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ADAM  作者: 流風 生海
31/74

事件

 葉月は執務室で情報を漁っている。夜食をつまみながら・・・。

 この所増えている猟奇殺人事件について彼女なりに探っている。


 警察部門は、軍部とは別組織だ。そう簡単に情報は手に入らない。独自のルート以外は。


 分かっているのは、被害者が全員20歳前後。一人暮らし。比較的警備がしっかりしているマンションに住んでいる。

 何より一番気にかかる共通点。それは「全裸にされている」事。

 変質者の犯行と警察では見ているようだが、葉月には「アダム」を確認する行為の気がしてならない。

 今のところ一般人のみの被害だが、それも深読みすると「貴重なアダムをリスクのある軍隊に所属させる訳がない」と犯人が考えているともとれる。


 手元の端末に新しい情報が届く。また被害者が出たらしい。


 冷めたスープを飲み干し、私服に着替える葉月。メガネをかける。フィルマに視力の悪い者などいない。最小限でかつ効果的な変装。


 現場に向かう。現場の前で「報道」と書かれた腕章を身に付ける。


 そこはとあるマンション。いかにも高級そうな建物だ。建物を取り囲むようにテープが貼られ近づくことは出来ない。


「また、あなたですか。」

 最早顔見知りになった警官が口にする。

「情報が早いですね・・・どこから仕入れているんだか」

 半ば呆れ顔だ。

「すいません。それで、被害者の状況はどうなんですか?」

 声色まで違う葉月。

「残念ですが」

 警官は首を横に振る。

「亡くなったのですか?」

「はい」

「もう少し詳しく教えてもらえませんか?」

「公式発表まで待ってください」

「いえ、それでは明日の朝刊に間に合わないのです。この物々しさ、例の連続殺人でしょう?可能な限り早く報道して、住民の自己防衛に役立てたいのです」

 その葉月の言葉に妙な表情を作りながら反論する。

「公式には誰も連続殺人とは言っていないですよ」

「隠す必要あるんですか?これでもう7人目。行方不明になったり、シェルター内壁で遺体が見つかったり。全員一人暮らしの10代後半から20歳過ぎ。発見された遺体は全て全裸。殺害方法も鋭利な物で心臓をひと突き。これだけ要素が揃ってまだ連続事件ではないと?」

「私には話す権限がありません」

 そう言ってかわそうとする警官。

「ここも警備は結構厳重だったんでしょう?」

「ですから、本官には・・・」

「命に関わる事件なんですよ!情報の共有は早いに越したことはないでしょう!」

 鋭い目つきと共に警官の言葉を遮る。

 その眼差しが醸すのは最早「取材」ではなく「尋問」に近い雰囲気だ。

 葉月の剣幕に押され、ふうとため息をつき、警官が話し始める。

「いいですか、私が喋ったとはバレないようにしてくださいよ」

「大丈夫ですソースは決して明かしません」

 そして、警官は密やかにしゃべりだす。


 そこには想像以上の共通点があった。

 まず、中流以上の生活を送っていること、次に最近引っ越したばかりであること、現在母親、姉妹がいないこと。現場に証拠らしき証拠がほとんどない事。嫌な共通点ばかり浮かび上がってくる。


