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ADAM  作者: 流風 生海
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願いは(4)

 洋上を飛行するペガサス。

 「戻ってくれよ・・・頼むから・・・」

 機体に懇願するが反応はない。

 拳を握り締める。

 (このまま俺だけ逃げ出すのか・・・)

 元々は解放を願っていた蒔司。だがもうそういう考えはない。

 頭にあるのはフェルティの爛漫な普段の笑顔。そして最後に見せた悲みを含んだ笑顔。


 ふと気づく。前方に艦艇が1隻。

 ヘルメットモニターにアラートが表示される。敵の輸送艦か?

 (コイツらのせいで・・・)

 心の芯が冷たく、鋭くなっていく。

 (潰す!全部潰してやる!)

 (武装は・・・ライフルのみ・・・ならば!)

 高度を下げる。速度を限界まで上げる。機体後方で水しぶきが発生する。

 相手も気づいたのだろう。機銃が発射されるのが確認できる。

 ヘルメットに響くアラートと共に、ペガサスを叩く銃弾の音。

 フロントノーズはアーマーパーツで埋めてある構造だ。機銃の弾をいとも簡単に弾く。

 だが、右翼パイロンの燃料増槽に被弾する。自動的に放棄されるが機体のバランスが崩れる。

 墜落警告のアラートが鳴る。

 (クソッこのままでは・・・)

 そう思った時に目の前に「fモード解除」の選択肢が表示される。

 反射的に念じる「解除」と。


 その瞬間、カナードが上向きに跳ね上がり、急激に機首が上がる。

 垂直状態になる。抵抗による強烈な減速G。

 (グッ!)骨に響く。

 バンッ!

 ノーズコーンが分かれ、その一部がアクティブバインダーとなって開く。

 更にノーズコーンが斜め後方へスライドし拳が現れる。

 機体後部のエンジンが背面へとずり上がる。

 同時に縮んでいく翼は背面に垂直へと折りたたまれる。

 脚両サイドにあったエンジンが後方へ旋回し、曲げていた膝が伸びる。そして足が開く。


 そう、気が付けばいつものペガサス。

 だが、全速で飛行中だったペガサス。翼面のエアブレーキ程度では止まらない。変形時に若干上がった高度から急激に失速しながら斜め下へ。

 意識が持って行かれそうな急減速だが、このままでは舷側に衝突する。

 (ブースト!)

 背部をフルに吹かし、脚部を前に向けながらフルパワーで吹かす。

 膝を曲げる。

 舷側のヘリにかかとが引っかかる。

 咄嗟に空中で前方へ一回転。

 スラスターをフルに吹かしながら何とか着艦に成功する。

 目の前は水面。どうやら、ギリギリ落水はまぬがれたらしい。


 アクティブバインダーは既に「仕事」をしている。

 タタタタ・・・という機銃をバインダーが受け止めている。時折混じる発光弾がバインダーで弾けペガサスの白い機体を浮かび上がらせる。

 ゆっくり振り向く。

 意味不明の怒号でやり取りしている敵兵。日本語じゃない。


 「オマエラァ!」叫び声と共に突進するペガサス。

 先ずは機銃座。右手の刀が飛び出し握ると同時に機銃を台座ごと切り落とす。

 アラートが鳴る。{Rocket}の表示。右手側からか。

 体勢を低くして飛び込む。頭上を通り過ぎる瞬間にロケット弾の駆動部を切って落とす。

 後方で爆散する。今の俺にはこれ位造作もない。それほど回りが遅く見えている。

 退避を始める、気密服と思しき全身を覆う服を着た兵達。。

 (逃すかよ!)

