始まりの戦い(3)
「隊長。やっぱり無茶です。アダムは使えません!アダムさんの専属看護マネージャーとして正式に抗議します!」
そう抗議するのは、フェルティ。
「貴女達のように「フィルマ」じゃないんですよ」フェルティの言葉が続けて発せられる。
「だから(ペガサス)に乗せている」応じる葉月。
「って彼に合う機体が他に無かったからでしょう?それに、本来の用途は・・・。」言い澱むフェルティの言葉の後を葉月が繋げる。
「そうだ、特別攻撃機」
「みすみすアダムを、我々「ヴィジリアン」にとって最後の希望を、特攻させる気ですか?」
口調に徐々に熱を帯びるフェルティ。机をバンッと叩く。
「死なないための訓練だ」
「訓練って、単純にアクティブバインダーでかろうじて命をつないでいるようなものじゃないですか!」
葉月は答えない。
「特に今日!幸い予測防御が上手くいったけれど、一歩間違えれば本当に死んでいるんですよ!」
「そのためのミーシャやアンネだ」
「間に合わなかったじゃない!」更にヒートアップしてくるフェルティ。
「デュアルコア型に遭遇したのは初めてだ。仕方があるまい。それに初撃はアクティブバインダーが弾いたが、あれはリーチ外だ。無くても届いていないよ」
「死んだら仕方ないじゃ済まないんです!」
「戦闘とはそういうものだ。それにもう同じミスはしない。」
腕を組み、あくまで冷徹な態度で返す葉月だった。
抗議対冷酷。
が、不意に言葉を返す葉月。
「お前にアダムが護れるのか?」
「もちろん守ります!」
「だがお前はBBには乗れまい」
「防刃マントがあります!いざとなったら命に替えてでも!」決意のこもったフェルティの言葉だった。
だが、その言葉をを葉月はいともあっさりと切り捨てる。
「安い命の使い方だな」
「何でっ!アダムは私たちのっ!人類に戻る為のっ!唯一の希望、夢そのものじゃない!命を賭けて当然でしょ?!」
フェルティの語気が更に荒くなる。可愛い顔に似合わない形相と化し、睨み付ける。
怒りの目線対冷酷な目線。
「それで、お前がアダムの身代わりに死んだとして、その次は誰の番だ?」
「・・・!」
口を開かない、いや、開けないフェルティ。
「私か?それともミーシャかアンネの命をご所望するかね?」
完全に押し黙るフェルティ。肩が落ちる。
一度軽く上を向き敢えてフェルティを見ずに話す葉月。
「それにお前に死なれたら困るし、アダムもお前のそんな命の使い方は望むまいよ。」
「今の世界、どんなに守ってもらっても完璧な安全というのはありえないのだよ。わかるだろう?」優しく諭す葉月。
再びやや下向きの目線をフェルティに届ける。
再び合わせた目線。だがすぐに下を向いて視線を外すフェルティ。
沈黙だけではなく脱力感もフェルティを襲ったようだ。
「ペガサスは特攻機ではあるが、それが故に防御性能、機動性が高い・・・。ま、本来の用途で使うことは出来無くなったがな。」ぼそっと続ける葉月。
えっ?という表情をするフェルティ。
「それじゃあ・・・」
フェルティの言葉を遮る。
「この基地にいる限りにおいて、一番安全なのはペガサスを駆って、私の隣にいる事だとは思わんか?」穏やかな目線をフェルティに届ける。
瞬時に何かを悟ったフェルティ。
雲の切れ間から差し込む光のように一気に表情が明るくなり、溢れんばかりの笑顔で返す。
「うんっ!姉様は無敵だもんねっ!」
「無敵かどうかは別として、少なくともお前一人で命をかけてアダムを守ろうとするよりは良いだろう?」
「うん!うんっ!」
フェルティはもはや先ほどの怒りの欠片さえも感じさせない表情。
「まったく、猫の目のようなやつだ、フェル。お前は」
頬が軽く緩む。
「いいんですぅ~姉さまがぶっきらぼうだからこれでちょうどいいんです~」
「こら、基地内では「隊長」だ」
再び引き締めた表情の中に優しさの灯る視線。
「フェル。お前は我々と違うんだ。長生きしてもらわなければ困るよ。そして、願わくば「復活した人類の最初の母」になって欲しい」
「え、私が?」
目を丸くするフェルティ。思わず自分を指差す。
「アダムに一番近しいヴィジリアンはお前だ。私はお前が一番ふさわしいと思っている」
その突然の言葉に。
「え・・・。えっと・・・。」
とりあえず俯く。
恥じらうような姿のフェルティ。
右のつま先で床に「の」の字を書いている。
それを見て再び頬が緩む葉月。
「ま、ちょっと言いすぎたか。。とりあえず、いつものように、ケアをしてやってくれ」
そう言葉で締めくくった。
何かを飲み込んでフェルティが返す。
「ハイッ隊長!ではアダムのコンディションチェックに行ってきます」
小鹿のように軽い足取りでフェルティ=華月が扉の向こうに消えていった。
「ある程度は自分を守れるようになってもらわんとな・・・。それに。全く芽が無いって訳でもなさそうだぞ。アダムは」
葉月の呟く言葉がフェルティを追うが、自動ドアに阻まれる。
「しかし、ダブルコア型か。現物は初めてだな。。「グランマ」からの情報で聞いてはいたが・・・これからの訓練は方向性を変えねばなるまいな・・・」
再び眉根を寄せ、呟きながら、葉月は戦術シュミレーションルームへと消えていった。