 そして、現状ではこれに当てはまるヴィジリアンはこのコロニーでは残り10名程度であることも教えてくれた。

「いいですか、絶対に私が喋ったということは内密にお願いします」

「もちろんです・・・ですが・・・これは記事のさじ加減が難しいわね」

「はい。現在、これから狙われる可能性のある方には隠れて警備がついています。公にされるとこちらの活動に支障が出ますので、もうしばらく内密に・・・」

「今回の被害者には警備はついていなかったんですか?」

 その言葉を聞いた警官。途端に悔しそうな表情がにじみ出る。

「警備の者もやられました」

 搾り出される苦い言葉。

「な、何!」

 つい地声が出る葉月。これは最早普通の事件ではありえない。


 隠れて付いている警備ごととなると、警備をものともしない攻撃力、つまり、恐らくは襲っているのは集団だ。

 もしくは、警備情報を受け取れる立場。つまりは内通者を持っているか。

 いずれにせよ、現在の警察は安心して任せられる存在とは言えなくなった。


「あ、貴方がたはこの事件をどう捉えているのですか?」ついキツイ口調になる葉月。

「我々も全力を尽くしています。警備も倍増する予定です。ですが・・・犯人は恐らくフィルマです」

「そんな馬鹿な?!」

「今回の現場からBBと思われるサイズの足跡が発見されました。ボストックのものではないのではっきりと断言はできないのですが。もうじき鑑識が到着しますので、はっきりするでしょう」

「BBと思われる?」

 おかしい。普通のBBなら常人の靴のサイズの倍は大きい。

 それに、ボストックのものではないと言う事も気になる。

「エッブなのでは?あれはヴィジリアンも操りやすいサイズになってますから、足型も人の靴に近いですし」

 エッブこと「EBB」。フィルマ専用になる以前の旧式のBBの総称だ。兵装等を取り除き、一般人でも扱いやすくカスタムした物がいくつか民間にも出回っている。

「それについては・・・」

 話そうとした警官の言葉は途中で遮られる。

 割って入ったのは現場の方から叫ぶ大声。

「退避ーッツ!この場から離れろっ!」

 警官の肩の無線ががなり立てる。

「爆発物と思われるものを発見!時間がっ」

 とっさに警官が葉月に覆いかぶさり押し倒す。

 その瞬間マンションが巨大な爆発音と共に爆発した。

「な・・・」

 驚きで声が出ない葉月。

「動かないでっ」

 押し倒した上で葉月の覆いになっている警官が口にする。

 周りに色んなものが落下する音が聞こえる。

 グッといううめき声を残して葉月に覆いかぶさっていた警官が動かなくなる。

 落着の音が止まったのを確認して葉月は警官を横に寝かせる。

 その背中に大きなコンクリート片が刺さっているのを確認し、暗澹とした気持ちになる葉月。

 私が盾になるべきだった、とは思うが、そういう状況ではなかった。


 目の前で豪華なマンションが瓦礫と化していく。

 そこには葉月といえども最早手を差し伸べる余地はない。


 この状況・・・最早悠長に構えている場合ではないのかもしれんな・・・隊員の訓練方法などといっている場合ではない気がする葉月であった。



 住民、警察官合わせて40人以上の死傷者を出したこの事件はテロと報道され、住民の心を寒くした。


 一夜明けて。

「フェル。この世界はみんな団結しているんじゃなかったか?」

 ニュースを見た蒔司が訊ねる。

「うん。もう何十年もこんな事件起きていないわ」

「じゃあ、この事件は何なのだろう」

 首を傾げる蒔司の目の前で、さほど気にしてないような雰囲気で朝食の後片付けをするフェルティ。

 非情なのではない。昨夜遅く、蒔司が寝付いた後のこと。

 葉月から連絡があったのだ。「表面上は気にしないように振舞え」という指示が。

 画面に電話のコールがつく。葉月からだ。

 昨夜の話といい、嫌な予感が拭い切れないフェルティ。だが、それもおくびにも出さずあくまで普段を装う。

「あ、おはよう姉さま」

「フェル、すまないが、独りでこちらに来てくれないか?蒔司は今日は自室待機だ」

「え?あ、はい。」電話が切れる。顔を見合わせる二人。

「俺は今日は休めってことかな?」

「そうじゃない?このところ訓練やデータ採取で疲れているでしょう?」

 気を使ってくれたのよとフェルティは言う。

「じゃあちょっと行ってくるね」

 そう言うとフェルティが部屋を後にする。何かに祈るような気持ちを胸に。

 

 


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