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ADAM  作者: 流風 生海
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ミーシャとアンネ(2)

  一夜明けて、午前6時のブリーフィングルーム。

「さて、今日の作戦内容に移ろうか」

 葉月の声が開始を告げる。

「隊長ー提案なんですがー」とはアンネの声。

「何だ?」

「アダムさんと模擬戦闘してみたいなと思うんですが」

 葉月の目線が鋭くなる。

「何故だ」

「昨日、アダムさんはブレードで自らスライムあ、いや(formless)を仕留めました。その時の動きを見て思ったんです。アダムさんはむしろブレードの方が向くのかもしれないって。」

「それで、ブレード使いのお前が直接手ほどきしようと?」

「それだけじゃない」

割ってはいるミーシャ。

「昨日の戦闘で、俺はミスをした。一撃で仕留められなかった。火器選択のミスもあるが、確認をせずに撤収に入ったという油断も大きい」

「なにが言いたい?」

「私もペイント弾で参加するということで提案したいのです」

 ほほうと葉月が見つめる。

「満足にスラスターの制御もできないアダムにうちのトップバディが仕掛けると?」

「スラスターの制御が上手くない。逆にそれが良いんですよ。動きが読みにくいので」

 

 腕組みをする葉月。コイツ等何か考えてやがる。

 まあ、大方の予想はつくが・・・だが、実際問題、訓練用のスライムのストックが不足しつつあるのも事実。特に今後の訓練プログラムを考えると多少なりとも不安が残る。

(ま、大方二人共ストレスが溜まっているんだろう。ガス抜きも良いか)そう思うと心が決まった。

「良いだろう。両名の訓練の参加を認める。内容はアダムとの模擬戦闘だ。アダム。異論はないな」

「どうせ、反対意見は通らないんだろう?」

「念のために聞いてやろうか」

「解放してくれ・・・いや、せめて休みをくれ。気持ちの整理がしたい。それと、せめて蒔司と呼んでくれ」

 やはりなと葉月は思う。銃で撃つのと刀で斬るのでは訳が違う。同じ殺すにしても。

 自らの手で切り裂く。

 当然だが、その手に感触が残る。

 精神的負荷は銃で撃ち殺すのとは桁違いに大きい。

 『千文』とか言うそうだが・・・あの姿は・・・恐らくアダムの想い人なのだろう・・・それを斬る・・・。

 連日の訓練も加え、表情を見るに恐らく昨夜は一睡も出来ていまい。フェルティも部屋にいるのに返事をしない、入れてくれなかったと報告してきたしな。

 精神的に疲弊しているのが手に取るように解る。

 

「解った。」

 エッ?と目を円くする全員。こういう表情で一丸となるとはな。。内心苦笑いする葉月であった。

「それでは、今日の作戦を伝える。2班は各自標準装備及び拠点防衛用の装備をもってして、1班と交代。基地の防衛任務にあたれ。3班は捕獲用カプセルを携帯してformlessの捕獲、4班と5班は同じく標準装備にて3班の援護及び周辺の敵の殲滅とする。6班は基地ゲート内にて待機。状況に応じて遊撃任務とする。判断は第6小隊長、お前に任せる。守備用装備と支援用装備共に忘れるな。以上!」

「了解!」

 イキの良い返答と共に各小隊計30名が席を立つ。取り残された格好のアンネ、ミーシャ、そして蒔司。

「あのー私達は?」

 アンネがそっと声をかける。

「特務小隊は午前中は機体の整備!」

「エ~ッツそんなぁ」

「うちは元々定数に足らんのだ。それでも、しかもアダム連れて戦場に行くのか?」

「いや、ちょっと、そうじゃなくて・・・」

「ちゃんと整備した機体で模擬戦闘したいだろう?「午後に」」

 ニタリと葉月が笑ったように見える。いや大口を開けようとする直前の豹のようだ。

 嫌な予感がアンネを襲う。

「も、もしかして・・・」

「偶には私も運動せねばな」

 葉月の目が燃えている。

「や、やっぱり・・・」

 急におどどした表情になるアンネ。猫を前にしたネズミもそういう表情なのだろうか?

「心配するな、私はどちらにも付かん。」

「それが一番怖いんですけれどー」

 

「さーて最初に狩られるのは誰かしら?」

 そうニヤける葉月の皮膚の下は完全に舌なめずりする女豹に違いない。

「ひえぇっ」

 殺気を読んだアンネとミーシャが部屋を飛び出していく。

 

 残った蒔司に葉月が近寄る。

「そういうことだ。お前の機体はいつものようにメカニックが整備してくれる。まあ、半日だが、休暇にはなったな」

「解放するって案は無いのか?」

 脱力状態の蒔司が力なく口にする。

「飛行機から墜ちたとき、確かに俺は死んだと思った。だから、助けてくれたのは感謝している。本当だ」

 そして意を決して口にする。

「だが、何だこの状態は!毎日千文を目の前で何度も殺されて、ついには自分で手を下した!お前等は俺に何を望んでいるんだ!」

「お前が生き抜くことだ」

 落ち着いた声で葉月が短く答える。

「戦場に立たせておいて生き抜くだ?!訳わかんねーよ!」

「舐めるな、あんな簡単な訓練を戦場呼ばわりするんじゃない」

 落ち着いてはいるが、ドスのこもった声だ。

「詳しく説明できる立場にないのだが、これだけは言っておく、こういう基地以外に我々が住めるところなどないのだ。ましてやアダムのお前はな!だから、解放などというクダらん要求はするな!」

「どういう事だ?」

 口をつぐみ答えない葉月。言いしれぬ、悪い、最悪の予感が蒔司の頭をよぎる

「じゃあ、ここはどこなんだ?あんたら日本語しゃべっているけれど、日本人じゃないのか?」

 しばしの沈黙の後に葉月が口を開く。

「日本という国は存在しない。はるか昔のこの土地がそう呼ばれていただけだ。」

 !!!!

