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ADAM  作者: 流風 生海
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つかの間の休み

 ある日のこと・・・。


 貰った休暇を利用して、一般居住区に来た蒔司とフェルティ。

 初めての「外出」であり、少々気持ちが浮ついていた蒔司だったが、それは直ぐにかき消される。


「この空・・・」

「そうね。蒔司は初めてよね。緑色の空を見るのは」

「エアロバクテリアってやつか・・・」

「うん。グランドインパクト直後に発生したこのバクテリアが私達から蒼い空を奪ったの。私達から空を飛ぶことも奪った。そういう空よ」

 かすかに淋しげな空気を混ぜて話すフェルティ。

「さしずめ、地球を囲む緑色の檻ってところか」

「うん。まぁそうなるのかしら」


 蒔司にとってその空の色は「ここが自分の生まれ育った世界ではないこと」を伝えてくるようだ。

 上は・・・見ないようにしよう・・・。



 二人で商店街を歩く。意外と人に溢れ、賑やかだ。

 小洒落た喫茶店で軽い昼食を済まし、さらにぶらついていた時だった。


 賑わいとは程遠い雰囲気を醸し出す一軒の建物が蒔司の目に留まる。

「ねぇここって?」

「ああ・・・そこは・・・この前のマンションの爆発で経営者一家が亡くなったそうよ」

 朱色の立派な門そして奥に薄っすらと見えるのは同じく朱色の建物。どことなく中華式を匂わせる建物がひっそりと、空虚な空気を漂わせて建っている。

 そして、門前に白い花束が捧げられている。


「元々は結構流行っていた中華料理のお店だったのよ・・・でも家族経営だったから・・・」

 残念そうなフェルティの声。


 ふと蒔司は門をくぐる「何かの気配」を感じる。子供?

「ちょっと待ってて」

 そう言うと蒔司も門をくぐる。

 そこには思ったよりも薄暗い中庭。門から店舗入口まで屋根が続き中庭を取り囲むように柱が立っている。柱の間には程良く隙間を開けて板が貼りつけてあり、完全に暗闇になるのを防いでいる。全て朱色に塗ってあるのがわかる位には。

 そして店舗入口には本来入店待ちの客用の物なのであろう椅子などが片付け、寄せてある。

 肝心の気配は・・・。


(お兄ちゃん遊んでくれる?)

 不思議な声がする。女の子の声?

 ん?お兄ちゃん?

「お姉ちゃんならいるよ」そう返す。

(ふふふ・・・嘘つき・・・アタシにはわかるもん)

 なんだろうこの不思議な感覚は。

 逆らえないような言葉のプレッシャー。

「わかった。遊んであげるよ」

 その瞬間軽いめまいを覚える。

(アタシを見つけてみて)

 ん?かくれんぼか?にしてはこの空間には隠れることの出来る所など、どこにもないと思うのだが・・・。

 気配を探る蒔司。

 右隅の柱の根元。目線を向けるが誰もいない


(見つかちゃったね・・・じゃあもう一回)


 ???


 今度は反対側、自分の真後ろに現れる気配。納得する蒔司。これは人の気配ではない。

 霊の気配といってもいいのだろうか。生きた人間ではない。それは確かだ。

 恐らくは例の経営者一家のということか。

 だが、怖さ、不気味さといったものを全く感じさせない気配。


 テンテンテン・・・と、ゴムまりのような物が跳ねながら転がってくる音が向かってくる。

 振り向き受け取ろうとする。蒔司をすり抜け転がっていくボール。そしてそのボールが転がってきた先にはパジャマ姿の少女がいた。後ろがうっすらと透けて見える。


「霊」で間違いないのだろう。


「君はいつもここにいるの?」

(うん)

「独りぼっちなのかい?」

(うん。だからお兄ちゃんを待ってたの・・・遊んでくれる?)

