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ADAM  作者: 流風 生海
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帰結(4)

 葉月によって「整地」されたエリアを有効に使うフロントライン。

 ペガサスが斬り、体を回す遠心力でアクティブバインダーからナイフを飛ばす。ほうと葉月が見つめる。なぜか4本しかないが・・・両手とあわせてほぼ同時に途切れることなく6体のスライムを屠っている。バインダーにつけてこういう使い方とはな・・・さてはバインダーの設定いじったな・・・。


 事実、銃用のサイトをアクティブバインダーに切り替えている蒔司。

 モニターに同時に4つの目標を表示させ、ロックオンするというのは疲れるがやれないことはない。

 ペガサスの剣戟に最早スライム達は近寄っては倒されるを繰り返すだけだ。槍を繰り出す暇も与えられない。

 内心胸をなでおろす葉月。

 状況上ペガサスを戦列から外す理由がない以上、わざと守りやすいセンターにおいたのだが、杞憂に終わったようだ。


 蒔司の能力は完全にスライムのそれを上回っている。アクティブバインダーの防御の必要もない程に。

 だが、ペガサスの動きが速すぎる。両翼の2班がついていけない。陣形が矢印のように尖ろうとしている。

「蒔司!出すぎるな!包み込まれるぞ!」

 その声にスラスターでちょっと下がるペガサス。しかし、また前に出ていく。そしてスラスターで下がるを繰り返す形になっている。

(ん?何だ?もしかしてスラスターの熱発電で充電しながら戦っているのか?)

 それにしても、圧倒的に運動量が多いペガサス。そろそろバッテリーもさすがに辛いか。

「すまない一旦充電する!2班で間を詰めて戦線を維持してくれ!」

「ハイ!」

 一時蒔司がローダーに帰ってくる。

「なかなかやるな」

 葉月が声をかける

「いや、やりづらいよ。正直」

 蒔司が答える。

「そうか?十分以上に働いてるぞ?」

「アクティブバインダーが邪魔で動きにくい。投げナイフってのはまあ使えるが・・・その他の部分は取っていいか?」

「構わんが・・・そう簡単にパージ出来る構造じゃないぞ」

「いいよ。これで」

 言うが早いかアクティブバインダーを掴むと引っこ抜く蒔司。

 炭素繊維のフレームをバキバキとへし折り、次々にバインダーを取り外していく。唖然とする葉月。

「お前、それじゃあ丸裸じゃないか・・・」

「大丈夫。もう奴らの攻撃は当たらない。そのかわり本気で突っ込むからな。同僚を巻き込む訳にはいかないからね」そう言うと持ち込んだ大刀を手に取る。

「バッテリー交換します」

 6班が手早く作業を済ませる。

「おいおい。そんなもん振り回す気か」

 驚く葉月。その大太刀は・・・昔葉月がトップアタッカー時代に、まだ肉体がある頃に試作したものだ。当時のBBと葉月の組み合わせでは十分な戦果を上げられなかったのだが・・・。

「ああ、やっぱり一刀で動いたほうがやりやすい。これなら簡単に衝撃波も生み出せるしな」

「バッテリー残量には気を付けろよ」

「了解。それと、隊長、アンタのクレイモアも貸してくれ。」

「本気か?あれも片手で振り回す代物じゃないぞ」

「だが、長さ的にこの大刀とバランスがいい」

 葉月の忠言を気にする風もない蒔司。

 大刀を肩に担ぎ葉月のクレイモアを腰に差して蒔司が再び戦場に向かう。

「特務、戦線に復帰する!2班、間を開けろ!俺が飛び込んだら補充に移ってくれ!」

「了解!」

 2機の間が開いた瞬間ペガサスが飛び込む。大上段からの振り下ろしに巨大な爆発音が混じる。


 葉月は刮目する。明らかに刀のリーチの外にいるスライムも木々も砕けている。

(そうか・・・蒔司の音速を超える速さとは単純に斬るという意味だけではないのだな・・・)ここで初めて合点が行く葉月。

 振り下ろしから一転飛び上がり体を横に捻って剣速を維持しながら刀の軌道を横に変える。

 再び巨大な破裂音と共に一振りで数体のスライムが地面ごと砕け散る。更に前に進みながらも同じ速度で回転していく。

(これは・・・斬っているんだが砕いているんだか分からんな・・・これじゃあコアの位置は関係あるまい・・・おまけに刀を同じ方向に振り続ければ使用するエネルギーも少なくて済むか・・・)その蒔司の戦法に納得せざるを得ない葉月であった。


