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ADAM  作者: 流風 生海
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目覚めた少女(1)

 その時フェルティの携帯端末が呼び出しを告げる。

「はい。フェルティです」

「ねえ、フェルちゃん、貴女のお世話している人って確かマキシって言ったわよね?」

「うん。そうよ。それがどうしたの?」

「今、病室で意識不明のというか植物状態だった患者さんが急に意識を取り戻してね。で、マキシに会わせろと、「自分の夫になる人だ」と言い出すのよ」

 どうやら病院の同僚からの電話らしい。

「夫ですって?」

 嫌な予感がする。

「まあ、問題ないとは思うんだけれど・・・できれば会わせて見て欲しいの」

「うん。わかった。今から行くね」

 そう言うと電話を切るフェルティ。オートタクシーを呼ぶ。

「蒔司。その子に名乗った?」

「いいや。こういう時は自分から明かさない方がいいと思って・・・でも俺の性別を見抜く子だからな・・・何とも判断できないよ」

 タクシーに乗り込む二人。

 民間病院への行き先指定を受けて走りだすタクシー。

「あれ?オバラビョウイン?基地の病院じゃないの?」

「ええ。元々私は民間採用なのよ。出向で軍病院にいるって訳」

「そうなんだ。初めて知った」

「私の制服には階級章が無いでしょう?もちろん普通のバッジとかじゃないけれど、正式採用のナースは左襟に階級を示す刺繍があるの」

「ふーん刺繍ね・・・」

「バッジだと処置中に外れる危険があるから」

 なるほど。



「もしかして、幽体離脱てやつか?」

 ふいに閃く蒔司。

「そうね。「実際に死んではいない」つまり、仮死状態だったとしたら、霊体はまだあるわけだし。可能性は否定出来ないかしら」

「ふうん・・・実際に会ってみないことにはわからない。か」

「念のため会う時は他のナースは遠ざけて3人だけにしましょう。何を口にするかわからないもの」

「そうだね」

 オートタクシーってのは自分たち以外には誰もいないってのが助かる。こういう「怪しい会話」していても心配がない。


 そして、タクシーが病院に到着する。精算機に自分のIDカードを滑らせ降りる蒔司達。

 急いでナースセンターに行き、状況を確認する。

 やはり、意識を取り戻した子の名前は「名木沢=マリア=華音」13歳。

 病室に向かう。近づくにつれ喧騒の音も大きくなっていく。

 病室入り口に立ちんぼの看護師達。うち独りがフェルティに気づく。

「ああ、フェルちゃん、良かった。もう、本当にきかん坊で・・・」

「どうしたの?」

「診察させてくれないのよ。主人以外にたやすく体を晒せるかって」

「え?主人?」

 マズイなと思う蒔司とフェルティ。顔を見合わせる。

「で、容態の方はどうなんですか?」

 蒔司も気になることを聞いてみる。

「貴女がマキシさんですか?」

「はい。宮本蒔司と言います」

「そうですか。名木沢様の体の方の治療は完了しています。ただ、これまで脳波が検出されても微弱で、途切れることも多かったものですから、脳死判定に移るべきかどうかという状態で・・・ご親族もここにいらっしゃらないし・・・医師が診察しようとした矢先にこの事態なんです」

