望むと望まざると(3)
作者注:拷問風景少しあります。
ココの部分、ちょっと長めになりました。
更に同時刻。自室で待機していたミーシャとアンネ。
「ミーシャ。おかしくない?」
「ああ。みんな出ていったはずなのに殺気が消えねえ・・・」
ふいに重火器と思われる銃声が響く。大量の軍靴の響き。悲鳴を打ち消すような轟音が続く。
「おい!」
「第1小隊の部屋よ!」
「ああ、そこしかこの区域には人が居ないからな」
「救援に!」
そう言って飛び出そうとするアンネの肩ををミーシャが押さえつける。
「無理だ!たった2丁のリボルバーじゃお前の援護は出来ん!」
「でも!」
廊下を超えて響き渡る機関銃の音が彼女たちの部屋にも届けられる。
ミーシャにはわかる。この銃声の元。最低でも12,3丁のマシンガンが火を吹いている。
靴音から推測するにもっと敵は居るはずだ。
つまりは、この銃声に釣られて飛び出す者を待ち構えている人員が居るはずなのだ。
この状況下では、如何なアンネでも、ミーシャの腕でも無為に飛び込めば的にしかならない。
冷徹な判断。
だがこの場合は。
「お前まで失いたくはない」
アンネの肩を握る手が振るえている。怯えではない。怒りと悔しさに。
顔を見合わせたアンネにもミーシャの気持ちが痛いほど伝わってきた。
優秀なスナイパーだからこそ分かるその無念が。
ここは基地の末端部。ここまで敵が来るということは相応の部隊のはずだ。
「ここで迎え撃つ!」
言うが早いか二人のベッドを倒し前後に重ねる。その前には頑丈なテーブル。
「このクソ重いベッドに感謝する日が来るとはな」
「そうね。十分防弾にはなるわね」
マットの下、床パネルまで金属製のベッド。重ねれば十分な性能を持つだろう。
銃声がまばらになる。一般兵である第1小隊は武器を持っていない。恐らく何の抵抗もできずに・・・。
「しかしよ、アンネ。頼みがある」
「え?何?」
「たまにはその勘外してくれ!」
結果としてアンネの「勘」は正しかった。だがこういう形で実現するのはあまりにも不本意といえよう。
足音が近づいてくる。寄り道した気配はない。どうやら「どこに人がいるのか分かっている」ようだ。
銃を構えるミーシャ。両手にそれぞれアーミーナイフを握り締めるアンネ。
ドアをぶち抜く音。
ドアを蹴破り銃を構える「敵」。その「瞬間」を当然ミーシャは逃さない。
パンパンという音と共に二人の敵兵の目を打ち抜き、すぐに隠れる。倒れる人の音。乱射される機関銃。
派手な自動小銃と思われる発射音にカンカンカン・・・と家具にはじかれる音が混じる。
「この距離で俺が外すかよ!」そう言うと敵の銃撃の合間、マガジンを取り替えるタイミングを縫って更に二発。
ベッドを取り囲むように両翼に展開しようとしていた兵を、両手に構えた銃それぞれ一発ずつで仕留めるミーシャ。崩れ落ちる気配。
急に銃声が止む。靴音で一旦引いたのが判る。
「どう思う?」
キンッというかすかな音。
そして。やはり飛んできたのは手榴弾とスモークグレネード。
「こんなアンティークなオモチャで・・・!」
目視した瞬間、アーミーナイフの腹の部分でアンネが二つとも打ち返す。
廊下からドンっという破裂音がほぼ同時に二つ。何やら悲鳴と意味のわからない言葉を発する敵。
「行くよッ!」
という言葉と共にアンネが飛び出しスモークに突っ込む。
ミーシャも同時に動き、ドア横に備えてアンネを援護する。
目の前に横たわる兵士から銃をもぎ取り、撃つ。
アンネが跳ぶ。回る。しゃがんで駆け抜ける。
スモークの中気配だけで判断し、二本のアーミーナイフが無尽の攻撃となって繰り出される。
その隙間を縫ってミーシャの銃弾が飛ぶ。
ミーシャの銃撃は本来ならアンネに当たってもおかしくない位置に撃ち込んでいる。それをよけるように動くアンネ。
アンネは必ずしも必殺の部位に斬り付けてはいない。手首、足首、防弾チョッキの合間そういうところを狙っている。
ミーシャはその斬りつけられた兵士が発する悲鳴や、やり取りされている「声の根元」に撃ち込んでいる。
敵は戸惑い混乱しているようだ。気配に統一感がない。
狙って撃とうにも二人はスモークの中。
無音で動くアンネとミーシャの位置がわからない。