 両手を突き出し、兵の後ろから撃つ。ミーシャに鍛えてもらったおかげだろうか。きれいに一発一発急所に撃ち込める。

 すぐに甲板上に動くものはなくなる。

 だが、怒りは収まらない。収まる訳がないこの程度で。


 ハッチを切り裂く。とたんに銃弾の雨。それを全て防御する。

 手持ちの銃弾にそれほど余裕はない。アクティブバインダーは全て防御に回しているため、先端に装備されている投げナイフに手をやる暇はない。

 両手に剣を揃え、突っ込む。

 刀が疾る。それに合わせて敵の血飛沫が、手が、首が飛ぶ。

 人間を爆散させたかのような赤い暴風の中、白い機体を紅に染め蒔司が突き進む。


 「人を斬る」事には強い抵抗がある。それは事実。


 だが、コイツらは違う、この枕崎を壊滅させることに何の抵抗も感じていない奴ら。更にはこうやって艦船で高みの見物を決め込んでいた奴ら。

 最低だ。

 自分の肉体も使わない分だけスライムよりもタチが悪い。

 「戦う」と言う事はお互いに身を晒すことだ。有利不利、戦術の機能などはあるが「基本条件は一緒」。本来そういうものだ。

 自らは危険を冒さず戦果という甘い果実のみ欲する卑怯なコイツら。

 斬るのに躊躇いはない。


 大型シールドを構えた兵が前面に出てくる。

 構わず、刀の峰打ちで斬り飛ばす。

 シールドが折れ曲がり、それを構えた兵が歪な形になって吹き飛ぶ。後ろにいた数名を道連れに壁に激突し、「肉の塊」と化す。

 だが、そんなものには目もくれず手当たり次第に斬りまくる。


 傍目には阿修羅の降臨のようにも見えるのだろう。

 銃で倒すというよりも自分たちが逃げる時間を稼ぐ。そういう雰囲気に変わってくる。

 おかげで飛んでくる銃弾の数が減ってきた。

 投げナイフに手をやる余裕も出てきた。

 敵にとっては皮肉だろう。それはこの空間から逃げ出すすべを失ったということなのだから。

 ナイフで一番遠い所にいる兵を貫く。

 BBの力で投げたナイフだ。いとも簡単に兵の体を突き抜け、金属にぶつかる甲高い音と共に階段に突き刺さる。

 ナイフにつながったワイヤーで死してなお立つことを余儀なくされる「元人間」。

 兵が固まる。逃げられない事をそのナイフが告げる。

 最前列の兵が銃口を上に向ける。

 その眉間を貫く無情な蒔司のナイフ。

 「降伏はさせない。お前らもそうやって基地の人間を殺戮したのだろう?」

 答えはない。いや、通じようが通じまいが関係ない。

 お前らはここで死ね。

 兵たちが「人生の終わりという結論」に達するまで5分もかからなかった。


 最早動く者のいない中気づく。

 艦艇にしては通路も広く、天井も高い。BBを艦内で運用できる広さだ。

 確信する。

 そうか。それならば・・・帰る場所をなくしてやろうじゃないか。

 最初の行き先は機関室もしくは弾薬庫だ。

 兵士用の自動小銃はBBには扱えない。手の大きさが違う。死体を探りハンマー式手榴弾を持てる限りむしり取る。

 下への階段を探す。

 通路に塞がるものは人といえど物といえど全て斬って捨てる。

 (ん?何だここは?)

 やけに広い空間。突き当たりにはハッチらしきもの。隙間から船の揺れに合わせて少量の水が入っている。

 なるほど。ボートの発着デッキということか。ということはこの下に機関室があるはずだ。

 サーモで確認する。やはり床面の温度が高い。

 刀を全力で振り下ろす。ギインという音と共に床が切れる。

 何度も切りつけるうちにゴトンと床の一部が落ちる。上がってくる盛大な機械音。

 翼を折りたたむ時に自動的に左背面についていた「増槽」をパージし、叩きつける。

 更にエンジン部品と思われるものに三つ程手榴弾を投げ込む。

 オイルが流れ出し引火する。ドンッと火柱が上がる。

 これで一つ。

 今度は艦首へ向けて歩き出す。


 迷路のような通路を歩く。時折銃による抵抗があるが、アクティブバインダーの防御とミーシャ仕込みの銃撃や投げナイフで何の問題もない。

 「Weapons Room」と書かれた部屋にたどり着く。

 開けると様々な武器。なぜかBB用のロケットランチャーもある。それに明らかに時限式と思われる大型爆弾。スライム相手にするのには無用の装備だ。コイツらは対人用の部隊のようだ。

 6連装のロケットランチャーユニットを拝借し、時限爆弾のボタンを押す。15分もあれば十分だ。


 スラスターを併用しながら上を目指す。このままでは埒が明かない。バッテリーの残量も考えねば。ランチャーで外壁を吹き飛ばし、一旦甲板に出て外部からブリッジを目指す。

 途中で救命ボートと思しき物は全て斬って使えないようにする。

 さすがにブリッジの外部入口は大量の兵で固めていた。

 問答無用でロケット弾を打ち込む。

 階段ごと吹き飛ばす。入口も同時に吹き飛ぶ。

 開いた入り口にジャンプとスラスターで飛び込む。飛びかかる兵をまとめて切り捨てる。

 もはや一種の作業だ。


 抵抗する者を排除し、仁王立ちで構える蒔司に声がかかる。

 「その機体。お前がアダムか?」

 日本語が飛んでくる。

 「そうさ。俺がいわゆる「アダム」だ」

 だがと言葉を続ける。

 「俺はお前達が求めているようなものではないし!求めていいものでもない!」

 「どういうことだ?」

 「どのように画策しようとも、どんな手を使おうとも、お前らの期待する結果にはならない!」

 爆音と共に船体が揺れる。どうやら誘爆が始まったか。

 「上に伝えろ。今すぐにだ。この作戦はもともと意味がなかったとな」

 「何を生意気に。この作戦は我々にとって非常に重要なものだ。今回がダメなら次が来るまでさ」

 船が沈もうというのに何を落ち着いた雰囲気を醸すのだ。

 だが、と反論しようとする蒔司の言葉を遮る声。

 「どだいお前のデータはデタラメばかりではないか。ん?」

 クッっと返答に窮する蒔司。

 「霧島コロニーにはお前の戸籍らしきものは無かったぞ」

 どこまで知っているんだ?

