自室にて(1)
部屋に戻った蒔司は頭を抱えている。
何がどうなっているのかさっぱり見当がつかない。
いや、葉月の言葉を含め、この状況が全て現実であるならば答えは一つしかない。
「タイムスリップ・・・」
思わず口にして、ブンブンと頭を振る。
愚かで安直な答えだ。
だが、葉月の「かつてこの土地が日本・・・」というセリフの意味が頭から離れない。
気になることが他にもいくつかある。
今までこの施設で会った人は全て女性だということ。
軍事施設に男がいないなんてありえない。女性だけで構成される軍隊自体がおかしい。
装備だって明らかに自分の常識をはるかに超えたものだ。
そして、何よりも「ヤツ」の存在。
あんな生き物見たことも聞いたこともない。
いつも千文の姿であることばかり気にしていた。
ヤツとのファーストコンタクトは意識に靄がかかったような状態で、とりあえず、「本物ではない」ということだけはその時わかっていた。
だがしかし、今まで樹脂製のロボットか何かだと思っていただけに衝撃が大きい。
「俺どうしちまったんだろう・・・」
ふいに言葉になる。
「クソっここは一体どこなんだ!」
思わず拳を握り、目の前のテーブルを叩く。ガンッと鈍い音でテーブルが答える。
ふと、拳を見つめると、昨日の「千文」を斬った感触とあの眼差しが蘇る。
正確には「千文」ではない。ヤツだ。化け物だ。
だが、俺の刃を受け止めたのは・・・。
俺の中で「人殺し」という言葉が浮かんでいる。
あの一瞬まで、俺の心は冷めていた。いや、氷の刃という表現が近い、冷酷な俺のもうひとつの心。それがある事を否定はしない。それも含めて俺だから。
だがそれは、俺が守るべきものに敵対する者に向けられる心であって、決して千文の顔じゃない。
「ヤツ」を斬ったんであって、決して千文ではない。そう理屈では理解しているものの、心が壊れていく。
「俺はこんなことのために修行してきた訳じゃないっ・・・」
ここにいるのは良くない。
そう思った時にふと閃く。
そうか、逃げ出せるかもしれない。今日ならば。
そうだ、俺のもう一つの姿、「宮本の名前の本当の意味」を晒そう。
昨日ちらっと出した「俺の怖い一面」。それを前面に出せば最大の障害である葉月を抜けて外に出られる可能性も高い・・・。
そこに気づいた。
葉月の言葉が全て正しいなら逃げ出すことに意味はないかもしれない。
だが、ここにいても心が壊されていくだけだ。
少なくとも、彼女たちに対して従順である必要はない。
俺の「本気」で対峙してやろうじゃないか。
幸い午後は全員が揃う。情はかけない。そう心に決める。
情をかけたならばもう二度とここから出る機会はない。そんな気がした。
腹が決まった。
よし、作戦を練ろう。と思ったその時にチャイムが鳴る。
「誰だ!」
「フェルティでーす」
目の前の壁がモニターに切り替わり、戸口に立っているフェルティを映し出した。
「どうしたんですか?」
慌ててさりげなく振舞う。
「隊長から午後はハードになるだろうからメディカルチェックとメンテしてこいと言われました~」
仕方ない。リモコンでドアのロックをはずす。
「緊張してますか?」
入るなりのフェルティの言葉。
「え?」
「無理しなくていいんですよ。私の前では。最初の声すごく怖い声出してたもの」
どうやら、勘違いしているらしい。まあそのほうが都合もいい。
「バレました?」
と、とりあえず追従しておく。
「そりゃぁあのメンバーとやりあうんですもの。緊張しないほうがおかしいわ」
「だから、緊張をほぐすためのマッサージにきたんですよ。それと昨日、部屋にいるのに返事しなかったでしょう?それもちょっと気になって」
なるほど。