射撃訓練と。(1)
射撃訓練に挑む日々。
優しさと厳しさを織り交ぜて指導するミーシャ。
横でちょっとのほほんとした雰囲気を織り交ぜながら見守るアンネ。
この状態がもうすぐひと月になる。
アンネの傷も、もうほとんど良いらしく、実際に発砲こそしないものの、「苦手分野克服」目的でたまに銃を構えたりする仕草もするようになった。
だが、アンネ、ミーシャ共に曰く「アンネのちょっとおっとりとした性格」が緻密な射撃には向いていないらしい。
まあ、確かに「のほほ~んとしながら急所の一点を撃ちぬく」あまりリアリティに欠ける事ではある。
それよりも、エイヤッと変わったダンスを踊るがごとく、元気一杯でブレードを振り回すほうが似合っているのは確かだ。
謹慎開けてからこのかた、毎日の日課が、午前は銃の訓練、午後は蒔司の剣の型の演舞となっている。
おかげで蒔司の射撃の練度も上がり、「一応の兵士」レベルにはなったようだ・・・ミーシャに言わせると。
お互いに足りないものを出し合い、お互いに吸収していく。
もっとも、流石に蒔司の真似はできないのであったが、アンネに言わせると「技と技の繋ぎ目」つまり「打ち終わりの隙」を無くすのに蒔司の系統だった理論的な体の捌きが参考になるらしい。
「ただし、絶対的な体幹の強さとしなやかさが前提になるんだけれどね~」とはアンネの弁。
リハビリと強化も兼ねて負荷をかけたストレッチなど徐々に増やしているアンネだった。
そして、蒔司の吸収力はミーシャも意外に思うところがあるようだ。
タン!タン!タン!起き上がる的に合わせてリズム良く撃ち込む。時折混ざる白い紙に当てる事もない。
「次!バースト!」そのミーシャの掛け声に合わせて親指でノッチを弾く。
タタタン!いきなり遠い所に的が出る。が、一応的に吸い込ませる事に成功する。
「よーしその調子だ!」
横でボタンを押して的を操作するミーシャ。
正直、ミーシャは感心していた。
ズブの素人がわずかな時間でここまで成長するとは思ってもいなかった。
(剣であれだけの動きができるってことは、やはり、並の運動神経じゃないんだろうな・・・全てに通じる。そういうものがあるのかもしれん)
しかし、とミーシャは気を引き締める。
(ペガサスは両腕に銃を装備しているとはいえ、その装弾数は少ない。フルオートで5分も持たない。両腕別々に撃っても10分・・・蒔司には一発一発しっかり撃ち抜けるようになってもらわないとな・・・)
ボタンを押す。
いきなり眼前に的が飛び出し反応が遅れる蒔司。
「遅い!」
つい語気が荒くなるミーシャ。
今度は視野両端いっぱいに二つずつの的。これも反応が遅れる蒔司。
「・・・」
そして。
30m先に中央に白紙、取り囲むように的3つ。しかも揺れている。
これはもう蒔司の手に負えない。かろうじて一つの的のみに当てる。白紙に当てないようにするので精一杯の蒔司。
ミーシャが選択したその的の配置を見て一瞬呼吸が止まったアンネ。
(ミーシャ・・・貴女は・・・)
アンネにはその配置に覚えがある。いや。忘れられないのだ。
「ミーシャ。いくらなんでもその配置はまだ無理よ」
そっと蒔司をフォローするアンネ。
ミーシャは答えない。
ミーシャは思う。思わずにいられない・・・。
弾薬の尽きた射手は悲惨だ・・・。目の前で味方がやられていくのをただ見ているしかないんだ・・・蒔司なら、突っ込むかもしれない。その類稀なる剣技を持って・・・だが、それでは間に合わない命の方が多いんだ・・・蒔司にはその苦しみを味あわせたくない・・・。
いや、蒔司なら積極的に前に出ていくかもしれない。だが、ペガサスは現状ではまだフロントラインに乗せられる性能ではない。バッテリーが切れたら・・・最悪だ・・・。
苦い過去、「トリオ」だった頃の記憶がふいに脳裏をかすめる。そして、アンネの泣き顔とフェルティの暖かい笑顔が交互に浮かぶ。フェル。お前は泣かせない・・・お前までも泣かせたくない・・・。
悲しみが続くこの世界。フェル、お前は今幸せなんだろう?「それを奪うことだけはできない」・・・。
