変わった任務(2)
車が走り出す。見送る警備要員がふと気付く。(あれ?車のナンバー?)
すぐに署内に駆け込む。
端末を受付から奪い取り、ミーシャたちの車のナンバーを入力する・・・該当なし・・・。
事の次第を疑問に思った彼女は、何故か直通でエイリイに報告する。
「署長!おかしいです!彼女らの車は警察車両として登録されていないばかりか普通登録もされていません!」
「何!・・・」
追いかけろと言いかけて口をつぐむエイリィ。
「わかった。こちらで対応する」
そう告げると別なところにかける。何やら短く指示を出す。そしてふぅとため息。
「最後の手段も考えねばなるまいか・・・だが、時間が足りんな・・・」
何やら呟くエイリィだった。
「ミーシャ・・・」
アンネが声をかける。
「ああ。」
ミーシャも短く答える。二人とも気づいている。異変に。
これは戦場の空気だ。
「アンネ!くるぞ・・・右!」
素早いミーシャの声に運転で答えるアンネ。
その瞬間本来ならいるはずだった路面が弾ける。着弾ミス。着弾した勢いで弾けたアスファルトが車のボディを叩く。
「どうやらタイヤを狙って事故に見せかけるようだな・・・ブレーキ!」
ミーシャには見えている「狙撃銃」が。
左前方およそ900m。タイヤを狙うためか、一階の窓から狙っている。
弾け飛ぶアスファルトの中を突っ切るアンネ。
この道は横道のない直線道路。逃げ場はない。かわすしか方法はない。・・・この先にはコロニーの外へ向かうゲートと軍施設のゲートしかない。この状況では基地には入るわけにはいかないだろう・・・他に車がいないのが幸いなのか狙いなのか・・・。
続けざまに指示を出すミーシャ。それを受けて見事に弾をかわすアンネ。もうすぐだ。もうすぐで拳銃の間合いに入る。
「アンネ。アルファラインをトレースしろ!」
その言葉を受け、とたんに不規則な蛇行運転をはじめるアンネ。
「よし、ここからは俺の本気ってやつを見せてやる」
言うが早いか、窓を少しだけ開けて隙間から拳銃を構えるミーシャ。
アンネの運転は一見無茶苦茶なな蛇行運転だ。だが、これはアンネとミーシャにとっては「いつもの動き」。ミーシャには次に車がどう動くか分かっている。しかし、当然のことながら敵にはわからない。
狙いをつけられないのか、銃弾が飛んでこなくなる。
「よーし、一発挨拶してやるよ。フィルマをなめんなよ!」
車が右に回頭した瞬間ミーシャが一発。
タンッという発射音は車のスキール音に紛れる。
「よし、終了!アンネもういいぞ」
「殺したの?」
「いや、手に当てた。当分は仕事につけんだろうな」
「どうする?このまま基地には帰れないよ?」
「一旦ゲートを抜けよう。殺菌シャワーの中で作戦会議だ」
「そうね・・・それしかないわね」
「しかし、俺を上官にするってのはもしかして隊長ここまで予測してたのかな・・・」
「ありえるわね・・・」
コロニーゲートに到着する。ここを抜けると外の世界。アンネが車を「気密モード」へ切り替える。
巨大なシャッターを抜け一旦停止する。シャッターが閉じられ、上下前後左右から激しい水を浴びる車。
「あ、あれ?」
何故か窓を黒い液体が流れる。
ボンネットがみるみる白くなっていく。
「おいおい。水性塗料まで塗ったのかよこの車」
呆れるミーシャ。
「上着を脱いで、Uターンしよう」
「ったくどこまでタヌキなんだ?隊長はよ!」
アンネの提案に、上着を脱ぎ、ネクタイをむしり取るミーシャ。忌々しそうにシートにネクタイを叩きつける。
だが、これで追跡される心配はなくなったのは確かだ。
「ま、これで無事に帰れるんだから良しとしましょう」
アクセルターンで車を回し、念のため車の窓をフルスモークモードに切り替える。リモコンで入ってきたシャッターを開けるアンネ。
