後始末(4)
見送るミーシャとアンネの目線が次に向かうのは蒔司のベッド。
しっかりと手を握っている二人。
なんだろう?この一体感は。
ハアとため息つきながらも、そこにはもう突っ込む気がないミーシャ。
「蒔司。聞いたぞ、隊長から」
「ん?」
「お前、フェルをほっぽり出して敵の本隊潰しに行ってたそうだな?」
ちょっと怖い声が出てくる。
「え、ま、まあ」
「馬鹿野郎。そういうのは俺達の仕事だ。いや、皆でやることだ。少なくとも蒔司、お前一人で片を付けるそういうことじゃねえ」
落ち着いてはいるが、かすかに怒気を感じる。
「言いたいことも、気持ちもわかるが・・・ボストックは空を飛べないだろう?」
「そんなもの船で行けばいいじゃねえか」
「船が沈んだらボストックも一緒に沈むぞ?それこそ無駄死にじゃないか」
段々空気が悪くなってきたのを感じたフェルティ。
とりあえず割って入る。
「まあまあ・・二人共気持ちはわかるよ・・・皆の心の底にある気持ちも根っこが一緒じゃない。お互いに大事に思うなら落ち着いて、ね?」
「それに、この話は、最初っからこういう時はこうするって決まってたのよ。上で。そのためのペガサスなんだって」
責任転嫁ではぐらかそうとする。
「上って誰だよ」
「司令と姉さまと私。まあ、ぶっちゃけそういう指令を私達姉妹が受けていたと、そういうことね」
なんとも苦しい言い訳ではあるが。無いよりマシだ。
それに、これはある意味嘘ではない。
ただし、ペガサスを駆っているのは葉月である場合の話であって、誰一人、蒔司が「そういう土産を持って帰還する」とは思ってはいなかったのだが。
「なんだよ~気に食わねえな~俺達にも言ってて欲しいぜ」
「仕方ないよ。特務なんだから。知らされていないない任務もあるわよ」
その言葉にふと警察署に潜入したマル秘任務を思い出すミーシャとアンネ。
「ま、確かに他に人には話せない任務ってのもあるこたぁあるか」
ミーシャの返事にほらね?と言いたげな顔をするフェルティ。
「ミーシャさんとアンネさんが内部を制圧して、蒔司が外を担当する。そういう役目が決まってたの。あまりにも特殊なケースだから、一応想定として選択肢に入っていただけだったのが、実現してしまったと。そういう事情よ」
そのフェルティの言葉は多分嘘であろう。そう蒔司も思っているのだが、それについては突っ込まない。
「まあな。まさか対人戦闘する事があるとは思ってもいなかったよ」
「あれ?でもペガサスって「そのためのBB」じゃないわよね?」
嫌なところに気がつくアンネ。
「て言うかさ、確かに変わった構造だとは思っていたけれど、まぁ、隊長専用機だからの作りだと思ってたんだよね。まさか空を飛ぶとか、単身での攻撃を想定しているとか、そんなリスクのある機体ってのも知らなかったぜ?」
ミーシャも軽く責める。
「えっと・・・それに関しては詳しくは知らないわ。さすがに。最初にコンセプト説明を受けたのは高速、かつ単独で敵群に突入し、戦線を崩す事で悪化した戦況を覆すこと。そのための高速機動とハイレベルな防御だって。ブレード主体なのも密集した敵群の中ではブレードの方がはるかに銃よりも効果が高いからだし、その状況下で可能な限り生存率を上げるためのアクティブバインダーシステムですと。」
「つまり特攻機ってことは知ってたのか」
ミーシャが軽く眉をしかめる。
「ええ。ただ、まあ、最初の装着者は隊長を想定してたから・・・」
「サイボーグの隊長なら、万が一アクティバインダーがミスしても死ぬことはないし、ペガサスのバッテリーや燃料が無くなってもとりあえずの生存は出来る。そういうことか。」
念を押すように軽い見据えた視線でフェルティを捉えるミーシャ。
その表情には呆れたような空気も浮かんでいた。
「まあ、ね。姉さま曰く、ここ一番という時にまっ先に体を張るのが上司の役目だ。とね。姉さまからすれば、スライムの攻撃を引きつけていれば、ここの部隊はどんな悪条件下でも体制を立て直す事ができるし、最終的にペガサスが擱座しても回収に来てくれるまで待ってれば良い。そう思ってたみたい。」
「ふーむ。まあ、ちょいと気に入らねぇが、そこまで信用されてるということで良しとするか」
「うん。ありがとうミーシャさん。本音は私も反対だったの。でもね、想定以上にアクティブバインダーの動きは正確だし、受け継いだ蒔司はそもそもアクティブバインダーの必要もない位の動きを見せちゃうし」
「ま、確かに。蒔司に近接戦闘で上回れる奴はそう居ないとオレも思う。ペガススのチューンが終わって、それに乗り慣れた日には恐らく地上最強クラスの性能になるかもな」
「おまけに空飛ぶもんねぇ・・・」
ミーシャの返事にアンネも同意する。
「それはね、低高度限定だけって話しよ。流石に水素濃度が高い上空は無理だし、燃料容量の都合上それほど遠くまでは飛べないみたい。ま、それがたまたま今回の事件で上手くはまったと。そう思うわ」
「今回の事件か・・・一体敵は何を目的としてここを襲ったんだろう?このコロニーがそれほど価値があるとは思えないしな。それともやっぱりテロの一種か?にしては不思議なBBを持っていたり、やけに手回しが良かったり・・・謎だらけだ」
腕を組むミーシャ。
「そこは姉様がじっくり調べるでしょうね・・・今回の奥にいるのは恐らくチャイナ。で、内応者が諸茗。諸茗参謀は姉様が倒したから、残りの人がどれだけ知っているかしらね・・・」
「チャイナ?なんだってそんな山奥にこもったエリアから・・・ここに来るのでさえも大変だったろうに」
ミーシャが首を傾げる。
「フェルちゃん、良く知っているわね」
ちょっと腑に落ちないアンネ。
「ええ。まあ。あのBBは中国製だから・・・姉様のBBはあそこの系統なのよ。だからピンときて、隊長と思われる人にカマかけたら大正解って訳」
「あの4本腕?」
「うん。思念操作のシステムと磁性筋肉の駆動系を取り入れたって姉様が言ってた」
「ほぇ~やっぱりマニアね~隊長も」
納得した表情のアンネ。
「「磁性筋肉」はチューブの本数や配列で力やスピードが自由に変えられるから・・・といっても姉様はあの筋肉隆々って感じなスタイリングが気に入ってるみたいだけれど」
「何か、このぅ~考えるだけ訳わからなくなりそうだ・・・すまん俺はここでリタイアだ」
「アタシも・・・というか、ここで議論しても意味がなさそうね」
「本当の原因」を目の前にしてギブアップするミーシャとアンネ。
正直、後ろめたい気持ちで一杯の蒔司とフェルティ。
「ま、そこは葉月隊長に期待しよう」
結局、そこで意見がまとまった。