そもそも、「敵」には音だけで敵味方を判断出来るだけの能力は無さそうだ。
視界の悪いマスクをしたままで、必死にアンネとミーシャを探す敵。
しかし。
やっと照準が合った瞬間にはアンネは居ない。
代わりに目にするのはミーシャからの最後の挨拶。
銃弾。
徐々に煙が晴れてくる。ミーシャにも残り数名となった敵兵が確認できる。アンネはそのただ中にいる。
最後尾で何やら命令する声が聞こえる。日本語ではない。
「アンネ行けっ!」
ミーシャが叫ぶと同時にアンネが敵兵の一人に前蹴りを食らわせ首筋にナイフを突き立てる。そのまま足場にして跳ぶ。
銃口の向きが乱れた瞬間を狙ってミーシャが狙い撃つ。この距離で防弾チョッキの隙間、マスクのゴーグルの中を狙い打つことなど造作もない事だ。
次々に敵が崩れ落ちていく。
アンネが着地した先には隊長らしき格好の人物。
構えようとする拳銃を手首ごと切り落とす。
「It's a game over」
そう言いながら、シャリンとナイフの切先を喉元に添える。腕を掴み後ろに回りながらねじ上げる。
盾にしてミーシャの方を向いた時には全てが終わっていた。
立っているのはアンネが腕を握っている一人のみ。
「あらら・・・きれいになったわね」
そこに転がる死屍累々。はじけ飛んだ肉が、ばらまかれた血液がその廊下を赤く染めている。
「そうか?硝煙と血の臭い。まあ、俺は硝煙の匂いは嫌いじゃないが。」
「で、どうするんだ?そいつ」
更に訊ねるミーシャ。
「タスケテ・コウフクシマス」
片言っぽい日本語で喋る。
「どこのモンだ?」
ミーシャが問う。答えない。
「Where are you from?」
アンネが重ねて聞く。ドスのこもった低い声だ。
答えはない。
握った腕を更にひねり上げる。ゴキッといやな音と感触。折れたようだ。
「アーッツ!アーッツ!」
叫び声は上げるがしゃべろうとはしない。
「一本貸してくれ」
ミーシャがアンネからナイフを受け取ると、服の下に刃を滑らせ、一気に上に切り裂く。
ツーッと糸を引くように肌に血が流れる。はだけた肌には大ぶりの胸。
「コイツ、フィルマじゃないな・・・」
「そもそも私達フィルマ相手にヴィジリアン用の催涙ガスとか使ってる時点でフィルマの判断じゃないよ」
「まあ、それもそうだ」
軽く返すと今度は刃をズボンに滑り込ませるミーシャ。
そしてわざと切っ先が下腹部を引っ掻く様にしてズボンをベルトごと切り落とす。
「ヒッツ」
失禁したようだ。
赤い液と透明な液が床に水たまりを作る。
「ミーシャ。意外とサドっ気あるのね・・・」
「この状況下で優しくはできんよ」
言うが早いか右の乳首を切り落とす。さらに上がる悲鳴。
「コウフク!コウフク!」
しきりに口にする。
「俺が聞きたいのはそんなセリフじゃねえ」
首を傾け険しい表情で睨みつけるミーシャ。
だが、怯えた表情は見せるものの、口を割らない敵。
今度は左の乳首をつまむと引っ張り、じっとりと脂汗を書いている乳房に刃を当てる。じわりじわりとわざとゆっくり切っていく。盛大な悲鳴が廊下に響き渡る。
失神しそうになる隊長らしき人物をミーシャの切り刻む痛みが、アンネのねじり上げる痛みがそうはさせじと責め上げる。
盛んに叫びと「降伏」の言葉を上げる。
だがそれだけだ。
どうやら口を割る気はないらしい。
「もういいわ。ミーシャ。ちょっと下がって」
アンネが言う。
そして目を細くしてゆっくり耳元に囁く。首のナイフをギュッと押し付ける。
「Bye・・・」
ひと呼吸のタメを作った後、刃を一気に引く。大量の鮮血がほとばしり、ビクンビクンと痙攣して動かなくなった。
ドサッっと投げ捨て、ナイフについた血を拭うアンネ。
「あ~あ、結局聞き出せずじまいか・・・にしてもアンネ。怖いぞ」
「仕方ないわ。あの時わざとタメを作ったの。しゃべる可能性に賭けてね。でもしゃべらなかった。それだけの事」
「一斑は・・・」
「無理でしょうね・・・こいつらがそういう基本的なミスをするとは思えない・・・それに私たち以外の気配はもう・・・」
「ああ」
二人とも解っていた。自分たち以外には既に命の気配がないことを。
案の定、第1小隊は全滅していた。ご丁寧に全てにトドメを刺して。
