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ADAM  作者: 流風 生海
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後始末(3)

 一息いれて。

 さてと。と、葉月が動く。

 「他の部屋も見舞いに行かねばな。特にキュイーネの状況は心配だ」

 「どんな状況なんですか?」

 蒔司もそれを気にしている。とっさの判断で足を斬り落としたがそれが正解だったのであろうか。

 「命はなんとかなりそうだ。だが、スライムの消化液は強力でな・・・手術室の空き待ちも長かったしな・・・今日にでも腰椎以下の切除になる可能性が高い」

 「う、そんな・・・」

 「いや、蒔司、お前の判断は正しかった。もっと足を切断するのが遅ければ、ほぼ確実に命はなかったし、万が一生き残れたとしても、私のように完全なサイボーグだった」

 「・・・」


 その時、アンネのベッドでうめく声がする。


 皆の目線が一斉にアンネに集中する。

 「ん・・・あ、あれ?」

 どことなくとぼけたようなアンネの声。

 「おお、目覚めたか!」

 ミーシャと葉月が駆け寄る。

 動こうとしてフェルティに抑えつけられる蒔司。

 「あなたはここで!ね。」

 優しく睨むフェルティ。


 「隊長・・・。アタシ、生きてるんですか?」

 「ああ。もちろんだとも」

 「気分はっ!どうだ!」

 勢いづいて尋ねるミーシャに笑顔を見せるアンネ。

 「大丈夫よ・・・もちろん・・・だけれど・・・左手の感触がないのよ・・・」

 「すまない。お前の命のことを考えたら切断するしかなかった」

 まるで自分が決めたのかのように話し、詫びる葉月。

 「そう・・・ですか・・・」

 今度は葉月に笑顔を向けるアンネ。

 「生かしてくれてありがとうございました」

 葉月へ向けた笑顔の目元をつーっと涙が流れ、シーツに落ちる。

 アンネの頭に手を乗せ髪をすくうように撫でる葉月。

 「この基地を守った大事な左腕だ。丁重に葬ってやろう」

 優しく声をかける。

 うんうんと頷くアンネ。何かを言葉にしようとしているのだが口が開けない。

 むしろキューッと引き絞る口元。

 いびつな笑顔で涙を流すアンネ。

 「私は・・・例えどんな形であろうとも・・・お前が生き残った・・・。それが、本当に嬉しい・・・」

 うつむきながらそう語る葉月の顔は髪に隠れてよく見えない。

 だが、そこに一つの感情があり、どんな表情をしているのかは考えるまでもない。

 「・・・すまなかった・・・ありがとう・・・」

 そう口にする葉月の肩がかすかに揺れている。

 「隊長・・・こちらこそ本当にありがとうございました」

 ミーシャも改めて礼を言う。


 三人の間に流れる空気。上官と部下としてだけではない、「お互いに命を預ける関係」。その関係が紡いだ時間を今の光景が物語っていた。



 「俺の・・・」

 そうつぶやく蒔司にフェルティがそっと囁くように答える。

 「だれもあなたのせいだとは思わない。もちろん姉さまもね」

 蒔司の手をそっと握ってくるフェルティ。

 「蒔司は蒔司の役目がある。今ここに貴方が居ることも何かの役目。少なくとも私はこういう結果で良かったと思ってるわ。「アダム」を秘匿するという役目を待った以上こういう事態は避けられない。起きるべくして起きた事件なの。でも、それを乗り越えて皆んながいる。私はそれで十分だと思うわ」

 なにより。と、そっとフェルティがつぶやく。

 「蒔司もいてくれるから・・・」

 手をぎゅっと握ってくる。


 一つの部屋に二つの空気。それぞれが自分たちなりの暖かさを持っている。



 「うむ。いかんな。こういうのは私は似合わん」

 そう言うと葉月が大きく首を振る。その時宙に舞う雫に皆気づいているが、何も言わない。

 「んで、アンネ・・・どうする?機械化すれば比較的早く普通の生活に戻れるぞ?」

 「そうですね・・・でも結構重いんですよね確か」

 「いや、私のは旧式だからそれなりに重いが、今時のは生身とそう変わらんと聞く」

 「左右のバランスが気になります」

 「まあ、アタッカーはボディバランスも重要だからな・・・再生治療は少なくとも2年はかかるが可能ではあるとの医者の言葉は聞いているが・・・」

 「2年か・・・出来上がる頃にはアタシもおばさんになっちゃうわね・・・」

 「オイ、それを私の前で言うか?」

 軽い口様で攻める葉月。

 「いや、隊長だから・・・」

 とミーシャが横槍を入れる。

 コツンと軽くミーシャを小突く葉月。

 「でだ、「オバサンの意見」としていうが、サイボーグも捨てたもんじゃない」

 皮肉る葉月。

 「実はな。私の体は分解して持ち運べるのだよ」

 「ほぇ?」

 「今回、エイリィの部屋に忍び込んだ時も実はバラして入ったのだ。おかげで通常のBBなら侵入できない所にも入れる」

 「なるほど」

 「更に!」

 そういうと葉月は右手を突き出す。

 「この腕の中にはワイヤー付きの手裏剣が内蔵されている。今は技官と左腕の中にライフルを仕込めないか相談中だ」

 段々話が別の方向にヒートアップしてくる。

 どうやら体の至る所に武器を内蔵しようという考えらしい葉月。

 「隊長・・・それじゃあ歩く兵器です」

 戸惑いながらもアンネが突っ込む。

 葉月の「腕の中にライフル」の時点で軽い既視感を覚える蒔司。何かそういうアニメがあったような・・・。

 「隊長ってもしかして兵器オタク・・・?」

 「オタクじゃない、マニアと呼んでほしいな」

 ミーシャの声にきっぱりと答える葉月。どっちでもそう変わりはないと思うのだが・・・。

 「まあ、結局はアンネが決めることだ。再生治療で左腕を培養しながらその間は機械の腕で凌ぐという方法もある。もちろん費用は経費だから心配ないぞ」

 「そうですか・・・」

 ちょっとほっとした顔のアンネ。

 「まあ、今すぐ答えを必要とする訳ではない。体を休め、回復させながらじっくり考えなさい」

 そう言うとくるりと踵を返す。

 「いかんいかん。他の病室も回らねば。では、二人共しっかりと休めよ」


 しっかりとした、軍人らしい規則正しい足取り。だが、なぜかその歩調の中に「嬉しさ」を感じる。

 そして葉月が室外に消えていく。


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