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ADAM  作者: 流風 生海
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帰結(5)

 蒔司の呼吸もだいぶ落ち着いてきた。

「んで?いつ頃産まれそうなんだ?私の甥もしくは姪は?」ふいに尋ねる葉月。

「え?」言葉に詰まる蒔司。

「あ、いや、その・・・ごめんなさい」

「何を今更頭を下げる必要がある?」

 まさかそういう事自体がないとも言えない。それはかえって失礼だろう・・・ひと月以上一緒に暮らしているのに・・・。


 その時ざわめきが起こる。

 何か黒い矢のような物が頭上を飛び超えていく。

 悲鳴が上がる。

「何?!」

 慌ててヘルメットをかぶる葉月。2班のボストックからのカメラ映像を回す。

 スライムたちの隙間から見えるのは巨大な黒い塊。いや、黒いウニのようだ。

「モ、モノコア・・・だと?!」

「何が起きた葉月!」

「蒔司、急いでヘルメットをかぶれ!」

 ペガサスのヘルメットにも画像が転送される。

「こいつは何だ?」

「詳しくは知らん。データがほとんど無いのだ。唯一わかっているのはこいつは槍じゃない。矢で攻撃する。つまりスライムの現在確認されている中で唯一遠距離攻撃を行うタイプだ」

「コアが見えねーっていうか全体が真っ赤だぞ?」

 サーモグラフィを確認した蒔司。

「ああ、だからモノコアと呼ばれている」

 またもや黒い矢が頭上を超えていく。

「弱点は?」

「無い。今のところは」

「何だって?」

「仕方あるまい。未だかつてこいつに遭遇して勝った者はいないのだ」

「俺が行く」立ち上がるペガサス。

 その目線の先には絶えまなく矢を飛ばし続ける「モノコア」。

「待て!今のお前には無理だ!」

「誰にも出来ないから俺の出番なんだろう?」

 徐々に殺気を帯び始める蒔司の声。


「ペガサスの今の状態考えろ!アクティブバインダー外してどうやって防ぐんだ!」

 ペガサスの腕をつかむ。

「身軽になっていいぜ。こっちの方が。多分避けられる」

 声に気迫がこもっている。

「今のお前を「多分」で行かせるわけにはいかん!」

 蒔司の喪失。それは、今となっては全てを失うことに等しい。そう思う葉月。

「じゃあ、皆がやられていくのを見ていろというのか!」

「落ち着け!策を考えろ!お前も戦術家なら確実に抑える方法を考えろ!私の目の前で散るなっ!どうフェルに告げればいいのだっ・・・」

 その必死の葉月の言葉が響く。


 無策で飛び込む危険を訴える葉月。

「くっ・・・」

「落ち着け。よく見ろ、幸いヤツの矢はそれほど貫通力はない。この距離ならな。十分防げている」

「そうだな・・・アイツ味方のスライムごと射ってるぞ」

「奴には「味方」という概念がないのだろう。のべつまくなしに射ちまくる。そう聞いている」

 モノコア型がいるのはスライム陣営最後尾。こちらに届くよりもモノコアの矢で倒されるスライムのほうが多いように見える。実質的に普通のスライムが盾になっている状況だ。

「しかし、どうやってモノコアが入り込んだ?」

 訝しむ葉月。

 その言葉にピンとくる。

「アイツらの「特別な土産」ってのはこれか!」

 思わず声を上げる蒔司。

「何?土産だと?」

「ああ、船の奴がそう言ってた。生き残れたらまた襲うこともありうるともな」

「と言うことは、チャイナはこいつを捕獲する能力があるということか」

 腕を組む葉月。

 ローダーから小型カメラが飛び出す。上空に上げモノコアを観察する。

「ん?これは・・・捕獲カプセル?にしてはでかいな」

 モノコアの下に半分埋もれた格好のカプセルがある。ただのカプセルにしてはたしかに大きい。そして何やら機械のようなものも接続されている。


「6班!BB用の強酸弾頭は十分にあるか?」

 不意に声を上げる蒔司。

「はい。5千発の予備があります!」

「それをガトリングライフル2丁に可能な限り装填して持ってきて!」

「何を思いついた?」

 尋ねる葉月。

「ちょっとした時間稼ぎさ。モノコア周囲のスライムをわざと急所を外して弾頭を打ち込み固める。一匹に数発撃ちこめばそれなりに固い防壁になると思う」

「なるほど、ペガサスの飛行性能を上に使うということか」

「そう、これだけ離れて直接攻撃をしなければまず俺が集中砲火を浴びるということはないだろう」

「ふむ・・・だが、一本だけワイヤーを垂らしてくれ・・・こちらのモニターで万が一お前の方に矢が向くと判断したら引きずり落とす」

「それもある意味怖いが・・・自由落下で躱すよりそのほうが有効か・・・その際は頼む」

「ああ。」

「それと、このコロニーに窒素封入をする食品工場はないか?」

「ん?それはたくさんあるさ。んでどうするんだ?」

 身を乗り出す葉月。何を蒔司が思いついたのか、楽しみ半分不安半分といった面持ちだ。

「ここに近い、いくつかの工場に窒素タンクのバルブを固く閉めて漏れないようにしてくれと指示を頼む。それと、このあとしばらくは2班のBB2機とも借りる」

 それを聞いてほほうと声を上げる葉月。

「なるほど、時間稼ぎね・・・面白いことを考えついたな」

 やはり蒔司の存在は大きい。そう確信する。野戦で染み付いた行動パターンでは「こういうこと」は思いつかない。


 程なくして2丁のガトリングライフルが台車に乗って運ばれてくる。

「全員聞け!これより蒔司が上空からモノコア封じ込めの作戦を行う。皆も気づいているとは思うが、この大量のスライムはある意味有効なモノコアに対する防御壁だ。今は倒すな、強酸弾頭で固めて行け!」

