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ADAM  作者: 流風 生海
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ミーシャとアンネ(1)

 向かい合わせでソファーに座る、渋い顔のミーシャとのほほんとした表情のアンネ。

 ここは彼女たちの居室。

 決して広いわけでもない部屋の中央にソファーセット。両端にそれぞれベッドがある。

「しかし、なんだな、あのアダムってやつは何者なんだ」

 ミーシャが吐き捨てる。

「隊長用の新型を横取りして、活躍するかと思ったが、なんだあのザマは」

「合成酒」を豪快にあおり、空になったボトルを自分の背中越しに放り投げる。

 いつものようにカコンという音と共にゴミ箱に収まる。

 自分の後ろにあるゴミ箱。

 目視もせずに大したものである。

 

「だねー。まあ、ペガサスのおかげで生きているって感じだよね~。・・・あ~あ、あのアクティブバインダーウチにも欲しいな~」

「アンネはトップアタッカーだからな・・・だが、あれを装備すると機動性が落ちると思うが?」

 テーブルの足を蹴るミーシャ。それに対してあかんべえをするかのごとく、引き出しが開く。中には冷えた合成酒が詰まっている。

 シンプルな作りの一輪挿しの小さな百日草一つ。それが振動でくるりと縁を一周する。

「やっぱりそう思う?」

「俺たちのボストックは長時間駆動を考慮して、スラスターの出力を絞っているからな」

 鷲掴みにしたボトルを一本。勢い良くゴクリとやるミーシャ。膝で引き出しを押し込む。

「うん、今日も思った。機体がトロいって」

「ああ、アダムはとっさのこととはいえ、まあ自分で自分を守ったから良かったようなもんだ」

 アンネがちょっと身を乗り出す。

「そうそう、あの瞬間別人みたいだったね。いつも女々しく撃っているだけのお嬢さんが・・・。いわゆるキレたってやつ?」

 ミーシャも切り返す。

「「元祖」ブレード使いとしてどう見た?」

「結構良い筋だと思うよ。とっさの判断としては悪くないと思う。まあ、これが普通にできれば及第点って所かな?」

「要するに次の訓練次第って事か?」

 

 ミーシャの言葉を受け、ちょっと難しい顔になるアンネ。

「でも、アダムちゃんは「あの形をしたスライム」は苦手というか、ためらいを感じるんだよね~普通に対峙して今日のような動きができるかっていうのは難しいんじゃないかな?」

「アンネもそう感じるか・・・」

 えらく不機嫌そうな顔で、ボトルを煽る。本日3本目の合成酒も残りわずかだ。

「ミーシャ、この所お酒増えてない?」

「飲まなきゃやってらんないよ。こんな「訓練」ただのお守りじゃねーか。アダムの」

「でも、ミーシャの一発でしとめられなかったのも初めてだよね~」

「それは言わんでくれマジで・・・」

 苦い顔のミーシャ。彫りの深い顔が眉根を寄せた表情で一層険しく見える。

「ダブルコアじゃ仕方ないよ・・・実際私もコア見つけられなかったもの」

「アンネもか?」

「うん」

 難しい 表情で返すアンネ。おっとりとした子どもっぽい顔。それが「頑張って難しい顔をしています」と訴えている。

「あの場合ミーシャの選択肢は間違っていなかったと思う。実際に分裂することでコアが確認できたし」

「その言葉に救われるね。とりあえずは。だが、今後は榴弾砲だけじゃなく、スナイパーライフルも持ち込まないとな」

 ふぅとため息つきながらミーシャがスナップで空瓶をゴミ箱へ吸い込ませる。

「アタシも立ち位置もうちょっと考えよう・・・今日みたいにアダムちゃんが「自分で乗り切る」とは限らないものね・・・」

「まだ、訓練だからいいさ。実戦で複数のダブルコアと対峙したら厄介だよ・・・」

「そうね・・・」

 これからの戦いがいっそう厳しくなるのを感じたのか、二人の間に沈黙が流れる。

 

