帰結(1)
エイリィは焦っていた。「机」からなんの反応もない。
トン、トントン・・・と不思議なリズムで机を小突く。
しばし待つ。
再び小突く。
待つ。
小突く・・・・。
それを繰り返す度に、徐々にその音が大きくなっていく。
葉月を載せたローダーが警察署に到着する。
「中隊長!」
「待たせてすまん」
「基地やスライムは・・・」
「その説明は後だ・・・私が先陣を務める。3分後に入って来い。」
ガチャリとローダーのウェポンベイを開くとそこには大型の6銃身ガトリングライフル。ひょいと手にすると左手に構える。ローダーのエンジン音が一際大きくなる。
「行くぞ!」
「ハッ!」
バラバラララッ!
葉月が無造作に構えた左手のライフルから3連弾が雨あられと飛び出す。
そもそもBB用のライフル弾の威力も桁違い。それが同時に3本のバレルから撃ち出されるマシンガン。
瞬時に自動ドアを粉砕しローダーごと飛び込む葉月。
途端に銃弾が降ってくる。
葉月のBBは腕と肩から上、脚部前部しか装甲はない。あとは防弾マントが全てを弾く。
運動性を最大限に考慮した結果であり、また、首から下に肉体がない葉月ならではの構造といえる。
集中する銃撃にお構いなく「発射源」にガトリングを撃ちこんでいく葉月。
カートリッジにあるのは重金属で作られた特殊な徹甲弾だ。BBの装甲をも貫通するその威力。ゆえに一般兵には与えられない指揮官のみに与えられる装備。
そしてそれは所詮ヴィジリアンのための設計の施設など何の苦にもならない。
何に隠れていようとお構いなしに撃ちぬいていく。
撃たれる悲鳴、絶命の声はその発射音で聞こえるべくもない。
そして。時間きっかりに第3第4小隊が入ってきた時には攻撃してくる敵はもはやいない。
「2人組で偵察を出せ。いいか。偵察だけだ。敵を発見したら私に報告しろ。絶対に攻撃してはならん!」
「了解!」
部隊が散開する。
程なくして敵兵のいる場所を把握する葉月。
「留置施設にて拘束された警察署員を発見しました!」
「署長はいるか?」
「少々お待ちを・・・いいえ、敵に拉致された模様です!」
・・・フン何が拉致だ。
署内のマップで敵の配置を確認する。
結局のところ、署長室につながるロビーや事務エリアにしか敵兵はいない。
要するに「自分を守らせる」そういうことなんだろう?
さて、問題はいかにしてエイリィを拘束するかだが・・・
署長室の後ろにある専用休憩室。ここに窓があるか・・・BBには入れないが人間なら入れる大きさか。
「尚子!お前はついて来い!後は敵の前に存在を示せ。こちらから撃ってはならん。コートを巧く使って弾を避けていろ。それだけでいい。」
はい?という顔の隊員。
「私と尚子で後ろから奇襲をかける。合図があるまでその状態で待機していろ。これは命令だ。これ以上の死者は私が許さん。いいな!」
その声に頷く隊員たち。
エイリィは気づく。随分身近な場所で銃撃戦が始まったことを。
焦ってさらに机を小突く。
返事のない机。
いや、意外な方向から聞くことになる。
机を突いていると・・・。
「キュウエンモトム ワレヲ カイシュウサレタシ」ふいに背後で声がする。
振り向くとそこには葉月。ヘルメットを小脇に抱え、シルバーブロンドの髪が後ろからの風で軽く舞い上がる。
「な、どうやって入ってきた?!」
「うん?窓からだが?」目線が冷ややかだ。
「馬鹿な?!そのサイズは窓を通過できんはず・・・」
その言葉には答えない。
「それで・・・誰に回収して欲しいんだ?今時モールス信号などという古臭い手を使ってまでしてな・・・」
「う・・・何のことだ?」
「拉致されたはずの署長殿はこうやって何の拘束もされずに机の小突く音でモールス信号を発してどなたかに救援を求めている。・・・もちろん・・・我々にではないよな?」