「ハイ!」

 ライフルが火を噴く。フロントライン側のスライムが次々に凝固していく。


 蒔司が落ちている矢の位置から計算してモノコアの射程距離を割り出す。

 ガトリングガン2丁を握ってペガサスが下がる。

 メインエンジンに火が入る。機体が軽く感じたその瞬間にペガサスがジャンプし、その勢いのままフルブーストで飛び上がる。

 モノコアが視認できる。先ずはモノコアの周囲に取り巻くスライムにまんべんなく撃ちこむ。そして凝固を確認したら徐々に範囲を広げ、味方の部隊に近いところまで固めることに成功する。

 前と上から硬化させれれたスライムの群れ。もう動けるスライムはいない。


 ストンと降り立つペガサス。

「2班!二人共手を貸してくれ!隊長ナビマップの転送を!」

 蒔司の簡単な説明の後、程なくして状況が飲み込めた2班の二人。

「急ぐぞ!可能な限り窒素タンクを持ってきてくれ!」

「了解!」

 3人が散る。あっという間に6本の大型「液体窒素」のタンクが集まる。

「これで効くのでしょうか?」

「珪化生物であるスライムは我々よりはるかに高温、低温に耐えられる。だが、それは「耐える」という意味であって、その温度帯で活動すると言う事ではない。少なくとも活動を止めることはできるはずだ」

 葉月が言い切る。根拠はないのだが言い切る。作戦に安心感を覚えてくれること信頼をしてくれることが成功への近道なのだ。


「では、先ずは一本目!行くぞ!」

 蒔司が再び飛び上がる。

 それに合わせてボストック2機がかりで大型タンクをモノコアに向かって放り投げる。

 モノコアの槍がタンクに集中砲火を浴びせる。突き刺さった矢の隙間から超低温の液体窒素が降り注ぐ。

 そして命中。串刺しにされたタンクから多量の液体窒素が流れ出し、モノコアを包む。

 葉月はサーモグラフィでモノコアを確認する。たしかに温度は下がっている。だが中心付近にはまだ熱い部分が見える。

「もう一本行け!」葉月の命令にまたタンクが飛ぶ。今度は矢での応戦も無い。表面はまず固まったと思っていいだろう。

 ペガサスがライフルでタンクに穴を穿つ。弾が貫通したタンクは再び液体窒素をモノコアに降りかける。そしてモノコアの上に再び落着する。

 もうもうと立ち込める冷気の煙。周囲のスライムも凍ったようだ。

 もはやサーモに反応はない。


「よし、仕上げに入る!」

 そう言うと腰に差していたクレイモアを抜き放ち、上空から一気にモノコアに飛び込むペガサス。

「バカ!何をする!」

 葉月が叫ぶが止められる状況ではない。

 空中で前方に回転しながらモノコアに突っ込んでいくペガサス。落下速度だけでなく回転も利用して剣速を上げるつもりのようだ。

 そして、上に乗っているタンクごとモノコアに斬りかかる。爆音と共に真っ二つになるモノコア。案の定、内部はまだ熱を持っている。だが、斬れたタンクから残りの液体窒素が容赦なく降り注ぎ、芯まで固めていく。更に剣戟を縦横に繰り出す。どれも音速を超え、刃の届かない深さであっても衝撃波で割り砕いていく。

 程無くしてペガサスが動きを止める。

 そして、そこには凍てつき粉々に砕かれたモノコアの残骸が残る。


 これで当分は時間が稼げる。

 付近に転がっている大量のスライム用の捕獲カプセル。それに分散して放り込む。

「すまないがもう2本放ってくれ!」

 届いたタンクからカプセルに液体窒素を流し込み蓋をする。取り残しが無いことを確認して周囲のスライムの殲滅にとりかかる。とはいっても相手はまだ固まっている。

 葉月があれほど苦労していた群れ。それでもこの状況ではペガサスにとって何の問題もない。

 さしたる苦労もなく殲滅を終えて帰還する蒔司。


「馬鹿者!あんな無茶な飛び込みをする奴があるか!」

 響く怒声。

「すいません。本能的に飛び込んでしまいました」

 とりあえず謝る蒔司。

 しかし、どこからともなく拍手が起きる。

「まあ、金星と言ってもいいか・・・」

 葉月もそうつぶやくと握手を蒔司に求める。


 さらに広がる拍手の渦。皆の顔にも疲労感が漂う。だが、悪くない。そう顔に書いてある。

 これからは一層厳しくなる。それは皆もわかっている。

 だからこそ今の勝利を大事にしよう。

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