「困ったな・・・それよりも君はお母さんのところに行ったほうがいいんじゃないのかな?」

(まだ行きたくないの)

 見た目10代前半であろうか?この世界でまだまだやりたい事もいっぱいあったのだろう。

「名前はなんて言うんだい?」

(カノンだよ。華やかな音って書くんだ)

「いい名前だね華音ちゃん」

(「ちゃん」はいらない。華音でいいの)ちょっと膨らんだ頬。いわゆるおマセなお年頃ということか。


 何時まで経っても出てこない蒔司を不思議に思ったフェルティ。

「蒔司・・・どうかしたの?」

 フェルティも門をくぐろうとして何か見えないものに阻まれる。

「え?何?」

「フェル。入ってこないほうがいいよ」蒔司がフェルティを留める。

(あの人・・・アタシのライバルね・・・だから入れてあげない)

「え?ライバルって?」

(アタシね・・・お母さんになりたい。そういうお遊びがしたいの)

「つまり・・・おままごとみたいなものかい?」

(バカにしないで!男と女の遊びよ!)意志の風とでも言うのだろうか。気の流れを感じる蒔司。

「うんっと・・・今の華音にそれは難しいと思うよ」

(大丈夫・・・お兄ちゃんが旦那様になってくれる・・・でしょう?)

 不思議な圧力を感じる。これに答えてはいけない。そう思わせる何かがある。

 無言を返す蒔司に苛立った風の華音。

(そう・・・じゃあ本気になってもらうわね)そう言うとすっと姿も気配も消える。

 ふうと一息を入れる蒔司。


「俺には霊感なんて無いと思ってたんだけどな・・・それほど華音のここにいたいという意志が強いってことなのか?」

 そうつぶやく蒔司。

「蒔司。どうかしたの?何かあったの?」

 そのフェルティの声に答えるべく門をくぐり外に出ようとする蒔司。

 だが、蒔司も出られない事に気づく。

「あれ?」

「どういうこと?」

 フェルティも門をくぐり入ろうとするが入れない。

「ちょっとまずい事に巻き込まれたようだ。フェル。ちょとここから離れてて」

「え、うん」

 これは「意識の壁」つまり結界みたいなものか?

 それとも「出られない」という暗示をかけられたのか?

 どちらにしても「破る」という強い意志が必要だろう。

 なれば。

 十分にフェルティが距離をとった所で、蒔司は体内にて「気」をふくらませる。そして十分に気を練ってから右手に集中させる。

「ハッツ!」掛け声と共に門にある「見えない壁」に向かって掌底突きを一発。

 その瞬間パシッっと何かが弾ける音。突きが門を突き抜ける。同時に門外へ吹き出す突風。

「うん。出られた」

 門から脱出して蒔司が口にする。

「蒔司?何がどうなってるの?」

 そのフェルティの問いに答える蒔司。

「つまり・・・蒔司はお化けに取り憑かれたって事?」

 フェルティの声が怪訝だ。

「どうもそれっぽいね・・・それに厄介なことに、俺の性別を見抜いている」

「え?それは・・・でも、蒔司にしか見えないし、聞こえないっていうのなら周りが気づくことは無いんじゃない?」

「それで済めばいいけれどね」

「とにかく、お祓いして貰おうよ」

 不安そうな声で提案するフェルティ。

「そうだね・・・」

 とりあえずフェルティの案内にしたがって歩き出す。


「この世界では「霊」ってどういう認識なんだい?」

「理論上「霊体」つまり魂と呼べる存在があるという風には認識されてるわ。一種のエネルギー体って事でね」

「つまり、この時代にはちゃんと幽霊が存在するということかい?」

「ううん。死んだ瞬間に「分解される」っていう解釈よ」

「じゃあ、俺が遭遇したのは・・・?」

「消滅したくないっていう故人の強い意志・・・なのかしら?」

「まあ、まだお母さんのところには行きたくないって言ってたけれど・・・わからないなあ・・・」

 ふと気づく。

「お祓いって・・・この時代にも宗教が存在してるんだ」

「ええ、まあ、形としてはね。神様がいるとか信じている人はほとんどいないと思うけれど・・・まあ、ひとつの心の拠り所って感じかしら」

「宗旨ということではなく、心の安定のためといった感じなのかな?」

「まあ、A.C.からE.C.に時代が変わった時点で「神様は何の役にも立たない」ってのが証明されちゃってるから」

「じゃあ、お祓いって何するんだい?」

「霊的エネルギーの調査、解析、対処って言うこと。まあ、要は科学的に分析して、精神エネルギーの変調を治すということよね」

「何がありがたみがないな・・・それに、俺って患者って事か。・・・なんか変だ」

 


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