願いは(2)
司令室で、睨み合う諸茗と葉月。葉月は両手を挙げている。
司令に動きは無い。もう遅いのか・・・。
「さて、いい加減に白状してもらおう。どうやって「アダム」を手に入れた?」
言うが早いかオペレーターに一発。
無造作な一撃。
だが、その一撃でまた一つ命が消えていく。
これで生き残っているのは葉月と・・・希望的観測だがおそらくは司令。
「君は意外と頑固だな・・・もうこれで君の目の前で7人死んでいるのだぞ?」
諸茗としても葉月に撃ち込んだところで意味がないのは分かっているのだろう。
オペレータ要員の命を奪うことで、葉月に回答を迫っている。
正直に言ってしまえば、葉月にも、諸茗にも「この事実を知る自分たち以外の生存者」は不都合なのだ。
葉月は冷酷かもしれない。
だが、蒔司が男であるという事実がこの場で露にされた以上、何らかの確実なる口封じ手段が必須となる。
そう思えば。
いかな忠実なる部下であっても。
万が一でも、この情報を漏らす訳にはいかない。
可能性をゼロにするには・・・ここで死んでもらうしかない・・・。
コロニー、いや、ジャパンエリア全体の命に関わる問題なのだ。
(・・・すまない・・・)
全てを承知の上で、心で詫びる葉月。
とは言っても、もちろん、葉月も反撃の糸口を探している。
だが、諸茗は、目線はこちらを向いたままでターゲットの急所を狙い打っている。
右手の銃は、葉月の眉間に向いている。
つまり、「アダムを手に入れる方法」が、ついでに欲しいだけであって、とりあえずは今の蒔司を手に入れるだけで構わないという事。
自由に遺伝子を組み替えることができ、遺伝病を発生させる劣勢遺伝子は除去可能な現代。
つまり、近親交配におけるリスクは無いに等しい。
結局、諸茗の任務は、蒔司が万が一手に入らなかった場合に、男を捕まえる方法を知っておく事で作戦をフォローする。そういう意味合いが強い。
「蒔司捕獲成功」の報告があれば、迷わず右手のトリガーを引くだろう。
机に突っ伏した遺体が画面切り替えスイッチに乗っている。
オペレーション用の画面がカチカチと切り替わる。
映し出される基地内。
どこも倒れた職員だらけだ。
唯一の救いなのは民生区はシャッターで閉じ込められただけのようであること位か。
内心少しホッとしかけた葉月に諸茗が追い打ちをかける。
伏したオペレーターに、さらに銃撃を浴びせる。
遺体の肉が弾ける。
「どうする?このままじゃ葬儀をあげようにも遺体が残らんぞ」
続けざまに撃ち込む。
遺体が肉片に変わっていく。
その時メインスクリーンが代わり、一機の機体を映し出す。
暗がりの金属の部屋に浮かび上がる白い航空機。
ペガサスだ。
(フェル。よくやった。)
「もう、お前らの手には入ることはない」
ゆっくり話す葉月。
「どういうことだ?」
それには答えず、顔でメインモニターを指す。
「何だ?あれは?」
微かな笑顔で応える葉月。
「射出!!」
葉月が叫ぶ。
轟音と共に飛び立つ機影。ペガサスが射出される。
「何?!馬鹿な・・・空を飛ぶなど自殺行為だ!」
「アダムはもうこの基地にはいない。これでな!」
諸茗が画面に気を取られたわずかな隙。そこに葉月が手を振り下ろす。
「ガッ!」
声にならない声。
葉月の手首から3本のワイヤーが伸び、その先にあるのは投げナイフ。
そして。そのナイフは諸茗のこめかみ、喉、胸元に突き刺さっている。
「私がサイボーグだというのに・・・愚かな奴だ」
答えはない。
何かを口にしようとした表情のまま倒れる諸茗。
司令の息は・・・残念だ。
するりとワイヤーを巻き戻しナイフの血を拭い元通りに納める。
これで葉月独りとなった司令室。
急いで手元のパネルを操作し、モニターに各所を映し出す。
基地内は・・・軍用区は壊滅と言っても良いだろう・・・だが、あのズタボロのボストック2機は何だ?機体ナンバーは?なんだ?ニコイチか?機体情報が乱立している。
だが、動きを見ているうちに納得がいく。アンネとミーシャだ。向かっている先は、士官居住区。ふむ。蒔司とフェルを救出に向かっているのか。
「アンネ、ミーシャ!大丈夫か!」
声をかける。
「隊長!無事だったのですね!」
アンネが声を返す。安堵の声色。
「ああ。残念ながら私独りだが」
「でも、それだけでも十分です!」
「我々はこれから蒔司とフェルティの救助に向かいます」ミーシャも口にする。
「いや、そこには二人は居ない」
「何ですって!」
アンネの声。
「フェルの誘導、蒔司の援護によって安全な場所に避難した」
「そうか、蒔司もやることはちゃんとやったんだな」
更に安心した声のミーシャ。
「だがしかし、お前らの向かう先には敵主力がいる。ペガサスは機体の都合でそちらに向かわせることができない。そういう機体で申し訳ないが殲滅を命ずる」
気を緩ませていない葉月の言葉。
「ハッ」
「この機体には皆の意志がこもっているんだ、負けるわけがねえ」
「私もすぐに合流する。それまで持ちこたえろ」
「了解!」
更に画面を切り替える。そこには防刃コートを着てスライムと格闘する第5、6小隊。一機のボストックでフロントを形成し、機銃で援護しているようだ。
「状況は?」
「中隊長!ご無事で!」
「ああ。とりあえずはな。どうだ戦況は?」
「厳しいです。ですが、強酸弾で上手いことスライムの動きを止めて壁代わりに使ってます」
「当面は本基地内部の掌握が先決だ。無理に突っ込む必要はない。しばらく戦線を維持しろ」
「ハッご武運を!」
問題の警察署に向かった部隊だが・・・カメラが動いていない・・・潰されたか?
とりあえず第3小隊長のナリアに無線をつなぐ。
「ナリア!応答せよ!」
「中隊長!」
「状況と損害を報告せよ」
「膠着しています!ロビーに入ったところで周囲から銃撃を受け3名死亡!2名重傷!今はコートの防弾性能を活かしてロビー入り口側面で耐えている状況です!」
「持ちそうか?」
「敵の総数がわかりません!状況から察するに既に警察署内部は制圧されたものと判断します!」
「一時退避は出来そうか?」
「援軍は望めないのですか?!」
「ああ、こちらも襲撃を受けている。コロニー内部にスライムも確認された、よって我々にはもう手駒がない!」
「ッ了解ッ!総員一時退避!外に出て車両をバリケード代わりに使って当面凌ぎます!」
「こちらが落ち着いたら増援を出す。それまで踏ん張れ!」
「ハッ」
葉月がBBに体を移す。普段とは違う形のヘルメット。これでリアルタイムに司令部で受け取れる情報が手に入る。
「こんな形でこいつを使うとはな・・・」
本来中隊規模の同時作戦行動時に統合指令者が使う奴だ。
「まさかヴィジリアンやフィルマが相手の初陣とはな・・・」
横のドアを開けるそこにはローダーと武装一式。
ローダーにまたがると、ガクンとリフトが起動して目的フロアーに向かう。
「覚悟したまえ・・・」そう呟くとともに。




