償い(2)
4機しかない現存機をどうやって回すかなどの協議を行い、小隊が散っていく。
「じゃあ、「俺の機体」を取りに行くついでにちょっと顔を見てやるよ」
ミーシャがニヤリと笑う。
「それまで始めんなよ。って安静中か」
目線が蒔司に向いている。
「おいおい。勘弁してくれよ」
なんとも歯切れの悪い蒔司。
「あのう・・・アタシ病室移ろうか?」
これまた困った提案をするアンネ。
服を脱ぐ場面が出てくる以上、正直アンネと同室は難しいものがあるのは確かだ。
だがしかし・・・このタイミングでハイとは言えない。
却って病室移動が難しくなったと感じる蒔司。
「あのね、本来、士官が二人部屋って無いですから」
両手を腰に当て、さも当然と言わんばかりの言葉で助け舟を出すフェルティ。
「今は病室が一杯でこうしてるけれど、空き次第二人共個室になるわよ」
「そうなのか~?」
意地の悪い言葉のミーシャ。
「そうです!」
ちょっと膨れた頬で抗議するフェル。
「まあ、そういう事にしとこう・・・どうでもいいが・・・アンネは巻き込むなよ?」
「ほぇ?」
いきなり自分に降ってきた話題にとぼけたように自分を指差すアンネ。
「アンネはまだまだネンネちゃんだから「そういうの」は早い」
キョトンとした顔の後赤くなるアンネ。
「え・・・?あっ、そ、そういうのって、いやアタシ早いも何も、あ、いや、それがおかしいとか、変とか、そういうのじゃなくって・・・」
手を大きく振るアンネ。どちらに気を配ればいいか困った顔。
「ミーシャさん。怪我人に意地悪しないの。」
フェルが軽く睨む。
「まあ、まあ、いいじゃないか。これ位。じゃあ切るぜ」
そう言ってモニターが切れる。
どうにも落ち着かない空気の3人の病室。
それに、実は困ったことがある・・・ずーっと我慢してきたのだが・・・やはり点滴を打つと水分が・・・。
とどのつまりトイレに行きたい蒔司。
起き上がろうとするたびにフェルに睨まれて、とりあえずは我慢してきたのだが。
仕方ない。背に腹は代えられぬ。フェルの手を引きたぐり寄せる。
その二人の動きにビクッとするアンネ。
(ほぇぇっ、本当に始まっちゃった?!)
寝返りをうてないのでとりあえず目をギュッと閉じ何やらつぶやき始める。
{フェル・・・すまない。トイレに行かせてくれ}
こっそり耳打ちする蒔司。
「え?あ。ゴメン。早く言ってくれればいいのに。準備してあるわよ。んで、どっち?」
ささやくような会話の二人にその声が聞こえまいと呟く声が大きくなるアンネ。
{いや、頼む、せめてトイレだけは行かせてくれ}
これまた耳打ちで懇願する蒔司。
「ダーメ。」
「お願い。頼むよ。少しだから」
「ダーメ」
「すぐ終わるって」
徐々に大きくなる蒔司の声。
アンネにもその会話が耳に入っているのだろう、赤くなっている。つぶやきが大きくなる。
(準備って何?フェルちゃんもやる気満々なの?!じらしてるの?)
ん?
「アンネ?何を言っているんだい?」
「般若心経です。大丈夫です、二人の様子は見えてないし、聞こえてもいません」
おかしなアンネの回答。
何か互い違いの会話。
首を傾げる二人と一生懸命「勘違いの世界」から耳を閉ざそうとするアンネ。
いい加減我慢も辛くなってきた蒔司。
「フェル。ゴメン」
そう言うとフェルティをベッドに引きずり倒す。
キャッという声と共にベッドに人が倒れこむ音がアンネに聞こえる。布団を頭から被り、 最早大声となって「般若心経」を唱えだす。
フェルティを引き倒してその隙にベッドから脱出する蒔司。
「んもーぅ」
ベッドに倒れ込んだフェルティがごそごそ動く衣擦れの音。いよいよ「聞いてはいけない世界」に入ったと勘違い真っ最中のアンネ。
「アンネさーん」
フェルティから呼ばれる声。
もしや・・・自分も混じれと?