「どうする?この感じだとどこが安全とも言えないよ?」
遺体を並べ、整えてから血に染まったシーツを掛け、手を合わせるとアンネが言う。
「ああ、問題は士官室だ。フェルが危ない。蒔司も死なせる訳にはいかない。蒔司一人なら多分平気で切り抜けるとは思うが・・・さすがにフェルを連れては厳しいだろう」
「そうね。フェルちゃんはノーマルだからこういうことできないし、蒔司さんも庇うあまりまともに動けない可能性もあるわね。他のみんなには悪いけれど、善戦していることを祈りましょう」
「そん前にBB装備しよう。念のため」
「そうね。あそこなら今は無人のはず。戦うにしてもBB使ったほうが早いわね」
念のためと、倒れている兵からありったけの武器弾薬をもらう。
通路を走る。いたるところに基地のメンバーが倒れている。
「くそったれ!皆殺しかよ!」
険しい表情でミーシャが駆け抜ける。
「ごめんなさい。今は貴女達を見ててあげられないの」
アンネの言葉にも悔しさが滲む。
ハンガールームの扉は固く閉じられていた。
ドアロックへカードを差し込むが反応がない。
「こうなりゃ一か八か」
ありったけの手榴弾を蝶番とロックにくくりつけ、十分に距離をとって伏せ、ミーシャが銃弾を叩き込む。
轟音と共に扉が吹き飛ぶ。
「おっしゃ!」
「ミーシャ。耳が痛いよ」
「うん?」こちらにくるはずの爆風がこない。
見ると煙がすごい勢いで中に吸い込まれていく。
中から咳き込む音と声がする。
「お、おい」
さっと動きドアの両端の壁に張り付く二人。そっと中を確認する。
そこにいたのは第5、6小隊のメンバー。
キュイーネがマイアを揺さぶっている。
マイアは頭から血を流している。生きてはいない。
「おい、大丈夫か!」ミーシャが声をかける。
「隊長が・・・私たちのために・・・酸素を少しでも残すために・・・自決しました」第6小隊もか・・・。
「ばかやろう!戦死だ!俺たちのためのッツ!」
ミーシャが怒鳴る。はっとするメンバー。
「動けるものはいるの?」
冷静にアンネが訊ねる。
「コージーが息をしていません!」
セリカの声。
他にもいるようだ。
「蘇生措置を早く!できれば、スナイパーがして」
短く、しかししっかりとアンネが指示を出す。
「皆がここにいるってことはBBは使えないんだな?」
そのミーシャの問いに頷きが返ってくる。
「完全にダメってわけじゃないでしょう?使えるパーツを分解して持ってきて!」
アンネの言葉に「え?」という顔をする隊員たち。
「一機でも良い、自分たちで組み上げるの!」
言い切るアンネ。
「時間がもったいない。10分で組み上げるぞ」
そう付け足すミーシャ。
アタッカーは力技向きである。そういうアンネの機転もあり、かろうじて使えるという部品を集めて、とりあえず2機分組み上がる。
「こいつは・・・思ったよりもハードだな」
あちこち穴が開いた外装。内装の保護膜に至ってはほとんど無いに等しい。
「お願いします!マイア隊長の戦死を無駄にしないために。二人にこの機体を・・・お願いします!」
キュイーネから搾り出された言葉。
「ああ、ありがたく拝借するぜ」
敬礼してミーシャが着込む。
「俺達はこの基地内部の奪還を担当させてもらう!かなりの敵が内部にいる可能性が高いからなっ!皆んなは市街地に侵入しようとするスライムの足止めを頼むぜ!」
言い残してミーシャがヘルメットを被る。
「もし、他にも組み上げできるなら、そっちは一般居住区にお願い。蘇生が間に合わない場合はアタッカーとスナイパーが交代して。市街地では銃の方が重要なはず。魅惑されない距離から強酸弾を活用して、最悪でも足を止めて」
一応階級は上になるアンネが指示を出す。
無理矢理に引き締めた顔と敬礼で答える隊員たち。目に涙を浮かべ、唇を噛み締めている。だが、これも戦闘員の定めだ。それは皆んなも解っている。
「私たちの本来の使命を果たして!お願いね!」
そう言うとアンネがボストックを装着に入る。関節の位置の調整に入る。
ヒューンという音と共に二つのボストックのエンジンに火が入る。
「ずいぶん時間食っちまったが、大丈夫だろうな・・・」
「大丈夫よ。多分。蒔司さんは簡単にはやられない」
そう言うと2機のボストックが通路に突っ込んでいく。