葉月の眼尻がつり上がっている。
「自分のしでかしたことの意味わかっているのか?警察という一般庶民を守るという立場にあるお前が、その責任者であるお前がコロニーを壊滅させると?」
背中に背負った大剣を振り下ろす。エイリィの目の前で切っ先をピタリと止める。
風刃で舞い上がった髪の毛が銀色のたてがみを葉月の首にまとわせる。
「いや、待て、私はそこまでは望んでいない!現に署員も可能な限り拘束するに留めた!」
「うちの損害は甚大なんだが?」
「それは知らん!そっちは諸茗が決めたことだ!断じて私ではない!」
「尚子!今の言葉お前も録音したな!」
「はい」
「これで、諸茗参謀首謀のクーデターではなく、お前と諸茗の共謀した「犯罪」ということが立証できる・・・軍事法廷は民間ほど甘くはないぞ」
「なぜ犯罪なのだ!元はといえば・・・ッ」
エイリィの言葉は喉元に突き付けられた刃に止められる。
「余計なおしゃべりは死期を早めるぞ」
睨む葉月。
「わ、わかった。で、では取引しようではないかックハッ」
これ以上は言葉を続けられない。葉月に当身を食らう
ウッとうめき声を残して崩れ落ちるエイリィ。
「尚子。こいつを猿ぐつわをして縛り上げろ。大声でも上げられたら不意を突いた挟撃ができん」
「了解です」
「しかし、テロと発表した本人が首謀者とはな。なあ尚子」
「はい。正直辛いですね。このコロニーのみんなが頼りにしていた人が犯人だなんて」
「まあ、こればかりはそう簡単に公にはできんだろう。尚子。これは秘密事項A扱いとする。いいな」
「了解しました」
秘密事項Aは事実管理者、つまり葉月以外に喋ってはいけない。まあ元々尚子は口が固い。これで情報が漏れるのを防げる。
「尚子はこいつをローダーに載せてそのまま外部の警戒に当たれ。私は中を潰してくる」
「了解」
エイリィを運びながら尚子が尋ねる。
「中隊長。結局のところ、私たちは何のためにこういう事になったのでしょうか?」
「それは、これから明らかになることだ。尚子、この現状からして想像以上に厄介な事かも知れん。お前の身の安全のためにも、もうこれ以上は聞かないほうがいい。後は私が引き受ける」
そう言ってはぐらかす葉月。
「お気遣いありがとうございます。お願いいたします」
素直に引き下がる尚子。
「ああ、それでいい。本当に必要になった時にまた力を借りる。説明が必要になったらする。それまで自分を大事にしなさい」
落ち着いた声をかける。
「はい」
尚子が短く返事をして室外へと消えて行く。
葉月はヘルメットをかぶり直す。
部下たちには人殺しはなるべくさせたくない。ヴィリジアンを殺すことはフィルマとしての意志に反する。後で後悔や苦悩をさせたくない。
気持ちが高ぶってくる。
・・・いや、今まで抑えてきた怒りを開放しているだけだ・・・。
「行くぞ!」
そう叫ぶとドアを開けロビーに飛び出す。大剣を振り回し、事務机などともろともに敵を切リ倒す。
それが葉月の愛刀クレイモアの役目。例え銃を使って防ごうがシールドを使おうが力技でぶった斬る。
敵の防御などへったくれもない。全てを両断する。強引で力任せな死へのいざない。
更には離れた敵にはワイヤー付きの投げナイフが飛んで行く。
飛び散る「元肉体」と血液の奔流。
敵はロビー正面にいる3,4班に盛んに銃撃をしていたのだ。自分たちの発する銃声で葉月が現れた事に気づくのは当然遅れる。
突如後ろから現れた葉月の猛攻に気づく暇もなく、いや、気づいてもまともな反撃すらできない。
それでも、いくつかの銃弾は葉月に命中している。だがそれでも葉月は止まらない。
葉月に攻撃を仕掛ける事の無意味さを悟る暇もなく、抗うことすら叶わず、兵達はその命の灯火を吹き消されていく。