 

 

 ピピピッとアラームが就寝時間を告げ、沈黙を破る。

「寝るか・・・。」

 ゆっくりと立ち上がりベッドへ向かうミーシャ。

「そだね。休息も戦士の仕事の一つだからね~」ぬるくなった「元」ホットミルクを飲み干し、ミーシャのようにゴミ箱へ放り投げる。だがいつものように、ゴミ箱に嫌われる。

「ん、もう」

「スナイパーをナメるなよ」

 ベッドの中で目を瞑ったままミーシャが追い打ちをかける。

「はいはい。ミーシャ様にはかないません」

 結局ボトルを鷲掴みにしてゴミ箱にねじ込み、当のゴミ箱を軽く睨みつけ、ベッドに潜り込むアンネであった。

 

「明日以降、おそらく複数のスライムと私たちのチームとの戦闘訓練になるんだろうね」

 寝返りを売ってミーシャを向きアンネが話しかける。

「そうだろうな。ダブルコアの存在が確認された以上、1対1での訓練はナンセンスだ」

 ミーシャは仰向けで目をつむったままだ。

 

「しかしさぁ、アダムちゃんが対峙する時、なんでスライムはいっつもあの形なんだろう?」

「スライムは心の弱みを突いてくるからな・・・よっぽどアダムにとって想い入れのある人なんだろうな」

「もっ、もしかして恋愛感情?」

 キャーッっとはしゃぐアンネ。

「ヴィジリアンとフィルマでそれは無いだろう・・・まあ、「そっちが好み」ってやつもいるとは思うがな」

「でも、あのスライムすんごいスタイル良いよね~。私、完全に負けてるよ、顔立ちも良いし。ホント元になった人って誰なんだろうね」

「知るかよ。俺は興味ない。アンネ、お前そっち系に目覚めたか?」

「ひっどーい。」軽くほほを膨らませる。

「うーむ。俺の貞操も危険?ってことか・・・俺の接近戦のスキルはアンネには敵わんからな・・・」

「もっとひどーい!」

 手足をジタバタさせて抗議するアンネ。

 

「まあ、お互い貧乳だからなぁ。あっても邪魔だし。アンネお前何カップだっけ?」

「知りません!そういうミーシャだって大したことないじゃない」

「俺は一応B以上はある。そうか、アンネはブラが必要ないってことか」

「違ーう!知ってるくせに」

「俺は自分のも他人のも乳など気にしたことはないぞ。俺には気にする必要がないからな」

 カラカラと笑うミーシャであった。

 

 ひとしきり抗議の言葉を並べ、文句を垂れたあと一息ついてアンネが話を切り替える。

「そうそう、アダムちゃんがどこで生活してるか知ってる?」

「しらねーよ、アンネ、夜這いでもかけたいのか?」

 目を閉じたままのミーシャが混ぜっ返す。

「だからそうじゃなくって!噂だけど、士官用の個室で生活しているんだって。風呂、トイレ付きの」

「新入りのくせに生意気なやつだ。だが、あのブロックだと残念だな~。アンネ、夜這いできんぞ」

 徐々に暗さを増していく部屋の中で、ミーシャのニヤリとした表情が浮かぶ。

「ん、もう、違うのに~。」

 膨れた顔のアンネ。

「だが、新米一兵卒のくせに士官室は看過できんな・・・。よし、明日の訓練,スライムの代わりに自分らがいっちょ揉んでやるか?」

「あ、それ良いかも。あの子スライム苦手みたいだから、私達との模擬戦闘なら違ってくるかもよ」

「仲間との戦闘の方が動きが良いってのは癪にさわるな・・・。ま、自分たちのバディにかなうのは隊長位なモンだ」

「実弾は止めてよ?」

「あの機体をロストするわけにはいかないさ。それに中身はアンネの想い人だしな」

 まったく、つくづく意地が悪い言葉である。

「違うってばー。んもう」

「はいはい。おやすみ。良い夢を」

 そして、二人の今日が終わった。


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