帰結(3)
はっきり言って葉月は苦戦していた。感情に任せて一気に飛び込んでしまった。だが、この状況。引くに引けない。
「連絡があった!もうしばらくすれば2班からの応援が到着する。それまでの辛抱だ!」
「ハイ!」
現状は楽観視できる状況ではない。
余りにもスライムの数が多すぎる。
奴らは全てのスライムをここに放ったらしい。まだ残り200匹を超えている。
一太刀で仮に一匹切れるとしてもまだ相当数振るうことになる。葉月の剣は両手持ちの剣。片手で使うには無理がある。したがって同時に投げナイフを使うのはほぼ無理に等しい。
先に来ていたボストックはバッテリーが切れている。現在はローダーから充電している最中だ。
小隊の援護の弾も残り少ない。
そもそも自分自身のバッテリー残量が持つのか・・・。
歩兵用の銃では破壊力に限りがある。
誰かがフロントを形成しないと、これだけの量のスライムを相手に銃だけで応戦するのはリスクが大きすぎる。
スライムには「変身能力」と「魅惑」という武器がある。BBには魅惑は通じないのだが、歩兵は簡単に取り込まれるだろう。
ワザと大きなモーションと気迫で全てのスライムの意識をかき集める。
それもフロントラインの役目なのだ。
正門からボストックが到着するまで10分弱。
動きを抑えてバッテリーをセーブしたいところだが、下手に手を緩めると歩兵にスライムが向いてしまう。
茶畑が広がるこの別府地区。農業区画であり、基地から最も遠いコロニー外壁エリアの一つだ。
住居区画ではないのは幸いであったが、太もも付近まで伸びる茶木の畝も切りながら攻撃するというのは、効率も悪くバッテリーの消耗が激しい。畝が邪魔をしてスラスター移動にも制約が出る。
ええいと茶木ごとスライムを斬る。
スライムは「相手にとって大事な人」に変身する。
葉月の目の前には沢山の散っていった仲間達やフェルティ、アンネやミーシャの姿もある。
だが、当然葉月はそういうものを気にしない。黙々と剣を振るう。
一応、自分の行動範囲の邪魔な木を切り捨て、動きやすい状況に持ち込む。
開いた空間になだれ込むスライムたち。だが当然そこは葉月の剣のエリアだ。
一体一体入り込んできた順番に潰していく葉月。
しかし、ついに自分のバッテリー残量が悲鳴を上げて警告する。
もう一機のボストックはまだ充電に時間がかかる。たった数分の充電では戦線復帰してもすぐにバッテリーがあがる。ゆえに切り上げろとは言えない。
この量のスライム相手に単機で挑もうというのがそもそも無理なのだ。
生命維持装置用のバッテリーを駆動用に回す。
しかし。
元々生命維持用だ。容量は大きくはない。
すぐにバッテリーが警告を出す。
だがそれでも引かない、いや引けない葉月。
もう少しで応援がつく、それまではなんとかフロントラインを維持したい。
「中隊長!」その言葉にハッとする、すんでの所でスライムの槍を躱す。
いかん。生命維持装置のバッテリーも空だ。意識が遠くなり始める。
それでも剣を振るう。
しかし、バッテリーの切れたボディは振り回されたクレイモアの重さに耐え切れない。逆に体が持って行かれる。
よろめいた勢いでマントがめくれ上がる。そこに一斉にスライムの槍が襲いかかる。
ドドドッ・・・と次々に槍が葉月のボディに突き刺さる。
十数本の槍に串刺しにされ、葉月の動きが止まった。
葉月のよろめきを見て、とっさに充電をきり上げたキュイーネだったが、間に合わなかった。
キュイーネが着る穴だらけのボディのボストック。それを駆り、かろうじて葉月の体を捕まえる。槍を折り、葉月の体をたぐり寄せる。
しかし、そのキュイーネにも槍が迫る。反射的に葉月に覆いかぶさるキュイーネ。
「中隊長ーっ!」
フルブースト状態で2機のボストックが突っ込んでくる。
防御用の大型シールドでスライムをはじき飛ばす。