 「俺は特殊ケースでこの基地に配属された。ヴィジリアンの無用の混乱や反発を招かないための方策にすぎん」

 かろうじてそう答えるのがやっとの蒔司。

 「確かに、我々ヴィジリアンからBB適正のあるものを探しているとすれば皆恐るであろうな。いきなり戦場に赴かされる羽目になっては誰しも安穏として暮らせまい」

 「俺だって本当は嫌だった。この基地についてから何度も開放してくれと願った」

 由来は異なるが、ある意味蒔司の本音でもある。

 「そうは行くまい・・・今やどの基地でも人材不足は深刻だ・・・だから矛盾するのだよ。何故霧島コロニーではなくこの基地に配属となったのか」

 「いくら基本的に基地内で暮らすと言っても一般区に行くこともある。当然そこで知り合いに会えば全てがバレる。そういう判断だと言っていた」

 苦しい言い訳だ。しかし、それをさも事実のように話す蒔司。


 フェルティと共に暮らし始める前の蒔司なら簡単に寝返ったかもしれない。辛い思いしかない所だった。フェルがいなければ。

 だが、フェルは・・・。俺の苦しみを理解しようと努め、一緒に笑い、俺の為に涙を流してくれた。他のメンバーとの掛け橋になってくれた。この世界で俺の居場所を作ってくれた。


 そう。本当は「このコロニーを救いたい」のではなく「フェルと一緒にいたい」それだけなのかもしれない。


 「逆に聞くが、もし俺がお前らの求めるような貴重な人材だとして、このような単独制圧など任ずると思うか?」そう問いを投げる蒔司。

 この船を襲撃したのは偶然の産物だ。とはいえ利用しない手は無いだろう。

 「ふむ、一理はある。だが、「アダム」の意味まではあくまで否定はせんのだな」

 「BBを着ている以上この場で証明はできんだろう?」

 そうきたかと返す女性。気密服のフェイスマスクから見える顔。結構な年齢ではある。

 「ふむ。まあ、元はと言えば情報部の方から持ってきた話だ。正直に我々もお前が「男性」との確証は得られておらぬ」

 「その程度の情報でこの枕崎を襲ったのか」

 「色々と尻に火がついてな・・・お前たちの隊長も中々手の込んだことをしたようだしな」

 「知るかそんなこと!んで、ちゃんと本国に送信はするんだろうな?」

 「今回の件で、予想以上にお前たちの反撃は鋭かった。元々うちは少ない。こういう特殊部隊は尚更さ・・・それに今回のような特別な土産ってのはそう簡単に手に入らん」

 ニヤリともつかない微妙な表情が透けて見える。

 何か引っかかるものを感じる。

 「諦めるという選択肢はないのか」

 「事の真贋がはっきりするまで上は納得しない・・・まあお前達が生き残れたらだがな」

 嫌な予感が頭を走り抜ける。

 ドゥッという爆発音。さっきより大きい。弾薬庫の時限爆弾が作動したか?船が傾き始める。

 「ならば、せめてお前たちだけでも墓標と共に沈め・・・何度来ても同じ結果になる。それだけは言っておく」

 ナイフを全て投げる蒔司。艦長と思しき人物をはじめ、クルーに当てる。懸命に操船していたものも共に。銃弾が残り少ない。ここはナイフのみで倒す。

 そして最後。一本のワイヤーは巻き取らず、引き抜くと振るって、日本語の女性に巻きつける。

 「何だ?私は殺さんのか?」

 「甘いね。」

 縛り上げると適度な長さを残して舵に巻きつける。

 「お前は即死なんて楽な死に方はさせん。せいぜい苦しんで溺れ死ぬがいい」

 「厳しいな」

 「いや、十分に優しいぞ。少なくとも他の兵よりもは長生きした」

 大分船体が傾いてきた。自動でバラストを使って姿勢を維持しようとしているのか横に大きく揺れる。だが、無意味な事だ。

 「ほかの兵は皆殺しか?」

 「多分な。目に付いたものは全て斬った。救命ボートも全て破壊してある。」

 ふと言葉をかえる蒔司。

「もし、今から本国に無線をかける、及び戦闘の放棄をするというのならお前の事なら考えてもいいが」

 「それこそ無意味だ。仮に私が本国に戻っても待っているのはテロの主犯としての拷問、そして処刑だ。数日命が伸びるだけの事。しかも更に過酷な最後だ」


 「そうか。ならばここでさよならだ。いい夢を見れると良いな」

 最大限の皮肉を残し蒔司が部屋を出る。

 スラスター及びエンジンをを使って艦の上に飛び上がる。どうやら複数の武器庫が誘爆したらしい。船体は穴だらけで炎と煙が上がっている。

 煙突に残りの手榴弾を投げ込みロケットの残弾を全て撃ちこむ。

 「飛ぶ」を念じると「Fモード」の選択肢が出る。


 無事に変形を終えて飛び去る頃。爆音と共に艦が沈んでいく。


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