毛布の下で一生懸命首を横に振る。
そのもぞもぞとした動きの意味がわからないフェルティ。
しばし観察する。
この子は何がしたいんでしょう・・・?
ふと、アンネの肩が気になる。痛みが出ているのかもしれない。
すっとアンネのベッドに異動し毛布に手をかける。
驚いて飛び上がる猫のように最大限の「ビクッ」としたアンネの動き。
「あっ、えっ、えーとっ、フェルちゃん、私は間に合ってますから!」
ん?首を傾げるフェルティ。痛いとか苦しいとかそういうものではないらしい。
ガシャンガシャンとBBの足音が近づいてくる。恐らくはミーシャだ。
「ほ、ほら、ミーシャが来ちゃうよ」
「そうみたいね。で、それがどうかしたの?」
優しく声をかけるフェルティ。
(ミーシャも混ぜる気?!あ、いや、その前にアタシも?!)ますます毛布を強く握るアンネ。
そうだった、夜這いをかけた、リードしたのはフェルティ。いよいよのっぴきならない状況になった、そう思うアンネ。
「ア、アタシは多分美味しくないです、フェルさん」
言葉遣いがおかしい。
そのアンネの言葉に、何が言いたいのかわからないフェルティ。
BBの足音が近くで止まる。
「よっ!ん?蒔司は?」
ミーシャの声。
(え?蒔司さん居ない・・・?)
「ほ・・・ほぇ?」
毛布から首だけ出して蒔司のベッドにきょとんとした視線を移すアンネ。空っぽのベッド。その先にはヘルメットを小脇に抱えているボロボロのボストック。ミーシャが首を出している。
「ん?アンネ起きてたのか。蒔司はどこに行ったんだ?」
「蒔司はお手洗いに行ったわ。ホントにもう。安静なのに」
膨れた顔でフェルティが答える。
「ほぇ?おトイレ?」
「何だ。意外に恥ずかしがり屋だなアイツも」
やっと納得したアンネ。
「あーそういう事!」
アンネの思わず出た声が大きい。
「アンネさん。どういうこと?痛いとか苦しいとかじゃないの?」
心配そうに顔を覗き込むフェルティ。
「・・・何でもないです・・・」
勝手な思い込みで勝手に顔を赤くするアンネ。
「おい、アンネ。本当に大丈夫なんだよな?」
ミーシャもちょっと心配顔だ
「顔が赤いわね。熱が出たかしら?」
ポケットから体温計を取り出すとアンネの耳をつまもうとする。
「え、いや、大丈夫!本当に!ほら!」
と、手を大きく振り拒絶するアンネ。
それを無視してセンサーで耳の中をピッと計るフェルティ。データを検索してアンネの平熱と比較する。
「ふーん。ちょっと高いかな。でもまあ、薬を使うレベルではないわね」
それはそうだ。本当の意味での発熱ではないのだから。
「だからアタシは大丈夫だって・・・」
「いや、だって行動がおかしいし・・・何か不都合なことあるの?」
「えーっと、ま、まあ、さすがにアタシもおトイレが辛いかな?」
「そうなの?」
完全に身動きが取れないアンネは自動処理装置につながっている。別に音もしないし不都合はないはず。と思うフェルティ。
要はこの世界、「男性用の装置」がここに無いのでこういう事が起きたと言う事なのだが。
蒔司の治療にあたっては専任のスタッフがあたっている。機密がバレないように。
本当ならラボに移したい所なのだ。設備もそちらなら十分揃っている。
だが、もうすでに蒔司はこの世界の住人。蒔司だけラボでという理由が引き出せないため、ここに居るのだ。