 悪い予感ほど的中するというが、あまりに出来過ぎだろう。

「これ以上は私がしゃべる権限にない。ただ、一つ言えるのは、訓練に励み、この世界でも生き抜けるようになれ。それだけだ」

 言葉で突き放し、そして扉に向かう。

 スーッと開いた戸口で、振り返り、追い打ちの言葉をかける。

「それと、基地内の人間にむやみに接触するな。今後ともな」

 孤独を残して扉が閉じた。 

 

 ハンガールームにミーシャとアンネがたどり着いたときそこはもぬけの殻だった。

「いつも思うけれど、みんな出撃してしまうとなんか寂しいよね。。」

 本来なら30機以上のBBSが詰まってごちゃごちゃしている格納庫もやけに虚しく広く感じる。

「ああ。皆無事に今日の任務済ませられるといいな・・・」

  返すミーシャの声もどこか寂しげだ。

 だがしかし。そんな余裕をかましていられる状況じゃないのは確かだ。

 

「しかし、ヤブヘビだったな。まさか隊長が出てくるとは・・・。はあっ・・・。あのバケモンを相手にするのか・・・」

 バックパックユニットのカバーを外し、コネクターに端末を接続しながらミーシャがため息混じりで口にする。

 

「どうする?機体のチューニング」

 アンネも端末を手にして困惑している。

「「感度A++」でいくしかないだろう?」

「やっぱりそうだよね。フィードバックきついしコントロールも繊細だからあんまり好きじゃないけれど」

「スナイパーにとって、繊細すぎるコントロールってのはやりづらいんだがな」

「あたしに当てないでよ?」

「努力はするさ。だが動きが機敏すぎて銃口が流れやすいのは承知しといてくれ」

「了解。じゃあシンクロモード、バディシステムはB+に下げるね」

「いや、こちらもA+でいく」

「え?上げちゃうの?」

 アンネが怪訝な顔になる。

「ああ、アンネに当たってしまう確率は上がるが、そこまでギリギリに持っていかないと多分隊長には当たらん」

「ラジオタイムラグとか考えるとミーシャ、ちょっときついんじゃない?」

「元々感度A++は長時間駆動は出来ん。バッテリーがもたないからな。そう言う意味ではアンネ、お前のほうが苦しいはずだ」

「まあね。MAXで動けるのはせいぜい30分。それ以上は体がもたないよ。」

「キツイな。まあ、自分も集中力考えると似たようなもんだ」

「そうだね。。短期決戦だ。よし!スラスターのリミッターも解除しちゃおう!」

「おぅ、してしまえ。どうせ長くはもたんからな。こっちも射撃データの入力速度、フィードバック共にMAXだ。・・・あ、こりゃ多分、30分としないうちに俺の脳みそオーバーフローするな・・・」

「何もそこまでしなくても・・・」

「いや、自分の限界に挑戦する!それでこそ訓練だ!」

 妙な方向に引き締まったミーシャの表情である。

「なんかアツイね・・・で、使用武器は?」

「俺はいつもの狙撃用無反動速射銃とサブマシンガンだ」

「私はどうしよう・・・。ショルダーガトリングライフルにパイルシューターも付けとくかな?」

「またえげつない装備を持ち出したな。パイルシューターなんて刃が無くてもヘタすると相手死んじまうぜ」

「当たればね・・・。ま、こいつは一種のデコイとして使うつもり」

 にこりと笑顔で返すアンネ。

 こちらも負けず劣らず意味深な笑顔だ。

「確かに。あの直線的な軌道は相手の行動範囲を制限できる」

「そいうこと。アウトサイドから打ち込めば必然的に相手さんはインに入ってくる訳」

「結構勝つ気マンマンじゃねーか」

「ミーシャもでしょう?」

「まあ、な。勝てるかどうかはわからん。実際、相手はあの隊長だ。が、俺たちが組んだバディも実績はある。何より勝ちたい気持ちがなきゃ兵隊なんてやってねーよ」

 最初とは打って変わり、異様な方向へとだんだん盛り上がっていく二人であった。

 

 ひとしきり整備、チューニングを終えて、戦術の打ち合わせに入った時にアンネが気づく。

「あ、アダムちゃんのこと忘れてた」

 ミーシャも我に返る。

「あ、俺も。」

「死んじゃうかな?」

 不安そうになるアンネ。

「とりあえずお前のパイルシューターはアダムにはやめとけ、あれはアクティブバインダーごと破壊しちまうぞ」

「ミーシャはペイント弾だから大丈夫だね」

「すまん。デコイ用にプラズマ榴弾組んじまった」

 頭をかくミーシャ。驚くアンネ。

「馬鹿っ!それこそアクティブバインダーどころじゃないじゃない!大体なんで実弾組むのよ!」

「いやーどうせ当たらないなら少しでも隊長ビビらせようと思って・・・」

「隊長は多分確実によけるけれど、アダムちゃんには絶対当たるって。二人が同軸上にいたらどうすんの!」

「やっぱりダメか?」

「は・ず・し・な・さ・い!」

 強い語気に押されミーシャが引き下がる。

「あーバランス取りからやり直しだ・・・。食堂に行っている時間はねーな。アンネ、すまんがランチボックス頼む」

「はいはい。二人で戦術詰めながらご飯にしましょ」

 こうして二人の午前は過ぎていく・・・。


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