「中は今どうなってるの?」

「先生が説得してます」

 それはいやでもわかる。ドア越しに廊下まで響く、なだめようとする医師の声と半分ヒステリックな声で拒絶する華音の声。

「じゃあお邪魔します」

 そう言うと扉に向かう蒔司。

「あんまり刺激したくないし、念のため皆んなはここで待ってて」

 看護師達に説明し、後に続くフェルティ。


 扉を開けると・・・異常に乱雑な病室。倒れた点滴と投げ飛ばされた枕。引きぬいたかのような人工呼吸用のチューブや脳波測定用のコードが散乱している。

「こんにちわ」

 とりあえず華音に声をかける蒔司。見間違うはずもない。先程店で見たばかりの顔。怒り心頭という表情ではあるが。

 フェルティが医師に耳寄せをする。頷いて医師が部屋を後にする。

 蒔司に気づき、笑顔を向ける華音。だが、すぐに横にいるフェルティに気づき、睨みつける。

「貴女はいらないの!出てって!」

 フェルティに向かって厳しい口様で言う華音。

「名木沢さん。貴女は今までずっと意識不明の重体だったのよ?せめて看護師としていさせてくれないかしら?」

「華音。せっかくこうやって本当に会えたんだ。もし、ここで体の調子が急におかしくなったら俺も困るし、悲しいよ。だから簡単な診察だけでも受けてくれないかい?」

 蒔司がなだめる。

「旦那様としてのお言葉ね・・・いいわ。そこの乳デカ女でも我慢する。診察してちょうだい」

 その言葉にムッとするフェルティ。だが、相手はまだ子供だ。努めて平静に、なるべくにこやかに診察を開始する。

「ありとう。名木沢さん」

 体の治療は完了している事は間違いないようだ。ただ、少々体ににコリが認められるが、寝たきりだったことを考えればまあ普通だろう。

「ちょっと筋肉や関節が固いわね・・・ほんの少しだけど、ほぐす必要があると思うわ」

「そう?じゃあ、蒔司・・・ううん、旦那様お願いします」

 そういうと服を脱ぎだす華音。

「おいおい。俺はマッサージなんてできないよ」

 あまりに急な出来事に手を振って抗議する蒔司。

「蒔司、回れ右!」

 睨みつけるフェルティ。

「あ、ゴメン」

 と慌ててTシャツを脱ぎ裸になる華音に背を向ける。

「なんでデカ乳が旦那様に命令するのよ。私は旦那様に見て、マッサージして欲しいの!」

 華音が再び荒い声で抗議する。

 だが、フェルティは動じない。

「その何日もお風呂にも入っていない体でいいの?」

 フェルティが優しく問いかける。

 あ、と気づいた顔の華音。途端に顔を真っ赤にし、声が小さくなる。

「う・・・」言葉になっていない。

「私はフェルティ。この蒔司さんの担当ナースなの。よろしくね」

 そう言葉をかけると華音の体を優しくマッサージを始めるフェルティ。

 いかにも仕方ないといった風で体を預ける華音。


「じゃあ、俺は外で待ってるから」

 そう言いながら扉に向かう蒔司を華音が引き止める。

「それは嫌・・・せっかく会えたんだもの・・・ここにいて・・・」

 その言葉に動きを封じられる蒔司。居場所がない。

「華音、その、何だ、「旦那様」ってのは止めてくれないか?」

「そうよ・・・この世界に男性はいないんだから、「旦那様」はおかしいわ」

 フェルティも続ける。

 その言葉に対してフェルティを睨みつける華音。

「嘘つき!アタシは知ってるもん!」

 フェルティに刺のある言葉を投げつける。

「じゃあ蒔司って呼んでもいい?」

 蒔司に対して向けられる言葉は柔らかい。

「ああ、それでいいよ」

 蒔司も優しく答える。

「それでなんだけど・・・どうやって蒔司の事そう思ったの?」

「だって、元幽霊よアタシ。見ようと思えば見えるんだもの。というか、さっきちゃんと見たもん」

 その言葉に「え?」となる蒔司。思わず華音の方を振り向く。

「見たって・・・俺の体の事・・・」

 そう言って気づく、まだ、膨らみかけといってもいいだろう小ぶりな乳房を晒す華音に。

 とっさに毛布で胸を隠す華音、それに気づき振り返って再び蒔司を睨みつけるフェル。

 フェルの目線が怖い。慌てて再び後ろを向く蒔司。

「これでおあいこね・・・まあ・・・やっぱり見られるのはちょっと恥ずかしいな」

 小さくつぶやく華音。

「でも、退院したらちゃんと見せてあげる・・・綺麗にしてからね・・・そしてアタシをお母さんにしてね」

 その過激な言葉にたじろぐ蒔司。あ、いや、と上手く言葉に出来ない。

「それとも、やっぱり、この人のようにデカイおっぱいが好きなの?アタシのほうがずーっと若いわよ?」

 その言葉にはさすがに反論するフェルティ。

「私だってまだ二十歳です!」

「二十歳ってもうオバサンよ。オ・バ・サ・ン」

 その言葉にやばい気配を感じた蒔司。いかん。これはさすがにフェルも怒る。

「まあ、待て、二人共落ち着いて」

「落ち着いてます!」

 言葉の割には余裕が感じられないフェルティ。

「フェルも華音も十分若い。というか、華音、君はちょっと若すぎるよ。」

 その言葉にちょっと救われるフェルティ。自分が蒔司よりも年上というのは気になっていた所だ。

「何で?もう私は普通に母親になれる体よ?友達だって何人かすでに卵子結合の子供を授かってるわ。しかも私と蒔司なら本当の子供よ?欲しくないほうがおかしいじゃない」

 そう言い切る華音。

「それとも・・・蒔司は・・・」

 何を言おうとしているのか。だが、ここで言わせるわけにはいかない。

 下手な会話で流れを悪くするのは避けたい蒔司。

「ま、まあ、焦らずに、時間はあるんだから、退院してからゆっくり話そうその事は。ね?」

 壁に向かって説得する。

「蒔司さんの体のこと、どこでも、また、誰にでも喋っていい事ではないの。それは貴女も分かるでしょう?だから今は我慢して。ね?」

 華音に納得を求めるフェルティ。


「わかりましたっ。でも」

 そう言ってフェルティを睨む華音。

「独り占めは許さないから」

 そう口にする。

「分かったわ。でも、こういうことはお互いの気持ちが大事なのよ。卵子結合みたいに「ください」って簡単に貰えるものではないの。それは理解してね」

「アタシの体じゃ蒔司はそういう気持ちにならないっていうの?」

「ううん。こういうことは時間が大事って事。蒔司が体の魅力だけで手を出す人なら、今頃ここ、枕崎はベビーブームになってるわ」

 中々に「毒」のある言葉ではある。

 ささやくように華音の耳元でしゃべるフェルティ。

 まあ、実際、これだけ一緒に暮らしてて「お手つき」を貰えない彼女にしてみれば、ポッと出の華音に簡単に蒔司がなびくとも思えない。

 というか、そう思わないと自分が悲しい。


「ま、まあ、とにかくさ、皆んな若いんだから、もうちょっとゆっくりいっても良いんじゃないかな?」

 とにかくこの話を収めたい蒔司。フェルティに合わせる顔がない。

 実際のところ、二人で生活してはいるものの、一歩踏み出す勇気がない蒔司。

 というか、今のフェルティが居ることにより作り出される暖かい雰囲気。これだけでも十分。そう感じている。これ以上を望む必要はない。そう感じているのも確かだった。

 


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