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ADAM  作者: 流風 生海
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願いは(3)

 士官室フロアに付き、エレベーターのドアが開く。

 何かを確認したのか、一瞬の間を開けて始まる銃撃戦。

 「ミーシャ、こいつはきついよ」

 大型シールドで雨のように注ぐ銃弾を抑えながらアンネが口にする。

 「もうちょい我慢だ」

 アンネの後ろに控え、隙間から狙い撃つミーシャ。

 通路中程に擱座した1機の黒いBB。

 カメラ操作だろう。BBを盾にするようにして銃だけを出し、銃撃を仕掛けている。明らかに防衛陣形だ。

 こうなるとさすがのミーシャでも中々狙いにくい。


 「アッ!」

 アンネの左肩に激痛が走る。

 「どうした!」

 「どうやら向こうもそれなりのスナイパーがいるようね。ウクッァ!」

 同じ左肩の別な穴に撃ち込まれる。

 「ホールショットとか気楽に決めてくれるじゃない!」

 BBの装甲に開いていた穴・・・もちろんハンガールームにて穿たれたもの・・・そこに立て続けに銃弾を打ち込まれるとは。

 「アンネ大丈夫か?」

 弾道が斜めにカーブして飛ぶ遷移弾で歩兵を掃討しながらミーシャが問う。

 「左肩、砕けたみたい・・・装甲に空いてた穴に二発も打ち込んできた・・・ただモンじゃないよ」

 激痛に耐えながら答える。

 「そうか・・・使いたくはなかったが・・・エエイッ!」

 言うが早いか長銃身のライフルを構えるミーシャ。

 カシャリと折りたたまれた銃身が伸びる。

 同時にアンカーが展開される。

 カメラの測距データを元に素早く弾頭の「厚み」「充填圧力」そして「チャンバー内圧」を思考入力する。

 「コイツを食らってみなっ!」

 そして炎と共に発射される一際大きな銃弾。

ドシューッという発射音に続く破裂音。

ドンともバンとも似つかわしくないその独特の音と共に広がる光、球状に吹き荒れる爆風。

「蒔司たちがいなくて良かったよ・・・」

 敵からの銃撃が止む。それはそうだ。このプラズマ榴弾のプラズマ放出範囲は半径20m。対歩兵ならその倍以上の殺傷範囲を持つ。

 盾にしていたBBごと敵兵は昇華し、廊下は透明な球に押し広げられたかのごとく弧を描いて溶け落ちる。

 煙も残さず燃焼させ、残るは水蒸気の塊となる。

 「最大火力で撃っちまったからな・・・当分はこいつは使えねえ・・・残念だが、蒔司たちの『愛の巣』も道連れだな」

 シールドの隙間から覗くアンネ。もやの向こうに影二つ。

 「ミーシャ!終わってない!BBがいる!」

 「マジかよ・・・アンネ動けるのか?」

 「行くしかないよ!」

 アンネの中に響く気が遠くなりそうな痛み。だがそれに構っている場合ではない。

 使えない左手の関節をロックしてシールドを固定したまま飛び出す。

 蒔司から学んだ一刀流で挑むしかない。

 向こうも一機突っ込んでくる。

 左右に不規則にステップを踏みながらジグザグに走るアンネ。その後ろから精密射撃で狙うミーシャ。

 「うそ?」

 アンネの動きに正確に合わせる敵の黒いBB。

 「これじゃ当てられない!」

 焦るミーシャ。

 アンネと正体不明機が重なっている。狙い撃とうにも隙がない。プラズマ榴弾はまだクールタイムだ。

 「これならどうっ?!」

 右に飛び、更に右の壁を蹴って上に上がるアンネ。一気に間合いが詰まり刀を振り下ろす。

 アンネが上に上がった瞬間を狙い腰に狙いを定めて撃つミーシャ。

 ビシッと黒いBBの腰に穴が開く。

 よっしゃ!さすがにこいつは読みきれなかったか。

 黒いBBの体勢が崩れる。その瞬間に間に合うアンネの刀。

 「ハイッ!」

 掛け声と共に左肩からBBの関節の隙間に沿って斬り下ろす。黒いBBの腕が千切れ飛ぶ。

 だが、その下にあるもう一本の腕が振り回される。ブレードを握っている。


 咄嗟に腕を引き、刀で受けるアンネ。危うい。

「な、なんなのコイツ?!腕が二組ある!」

 咄嗟に距離を取り防御の構えに。


 しかし、敵は追っては来ない。

 「ハッ、や、やばかった!もうちょっとで上下に分裂してたわ。私ッ」

 黒いBBの動きがおかしい。

 「ッ何?もがいてる?」

 「ああ、そりゃキツいだろう・・・スライム用の強酸弾頭だからな」

 「じゃあ・・・」

 「ああ、生きながら自分の肉が溶ける感触ってのを味わっているのだろう。今」

 膝をつく黒いBB。続けざまにミーシャが関節に撃ち込んでいく。

 ドシャッと倒れ込み痙攣を始める。

 「哀れね・・・」

 「こいつらにはみんなの分の痛みを味わってもらうさ」

 吐き捨てるようなミーシャの言葉。

 そして。通路奥のBBに銃口を向ける。


 アンネがゆっくりと歩を進める。多分こいつも4本腕。アタシはは片腕しか使えない。

 もう一機の敵、黒いBBが両手にブレードを構えて立っている。

 「アンネ、恐らく思念操作だ上のひと組は」

 「だといいけれどね・・・」