「しかし、ここまでする、この情報。そんなに重要なものなのか?」
「わからない。でも、これで、軍上層部と警察が上手くリンクしていないってのははっきりしたわね」
「そりゃ、容疑者候補にフィルマがいれば、軍には簡単に情報は渡せんだろう」
「なんかそれだけじゃない気がするのよね・・・」
「アンネの勘は当たるからな・・・ハズレて欲しい時もあるんだな・・・」
動揺こそしているが、アンネもミーシャも自分の仲間が犯人だとは露程も疑ってはいない。
警察にいらぬ嫌疑をかけられ、あれこれ探り回られるのが嫌なだけだ。
エイリィの席の電話が鳴る「捕獲失敗。外へ逃走」の報を受け苦虫を噛んだ顔になる。外部へのゲートは軍の管轄。外の世界では警察は何の役にも立たない。電話を置くと机を指でトントン・・・とつつき始める・・・。
秘書官に取次ぎを願うアンネ。電話確認の後、どうぞと言われる。
「中隊長室」の扉をノックする。入れと声がかかる。
「隊長。「お・か・げ・さ・ま・で」無事に帰還いたしました」
そう言うと紙袋をずいっと突き出すミーシャ。
「ご苦労」
そう言うと紙袋を受け取る。紙袋の中には乱雑に詰め込まれた衣装と一番上にメモリーカード。
「この件については忘れたまえ」
「何を考えていらっしゃるのですか?」
聞くアンネを睨む葉月。
「忘れたまえと言った」
「ハッ」
迫力に押されるミーシャとアンネ。
「今日の残りは自由行動で良い。下がって良し」
「ありがとうございます!」
そういうと失礼しますと退出する二人。
廊下を歩きながら、ミーシャが口を開く。
「しっかしなあ~あれだけ頑張って「ご苦労」の一言かよ・・・」
「ま、二人とも当分は一般地区には行けないわね」
「その代償が「コレ」か・・・」
懐からリボルバーを取り出すミーシャ。
「あ~返してなかったの?」
「アンネ・・・人ばかり悪く言うんじゃない」
そう言うとアンネの後腰をポンポンと叩く。
「えへ」
ペロッと下を出すアンネ。
結局、銃もナイフも返却していない二人であった。
「ま、「忘れたこと」にしましょ。そういう命令だしね」
ニコッと笑うアンネ。
笑顔ではあるのだがどことなく小悪魔的ないたずらっ子っぽい表情だ。
「お前、もしかして銃も返していないのか?」
呆れたような表情でミーシャが口を開く。
「うん。何かね・・・持っていたほうがいいような気がして・・・」
「しゃあねえな。じゃあ、アンネも射撃の練習するか?」
「うん。特にリボルバーはね・・・練習しといたほうがいいと思うの」
特にも何も銃全般苦手じゃねえかと内心思いつつ意地の悪い笑顔で今日の行動を決めるミーシャ。
「おっしゃ。じゃあ、今日のスケジュール決まったな・・・俺は厳しいぞ・・・まあ、蒔司の時よりは優しくしてア・ゲ・ル」
「いやん何か怖い~」
どうにもこの二人。緊張感が長続きしないようである。
葉月は・・・もちろん知っている・・・そして、それも折り込み済み。
下士官は基本的に武器を部屋に持ち込めない。だが、せめてあの二人位は持っていたほうがいい。そう考えての事だった。
受け取ったカードをそのまま机にしまい込む。そう。コイツには用はない。あちらのタヌキもこいつには化かされてくれるだろう・・・。
そして。後は時間が全てを決める。予定時刻までまだ時間がある。
だが、準備はしておくか・・・。
またもや音声通話で連絡を取る。
その後、秘書官に命じて新品のスタンドアローン端末を取り寄せる。
そして軍ネットワークではない一般無線ネットワークに接続する。
待ってましたとばかりにメールが届く。
「準備OKか」
中身を確認し、そう呟くと、再び事務に取り掛かる葉月であった。