が。キュイーネのボストックが崩れ落ちる。その右足膝の関節内部にスライムの折れた槍が。
2班の二人がシールドを駆使してスライムたちを押し込む。その隙に葉月とキュイーネを回収することに隊員たちは成功した。
そこにペガサスも到着する。無線の傍受で事態は把握している。
「大丈夫?!しっかりして!」
キュイーネのボストックから折れた槍を引きぬくコージー。
「これで、終わりなのね。アタシ」
「蒔司少尉。ごめんなさい。リベンジ。できないです・・・」ペガサスに顔を向け、そう口にすると力が抜け落ちるキュイーネ。
「まだまだ!」
ブレードを抜く蒔司。
「下がってろ」
周りを下がらせる。
「御免!」
その言葉と共にブレードを振りおろし、キュイーネの右足を太もも付け根付近から切り落とす。
鮮血がほとばしる。叫び声を上げるキュイーネ。痛みに気を失う。
「何をするんですか!」
コージーが叫び声を上げて抗議する。
「消化液が完全に体に回らなければ助かる可能性もある!出血と同時に排出される可能性もある!病院に急げ!」
ボストックのパーツの隙間に切っ先を入れてボデイ装甲を切り取りキュイーネを引きずり出す。
「は、はいッ!」コージーとセリカで抱え上げ走りだす。
そして。
横たわる葉月。生命反応がない。
だが、しかし・・・。
(葉月はサイボーグだ・・・槍が貫通したって死ぬわけがない・・・もしかして・・・?)
とっさに充電ケーブルを葉月の足首のコネクターにつないでみる。
葉月のヘルメットを外す。青白い顔。
だが、徐々に赤みを帯びてくる。やはり、BBの電源と生命維持装置の電源が接続されている。
これで息が戻れば・・・しかし人工心肺の葉月に人工呼吸が意味があるのか?
ためらう蒔司。ヘルメットを取り、葉月の顔に耳を近づける。かすかな呼吸音。大丈夫か・・・これで意識が戻れば・・・。
その時フウーッっと大きく一息をする。
そして目を開く葉月。
「ん?蒔司?・・・どういうことだ・・・」
「あんた、無茶しすぎだぞ。いくら肉体がないっていってもバッテリーが切れれば死んじまうだろうが。」
「構わん。いざとなればこの身を持って部下の盾となる。そういう覚悟で私はここにいる」
パシッ!
その瞬間張り手を食らう葉月。
「あんたは良くても、残される人間の身になってみろ。フェルを一人ぼっちにするつもりだったのかアンタは」
「それが役目だからな・・・仕方がない。フェルもわかってくれるさ」
今度は拳を握り締めているペガサスに驚く。
「おいおい。それで殴られたら私は本当に死んでしまう」
「生きる気になったか?」
「その気も何も、生かされた命、有効に使わせてもらうさ・・・。久々のビンタだ。いい気付けにはなったぞ」
「じゃあ、指揮を取れ。前線に出るのはアンタの本来の役目ではない」
その言葉に、怒りで判断力が落ちていた事に気付かされる葉月。
「・・・うむ・・・指揮官失格か・・・」
「これから取り戻せばいい。それに前線に出ることを嫌がる指揮官は部下の信頼も得られない。だからあながち間違いとも言い切れないさ。自分の命を粗末にする行為以外はな」
「すまないが、起こしてくれんか?」
「ダメージが抜けてないのか?」
「ああ、内骨格がやられてる。ローダーの上に座らせてくれ」
葉月を座らせるとメイサに支えてもらう。
声を張り上げる葉月。
「皆!心配をかけてすまなかった!これより私が指揮をとる!」
その大声に反応する隊員たち。歓喜の声が上がる。
「センター特務!両翼に2班!お互い無理するな!じっくりでいい!シールドを有効に利用してスライムの進行を止めつつ撃破せよ!6班二人で武器、弾薬、バッテリーを運んでこい!今オートタクシーを呼んだ、それを使え!残りはフォワードを援護せよ!」
「ハッ!」「了解!」
部隊が展開する。
こうして新たな戦いが始まった。