ふと、目線に気付く。蒔司とアンネが見つめている。
「ミーシャ。大丈夫か?」
蒔司が聞いてくる。
「え、あ、ああ」
「ミーシャ、代わろうか、的のボタン押すだけなら私だってできるし」
そう問いかけるアンネ。どうやら手が止まっていたらしい。
「すまん。ちょっと考え事してた」
「休憩しよう。自分でやるより人の動き見て指導するほうがよっぽど疲れるんだ」
蒔司が提案する。
「そうね・・・確かに教える方が疲れるかも」
と同調するアンネ。
アンネに肩を叩かれて出口に向かう。
「お疲れ様」
ニコッと笑顔のアンネ。
お前は俺を本当に許してくれているのか?・・・お前の笑顔を守れなかった俺を・・・。
「ほいっ」
蒔司がジュースを投げる。受け取るアンネとミーシャ。
「蒔司さん。ずいぶん上達したよね」
「そうか?まぁ、まだまだ実戦では使えないよ」
答える蒔司。
「反応が鈍いし、複数の的が同時に出た場合、どうしても迷うんだよね。どれから狙うか。投げナイフなら一緒くたに投げちゃうんだけど」
なあ、とミーシャにアドバイスを求めようと振り向いて気付く。ミーシャのやつジュースの封も切っていない・・・。
「アンネ。最近ミーシャっておかしくないか?」
アンネに囁く。
「ううん。ミーシャは射撃訓練の時、偶にこんな感じになるの・・・理由は聞かないであげて」
そっと返すアンネ。
「そうか」
蒔司が頷く。
意図的に明るく話題を作ろうとした蒔司の言葉。
「ま、俺とアンネでフォワード組んだら結構いけるんじゃないの?」
「そ、そうね・・・私がおいてけぼりにされそうだけれど・・・」
その会話に、いきなりミーシャが反応する。
「蒔司、いや少尉は俺の上官だ。俺より前には出さん」
厳しい表情と語気にびっくりする蒔司。
アンネは予想していたかのごとく、穏やかなそれでいて瞳の奥に影を抱えたような表情でミーシャを見つめる。
「ミーシャ。気持ちはありがたいが・・・それでは俺は人形と一緒だよ」
「出撃することがあっても、当面は俺の後ろにいてもらう。蒔司は俺の後ろから狙える標的だけ撃ってくれればいい」
そして苦しげに口にする。
「俺には二人同時にサポートする自信はない・・・!」
搾り出されるようなミーシャの声。
驚く蒔司、哀情と優しさを込めて二人を見つめるアンネ。
「わ、悪かったよ・・・確かに俺の動きは変わっているから合わせにくいもんな」
とりあえず蒔司は謝る。
「そういう問題じゃない!」
言い残すと二人に背を向ける。
「すまない。今日はこれで切り上げよう」
言葉して歩き出すミーシャであった。
「蒔司さん。今日のことは、今のミーシャの言葉は気にしないでください。「私達」は大丈夫ですから」
菩薩のような穏やかでそれでいて何かを心に構えた顔でそう告げるとアンネはミーシャの後を追っていった。
独り残された蒔司はジュースを飲み干すと、再び射撃訓練場に向かう。
的の設定をランダム出現にセットし、銃をバーストモードにして構える。
タタタン。
(何か)
タタタン。
(引っかかる)
タタタン。
ふとあの謹慎初日の通話画面が閃く。
タタタンという音はするが、的に穴は空かない。
「フェルの泣き顔までは見たくない・・・」ミーシャの言葉だ。
(「まで」は?「まで」とはどういう意味だ?)
的が出る。そしてそのまま隠れる。
(いや・・・こういうことは深くは突っ込まない方が良いのだろう・・・)
豪快ともとれるミーシャの裏にある「重し」を感じる。とてつもなく重く、振りほどけない何か。だが、俺が軽々しく触れてはいけない。そう感じる。
幾ばくかの同調の意識の後、気を取り直して銃を構える。(・・・こういう雑念が的から外すんだ。皆が生き残るために、集中しよう・・・)。
手元のスコアでは既に6つの「射撃ミス」がいつの間にか表示されていた。
お昼を回っても帰ってこないのを不思議に思ってフェルティがやってくる。
扉を開けると轟音と共に銃を放つ蒔司がいた。
(なっかなか凛々しい顔してるじゃない・・・)
扉を閉めると、何故か嬉しそうにスキップしながらランチボックスを取りに向かうフェルティであった。




