私だって好きで開放したのではないっ!」

 つい大きくなる葉月の声。

 その声に驚き、初めて顔を上げた尚子の目線の先には「必死で平静を装っているようにしか見えない」葉月の顔があった。

 「中隊長・・・何故ですか・・・中隊長は話すと約束して下さいました・・・」

 搾り出される言葉。

 「知ったらもう後には引けない。お前も危険に晒される可能性も増える」

 「いいえ。もう遅いです。皆もあの日縛り上げられて中隊長に担がれて入っていくエイリィを見ています。皆も口にこそしませんが、今回の事件とエイリィの関係を疑問に思っているはずです」

 言われてみればその通りだ。

 そうか。機密扱いであるがゆえに皆に何も喋らない尚子。それに対する周りからの無言のプレッシャー。

 さぞかし苦しかったろう。


 葉月は悩む。懊悩といってもいい、心が捩れるような苦しさだ。この場で明かすことの危険性を恐れる自分と部下に対して説明責任を果たさない事を責める自分。

 口を開かない葉月を泣きながら待つ尚子。見つめる目から流れ続ける大粒の涙。

 あまりにも口が堅い葉月に徐々に焦れてくる。

 「そんなに危険な事なんですか?」

 「・・・ああ。下手するとこの基地の存亡がかかる」

 その迂遠な言い回しに尚子が噛み付く。

 「もうなりました!いっぱい、いっぱい死にました!」

 涙を流しながら葉月を見つめ、半ば叫ぶように訴える。

 そのストレートな言葉にたじろぐ葉月。

 「私は亡くなった皆んなに何と言えばいいのですか?大怪我をした皆んなに「お陰様で主犯は無事だ」と伝えればいいのですか?墓前に主犯を守ったと誇れとおっしゃるのですかっ!」

 愚かなまでのその問いに為す術を見いだせない葉月。

 ぼろぼろと零れる涙を拭いもせず、しゃくりあげながらも、それでも葉月を見つめ続ける尚子。


 「いや。・・・アダムだ」

 ついにぽつりと口にする葉月。

 「宮本少尉ですか?!」

 いきなり飛び出してきた葉月の言葉に驚きを隠せない尚子。

 「どういう意味ですか?私達が守ったのは・・」

 「アダムだ」

 尚子の言葉に繰り返す葉月。

 「どうして・・・むしろ私達が少尉に助けられているではありませんか。彼女には助けられてはいますが、私たちは彼女に何も返せてはいません」

 「いや、今回の事件で彼を守ったのは間違いない」

 「・・・彼?どういうことですか?」

 「そこまで話すと本当にお前の身が危ない」

 一つ言葉を区切って話しを続ける葉月。

 「蒔司は秘密を持っている。私達上層部はそれを密かに守るように命じられてきた。今回の事件はその秘密を狙った犯罪だった」

 「例えそうだとしても、それでエイリィを釈放する理由にはなりません」

 涙を拭い葉月を見つめる。

 「エイリィはここには居ない敵のバックとの連絡役だった。敵が再度攻撃してこないようにするため、エイリィ自らの手で今回の作戦が「無事に失敗した」と言う事を知らしめる必要があったのだ」

 「言っている意味がわかりかねます」

 「敵の狙っていた蒔司の秘密自体が「ガセネタ」だったと知らせる役割をエイリィは担っている。今後の敵の動きを監視する役目もな」

 「つまり・・・エイリィを二重スパイとして釈放したということですか?」

 「そうだ」

 結局喋ってしまった。

 だが、それが正解だったのだろう。

 徐々に落ち着いてきたような尚子の様子。



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