 今やペガサスの有効殺傷半径は6mをゆうに超え、小型の竜巻が如くスライムの肉片を飛び散らせながら切り進んでいく。

 その姿に呆然とする隊員たち。蒔司の発する独特な「気」に飲まれている。

 スライムたちは蒔司の「気」に引かれて完全にペガサスの方に集中している。こちらに向かってくるモノはいない。

 ペガサスを取り囲み押し包もうとするスライム。連続する巨大な破裂音。そのたびに粉々になって飛び散るスライム。


 葉月も援護の指示を出したいが果たして必要なのか?と思ってしまう。

 ふと、気づく。

「皆、今、蒔司少尉がスライムを止めている間に補給と休息をとれ!あの動きはバッテリーがもたん!すぐに出番がやってくるぞ!」

 支援兵も休憩は必要なのだ。その間を作ってくれた蒔司に感謝するしかない。

 結局20分位たったであろうか・・・蒔司からコールが入る。

「そろそろバッテリーも限界だ。帰投するから支援を!」

 呼応する葉月。

「砲兵、蒔司の道を開ける!集中砲火開始!いいか蒔司には当てるなよ!」

「了解!」

 ライフルが一斉に火を噴く。崩れるスライム達がモーゼの如く道を開く。その瞬間に葉月は気づく、ペガサスを囲むスライム達の姿・・・フェルの顔だ。

(そうか・・・フェル・・・お前は本当に良くやってくれたよ・・・ありがとう)心で感謝を述べる葉月。

 正直、蒔司の戦闘能力は桁が2つは違う。このたった20分で半分以上のスライムが消えた。その能力をここに留めたのはフェル、お前のおかげだ。


 ペガサスと入れ違いに2班がフォワードに立つ。


 ローダーに近づいたペガサスに葉月が声をかける。

「ご苦労だったな・・・体の方は大丈夫なのか?」

「とりあえず水をくれ」

 ヘルメットを脱ぐと汗まみれの顔の蒔司。受け取ったボトルを一気に飲み干す。

「さすがにきついな・・・後どれ位いるんだ?」肩で息をしている。

「うむ。残り・・・83だ。お前一人で半分以上斬ってるな」手元にあるレーダー画面のようなものを覗き込んで答える。

 ローダーに腰掛けるペガサス。すかさずバッテリーが交換される。

「お、終わったか・・・作業が早いってのは・・・まあ、あと一踏ん張りだ」

 そう言って立ち上がろうとするのを止める葉月。

「まあ、もう少し休め。それ位だれも文句は言わんよ」

「だが・・・」

 反論しようとする蒔司を遮って葉月が言う。

「機体が良くてもお前が「電池切れ」になっては意味がない。そうだろう?」

「すまない・・・」

「いや、ボロボロのお前を返す訳にはイカンだろう・・・姉として」

「え?」

「フェルにも毎日のように辛い思いをさせてきた・・・こういう時だからこそ、なるべく元気な姿で送り届けたいと思うよ、私は」

「俺だって、葉月がちゃんと戻ってもらわなければ困る。フェルを泣かしたくはない」

 その言葉にふと破顔した葉月。

「ありがとう・・・姉としてこれ程嬉しい言葉はない・・・」優しい、穏やかな言葉だ。

「お前らを見て気持ちが変わった。私は「お前たちの姉」としてお前たちを守ってみせる。絶対に引き裂くようなことはしない」そう言い切る葉月。




 正直に言うと葉月は「アダムの放棄」を考えていた。秘匿するにはあまりにも損害が大きいからである。

 今回の件、払った代償はあまりにも大きかった。

 枕崎はその地理特性上最前線といえる場所である。

 それが定数を揃えられないばかりか、今回の件で事実上の壊滅だ。

 現在、満足に動けるBBに至っては葉月も含めても1小隊にも満たない。

 幸い民間人の犠牲は少なかったようだが、それを守る兵がいないのでは話にならない。

 基地の放棄、コロニーの移住も選択肢に登るほどの有様だ。

 それもこれも全て「アダム」というたった一人の人間が起こしたこと。

 戦略として考えるなら「アダムの放出」は当然とも言える。


 だが。

「アダム」としてではなく、「蒔司」として見れば話しも違ってくる。

 蒔司の能力は個人の戦闘能力の高さに留まらない。

 マンネリ化、画一化してしまっていた対スライムの戦法に対し新風を吹き込み、部隊の生存性を向上させたことは大きい。

 更に、フェルだ。「アダム専属」になる前は従軍看護師として、毎日のように無残な兵士たちの姿を見続けてきた。

 そのせいだろうか。いつの間にか「無理やり笑顔を作る」癖ができていた。送り出す者としての最後の務めかのように。


 それが、この数月でどうであろう?

 姉として、上官として接している葉月にはよくわかる。今のフェルの笑顔は「作り物」ではない。

 そして。

 それが、この基地の最後の命綱となったのだ。

 この状況下で、結果的に我々の命を救ったのは蒔司とフェル、この二人に他ならない。

 人の想い、絆が生み出す強さ。そういうものを二人から感じる葉月。多分、これでいいということなのだろう。

 何よりも、姉として本当は二人を祝福したいのだ。心から。

 そういう素直な心が葉月の言動となって現れる。


「今回無理矢理に引き裂くような作戦をとってすまなかった」

 葉月は頭を下げる。

 あまりに雰囲気の違う葉月に戸惑う蒔司。


「え、まあ・・・良いですよ。もう済んだ事だし・・・お陰で内通者も捕まえたし、敵の輸送艦も沈められたし・・・」そう返す。

 その言葉に驚く葉月。

「お、お前何をどうやったらそういう結果が出る?!」

 簡単に説明する蒔司。

「なるほどな・・・」それ以上は言葉にならない。もはや呆れるしかない。

 大きく息をする葉月。

 これほど規格外の戦力が味方にいることの心強さを痛感する。同時に底の知れない蒔司の強さに軽い怖さを覚える。

 もし、蒔司レベルの兵が敵に居たなら、この基地はあっけなく陥落していただろう。

 コイツは自分よりはるかに強い。いろんな意味で。

「これがいわゆる愛の力とでも言うのか・・・」

 ぽそりと口にして何やら気恥ずかしい葉月。くすぐったいような嬉しさを感じるのだ。

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