償い(1)
緊急ブリーフィングが開かれたのは日付が変わってからだった。
新しい部隊編成に皆驚く。
葉月が第一小隊長、第二小隊長も兼務するというのだ。
この部隊は24時間交代の部隊だ。つまり本当に葉月には休みがない。
盛んに意義を唱える隊員たち。不平ではない。葉月のことを思えばこそだ。
「大丈夫だ。私は基本的に司令室でゆっくりしている。いざというときに動く。そういう事だ」
努めて周りを落ち着かせようとする葉月。
「大体だな、そもそも現在定数に達している小隊はどこにもないのだぞ?ボストックにしたって4機しかない。ただ見ているだけの隊長なぞ私で十分だろうが」
「ではローテーションに私達も加えてください」
ナリアが口にする。
「そうです。今は私の小隊も動けません。ならば皆んなで交代で入り口防衛につくのが妥当だと思います」
第四小隊長エンリケも言葉を揃える。
「気持ちはありがたい。だが」
その言葉にモニター参加の蒔司が割って入る。
「隊長。アンタはまたそうやって自分で抱え込む。部下を上手く使うのも上官の役目だろう?」
内容の割には優しい話し方だ。
「方法として、一班と二班の間と後ろに三班と四班を挟み込む。つまり1,3,2,4。この順番で回すのが正解じゃないかな?」
その蒔司の言葉を聞いて頷く隊員たち。賛同の声が上がる。
それを見て、ふうと一息入れる葉月。軽く肩をすくめる。
「ふむ。良いだろう。蒔司少尉の案を採用させてもらおう。それで良いか?」
「ハイッ」
「待て!」
合意で声が揃う中で独りだけ異論をはさもうとする隊員。
ミーシャだった。
「俺だけ除け者ってのが気に食わねえ。隊長。約束が違うじゃねえか」
葉月を睨みつける。
「お前に与える機体が無いのだが?」
「昨日使ったあのボストックでいい。穴はシール材で埋めれば良いだろう?」
あのボロボロのボストックを使おうというのか。
「どうせ俺はバックスだ。対弾性など必要ない」
キッパリ言い切る。
難しい顔で 腕を組む葉月。こういう時のミーシャは頑固だ。それは良く知っている。
「分かった。ミーシャ。お前にその機体を預けよう。ただし、内部待機だ」
「何故?!」
身を乗り出すミーシャ。
それを片手で押しとどめるような仕草をする葉月。
「これは、お前が一番きつい任務だ。お前は常にボストックを装備もしくは装備可能な状態で、どの状況でもどちらのゲートにでも動けるように。それがこの「待機」だ」
「それって・・・」
「ああ、基地内及びコロニー内のあらゆる場所でのBB及び武装一式を装着しての活動を許可する。もちろん自室への持ち込みも許可する」
「ちょっと待ってください、隊長。それではミーシャは安らぐ時も無いってことじゃないですか」
今度はモニター越しにアンネが口を挟む。
「アンネ。これでいいんだ。これこそ特務の仕事だ」
納得した声のミーシャ。引き締まった顔だ。いい顔をしていると思う。
「ミーシャ・・・すまないな。俺も可能な限り支援をしよう」
その蒔司の言葉をフェルが聞き咎める。
「蒔司。あなた、ま~た自分の体を無視してるわね。いい、あなたの体はボロボロなの、最低ひと月は安静、リハビリ含めて3ヶ月はここから出さないですからね?分かった?!」
蒔司を睨む目が本気だ。
「あ~。いい。必要ない。自分より射撃が劣るやつにこの仕事を譲る気はねえ」
そっけなく返すミーシャ。不躾なセリフではあるが、その心情は察するまでもない。
二人の言葉に返す言葉が無くなった蒔司。
どいつもこいつも・・・安堵とも喜びともつかない優しい感情のため息をつく葉月だった。
「しかし、フェルティ。そんなに蒔司の状態は悪いのか?」
葉月が尋ねる。
「はい。検査すればするほど、悪いデータが出てきます。正直、普通なら・・・昨夜の戦闘参加はおろか、まともに歩くこともできないと思います」
その言葉にブリーフィングルームの空気は重くなる。
「そんなにひどい状態で・・・」
誰かが口にするのが聞こえる。
その「ひどい状態」の蒔司に救われたのだ。
蒔司の働きとミーシャの覚悟。そしてモニターに映るアンネの左右のバランスのとれていない上半身。
皆、アンネがボロボロのボストックを駆り、敵の本隊を倒した代償というのを承知している。死線をさまよう羽目になったことも。
改めて特務の凄さを認識する隊員たちであった。