 ならば、理屈の上では上下は同時には使えない。だが、刀を止めている隙に下のブレードで仕留める、そういう狙いはありうる。

 (どちらにしても結局は私が不利ね。さっきの手は通用しないだろうし)薄くなりそうな意識を気合で呼び戻す。


 ミーシャが気づく。センサーに感あり。これは・・・。

 「ハァ~ッ!」掛け声と共にアンネが駆け出そうとするのをミーシャが止める。

 「アンネ。待て!」

 一瞬動くように見えた敵BB。だが両手で構えたまま動かない。

 ん?様子がおかしい。

 びくりと大きく揺れる黒いBB。それと共に腹部から突き出した何かを確認する。

 突如センサーの信号がブルーに点灯する。友軍機のサイン。そしてこの機体ナンバーは・・・。

 「隊長!」

 クレイモアを突き刺し、盾にしていた黒いBBを蹴りはがす葉月。その目の前にはボロボロのアンネのボストック。

 「悪い。待たせた」

 「いいえ!全然!」

 「いつから居たんですか?」

 「うん?いきなり大砲ぶっ放してくれた奴が居てだな、んで、まあ、おかげで一機こちらまで飛んできたのでな・・・咄嗟に盾にと突き刺した」

 「そうなんですか・・・スミマセン。でも助かりました」

 「いや、良くやってくれた・・・私でもこいつらと真正面きっては辛いからな・・・ステルスモードでここまで近づけたのも、お前らが引きつけてくれたおかげだよ」

 珍しく葉月が褒める。

 「で、残りの敵は?」

 アンネが問う。いつもより息が上がっている。この程度の運動量で音を上げるはずはないのだが・・・。

 「敵も少数で乗り込んだようだ。現在カメラをチェックしているが、それらしき者はいない。まあ、ここに来るまでに、確認できる分隊らしきものは潰しといたしな。大丈夫だろう」

 その葉月の声に呼応するかのごとくアンネのボストックが不自然なよろめきを見せる。 

 「そう。ですか。」吐き出される息のようなアンネの声。

 ん?

 「アンネ。お前、肩はどうした?」

 アンネの動きに異変を見つける葉月。

 「えへっ。ちょっと。ドジを・・・」

 ガツンと倒れ込むアンネのボストック。固定された左腕がかろうじて横たわるのを防ぐ。

 「気持ちが切れた・・かな?」

 呟くアンネ。

 「隊長・・・後おねがいしても・・・いい・・です・か」

 そう言い残して気を失う。

 「パージッ!クソっどの機体なんだこの肩は!」

 葉月がうろたえる。機体番号と部品登録コードが一致しないためにアンネのパーツの強制分離ができない。

 「アンネ!隊長!コイツ肩に2発食らったって!」

 「馬鹿者!先に言えッ!手伝え!手動でバラすぞ!」


 左腕パーツを分解すると大量の血液。

 そこは血の塊だった。

 肩は・・・中で跳弾したのだろうか?骨は砕け、肉も千切れ、かろうじて皮膚でつながっているかのようだ・・・このままでは失血死・・・。

 「お前・・・」

 そこまでしか言葉にできないミーシャ。

 急いでバックパックを引き剥がしてボストックから引きずり出す。

 ミーシャがそっと横たえると、葉月が何かを勢い良くアンネの胸に突き刺す。

 「隊長!何をするんですか?」

 「筋肉弛緩剤を心臓に直接打ち込んだ。これで心臓が止まる。出血も抑えられる。だが、脳に血液もいかなくなった。」

 「そんな!」

 「急げ!時間との勝負だ!ローダーで医務室に運べ!」

 「ハッ」

 ローダーにアンネを載せてミーシャが走り去る。


 葉月の目に映る己の血まみれの手。

 今までその手が「自分のものではない事」を気にすることはなかった。いや、気にしても意味のないことだった。

 それが、今猛烈に悔しく思う。アンネは・・・助からない可能性が高いだろう・・・。

 同じ部下であっても、アンネは葉月にとって特別な者なのかもしれない。

 いや、恐らく、これがフィルマの同族意識なのか。

 オペレーターを目の前にして居た、冷酷なる自分とは違う、もう一つの自分。

 本来とは逆の「ヴィジリアンの犠牲を容認してフィルマの犠牲を悼む心」。

 あってはならない心だ。だが、それを否定できない。

 最後位自分の手で触ってやりたかった。本物の手でなでてやり、ご苦労と、ありがとうと伝えたかった。そう思う。思ってしまう。

 スライム相手に散華するのとは違う。それならアンネも本望だろう・・・それをこんな形で・・・。

 拳を握り締める。

 これが「アダムを所有するということ」か・・・これほどの対価を払ってまで・・・。

 ギリギリと噛み締められる奥歯。

 この枕崎基地は事実上の壊滅だ。コロニーもどこまでもつのか・・・。

 

 させない。チャイナの思うとおりには。

 例え一人であっても救ってみせる。


 駆け出す葉月。

 エレベーターの扉を切り取り、床に剣を突き立てる。体を中心に丸く床を切り取る。切り取った床と共に落ちていく葉月。一階に到達した瞬間ドアに斬りつけその反対側の壁を蹴る。

 ドアを突き破る。

 そこにはリモコンで呼び寄せたペガサス用のローダー。

 またがると正門を抜けて飛び出していく。


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