外の味
今日の任務につく第5小隊。
部隊を二つに別け、コロニー北東部周囲を哨戒していた。
この辺りは全般的に山、小高い丘が多い。残りはボストックのひざ丈程もあるカヤ、ススキの草原だ。
再び小隊が集まり情報を交換する。
普通なら小隊を更に分けるなどという事はしない。万が一スライムの群れと遭遇した場合3機では歯がたたないからだ。
だが、つい先日この付近でスライムの集団を大量に捕獲した。
第3、4,5,6小隊の全兵力を注ぎ込み、結果捕獲数は100をゆうに超えた。倒したものを含めると200じゃきかない。
これだけの集団がまとまっているのは最近では珍しい。
スライムは瞬発力こそあるが、移動速度自体はそれほどでもない。ヴィジリアンでも走って逃げられる程の速度しか出ないとされている。
だが、当然、生身では「魅惑」されるので逃げられない訳だが。
それにしても、何故このエリアにまとまっていたのか。
彼らの行動には謎が多い。
だがしかし、当面はここまでは来ないだろう。海から遠いからだ。
今日は念のための哨戒任務であった。
「半径2km反応なしです」
その声にウムと返すマイア。
「キュイーネ、セリカ、コージー。今のうちに例の蒔司少尉のプログムやってみろ」
「ハイッ」
適度な間合いを開け3機が並ぶ。
「始め!」
マイアの掛け声でそのプログラムが始まった。
とたんにキャッと声を上げる3人。急激なBBの動きに翻弄されている。
見た目には整然と動いている。だが、これは彼女たちの意志ではない。しかも明らかに普段の動きよりも早い。
プログラムが終わると同時にがくりと肩を落とす3機のボストック。
「こ、これはキツイわー」
思わず声になるキュイーネ。
「操り人形ね・・・思いっきり振り回された・・・」
とはコージー。
「調節したって・・・私のスピード限界いっぱいいっぱい使ってるじゃない」
セリカも困惑した声だ。
だが、マイアは気付く、この動きでは横には大きく振り回さず、サイドステップが無いため、3人横に並んでの攻撃が可能だ。隙間から狙い撃つのもうちの部隊のバックスの練度でも十分可能だろう。
「確実に仕留める壁ができるということか・・・」
思わず呟くマイア。
第3小隊、第4小隊それぞれの隊長とも話す。皆同じ意見のようだ。
つまりはフォワードの数だけ横に長い防衛ラインができるということか・・・
「3人ともしばしその動きに慣れるようやりなさい」
「え、今ですか」
「ああ、幸いにして付近にスライムは居ない。3班4班も同じ状況のようだ。今のうちに自分のものにしたほうがいい」
かくして3人は「踊り」だす。
数回もすると息が上がる。
「ハァッハッ・・・これは想像以上にしんどいわ・・・蒔司少尉はこれを普通にできるっての・・・」
「ッツ・・・しかもものすごい速さでねハァッ・・・」
「キッツイし、バッテリーが厳しいなこれ・・・」
しばし休憩。
同時に、それぞれローダーから充電を行う。
「さすがだとは思うけれどさ、生身のノーマルに劣るってのが気に入らないわ」
キュイーネが口にする。鼻っ柱の強さは相変わらずのようだ。
「でも、コツというのか、そういうのは見えてきたよね」
「うん。それに、意外と動きに自分で手をいれる余地もあるわ」
「これを基本形に自分なりの動きを作れそうね」
早くも先を見据える面々であった。
人員不足のこの基地では悠長に訓練している暇はない。守りの要である特務を引っ張り出す訳にもいかない。
「ここが私たちの生きる場所であり、戦場でもあり、訓練できる唯一の場所・・・」
キューネが見渡す。一面の草原。見上げると薄い緑色の空に濃い緑の雲。
「大昔はこの空を飛べたんだよなぁ・・・人類も」
口からこぼれるキュイーネ。
「突き抜けるような青い空かぁ・・・いっぺん生で見てみたいよね」
受けるセリカ。
「今ではヘルメットを外すことも許されない、鳥もこの世界では飛べない・・・」
ちょっとセンチになる。
「だが、これが現実だ。私達はヴィジリアンのために生を受けた。そういう運命なのだよ」
マイアが諭すように語る。
「最近フィルマが生まれないの判る気がする・・・ヴィジリアンも自分の命を守るためにフィルマを産む・・・多分ヴィジリアンも辛いのよね・・・」
呟くように言葉を返すセリカ。
「そうね・・・お腹を痛めて産んだ我が子に自分を守らせる・・・しかも自分を追い抜いて先に年老いて・・・私が母親になれるとしても・・・そんな悲しい子供は欲しくないわ」
キュイーネもそう思う。
「だがな。私は気に入っているぞ。自分の運命を。コロニーの中だけで人生を全うする。逆に言えばそれがヴィジリアンの運命だ。我々フィルマはこのBBと共にどこへでも行ける。空を飛ぶ翼こそ無いが、外で自由に動き回れる。ヴィジリアンには決して見ることのできない世界がある。私は短くとも、危険であっても、今の人生で良かったと思う」
そのマイアの言葉にうなずきを返す面々。
例え機械のセンサーを通したものであったとしても、私たちは太陽の力強い日差しを知っている。吹き抜ける自然の風の優しさも知っている。雨の冷たさも・・・外には外の良さがある。例えそれが命のリスクを孕むものであったとしても。
ヴィジリアン、フィルマ、それぞれに人生の味がある。良さがある。自分の人生を呪っても全く意味のないことだ。この世界では。誰もが何かしらの制限を受けているのだから。
充電終了のランプがつく。
「よし、今度はバックスの二人も入って連携を試すぞ、コルティナ、メイサいいか?」
「「はい」」
「前方の岩二つをターゲットに見立てる。訓練開始!」
「ハッ」
一斉に動き出す5人。
人の背丈よりも一回りほど大きい岩二つ。それがフロントラインが到着するとほぼ同時に粉々になる。
「動きに無駄がないだけ、破壊力が出ているな」
蒔司の剣術。その有効性を認めざるを得ない第5小隊のメンバーであった。




